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5.真中ひかりは高砂神社で殺された

 結局、私達が真中ひかりの母親に話が聞けたのは、そのニュースを聞いてから一週間後だった。

 禰宜まつりは一週間経っても酷い顔をしていた。目に濃い隈ができており、あまり食事もとれていないのか痩せたように見えた。顔色も悪い。部活動も休み、友達ともあまり交流していないようだった。

 久しぶりに高砂神社に集まった私達だったが、ひどく暗い雰囲気を醸し出していた。あの狐が能天気なことを言い出すかと思ったが、あいつでさえ物憂げだった。

 テレビの報道によると、真中ひかりの遺体は江戸川の下流で見つかったらしい。江戸川に捨てられていたことを鑑みると、警察は殺人の可能性が高いとみている。


 クラスメイトが殺害された。


 なんとセンセーショナルな出来事だろう。東京の、いわゆる下町と呼ばれるこの界隈は治安がいいとは言わないまでも、殺人はさすがにめったに起こらない。ましてやクラスメイトが殺されるなど誰も考えないだろう。

 教室はその話題で持ちきりかと思われたが、詮索するのはあまりにも不謹慎だと思ったのか、はたまた犯人の捕まっていない現在、殺人鬼がうろうろしていることに恐怖を感じているのか。その話を教室でする者はいなかった。タブーとされている感さえあった。

 私も正直ショックを受けている。真中ひかりを救えなかったことに。

 こうならないことを祈って、私は真中ひかりが失踪したあの日高砂神社へ行ったのだ。私ごときが何かしたところで無理だと分かってはいたが、何もせずにはおれなかった。

 こうなった以上、真中ひかりを探すという三人の目標は霧散した。もう何もできることはない。これ以上の集まりは無意味だろうと、私が解散を告げようとした時だった。

「真中ひかりは高砂神社で殺された」

 禰宜まつりが顔を上げる。私は思わず狐を見た。

「我は見た。ここで彼女が殺されるのを」

「う…嘘…」

「詳しく話してくれ、狐」

「私が夜うとうととしていると、神社で言い争う声が聞こえた。一人が真中ひかり。もう一人は見知らぬ男だった。しばらくすると、男が走って神社から逃走するのが木の陰から見えた。どうなったか気になったが、私はこの社から遠くに離れることができない。言い争いは、鳥居付近で行われていたのだ。半刻ほどすると、男は青い風呂敷のようなもので真中ひかりを持ち去ったようだった」

「その後、川に捨てたのか」

「ひかり…」

 禰宜まつりは真っ青になってガタガタと震えていた。

「お前、それを知ってて言わなかったのか?」

 私は凄むように狐に言った。

「聞かれていなかったからな。我はあくまで「探せ」と言ったまでだ」

「遺体を探せという事だったのだな」

「死んだかは確証がなかった」

 戯言を。遺体を探せなどと言えば、私達が協力しないと思ったのだ。本当に信用ならない狐だ。

「まぁ、いい。私達にこれ以上できることはないだろう」

「いや、まだできることはある」

「あとは警察の仕事だろ」

「五十日祭というのを知っているか?」

 五十日祭というのは、神道でいう仏教の四十九日にあたるものだ。仏教では四十九日かけて御霊が仏になると言われているが、神道では五十日かけて御霊が守護神となるとされている。

「それがどうした?」

「死んでから五十日間、真中ひかりは(あら)御霊(みたま)としてまだ現世(うつしよ)(かくり)()を彷徨っているという事だ」

「えっ、まだひかりはこの辺にいるってこと?」

「どこにいるかは知らんが、まだ現世にいるかもしれん」

「現世にいるかもしれないからって、どうしようもないだろ」

「犯人が分かるかもしれないぞ」

「「!」」

 私と禰宜まつりは顔を見合わせた。

「気にならないか?真中ひかりを殺した犯人が」

 にやぁ、と目を細めて口を三日月のようにする狐。

「気になる」

 禰宜まつりがぼそりと言った。

「気になる…けど、それよりもひかりに会いたい!ひかりと話ができるってこと?」

「我の力を持ってすればな」

「本当か?狐の分際で」

「我はこれでも神の使いだ。一時的に見せることはできるだろう」

「ふぅん」

 本当かよ、と私はまだ疑いの眼差しを向けていたが、禰宜まつりは目を輝かせていた。

「探そう!守殿くん!」

 私も犯人の事は気になる。だから、飽きるまでこの茶番に付き合う事にしよう。決して、禰宜まつりが心配なわけではない。

「…分かったよ。乗りかかった舟だ。狐、真中ひかりが殺された日を覚えているか?」

「七月の十三日だ」

「タイムリミットは、夏休み中だな」

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