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6-13:強敵


 この路地に逃げ込むこと。ドミニクと、彼が連れているであろう部下を分断すること。元々計画していたそれは、成功した。

 しかし、読み違えていたこともある――


「エフィ!」


 後ろを走るルーカスに名前を呼ばれ、手をぐいっと引かれた。銃声。放たれた弾丸が、先ほどまでエフィの体があった場所を的確に通過する。ぞわりと背筋が凍った。


「振り向きながら走るのは危ないんじゃないか?」


 ドミニクが笑う。あえて見せつけるように、丁寧に撃鉄を起こす。石畳に、ゆったりとした足音が反響する。


「お前をみたいな危険人物から目が離せるか!」


 ルーカスが言い返し、地面に落ちていたパイプを拾って投げる。ドミニクはそれを首を僅かに傾けることで回避した。

 そのまますぐ、ろくに狙いも着けずに発砲してくる。

 

 弾丸はルーカスの上着を僅かに裂いた。撃ちながらも、彼は歩みを止めない。

 エフィとルーカスは、彼から逃げてまた走る。


「前より、強くなってる……!」


 以前から彼の射撃は正確だった。それに加え、今の彼には迷いがない。上の命令でエフィを撃てずにいた頃とは、確実に違う。


「ま、こっちは後に引けないんでね。お嬢さんも、だいぶ魔法が上手くなったんじゃないか?」


「それはどうも!」


 エフィの返事に、再びの銃声が重なる。弾丸は咄嗟にエフィが隠れた木箱の隅に命中し、木箱は軽々と吹き飛んでバラバラになる。

 破片がぶつかった衝撃でふらつき、地面に手を着く。それでも止まれない。手の力も利用して立ち上がり、また走る。

 

 狙いをつけにくいよう、物陰に隠れて射線を切りながら奥へと進んだ。

 

 ルーカスが壁の配管をわざと壊し、蒸気を噴き出させて視界を奪う。ドミニクの舌打ちが白いもやの向こうから聞こえた。靴音は止まらない。


 路地の奥に、灯りのついた工場が見えてきた。

 エフィとルーカスは、ドミニクが弾のリロードを始めたことを確認してから、物陰を飛び出して工場へと逃げ込む。オズワルドのローゼンベルク家が所有する場所だ。

 

 稼働している機械の陰に隠れ、呼吸を整える。


「今度はかくれんぼかな?」

 

 続けて、ドミニクも工場内に足を踏み入れた。駆動音に満ちているので、粗い息遣いでも向こうには聞こえない。


 通路を挟んで向かい側の機械に、アリステアが隠れている。既に仕込み杖を抜き、身構えていた。杖の先で、エフィが作った青紫のリボンタッセルが揺れている。


(まだ予言が破れていないアリステアを、ドミニクは撃てない。だからアリステアにドミニクを制圧してもらう)


 エフィは心の中で作戦を確認し、魔法銃を握り直した。アリステアが踏み込むための隙を作るのが、エフィたちの役割だ。


「なるほど、ここで決着を着けようということかな」


 誘い込まれたと理解しながらも、ドミニクはまだ笑みを崩さなかった。

 エフィは機械が蒸気を噴き上げるタイミングを見計らって、通路に姿を晒す。熱い蒸気が体を包むが、怯んでいる暇はない。

 

 銃声が大気をつんざく。ドミニクの弾は蒸気に紛れ込むエフィを大きく外れ、背後の硝子窓を撃ち抜いた。

 硝子が砕ける派手な音の中、エフィも撃ち返す。

 

 蒸気の中からでも、魔法があるから彼の位置は完璧に把握できる。矢のような光がドミニクのすぐ横を掠め、真鍮の機械の表面を削り取った。


 それを合図に、隠れていたルーカスとアリステアが同時に飛び出した。ふたりが迫る。ドミニクは迷わずルーカスに銃口を向けた。ルーカスが身を翻し、死角へ滑り込むと同時に発砲音が響いた。弾が床を穿つ。

 

 直後に、金属がこすれる甲高い音。ルーカスに意識を傾けつつも、ドミニクはアリステアの剣を籠手で器用に受け止めてみせた。


「甘いな。殺すつもりでなければ、俺は止められないぞ」


 剣を弾かれ、アリステアが一歩引く。彼は顔色ひとつ変えず、再び踏み込む。


「無駄だ」


 難なく防がれる。ドミニクの籠手が宙を切り、アリステアに迫った。後ろに跳んで躱す。軽々と着地したアリステアは、無言で剣を構え直した。

 

 機械に隠れながら、エフィは戦況を見守る。遠くの機械の陰で、ナターシャがボウガンを撃つタイミングを見計らっているのが見えた。


 全員で当たっても、ドミニクの優位が崩せない。

 

 何かしなければ、とエフィは彼を狙い、魔法銃を構える。ドミニクが積極的に動き回る他、射線上にルーカスかアリステアの姿があり、狙いをつけることが難しい。唇を噛む。

 ドミニクがこちらを向いたので、エフィは慌てて機械の裏に引っ込んだ。その直後、すぐ近くを、銃弾が通過した。風圧が髪を揺らす。

 

 エフィを見ている間も、ドミニクはアリステアの一撃をいなし続けている。


「強い……」


 ルーカスを狙う銃声が響く中、エフィは思わず呟く。何とかアリステアが踏み込む隙を作らなければいけないのに――焦りで、手の中の銃が滑りそうになった。


 機械の駆動音に紛れて、複数の足音が近付いてくる。


「ドミニク様っ!」


 工場入り口に、ヤードが複数名、姿を現す。


(まさか、増援!?)


 エフィは目を見開く。オズワルドたちの包囲から抜け出してきたのだろうか。想定外の事態に、焦りだけが加速する。


「お前たち、後ろは任せる。俺は魔女を狙う」


 ドミニクは部下に目もくれなかった。ただ命じながら、エフィに向けて引き金を引く。部下がドミニクの指示に従い、ルーカスやナターシャに銃を向けた。


「くそっ、いちいち邪魔するなよな!」


 ルーカスが素早く距離を詰め、ヤードのひとりを殴り倒す。

 アリステアが、エフィの方に視線を投げた。ほんの一瞬、ドミニクの隙を伺っているように見えたが、すぐにナターシャを狙うヤードに斬り込んでいく。


 工場の入り口付近は、部下たちとの乱闘になっている。アリステアはナターシャを庇いながら戦っていて、ドミニクを気にしつつも立ち位置を変えられずにいる。


 自由に動けるのは、エフィだけだ。


(アリステアが動けない以上、私がやるしかない)


 エフィは銃を構え、ドミニクと一対一で向き合った。




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― 新着の感想 ―
きゃー、一気にエフィがピンチに! さあ、オズ。逃がした責任を取って、おじちゃんをヘッドショットしてもらいましょうか? ……おじちゃん、死んじゃうのかな? ここまで来たら無理だよねぇ( TДT)
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