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2.真中ひかりの失踪

 翌日学校へ行くと、派手なグループを中心に教室がざわざわとしていた。何かあったかと思ったが、こういう時大方私には関係のない話だ。変に噂を耳にしようものなら、「夏休み前にクラス皆でどこかへ行こう」というくだらない話だったりする。

 そんなことに費やす時間があるのなら、一つでも英単語を覚えた方が良いに決まっている。

 しかし、私の予想に反してくだらなくない事が朝のHRで分かった。ここ一週間学校に来ていなかったクラスの女子生徒、真中ひかりが家庭の事情でしばらく学校を休むというものだった。担任は「家庭の事情」と濁したが、実際のところはすぐに分かった。

「失踪したらしいよ」

 教室がざわめいていたのは、どうやらこれが原因だったらしい。     

「とある女子生徒の家へ行ってほしい。―真中ひかりというのだが」

 昨日の出来事は、勉強し過ぎて疲れた自分の白昼夢という事にしていたのだが、そうではないと認めざるを得えないようだ。

 真中ひかり

 私は彼女に勝手にシンパシーを感じていた。彼女もまた、私と同じようにはぐれ者の一人だったからである。

 彼女はこの地区、柴又の人間ではないので同じ中学ではないが、季節外れのインフルエンザに遭い、始業式から約一週間学校を休んでいた。

 それによってクラスのグループの所属に漏れ、一人教室で本を読んでいたのを覚えている。移動教室も一人だった。

 そんな孤高の存在がもう一人いることに、私は少しばかり勇気をもらっていたのである。あぁ、同志よ。一緒にこの時間を乗り切ろう。君は一人だが、一人ではない。

 真中ひかりがいなくなった今、私は本当の孤独―いや孤高の存在となってしまったようだ。

 それはさておき、昨日の神の発言が私は気になってきた。あの神は、真中ひかりについて何か知っているのではないだろうか。

 失踪ということは、家にしばらく帰っていないという事だ。

 金を持っていない高校生が長期間失踪するなんて、何か事件に巻き込まれたと考えられる。今まさに殺されようとしている、なんて推理小説の読みすぎだろうか。

 だが、実際失踪しているのだ。あり得ない話ではない。そう思うと、なぜだか私は焦りを感じ始めた。なぜ焦るのだろう。

 真中ひかりは確かに同志ではあったが、一度も話したことのない相手である。そんな相手のために、私は今「何かすべきではないか」と考えている。

 何かとは何だ。私に何ができるというのだ。こういうことは警察だとか先生だとかに頼んでおけばよろしい。いずれ見つけてくれるだろう…

 その時、真中ひかりの状態はどうなっているのだろうか。

 そう思った瞬間、私は移動教室で向かう先の理科室と逆方向を歩いていた。     


 *


 私は馬鹿である。

 重たい参考書が入ったスポーツリュックを背負って、昨日立ち寄った「高砂神社」にいた。

 よく考えれば、今回もそう都合よく神が現れるとは限らない。いなければ骨折り損のくたびれ儲けに等しい。さすがに塾の自習室もこの時間に空いていない。

「何をしているのだろうな、私は」

 とりあえず、また賽銭を入れずに願掛けをすれば出てきてくれるだろうか。そう思っていると、既に参拝客がいた。

 驚くことに、その参拝客は都立柴又高校の制服を着ていた。長い髪を振り乱して彼女が振り返った。

「えっ…」

 小さな驚きの声を上げて、彼女は私の方へまっすぐ向かってくる。美しくつややかな黒髪は歩くたびにさらさらと揺れ、色白でまつ毛の長いその顔は見とれるほど美しかった。

「あなた…柴高の生徒?」

「あ、は…」

「もしかして、一年生?」

「は…ぃ」

「本当に?!」

 彼女は目を大きく見開いて、嬉しそうに一歩近づいてきた。

「あたしはひかりの友達なの。一年B組の禰宜ねぎまつり」

「私は、守殿護。一年A組だ」

「A組?ひかりの友達?」

「いや…」

 そう言うと、禰宜まつりは不思議そうな顔をした。

「ひかりのことでこの神社に来たんだと思ったんだけど、違うの?」

「え、あぁ、いや…」

 確かに、真中ひかりについて気になって私はこの神社へ来た。だがなんと説明すればよいか。

 神に「真中ひかりについて何か知らないか?」と聞きに来たとは言いづらい。困っていると、私はあることに気づいた。

「真中ひかりは、この神社によく来ていたのか?」

「えっ?知らないの?ひかりはこの神社によく来ていて、熱心に神様に何かお願いしていたみたいなの。それで、この場所でひかりが変な人に連れていかれたとか、何かあったんだと思って来たんだ。

 だってここ人がほとんどいないし、ひかりを狙うとしたらうってつけじゃない?」

 禰宜まつりの言うことは筋が通っていた。

「それで、守殿くんはどうしてこの神社に?」

 いよいよ困っていると、どこからかあの声が聞こえた。

「我の頼みを受けに来た。そうだろう?」

 禰宜まつりの背後から急に不審な声が聞こえ、彼女は急いで私の後ろに隠れた。

「だ、誰…?!」

「神だ」

「な、何を言っているの?」

 その反応も無理はない。

「神、真中ひかりが失踪した。何か知っていることはないか?」

「昨日とは打って変わって、随分不遜な態度だな」

「お前はここの神職でも何でもないみたいだからな。それに、怪しい奴には変わりない」

「ほう、随分勇気がある。いや、無謀というべきか?」

「うるさい。真中ひかりについて知っていることを教えろ」

「ふむ、我の頼みにも関わることだ。知っている限りのことを教えてやろう」

 そう言うと、神は立て板に水のごとく話した。

禰宜ねぎまつり:柴又高校の一年B組。長い黒髪に色白でまつ毛の長い美少女。真中ひかりの唯一の友達。

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