93 懐かしさのかけらたち
梧が停めた駐車場は、たまきが暮らしていた地区の最寄駅の裏手にあった。琉輝と待ち合わせているのは、この駅前だから、踏切を渡って回り込む必要がある。
たまきは車を降りて一人で行くつもりだったが、梧も車を降りて手を差し出してきたので、琉輝のところまでついてきてくれるようだった。
いつものたまきなら、「大丈夫ですよ」と断るところだが、まだ一緒にいてほしくてその手を取ると、梧は優しくたまきの手を握って、コートのポケットに入れた。
3月末とはいえ、外気は冷えていたし、緊張しているたまきの手も冷えていたのだろう。
その気遣いが嬉しかった。
ただ、梧のポケットの中は温かいけれど、身体も密着して、たまきはなんだか照れくさくもあった。
そっと梧の顔を見上げると、顔を逸らしていて表情は見えなかったが、耳が赤くなっているのだけ確認できた。
それが、冷えた外気で赤くなったわけではないのだとしたら、梧も照れているのかもしれない。
そう思うと、笑みがこぼれた。
駅前への道を歩きながら辺りを見渡してみたけれど、駅周辺の雰囲気も少し変わっていた。
駅も地震で一部が損壊し、建て直しているから、懐かしさはあまりない。そもそも、当時小学生だったたまきが電車を利用する機会はほとんどなかったのだから、仕方がないといえばそうなのだが、もどかしくもある。
そんなことを考えていたせいか、梧とたまきがあまり会話もせずに歩いていくと、駅舎の前でスマホを構っている琉輝がいた。
たまきが声をかけようとした時、その気配に気づいた琉輝が顔を上げ、先に梧と目が合って、ぎょっと顔をこわばらせた。
梧と行くことは伝えてあったけれど、待ち合わせ場所に一緒にくるとは思っていなかったのだろう。
たまきは、やっぱり一人で来るべきだったかなと思いつつ、琉輝の元へ向かうのに梧から手を離そうとすると、ポケットの中で一瞬その手を引き留めるように握られた後、名残惜しげにゆっくりと手が離れた。
名残惜しいのはたまきも一緒だったけれど、今日の目的を果たさなくては。
見上げて微笑むと、梧も無表情ながら頷いた。
たまきが琉輝に駆け寄り、
「……お待たせ、りゅうくん」
そう声をかけると、
「……お、おう」
琉輝は返事をしたが、なんだか落ち着かない様子で、目を泳がせている。
「えっと、あー……、車で来た……ましたか?」
たまき相手にタメ口で言うつもりが無表情の梧と目が合って、途中で敬語に切り替えたので、妙な言い回しになった。
「あ、うん。梧さんがレンタカー借りてくれて……」
「……そっか」
なんだかぎこちない空気感に、たまきは琉輝と梧の顔を交互に見る。
無表情の梧が琉輝を見つめ、それを感じて琉輝が萎縮しているように見えた。
「……あ、えっと、そろそろ行く?みんな集まってきてるかな?」
居たたまれずに、たまきが琉輝に言うと、琉輝もスマホで時間を確認して、「そ、そうだな。幹事の奴らはもう来てるかも……」と、顔を上げる。
たまきは頷くと、梧の顔を窺った。
梧は、たまきの方は見ておらず、琉輝の顔を見ながら、
「佐伯」
と、呼んだ。
琉輝はびくっと身を震わせ「はい!」と、元野球部らしい歯切れのいい返事をして姿勢を正す。
「……たまきのこと、頼む」
と、梧の方も姿勢を正して、軽く頭を下げた。
たまきと琉輝が、驚いて一瞬動きを止めたが、
「……はい。それは……もちろん」
と、梧の態度と言葉に応えるように、真剣な眼差しで琉輝が答える。
「そんな……、そこまで心配しなくても……」
確かに緊張はしているが、琉輝にまで迷惑をかけられないと首を横に振りながら言うと、
「……そうかも知んねーけど……、10年ぶりだろ?慣れないこともあるだろーし、そういうとこ心配してるんだよ。海風さんも。同級生、悪気はなくても知らずに地雷踏むことだってあるしさ……」
琉輝は指先で頭を掻きつつ、バツが悪そうな顔でそう答えた。
