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4.禰宜まつりの聞き込み

 理由の分からない焦燥感に突き動かされクラスメイト達に話を聞くと息巻いたが、私には友達がいなかった。あぁ、必死に勉学に励んだ結果が仇になろうとは。こんな事態は想定していなかったのである。

「守殿くんは、A組の男子に話を聞いてくれる?」

「…分かった」

 私の浮かない声に、禰宜まつりは何かを察したようだった。

「えっと、守殿くん?」

「…私のクラスにおける立ち位置は、真中ひかりと同じなのだ」

「…」

 黙らないでほしい。私は勉学に集中するため、あえて孤高を貫いているのだ!

「じゃぁ、適材適所ってやつだね」

 禰宜まつりは明るく言った。

「あたし、友達は多い方だと思うの。部活も3つ入っているし。そういう聞き込みみたいなのはあたしがやるよ!」

「…ありがたい」

「守殿くんは頭いいし、推理力があるからそこらへんお願いしたいな!」

「推理力?」

「さっききつねさんの正体当てた時、あたしすごいって思った!」

 私の勘違いでなければ、キラキラとした尊敬の眼差しでこちらを見る禰宜ひかり。

「昨日私はあの狐に会っていて、何の神だが気になり少し調べただけだ」

「あたしには絶対できないと思う!」

 変な壺を買わされそうな禰宜まつりには難しいかもしれないが、そんな凄いものではないだろう。私は過剰な畏敬の念を受け流すため、彼女の視線から逃れた。

「すぐ聞き込みして放課後に守殿くんに報告するね!またあの神社に集まろう!」

「部活動は良いのか?」

「そんなことより、ひかりが大事」

「そう言えば、真中ひかりとはどこで知り合ったんだ?」

 クラスも違うし、明るく友達の多い禰宜まつりと、クラスで一人本を読んでいる真中ひかりが友達であるのが、イマイチ想像できない。

「あたし文芸部なの。って言っても、ひかりとあたしの2人しかいないんだけどね。再来月に地域の文学賞があって、部活動の時間以外に家でもボイスチャットで一緒に作業したたんだ。それで仲良くなったの」

 ボイスチャットで作業。机に向かうなら一人の方が効率が良いように思えるが、そういうものなのだろうか。

 とにかく、私はどうも聞き込み調査をしなくて良さそうだった。


           *


 学校が終わるとすぐに、私と禰宜まつりと狐の三人で高砂神社にて話し合いがもたれた。      

「あたしが聞き込み調査したことを発表するね!」

 嬉しそうに禰宜まつりが報告に入る。

「まずひかりのクラスのA組の男子から聞いたんだけど、やっぱりひかりはクラスで一人だったから、あんまり人と話さなかったみたい。教科書の貸し借りとかは隣の席の人としてたみたいで、おとなしくて優しいイメージって言ってた。ひかりから筆記用具貸そうか?って提案する事くらいはあったみたいだけど、あんまり積極的に話をする雰囲気ではなかったみたいで、誰とも仲良くはなかったって」

「私もおおむねそんなイメージだ」

「でも、女子からは良くない噂も聞いた。男子には優しいけど、女子には愛想がないとか…。全然そう思わないから、意外だった。あたしと話すときは楽しそうに笑うもん。多分だけど、嫉妬だよね。ひかりが可愛いから」

「…」

 真中ひかりは顔がすごく整っている訳ではないが、気が弱くて可愛らしい女子だった。一部の男子からは魅力的に映っただろう。

「あとは、先生にもひかりが何か悩んでいたか聞いてみたけど、そういうのは聞いてないって」

「他に仲の良い人間は」

「いないと思う。あたしの知る限りは…」

「本当に真中ひかりから何も聞いていない…んだよな?」

「うん…あたしとは好きな本とか書いている作品の話ばっかりで、恋とか友達の事とかほとんど話さなかったの」

「お前、信頼されていなかったのではないか?」

 急に狐が話に割り込んできて、私達は驚いた。

「そ…そんな…」

「お前に人間関係の機微が分かるものか」

「我は思ったことを言ったまでだ」

 ふん、と拗ねるように狐はそっぽ向いた。

「ど、どう?何かわかる?」

「さすがに今の話では何も分からないな。禰宜さんは真中ひかりの家へ行ったことがあるか?」

「うぅん。ない」

「親御さんと話したことは?」

「あっ…一回ボイスチャットしてたらお母さんが部屋に入って来たみたいで、挨拶だけしたことある」

「明日家に訪問してもいいか聞いてみることは可能だろうか」

「いいね、それ!今から家に行って聞いてみる!」

 落ち着きなく禰宜まつりはそわそわし、もう夕方だったので早めに真中ひかりの家へ行ってもらうことにした。

「狐」

「なんだ」

 禰宜まつりが高砂神社を出て行ってから、私は狐に聞いた。

「本当に学校関係とか恋の悩みだったのか?他の奴の悩みと混同しているという事はないか?」

「…ない。ここ最近は、我が稲荷に来る人間は真中ひかりしかいなかったからな」

「お前の言う最近というのは本当に最近か?十年前を最近と言っていないだろうな?」

「何を言う!…十年以上、真中ひかりのような熱心な信者はいなかった」

 狐は少し寂しそうに言ったので、私は何だか居心地が悪くなった。

「真中ひかりは、おいなりさんを献上してくれていたからな!よく覚えておる」

 現金な笑いに、がくりと私は気が抜けた。同情して損した気分だ。こいつはいなりずしをくれる人間ならば、誰でも良いのである。

「安心したよ。お前の記憶が確からしくて。人間にあまり興味がないようだったからな」

 狐は嫌らしく笑う。

「我は人間における恋だの愛だのが良くわからないので教えて欲しいのだが、お主は禰宜まつりを好いているのか?」

「は、はぁ?!」

 思わぬカウンターパンチに私は面食らう。皮肉を言い過ぎたか。

「禰宜まつりと会ったのは今日だ!いきなり惚れた腫れたに発展するわけがないだろう!」

「そうなのか?同い年の男女が一緒に行動すれば、恋が生まれそうなものだが」

「知らん!」

 ふぅん、と狐は不思議そうな顔をした。人間を小馬鹿にしているようなやつには、一生人間の気持ちなど分かるまい。そう簡単に恋が始まれば、苦労しないんだよ!

「帰る」

「また来いよ。少年」

 せめて青年だろう、と思いながらも腹が立って仕方なかったので、何も返事をしないでやった。

 

 私達にこんな会話をしている暇がなかったと知ったのは、翌日のニュースで真中ひかりが殺されたと聞いた時だった。

登場人物

真中ひかり:主人公と同じクラスで孤独だった少女。男子にはそこそこ好意を持たれていた。容姿は気が弱そうで可愛い感じ。高砂神社によく通って、狐に何かお願いをしていた。

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