53
琉輝は放課後に、サークルで借りている音楽室の片隅で頬杖をついてぼんやりしていた。
先輩たちがまだ揃っていないので、始まるまで、1年生たちは何となくよそよそしく挨拶を交わしている。
さっちょんは女子に声をかけられて、持ち前の社交性を発揮して別の場所で楽しげに喋っていて、たまきからは少し遅れると連絡があった。
男子もいるのだが、昼間、さっちょんの言っていたことが気になって、声をかけにいくどころではない。
なんとなく落ち着かなくて、ふと、思い立ってスマホを取り出すと、“海風”で検索をかけてみる。
海風という言葉の意味やお店の名前が続く中、教授である海風傳本人や、海風桐子という人もいるようで、その名前とともに、いくつか論文が出てきた。
そのままスクロールを続けていくと、とある会社のサイトが引っかかる。
もしやと思ってその会社のサイトを開くと、役員紹介のページが開かれた。“海風梧”と言う名前とともに顔写真が出てきて、琉輝は目を見開いた。
おそらくこれが、さっちょんの言っていた王子じゃないだろうか。
映し出されていたのは、芸能人顔負けのイケメンだった。確かに、気軽におっさんとは呼べないビジュアルではある。次元が全く違う。
琉輝は深くため息をついた。
「……なんでこんなイケメンと知り合いなんだよ……」
見た目と肩書、おそらく財力も、どれにおいても平凡な学生である琉輝では、太刀打ちできそうにない。
「何見てるの?」
「うおぁ!」
と、後ろから急に声をかけられて、琉輝は驚いて声をあげ、スマホを取り落とした。
声をかけてきたのは、たまきだった。
「そんなに驚くことないでしょ?」
少し不服そうな顔で言いながら、たまきが琉輝のスマホに手を伸ばしかけると、慌てて琉輝はスマホを拾い上げ、ポケットにしまい込んだ。
その慌てっぷりに、たまきは目を丸くする。
「……どうしてそんなに慌ててるの?」
「あ、慌ててなんかねーよ……」
言いながら琉輝は視線を逸らす。
たまきは訝しんで琉輝の顔を覗き込もうとするが、琉輝は逃げるように立ち上がって、
「……ほ、ほら、始まるぞ?」
と、先輩たちが揃い始めた教室の前の方へと向かったので、たまきも首を傾げて、そのあとを追った。
「あ、たま!来てたんだ」
他の女子や先輩たちと話していたさっちょんが2人に気づき、遅れてきていたたまきを見つけて笑顔になった。
手招きして、女子たちのグループにたまきを招き入れる。
「この子がたまで~す」
「……えっと、冴島たまきです」
さっちょんの紹介に、少し気後れしつつも挨拶すると「よろしく~」「たまちゃんって呼んでいい?」と女子たちが明るく口々に挨拶し、それぞれ自己紹介をしてくれた。
「あっちにいるのが佐伯琉輝くん。高2くらいから関東に来て~、いまだに一匹狼気取ってるからいじってあげて」
さっちょんが言うと、
「おい、聞こえてんぞ。そんなもん気取ってねぇからな?」
と、むっとした顔をして反論する。
「こんな感じだけど良い奴っぽいから、仲良くしてあげてね。私もよく知らないけど」
琉輝のことを一瞥したが、無視してさっちょんは女子たちに微笑む。
「雑な紹介すんなって」
「ごめんね。反抗期みたいな感じだけど、優しいと思うから」
たまきもそれに乗っかって、申し訳なさそうな顔を作ると、先輩たちも含め周りから笑い声が上がった。
「は?……たまきまで……!」
妙に注目を浴びてしまった琉輝は、周りの視線を感じて、バツが悪そうな顔で身を縮める。
そこで、先輩の一人が一歩前に出て、
「じゃあ、佐伯君が場を温めてくれたところで、残りの新入生も軽く自己紹介して、楽器決めしようか」
と、言った。
10人ほど入った新入生がそれぞれ自己紹介をした後、それぞれ、楽器決めのために新入生たちがバラバラに先輩たちのもとについた。
すでにトランペットに決まっているさっちょんと、いくつかマウスピースを試して早々にフルートに決まったたまきは適当に並べられている椅子に座って、他の人が決めるのを眺めていた。