たまきはふと、再会したばかりの頃の琉輝のことを思い出す。
琉輝も、紫露のことを頼りにならなそうと言ったことがあったなぁ、と思いながら眺めていると、それを察知したのか、
「……んだよ?俺がそうだったって言いたそうだな?」
と、言いながら、片手をデコピンの形にした。
たまきは反射的におでこを隠したが、梧が喉を鳴らす。
一瞬、梧の存在を忘れていた琉輝が青ざめ、「すんません……」と謝った。
短くため息をついた後、「……俺は車に戻っているよ」と、たまきの頬に触れる。
「……はい。いってきます」
たまきが梧に応えると、ようやく、梧もホッとしたように微笑んだ。
たまきが琉輝の方を向くと、琉輝は梧に軽く会釈した後、たまきに「こっち」と言い、歩き出したのだった。
————————
駅前から出発して、初めは道順も思い出せなかったが、以前からある郵便局の前を通り過ぎると、
「あ……ここ、曲がってもいける?」
と、たまきが声を上げた。
「あー、そうそう。ここまっすぐ行くと校門の正面だけど、曲がるとプールの方に出る」
「だよね!?……良かったぁ」
たまきは胸元を押さえて、ほっとしたような声を出した。
「良かった?」
琉輝が訝しむと、たまきは苦笑いを浮かべてから、
「あ、えっと……ここに来るまで、あんまり思い出せなくて……。私……全部忘れちゃったのかなって思ってたから……」
と、正直に話した。
琉輝は「あー……、なるほど」と、静かに言った。
「まぁ、変わっちゃったところもあるしな。……ここ、曲がってみるか?三叉路のところに駄菓子屋あったの覚えてる?あのじーさんとばーちゃんはもう死んじゃったんだけど、娘さん夫婦が店は続けててさ。雰囲気は結構そのまんまなんだよ」
琉輝はそう言って笑うと、そちらの道を指し示した。
道の先を見つめて、たまきも微笑み返し、「うん」と頷く。
二人は道を曲がり、その道を進むほどに、たまきはふと、思い出したことがあった。
「……そういえば」
唐突に話し出したたまきに、特に驚く様子もなく、「うん」と、琉輝が相槌を打つ。
「駄菓子屋で思い出したの……。おじいさんのときは全くつけてくれなかったけど、そのおばあちゃんが店番の時はおまけつけてくれてなかった?」
「あー。じーさんは頑固でおっかなくて、当たりが出ても疑うくらいケチだったけど、ばーちゃんは2、3個余計に入れてくれてた」
「うん。……それをママがね……」
たまきがママ、と言った時、琉輝は少しだけ緊張した。
琉輝の前で亡くなった家族の話をするのは再会してからは初めてだったと思う。
だが、そんなことを気取られないように、琉輝はたまきが続きを話し出すのを静かに待った。
「私に、学校帰りにお店を覗いておばあちゃんが店番だったら教えてって言ったの。最初どうしてかわからなかったんだけど、おばあちゃんだったよって言ったら、慌てて駄菓子屋に買いに行って、紙袋いっぱいに大人買いしてきたことあったなぁって……思い出した。おまけでこれだけもらったよ!って自慢してて」
そう言って、たまきはふふふ、と笑った。
そんなたまきにホッとして、琉輝も笑みをこぼすと、
「……お前の母ちゃんそういうとこあったな。なんか、子供みたいなところ。俺ら男子がかけっこ勝負挑んだら、全然手ェ抜かねぇで本気でぶっちぎって一位取ってた」
と、琉輝も思い出を語った。
陸上部で短距離をやっていたたまきの母が、それまでへらへら笑っていたのに、勝負となった途端、真剣な顔をしたのを思い出した。
負けず嫌いだった琉輝は、絶対勝ってやると意気込んだのに、全く追いつかなかったのだ。
「そうだった!……ママは子供相手でも容赦しなかったんだよね。ほんと、大人げないんだから」
少し呆れを含んだたまきの言い方に、この10年の間、たまきの中でどれだけの葛藤があったのかはわからないが、こんな風に話せるようになっていたんだな、と思った。
