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風の行く先  作者: 遥ゆとり
2章 高校編

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47

 文化祭が終わり、粗方片づけも終えると、後夜祭兼出し物の人気投票の発表のために、全校生徒は体育館に集まっていた。

 たまきが保健室からそこへ合流すると、クラスメイトが駆け寄ってきて、口々に「ごめんね」「大丈夫?」と声をかけてきた。

 一瞬驚いた顔でみんなの顔を見渡すたまきの傍に、心悠が歩み寄る。

 心悠が微笑んで頷くと、たまきはホット表情を緩め、首を横に振り、

「私が悪いの。体調管理ちゃんとできてなかったみたい。心配かけてごめんね。大丈夫だから」

 と、ぎこちなく笑う。

 まだ少し、腫れぼったいたまきの瞼を見て、よっちんとさっちょんは気まずそうに顔を見合わせた後、さっちょんがたまきに抱きついた。

「……さっちょん?」

 たまきが優しい声で名前を呼んで、さっちょんの背中をさすると、

「……ごめんね、たま」

 と、呟いて体を離すと、しょんぼりした顔を見せた。

「何で謝るの?さっちょんのせいじゃないよ」

「でもさ……」

 何かを言いかけて、さっちょんは言葉を詰まらせる。

 その頭を心悠がぽんぽんと撫で、顔を上げたさっちょんに微笑みかけると、

「ま、ランキング聞こうよ」

 そう言って、ステージの方を指さした。

 ちょうど、5位からの発表が始まるところだった。

 クラスメイトの一人がパイプ椅子を持ってきて座るように促すと、たまきは「ありがとう」と笑って、椅子に座った。

 心悠はその横に立ち、肩に触れてたまきを見つめる。

 その表情が、心配そうに見えたのか、たまきは自分の手を重ね、頷いて「大丈夫だよ」と、声を出さずに口を動かした。

 心悠には、それがたまきの強がりで、大丈夫ではないことくらい、わかっている。

 それでもたまきに微笑み返してから、心悠はステージに視線を向けた。



 結局、たまきたちのクラスは、前日から一つ順位を上げたものの、2位に終わった。

 1位は3年5組の脱出ゲーム+お化け屋敷。

 5組の生徒たちがはしゃいで喜ぶ中で、たまきたちの3年2組は、微妙な空気に包まれていた。

「……みんな頑張ったし、楽しかったよね?」

 たまきが遠慮がちにクラスメイトに声をかける。

「私は楽しかったよ。……私が、体調崩して……水差しちゃったかもしれないけど……」

 うつむきがちにたまきが付け足すと、クラスメイトはそれぞれに顔を見合わせ、

「そんなことないよ!私も楽しかった」

「俺も!」

「うん、俺ら良かったと思うよ」

「女装に目覚めそう」

「いらないって、お前の女装」

「いや、割と美人じゃなかった?」

「可愛かったよね」

「ほらぁ」

「ま、楽しかったのには間違いないな」

「お客さんの反応も良かったし!」

「それが一番嬉しかったかも」

「楽しかった!」

「うん、楽しかったね!」

 口々に感想を言い合って、だんだん皆が笑顔になっていくと、たまきもほっと微笑んだ。

 体育館には軽音部の演奏が流れ始め、好き勝手にステージに上がって、ボーカルじゃない生徒たちが歌い、盛り上がり始めた。

 皆がステージを見つめる中、心悠がたまきに顔を寄せる。

「……みんな、たまきに1位をあげたかったんだよ」

 と、耳元で囁くと、たまきは驚いた顔をして心悠の顔を見つめた後、クラスメイトの方へ視線を向けた。

 各々、音楽に乗って楽しんでいるクラスメイトを見て、たまきは胸が熱くなり、泣きそうになって俯いた。

「冴島さん!」

「たまきちゃん!」

「たま!」

 みんなの呼び声にたまきが顔を上げると、たまきの周りに寄ってきて、ノリノリでダンスを見せた。

 「たまも!」と煽られ、たまきも椅子に座ったまま、腕と上半身を動かして、音楽に乗る。


 まだ頭の隅からは梧のことが消えていなかったけれど、みんなのおどけた姿とリズムに、たまきはひと時そのことを忘れて、みんなと笑いあった。

 