「さっき、りゅーきくんと何話してたの?」
「スマホ見てたから、何見てるのって声かけたら驚かれて、スマホ隠された」
さっちょんに聞かれて、たまきはさっきの出来事をそのままを答えた。
「ちょ、たまき!誤解を招くような言い方すんなよ!」
近くでマウスピースを試していた琉輝が、慌てたように声を上げる。
「え?どこが?ありのままを言っただけだよ?」
「うわ、りゅーきくんもしかして、えっちなサイト見てた?」
さっちょんが口元に手を当て、半眼で琉輝のことを見る。
ついでに「たま、近づいちゃダメだよ」と、たまきを引き寄せると、「そうなの?りゅうくん……」と、たまきも口元に手を当てて、疑うような視線を向ける。
「はぁ!?見るわけないだろ!やめろ、初っ端から変なイメージつけるなって!」
たまきとさっちょんの茶番に対して騒ぐ琉輝に、周りからまた笑い声が上がる。
「佐伯君って割といじられキャラなんだね」
「黙ってたとき、とっつきにくいクール系かと思ってた」
「知彩里ちゃんだけじゃなくて、たまきちゃんも結構のるタイプだったんだ~」
笑いながらみんなが遠慮なく話して、琉輝は面白くない顔をしたが、サークルの中はすごく和やかな雰囲気になった。
わずかに緊張していた他の新入生たちの表情も和らぎ、一気に距離が縮まる。
先輩たちから憐みの視線を向けられ、琉輝が「違いますからね?」と念を押すと、男子たちは親指を立てて、頷いた。
誤解が解けていない雰囲気を感じ取り、琉輝は「頼みますよ……」と弱々しく声を出すと、「冗談だよ。ごめんな」と、三年生の先輩が苦笑したが、先ほどよりも打ち解けた様子で再び楽器決めが始まる。
「そう言えば、海風先生の用事何だった?」
思い出したようにさっちょんが聞いた。
「理学療法学科の準備室に資料届けてくれって言われただけだったよ」
たまきは昼間のことを思い出しながら少し視線を下げた。ふと梧のことがよぎって、表情が一瞬暗くなる。
さっちょんは、心配そうに顔を覗き込んだ。
「……私が騒いだから、怒られた?」
そう言われて、たまきは慌てて首を横に振ると、
「ううん!そんなことないよ。……何を騒いでいたのかは聞かれたけど……、適当にごまかしておいた」
と、言って笑顔を作る。
さっちょんも「そっか」と言って笑顔を返したが、たまきの表情がどことなくぎこちないことを見逃さなかった。
たまきはさっちょんから顔を逸らし、みんなの様子を見つめている。
王子とどんな関係なのか先生に聞いた?と聞こうと思ったのに言い出せず、さっちょんはたまきの横顔を黙って見つめていた。
――――――――――――――
傳は珍しく早く自宅に帰り、ぼんやりとキッチンで鍋の中身をかき混ぜていた。
海風家では、早く帰れた日は傳が食事の準備をすることにしている。
桐子も家事が下手なわけではない。
ただ、研究者らしいというべきか、家事の途中に何かを思いつき、そちらに没頭してしまうと他のことがおろそかになってしまいがちなのだ。
傳も研究者ではあるのだが、家にいるときと研究室にいる時の切り替えがはっきりしている。
逆に家で研究のことを考えることが苦手なくらいだ。
「傳さん?」
傳は桐子から声をかけられて顔を上げた。
リビングのソファで資料を眺めていたと思ったのに、目の前に居て、傳は驚いた。
しかし、すぐに微笑み、
「どうかしましたか?桐子さん」
と、首をかしげた。
「……いえ。何度かお呼びしましたが、返事がなかったので。何かありましたか?」
呼ばれたことに、全く気が付かなかった。
「それは失礼しました。鍋の様子に集中してしまっていたようですねェ」
そう言って、また鍋の方に視線を落とす。
「……普段、冗談も嘘も上手なのに、時々とても嘘が下手になりますね」
桐子の呆れたような声がして、傳は視線を上げた。
桐子は、訝しんだ視線を傳の方へ向けている。
しばらく驚いたように目を丸くして見つめていたが、桐子が傳の機微を敏感に感じ取ってくれたことが存外嬉しく、口元が緩んだ。