その原因は、さっちょんやこの前学祭に来ていた友人、たまきの待ち受けになっている後輩や、もちろん一番は梧の存在が大きいはずだ。
「……でもさ、俺らが少年野球やってた頃、お前の父ちゃんがコーチやってくれてたのもあって、お前の母ちゃんも応援しに来てくれて……。誰よりも本気で、声出して応援してくれたのも覚えてるよ」
琉輝がそう付け足した。
自分の子供が参加しているわけでもないのに、たまきの母は、どの親よりも必死に応援してくれて、相手のプレーに抗議してくれることもあった。
「……そっか。そうだったかも。運動会も、ママの声はいつも聞こえてた……」
静かな声で、たまきが答える。
震災後、あの応援がないことを寂しく思っていたのが琉輝や選手だけではなく、親や監督もだったことを琉輝は知っているが、今はそれは黙っておいた。
その声をもう二度と聞けないことを、一番寂しがっているのは、たまきだろうからだ。
まだ、これ以上話したら泣かせてしまうんじゃないかという怖さが、琉輝にはあった。
駄菓子屋の前にたどり着き、琉輝とたまきは立ち止まって、外から眺めた。
看板は塗り直されているが、昔の書体と色がそのままで、外観もほぼ変わっていない。
たまきはそれを眺めて、口元が緩んだ。
まだ、知っているところが残っていることと、自分が覚えていることが嬉しかった。
「寄っていくか?まだ少し時間あるし」
琉輝が声をかけると、
「えっ?……どうしよっかな……」
たまきはためらって俯いた。
まだ、不安は抜けきらないのだろう。
「あら、寄って行かれます?どうぞ~」
ただ、そう迷っていたところに、店から出てきた初老の女性に声をかけられた。
「あ、いや……」
たまきが答えを出す前だったので、琉輝は返答に困った。
優しい笑顔を向ける女性は、かつてのじーさんとばーちゃんの娘だ。
その人は、はたと琉輝の顔を見て、
「なんだぁ、佐伯さんとこの琉輝君じゃないの。あ、春休みか。お母さん、元気にしてる?」
と、親し気に声をかけてきた。
「はい……。母は元気にしてます……」
「それは良かったわぁ!で?そっちの子は彼女?」
「かっ!彼女じゃないです!」
田舎のおばちゃん特有のノリで話しかけてくるその人は、少しニヤついた顔で隣のたまきに視線を向けた。
さっきまで一緒にいた梧の視線を思い出しながら、琉輝は慌てて否定する。
たまきはといえば、緊張で硬直していた。
言っていいのか少しためらったが、
「たまきです。冴島……たまき」
と、琉輝はたまきのことを紹介した。
「……冴島……って」
女性の顔が、途端に真剣なものに変わった。
「冴島さんちの、たまきちゃんなの!?」
そう言って驚くと、たまきと距離を詰めた。
たまきは驚いて後ずさりし、琉輝は「おばさん!」と慌てて止めに入る。
「あ、あ、ごめんね。びっくりさせちゃった。……たまきちゃん、なのね?」
女性も後ずさり、自分を落ち着かせるように、ゆっくりと言った。
たまきが静かに頷くと、眉根を寄せて、ほんのりと目尻に涙を浮かべる。
「そう……、そうなの。おっきくなったわねぇ……。お母さんによく似た、美人になって……」
「……似てますか?私……」
と、たまきはぎこちなく微苦笑を浮かべる。
「うんうん、似てるわよぅ、目もととか……。でも、鼻とか口元はお父さんかもねぇ……。大学生?元気にしてる?」
父と母、両方に似ていると言われて、たまきはそれが本当なら、嬉しいと思った。
ふと、以前、梧に言われた言葉を思い出した。
—————……会えなくは、ならないさ。……君が歳を重ねてふと鏡を見たときに、自分がご両親に似ていることに気づく日が来るだろう。
本当に、そんな日が来るのかもしれないと思うと、胸の奥が温かくなった。
「……はい。琉輝君と、同じ大学に行ってて」
「あらそう!ってことは、看護師?」
「あ、いえ……理学療法士っていう、リハビリの方で……」
「あぁ~、そうなの。なんにせよ、立派になって……」