 ――――――――――――――


 翌日、梧はベッドの上から動けずにいた。

 あの後、雨に濡れたまま、着替えずにぼんやりしていて、案の定、風邪を引いた。

 いつもの時間になっても出社しない梧を心配して時雨が電話をかけてきて、ガラガラに掠れた酷い声で電話に出ると、

『梧!?……風邪なのか?』

 切迫した声で、時雨が訊く。

「……ああ」

 一言声を出しただけでもせき込む梧に、

『病院は?行けそう?今からそっちに……』

 心配した時雨が焦った声で言ったのを、梧は遮り、

「いい。自分で行く……」

 せき込んで荒い息のまま、答えた。

 頭が、ガンガンと殴られているように痛み、正直言って、あまり電話もしていたくない。

『そんな状態でひとりで行けないだろ!俺が行くまで……』

「いい……!」

 食い下がる時雨の声をもう一度遮って、梧は激しくせき込んだ後、途切れ途切れの声で、

「……お前は……、自分の……心配でも、してろ……」

 と、言った。

 そんなことを言うつもりはなかった。

 だが、なんだかその日の梧はイライラしていて、時雨に当たるような物言いをしてしまった。

 その一言は思いのほか時雨に突き刺さったのか、電話の向こうが静かになった。

「……仕事を……、頼む」

 気まずさから、梧は弱々しい声でそう言うと、電話を切った。

 電話を切ると、梧はベッドの中で身を縮めた。熱のせいか、節々が痛み、じっとしているのもままならない。

 のたうち回るように身をよじり、うめき声を上げながら寝返りを繰り返した。

 

 これは、罰だと思った。

 自分の都合のいいように、勘違いして相手を追い詰めた罰だ。

 

 どのくらいの間、そうしていただろう。

 いつの間にか眠りについていた梧は、—————夢を見ていた。


 

 ――――――――――――――

 

 

 森の中は、血の匂いで充満している。

 敵味方関係なく、死屍累々と横たわる兵士たちの中、()()()は木陰で息を潜めていた。

 戦いの中でサギリとはぐれ、身を隠している。

 敵味方の数が把握できず、孤立した時には、そうするようにサギリから言い含められていたからだ。


 森の中で隠れながら、カザネは自分の考えの浅さに、辟易としていた。

 狭い宮殿の中で、サギリに教わった武術で、実戦に出るなど到底無理だったのだ。

 自分一人の命を守ることがやっとで、共に戦った同じ国の兵士たちを救えず、目の前で命を落としていく様をただ見ているしかできなかった。

 何より痛かったのは、負傷した兵士たちを置いていくことだった。

 彼らを庇って戦うことは不利になる。足手まといを連れていくことはできないのだ。

 すがるような兵士たちの瞳が、脳裏から離れない。

 

 その時、がさり、と木々が揺れてこすれる音がした。


 カザネはとっさに剣を掴み、息を殺す。

 ただの風かもしれないし、獣かもしれない。

 だが、カザネは気を緩めることはできなかった。

 五感を研ぎ澄ませ、音のした方向を探る。風で擦れる草木の音に混じり、微かに土を踏む音が混じった。

 音を立てぬように立ち上がり、剣を鞘から抜く。

 音の方を見定め、草陰に人影を見た。さほど大きくはない。

 敵か、味方か—————。

 木々に身を隠しながら、相手の動きに合わせて死角をとる……。

 ふと、足を止めた相手に、カザネは地を蹴り、一気に距離を詰めながら、剣を構えた。

 相手の首を目掛けて、一気に剣を横に振り抜こうとしたとき、静かな相手の視線がカザネを捉え、寸でのところでカザネは腕を止めた。

 剣先は相手の首筋ギリギリで止まり、浅く首筋に傷をつけ、一筋、血が流れていく。

 しかし相手は微動だにせず、凪いだ水面のように、静かな瞳でカザネを見つめている。

 —————まるで死など恐れていないかのように……。

 急に、カザネの体に震えが走って、投げるように剣を落とした。

 相手に、見覚えがあった。

 カザネは今、()()の首を切り落とそうとしたのだ。

 