「……言うと怒られるので、言いません」
そう言うと、傳は微笑んだまま、棚からスパイスを手に取り、鍋の中へ振り入れた。
「……怒られるようなこと……」
桐子は推理を始めた名探偵のように、呟いた。
腕組みをして指先で唇を撫で、しばらく虚空を見つめた後、
「……彼女に会った、と言うことですか?」
桐子の鋭い視線が、傳を捉えた。
傳は首をすくめる。
それを肯定と捉え、桐子はため息をついた。
「あなたって人は……」
眉間の辺りを手で触れ、桐子はもう一つため息をつく。
傳は、問われれば特に隠すつもりもなかったので、
「たまたま、偶然ですよ。担当の先生が学会が入ってしまい、その授業にたまたま、冴島さんがいただけです」
と、答えると、かき混ぜていた鍋の味見をしている。
「それで?……気味悪がられでもしましたか?」
味見をしながら頷いた傳を見て、桐子は食器棚に向かい、盛り付ける食器を選び始めた。
「……そんな子じゃありませんよ。……ただ、海風と聞いても、梧のことは聞いてきませんでした。てっきり“もしかして、お父さんですか?”って聞かれるかと思っていたんですが……」
桐子の選んだお皿を受け取り、傳はその皿に盛り付けていく。
桐子はそのまま、食器棚から取り皿と、箸を取り出している。
「“お父さん”って呼ばれたかったんですね」
「あぁ、それも良いですね」
傳は顔を上げ、目をキラキラと輝かせた。
しかし、すぐに真顔に戻り、
「……てっきり、梧はあの顔ですからモテてると思ったんですけど。意外に片想いなんですかねぇ……」
と、肩をすくめてため息をついた。
そんな様子の傳を横目で見たあと、桐子は視線を下げた。
「……人間、見た目だけで好かれるわけではありません。……あの子は私に似て、愛想が良くないですから」
傳は盛り付けた皿をダイニングテーブルに運びながら、桐子の沈んだ表情をみた。
桐子の俯いたその頬に手を伸ばす。
気づいた桐子がハッと顔を上げた。
「……あなたに似て?梧はあなたには似ていませんよ。……もちろん、顔はそっくりですが。彼の性格はいつからか……、僕にもあなたにも似ていない。パパママと言って可愛く甘えていたのはほんの幼いころのひと時だけで、彼は急に大人になってしまった。……彼が愛想がないのは、あなたのせいじゃありません。僕はあなたに愛想がないとは思ったことはありませんから」
顔を上げた桐子をまっすぐ見つめて、傳は言った。
普通の人なら、桐子のことを愛想がないと言うかもしれないが、傳はそうは思わない。
大学から彼女を知っているが、良く見ていれば、彼女は感情を豊かに変化させている。
喜怒哀楽を彼女は知っているが、その表現方法を知らないだけだ。
桐子は「あなたの言うことが、時々理解できません」と、視線をそらした。
わずかに赤くなる頬が、照れていることを示していて、傳は嬉しさに頬を緩ませた。
桐子が茶碗にご飯をよそい、傳は味噌汁を器に盛る。
梧の無表情は、桐子のそれとは少し違っている。
あれは、梧が小学五年になった頃だったろうか。
梧の雰囲気が突如として変わった。まるで、中身が違う人に入れ替わったのかと思うほど、梧は大人のように振舞い、傳たちと距離ができた。
まるで、感情を知らない青年に体を乗っ取られたようだと、傳は感じた。
何が起きたのかと心配し、傳は彼を病院に連れて行ったが、体にも脳にも、何も異常は見られなかった。
桐子も戸惑っていたが、すぐに、表情の乏しい自分のせいだと受け入れたようだった。
それが、傳にはどうしても許せなかった。
なぜ、息子が変わってしまったのかを知りたくて、傳は脳神経学を学び始めたのだ。
「さぁ、冷める前に食べましょう」
ダイニングテーブルに並べ終えて、傳はパンッと手を叩いた。
桐子がようやく少しだけ頬を緩ませて、頷いたのを見て、傳は桐子の座る椅子を引いて「さぁ、どうぞ」と促したのだった。
――――――――――――――――