そう言って、感慨に耽る女性は急に「あ!」と声を上げたかと思うと、店の中へと入って行った。
琉輝とたまきが呆然と立ち尽くしていると、しばらく経って、女性は紙袋を二つ持って戻ってきた。
「これね、持って帰って食べて!」
と、琉輝とたまきに押し付けるように渡した。
「えっ!?」
驚いて中身を確認すると、乱雑に詰め込まれた駄菓子が紙袋にパンパンに入っている。
「い、いただけませんよ、こんなにいっぱい!」
「そうっすよ!たまきはわかるけど、俺まで……」
慌てて返そうとする二人を押し返し、
「いいの!二人とも頑張ってるんだから、いいのよ!……だけど、また来て、寄ってって。そのとき買ってくれればいいから」
と、女性は涙を浮かべながら微笑んだ。
田舎の噂は早い。
たまきの事情だけでなく、琉輝の家の事情も、彼女の耳には入っていてもおかしくはないな、と琉輝は思った。
「でも……」
「……わかりました。必ず、また来ます」
まだ遠慮するたまきの横で、琉輝はそうはっきり答えると、頭を下げた。
戸惑っていたたまきも、察したらしく、一緒に頭を下げる。
「うん。そうして」
駄菓子屋の女性が差し出してくれた優しさを、今の琉輝は受け取ろうと思えた。
それはきっと、たまきと再会してから、周囲の人は思ったよりも琉輝たちを心配して手を貸してくれるものなんだと気付けたからだろう。
「じゃあ、俺ら、用事あるので」
「はいはい、気を付けてね。またね」
駄菓子屋の女性に見送られ、再び、小学校へと向かう道のりへと戻る。
「どうしよ……こんなにいっぱい」
たまきは困ったような口調で言ったが、顔は嬉しそうに笑っている。
「今日来る奴らで分ければいいじゃん。……あ、好きなお菓子は今のうちに隠しとけよ」
「ふふふ。りゅうくん子供みたい」
「なっ……!そうじゃねぇだろ!……せっかく、アドバイスしてやってんのに……」
「うんうん。ありがと。食べたいのだけバッグに移しておくね」
まだ、ふふふと笑いながら、たまきは歩きながら紙袋の中を確認したのだった。
小学校にたどり着くと、校庭に人が集まりつつあった。
たまきたちの学年は、全員で四十人ほどだったが、今回集まったのはその半数くらい。
「おっ、りゅう!」
同級生の一人が琉輝を見つけて手を挙げた。
「おー。間に合った?」
琉輝も片手を上げて応える。
「まだあと五人くらいきてねぇかな。ってか、何その紙袋」
「駄菓子屋のおばちゃんがくれた。いっぱいあるから適当に分けよーぜ」
「お、まじ?ラッキー!」
そう言って、声をかけてきた男子に紙袋を渡すと、たまきの方へと手を差し伸べて、たまきの紙袋を受け取って、それも差し出す。
「これも」
紙袋を受け取った男子が、そこで初めて琉輝の後ろにいたたまきの存在に気づき、
「え……、なに?お前彼女連れてきたん?」
と、眉間に皺を寄せて、不満そうな声を出す。
「ちげえ!……何回やらされんだこのやりとり……。たまきだよ!」
「……え!?たまき!?……うっそ!俺のこと覚えてる!?」
男子が驚いてたまきの顔を覗き込もうとするのを、琉輝は頭を押さえ込んで阻止する。
「……あ、えっと……ごめん…………」
たまきが困った顔で謝ると、
「……えー、まじかよー」
と、琉輝に額を押さえ込まれたまま、残念そうな声を上げるが、
「お前だって、たまきだってわかんなかっただろうが……」
と、琉輝に突っ込まれた。
「いや、だってさ!めっちゃ可愛くなってんじゃん!……いや、子供ん時も可愛かったけどさ、なんつーかさ……」
「キメェわ、それ以上やめとけ」
そのまま琉輝に額をペちっと叩かれて、男子は「いって!」と声を上げる。
「ねぇ!今たまきって言わなかった?たまきってたまこ?」
たまことは、小学生の時、女子から呼ばれていたあだ名だ。たまきはすっかり忘れていたが、呼ばれた瞬間、ふわりと思い出が脳裏をよぎった。
—————たまこー!
—————たまこっち!
