捻くれた青年と狐
青春ミステリーものです。
柴又駅から帝釈天参道へまっすぐ向かい、帝釈天へ続く横断歩道を右に曲がる。
少し歩くと急に住宅街が広がって、戸惑ってきょろきょろとしていると、その中でひときわボロのアパートが見える。
それが私の家である。
今年の春高校一年生になり、私は自宅から徒歩十分圏内にある偏差値が良くも悪くもない、都立柴又高校普通科へと進学した。
本来は山の手にある某都立高校へ通いたかったが、いかんせんオツムが足りなかった。
そうして悩みに悩んだ結果、ハイソな山の手での高校生活は捨て、地元でできる限り勉学に励み、大学こそは都会的なキャンパスライフを楽しもうというわけであった。
この下町感あふれる地味な生活と、今度こそおさらばする!
という訳で、私は今日も学校からさっさと帰宅し、隣駅の京成高砂駅にある塾へ向かっていた。今日はHRが省略されたため、いつもより一本早い電車に乗れた。
塾の時間まで少しだけ余裕があったが、自習室でわざわざ勉強するほどの時間はない。
さてどうしたものかとのんびり歩いていると、駅前に神社があることを思い出した。金のない高校生が時間をつぶせるところと言えば公園くらいのものだが、神社もまたしかりであった。
つまり、タダで居座っても文句を言う人間がいない。
初めて来たが、綺麗で真新しそうな社殿の神社だった。広さもなかなかである。
今後の野望のためにひとつ願掛けでもするか、と思い立った。
私は信心深くないが、猫の手でも神の手でも、借りられるものは何でも借りたい。それに、神を味方に付ければ敵なしであろう。
しかし、私は貧乏学生。母子家庭でお小遣いも微々たるものだ。塾にも通わせていただいている身で贅沢は言えない。
なので、お賽銭は節約させていただくことにした。神様も「お賽銭などいらないから、それは参考書を買う足しにしなさい」と言ってくれるだろう。
本殿の前に立ち、礼儀として二礼二柏手。
「東京大学へ行ったのち大手企業に勤めて、港区のタワーマンションに住めますように」
一礼
「さぁて、塾に行くか」
「ちょっと待て」
背筋がぞくりとした。
なぜなら、どう考えても人の声ではなかったからである。驚いて振り返ると、そこには神職の服を着た男がいた。
「…神社の方ですか?」
「いかにも」
「何か御用でしょうか」
「なぜ賽銭を払わず願い事をするのだ」
「…ダメでしたか?」
「ダメだろう。…いや、ダメではないが、あんなにも欲にまみれた願掛けをしておいてタダで叶えてもらおうなど、図々しいと思わんのか?」
「いや、本気で神様に叶えてもらおうとは思っていませんので…力添えをしてくれたらくらいの気持ちです」
「叶わなくて良いのか?」
「いや、そりゃ叶えたいですけど…というか、何を言いたいのですか?賽銭を払えということですか?」
「我の願いを聞いてくれたらお前の願い、叶えてやらなくもないぞ」
「…は?」
思いもよらない提案に、私は口をあんぐりと開けた。
「いや、ここの神職の方ですよね?叶えるとかは無理なのでは…」
「いや、我はここの神だ」
訳が分からないことを言われて、私は相手の男を頭の先から爪の先まで眺めた。
確かに、金髪で金の瞳の人間は神職にしては変わっている。
最近はこの辺りも外国人が多いとはいえ、さすがに外国人が神職をしているというのはあまりないだろう。
そして、声。最初に聞いたとき、私は本能的にこれを人間ではないと感じた。
「ちなみに、神様の願いって何ですか?」
「行ってほしいところがあるのだ」
「行ってほしい?」
「そうだ。とある女学生の家だ」
「なるほど。お断りします」