帰宅途中にスマホが鳴って、心悠は通りで立ち止まって画面を確認した。
そのまま電話に出る。
「……どした?さっちょん」
電話はさっちょんからだった。
『やっほ~、こは。元気してるぅ?』
相変わらずの声に、ふっと微笑んで、「元気だよ。さっちょんも元気そうだね」と返すと、『もちっろ~ん。こはに邪魔されずにたまとラブラブできるもんね~』と嬉しそうな声が返ってきた。
「何それ?……ずるいな~~~。たまき元気してる?」
笑って、心悠はのんびり歩きながら軽い気持ちで訊いた。
『……元気だよ』
さっちょんは声のトーンは変えなかったが、一瞬空いた間に、心悠は気づいて表情を硬くした。
「なに?なんかあった?」
『……う~~~ん』
不安になって訊くと、さっちょんは唸り声を上げる。
「ちょっと、何なの?」
焦ったような心悠の声に、さっちょんは『何かあったって程じゃないんだけどさ……』と、言いづらそうに口ごもった。
『うちの大学にさぁ、海風っていう先生が居た』
さっちょんが言った言葉に、心悠の心臓がドキッと跳ねた。
海風と言えば、梧の名字だ。
おそらく、たまきは文化祭の後から梧を避けているはずだ。
それなのに、梧の関係者が居ると知ったたまきは、どう思っただろう。
「……それって、梧さんの……家族とか?」
トーンの落ちた心悠の声に、さっちょんは確信した。
海風は王子の名字で、たまきと王子の間には、何かがあったことを。
『わかんない。……歳からしたらお父さんっぽいけど、そこまで顔が似てるわけじゃないし。けど……』
一瞬暗くなったたまきの表情を思い出して、一拍間を置いた後、
『……ねぇ、こは。たまと王子ってなにがあったの?文化祭の時、たまが体調悪くなったのって、王子と何かあったからなんでしょ?』
と、訊いた。
心悠は返答に困って沈黙する。ただ、さっちょんは確信を持って聞いているようだった。
『……こは』
さっちょんの声が、懇願するようなものに変わって、心悠は一度目を閉じた後、一つ息を吐いた。
大学が離れてしまって、心悠にはたまきに対してできることが少なくなってしまった。
たまきに対して少しだけ後ろめたさを感じたが、大学内でのことは、さっちょんに頼んだ方がいい。
「……たまきは……、梧さんに恋人がいると思ってる」
『はぁ!?んなわけないじゃん?王子はめっちゃラブラブ光線たまきに出してたのに!?』
心悠の話が信じられなくて、さっちょんは電話の向こうで大きな声を出した。
心悠としても、未だにそれは信じられない。
「私にもそう見えてたけど!……でもたまきは、梧さんが女の人と居るところを見たんだよ。……すごく……、お似合いに見えたらしい」
『女の人って、きょうだいじゃないの?』
「梧さんは一人っ子らしい」
『そう言ったって、親戚かもしんないじゃん……』
「それは思ったけど、……たまきの目から見たら、そういう親しさと違うように見えたんじゃないの?……わかんないよ。確かめようもないし……」
さっちょんは心悠と同じ疑問を口にしたが、確かめるすべがない。心悠は足を止め、建物の壁に寄り掛かった。
ため息をついて、前髪をかきあげる。
『え?こは、王子の連絡先知らないの?』
さっちょんは驚いた声を上げた。
「知らないよ」
『えっ?入院してるとき、伝言かなんかお願いしてなかったっけ?』
「あれは……。……紫露に頼んでた」
『じゃあ紫露に聞いてよ~、王子に恋人がいるのかどうか!』
「聞こうとしたよ!だけど…………。あ~もうっ!それは、さっちょんが直接聞いてよ、霜槻に」
『は?何?そっちもなんかあったの?ねぇ~~、やめてよぉ。こはと紫露が仲悪いのとかないわぁ。あとでよっちんに報告しとこ』
「何でよっちんに言うの?あいつが私と関わりたくないんだから仕方ないじゃん。そっちはさっちょんに任せる。確認出来たら連絡ちょうだい」
言いながら、紫露の態度を思い出して心悠はイライラが再燃した。
—————心悠先輩に関係ないだろ!