そんなふうに呼ばれて、校庭を走り回った思い出が、急に思い出された。
変わらない校舎と、校庭の中を駆け抜けていくあの頃のたまきが、そこにいる気がした。
「たまこだ!」
「ほんとに!たまこなの?」
「私のことは?覚えてる?」
「おれ!俺も!」
たまきはあっという間に同級生たちに囲まれた。
「え、たまこ、相変わらずちっちゃかわいい!」
「やっぱ都会は服から違うな」
「たまこっちのお母さんは、もともと都会の人だもん。そりゃ出来が違うよ」
「……ちょっと!お母さんの話は……」
同級生たちはそう口々に言いながら、たまきの家族の話になって、誰かが止めた瞬間に、静まり返った。
「……あの……。ごめんね」
沈黙に耐えられず、たまきが謝ると、琉輝が手近にいた何人かを小突いた。
「……お前らなぁ!はしゃぎすぎなんだよ。たまき困らせんな」
そう言って、たまきを隠すように前に出ると、一部の同級生はしゅんとしたが、一部は不機嫌そうな顔をした。
「なに?りゅう。上から偉そーに」
「あっ!そういえばりゅうってさ、子供の頃たまこのこと……」
「っだーーー!!うるっせ!散れ散れ!」
同級生の一人が言いかけたことを琉輝は慌てて遮って、両手を振ると、数名の顔がニヤつく。
「ははーん?そっかー。そういうこと?」
誰かが何かを察したようにそういうと、琉輝の顔が赤くなっていく。
「ちげぇから!そんな昔のこと、覚えてもねぇし!」
「……あぁ、そーなんだ……、へぇ」
生暖かい視線を琉輝に送る周囲に、その後ろからたまきがひょっこり顔を出し、
「……なに?りゅうくんがどうかした?」
と、聞くと、周りの同級生たちが「なんでもないよ」と、意味ありげな微笑みを浮かべた。
「っていうか、思い出してきた。たまここういう感じだったね」
「ごめんね、急に囲んじゃって」
そう言うと、同級生たちは落ち着いてきて自己紹介を始め、たまきもだんだんと一人一人のことを思い出してきた。
残りのメンバーを待つ間、些細な思い出話に花を咲かせ、たまきもようやくここまで高まっていた緊張がほぐれていく。
「そういえば、たまこ、彼氏いるの?」
「う、うん」
同級生の一人が言った言葉にたまきは頬を赤らめて頷く。小学生の頃しか知らない友達の前で、彼氏の話をするのはなんだか恥ずかしかった。
「えっ!?まじ!?どんな人?」
わっ!と同級生たちが盛り上がる。
「こんな可愛かったらいるよなぁ……」
男子の一人がポツリと呟き、
「大学の先輩とか?え、りゅうじゃないよね……?」
女子が前のめりで聞いてきた。
「違う違う!」
たまきは素早く強く、否定する。
たまきとしては、琉輝は友人であって、そういうふうに好かれているとは思っていないから否定しただけだが、たまきの見えないところで、琉輝は他の同級生たちに小突かれ、
「だよねぇ!」
「あははっ!」
一部の女子からは笑い声が上がった。
「……何笑ってんだよ……」
「いやぁ?残念だったね」
そう言って、ぽん、と肩を叩く女子の手を払いつつ、琉輝はため息をついた。
「……あ、でも、りゅうは見たことあるの?たまこの彼氏」
他の女子が気遣う様子もなく、琉輝に聞くと、琉輝はさっきまで会っていた梧のことを思い浮かべて、無意識に背筋を伸ばした。
「……あるけど」
「っていうかもしかして、今回一緒に来たとか?」
女子の一人が声を上げると、たまきは一気に真っ赤になった。
「えっ!?あ……その……、うん」
上目遣いで遠慮がちに頷く姿を見て、数人の男子が頬を赤らめ、それに気付いた琉輝がそいつらを睨みつけた。
「まじで!?うそ!?今、どこにいんの?紹介してよ!」
今回、梧には一緒に来てもらったけれど、みんなに紹介するのは、なんだか緊張した。
琉輝も梧に対してはビクビクしているし、怖がられたら嫌だなと思う。梧にだって嫌な思いはさせたくない。
「えっ……と、今日は待っててくれてるから、こ、今度……ね」
たまきはそう言って誤魔化した。
「えー?じゃあさ、どんな人かは教えてよー!」
「どんなって言われても……」
「写真ないの?」
写真と言われて、たまきはそういえば、梧の写真がカメラロールに入っていただろうか、と考えた。
いつだったか、高校の時に初詣に行った時、撮ったかもしれない。
「ちょっと、りゅう!あんた知ってるんでしょ!」
たまきが悩み出したので、女子の照準が琉輝に向く。
「……知ってるけど……、なんつーか……」
だが、琉輝の方も歯切れが悪かったので、同級生たちは顔を顰める。
「なによ?」
「色々すげぇ……感じ」
琉輝にとっては、それくらいしか説明のしようがない。
見た目は完璧なイケメンで、高身長、スタイル抜群。
仕事は会社の社長。おまけに父親は大学教授で、母親も研究者だったはずだ。
どう考えたって彼女だってよりどりみどりなのに、たまきしか眼中になくて、大事にして、溺愛している。
「なんだよそれ?どうすげぇの?」
「全く伝わってこないんだけど!」
同級生たちに詰め寄られるが、海風梧という人を口で説明しようとしても、あまりにも現実離れし過ぎている。
「……とにかく、すげぇんだよ!あの人は!……つーか、残りの奴らきたぞ!……とっととタイムカプセル掘ろうぜ!もー、寒ぃし!」
琉輝はもう居たたまれず、声を上げたのだった。