紫露の声が耳元に蘇る。
他人のことに口を出し過ぎたかもしれないとは思う。だけど、突き放すような物言いが、どうしても納得できなかった。
『紫露が?こはと?……ありえないんだけど。こはが連絡取れないのに、あたしで連絡つくかな?』
「知らないけど何とかなるでしょ」
突き放すように、心悠は言った。心悠から紫露に連絡することは、もうこの先ない。
『たまの一大事なのに、投げやりになんないでよ。りゅーきくんにとられちゃうよ?』
「りゅーき?誰?」
初めての名前に、心悠は眉間にしわを寄せた。
『え?知らない?たまの地元の友達だって。なんか高校の途中からこっち来て、大学入る前に再会したらしい』
初めて聞いた話だ。
たまきも心悠も、受験時期は慌ただしくて、大学が始まってからもそれぞれに忙しくしていたから言い出せなかったのかもしれない。
『りゅーきくんはたまのことが好きだから、ほだされちゃったら困るじゃん』
「……梧さんに本当に恋人が居たら、それはそれでいいんじゃないの……?」
さっちょんの言葉に、心悠は首をかしげた。
琉輝のことを教えてもらえなかったのは少し気になったが、たまきの気持ちが軽くなるなら、そういう人が居てくれるのは救いになるかもしれない。
『良くない!あたしは王子たま推しなの!』
「推しって……。誰と付き合うかはたまきが決めることでしょ」
言いながら、正直、心悠だってたまきの相手は梧が良いと思っている。前世云々を差し引いても、梧と居る時のたまきは、たまきらしくいられたと思うから。梧だって、たまきに救われているときもあったんじゃないだろうか。
『…………だって、たま……。最近また初めて会った頃みたいな顔してる』
さっちょんの沈んだ声に、どくんと、心臓が深く脈打った。
たまきが自分の気持ちを隠して無理して笑っていたころに戻りつつあるのかと思ったら、急に胸が苦しくなる。
たまきが梧と出会い、ようやく両親のことを話せるようになって本当の意味で笑えるようになったのに。
今までの状況で、好きになってしまうのなんか仕方ないのに、もし、本当に梧に恋人が居たら?……誤解であってほしい。そして、誤解なら、それを解きたいと、心悠はあれからずっと願っている。
『……紫露には、あたしから連絡してみる。脅してでも確認させるから任しといて』
心悠が黙ると、さっちょんは自分と同じ気持ちなんだとわかったようで、自信たっぷりの声でそう言った。
さっちょんが胸を張ってドンッと叩いているのが想像できて、心悠は少しだけ表情を緩めた。
「どうやって脅すの?」
『たまが別の、ぽっと出の男に取られてもいいんだな!って』
さっちょんは大まじめなのに、その言い方がおかしくて、心悠は笑った。
「……ぽっと出って……ひど。りゅーきくんだっけ?その人だって悪い人でもないんでしょ?」
『まぁね。紫露くらいいじりやすいタイプだけど、紫露みたいに素直ではないかな。……たまきはまだ、病気のこと話せてないみたいだし、りゅーきくんにたまを支えられるかはわかんないから』
「めっちゃ上から目線じゃん」
すっかり保護者のような口ぶりのさっちょんを、心悠は頼もしく感じた。
『あったり前でしょ?あたしだって、こはに負けないくらい、たまの幸せ願ってるんだから』
「……知ってる。……頼むね、さっちょん」
心悠が頼むのは筋違いかもしれないと思ったが、
『任せて、こは。みんなでたまを幸せにしよーね』
声を弾ませ、さっちょんが応えてくれて、ほっとした。
『また電話するね』
そう言って電話が切れると、心悠は空を見上げた。
日が伸び始めて、まだ薄暗い空に、星が一つ、二つ輝き出した。
いつだったか、心悠は、たまきの日常を守りたいと強く願ったことを思い出す。
どうか、良い方に、たまきが幸せに笑っていられる方へ向かってほしい。
そう願って、心悠は再び歩き出した。