「……ハル……?」


 震える声でカザネが相手の名を呼ぶと、相手の表情が訝しげに変わった。

「……あんた、誰だい?」

 今、殺されかけたと言うのに、なんともない声色で問われ、カザネはまだ震えている手で、兜を脱いだ。

 ハルの目が驚いたように見開かれ、「お前……!」と、声をあげそうになって自分の口を塞いだ。

 あたりを見渡し、カザネと共に木陰に身を潜めると、ハルはカザネに顔を寄せ、

「なんでこんなところにいるんだ?」

 と聞いた。

「……それはこちらのセリフだ」

 震えを抑えるようにカザネは息を吐きながら言った。

「……いつもの通りだよ、風の赴くままさ」

 肩をすくめてハルは言った。

 命の危険がある戦地のど真ん中に呼ぶ風とはなんなんだと思いながら、カザネはため息をつく。

「……そんなのはどうでもいい。なんでお前が前線に居るんだ。……まさか、王家の奴らに強要されたのか?」

 小声ではあるが、ハルは深刻そうな顔つきで訊いてきた。

「……いや。森まで敵軍が攻めてきていると聞いて……、止まり木の宿と、ゼンがどうなっているか気になった。混乱に乗じて、サギリと共に抜け出したんだ」

 それを聞いたハルの顔が、驚きから呆れに変わっていく。

「バカかお前は……」

 ハルはため息をついて呟くと、カザネはムッとした顔で反論しようとした。

 しかし、ハルの方が先にあたりを見渡しながら、

「で?サギリ殿は?」

 と、訊いた。

「………………はぐれた」

 言いづらそうにカザネが言うと、ハルはますます呆れた顔で、深くため息をついた。

「なるほどな。それで、一人でかくれんぼしてたってわけかい」

「かくれんぼなんかじゃ……!」

「はいはい」

 カザネの言葉を軽くあしらって、ハルはふと、空を見上げた。

 冷たい風があたりを吹き抜け、カザネもあたりを風上に目をやってから、空を見上げ、雲の動きを見た。

「雨か……」

 そう呟くと、ハルはカザネの方へ視線を戻して、ニッと笑った。

「正解。忘れてなかったな」

 そう言うと、身を屈めながら立ち上がり、

「じきに酷いのが来る。こんなところで雨に打たれて体力を奪われるのは得策じゃないね。移動しよう」

 と、言って、カザネに手招きをした。カザネは兜を被り直し、剣を拾って鞘に収めると、同じように身を屈めて、ハルの後を追った。

 

 こうして話せば、以前からのハルと変わらないように思える。

 しかし、カザネが剣を向けた時のハルの瞳は冷静で、死への恐怖もなければ、ここで終わりかと言うような諦念の色すらもなかった。

 おおよそ十年、ハルとは会っていなかった。

 見た目も大人びた。だが、それ以上に、”何か”が変わった。

 具体的に何とは言えないのだが、……ただ、あの瞳に見覚えがないわけではない。

 ……スイもあんな目をしていた。

 ふと、この世を静かに見定めるような、……自分のことすら他人事のように見る目だ。

 

 なぜ、剣を向けられてそんな風に冷静でいられるのか、カザネには理解ができなかった。

 今、ハルは手を伸ばせば届く位置にいる。それでも、カザネには、ハルの存在がひどく遠く感じられた。

 

 

 ハルの案内で森の奥深く、道なき道を行く。

 ようやく人の気配がしない奥へと進み、ハルが体を起こしてカザネの方を振り向いた。

 ハルはカザネの足元を確認し、満足そうに微笑むとまた前を向いて歩きだす。

 おそらく、歩き方を確認したんだろう。と、カザネは思った。

 草や木を完全には踏み抜かず、やわらかく着地して歩を進めることで、道を残さないようにする。そんな風のものの歩き方を、カザネはまだ覚えていた。

 兜を外し、カザネはホッと口元を緩めつつ、慎重な足取りでハルの後ろをついて行く。


 やがて、ぽつぽつと雨が当たりだし、次第に雨粒は大きく、激しく降り出した。


「こりゃマズい」

 ハルがそう言って、二人は走り出した。

 ようやくハルが目的地にしていたらしい岩場にたどり着くと、崩れ落ちて積み重なった岩の隙間から、するりと奥へと入って行った。

 あまりに不安定に積み重なる岩に、カザネがためらっていると、隙間からハルがひょこっと顔を出し、

「おい、何してる?早く入れ」

 と、言って、また顔を引っ込めた。

 

 カザネは意を決し、岩の隙間から中に入った。

 先に入っていたハルが荷物からランプを出して火を灯し、中を照らし出す。

 すると、入口からは想像できないほど、中は広かった。

 カザネは驚いて中を見渡し、

「……なんだここは……?」

 と、呟いた。

「さあね。できたのはずいぶん昔なんだろうけど、水が岩を削ったのか……。巨大な生き物の巣だって話もあるけど」

 説明しながら、ハルは奥へと進んでいく。

「巣か……」

 カザネは興味深そうにあたりを見渡しながらゆっくりとそれについて行った。

 ハルはその様子を一瞥して口元に笑みを浮かべる。

「……無数に洞穴がつながっているから、空気も抜けてて、奥には水場もある」

「生活ができそうだな」

「十分その機能はありそうだが、今は使われていないようだな。入口みたいに崩落して、住めないと判断したのかもな」

「……大丈夫なのか?」

「どうかね?私とお前さんでここで心中しなきゃならんかもな」

「よせ。縁起でもない」

 カザネが眉根を寄せて不機嫌そうに言うので、ハルは「はははっ」と声を上げて笑った。

「まぁ、大きい地揺れでもなければ、崩れはしないだろ。ただ、さっきも言ったように、無数に洞穴が走っているから、一歩間違って迷い込むと一生出られなくなる。……興味本位で探検するなよ」

「……するわけないだろう」

 少し間を置いて返事をしたカザネの言葉に、ハルはニヤニヤと口元を緩めた。

 

 どのくらい奥へ進んだのか、大きな岩が平らに削れられた場所にたどり着いた。

 かつて住んでいた民が生活していた場所だろう。

 岩の中心付近に、炉のようなものがあり、燃えた木の跡が見えた。壁際には薪や小枝が積まれている。

 ハルは炉端へ行くと、手早く薪を組んで小枝や乾燥した葉を隙間に差し込み、ランプの火から火種をとって、火を熾した。

「早く火のそばに来な」

 言ってハルは荷物を探ると、中身が濡れていないか確認しつつ、布を何枚か取り出している。

 カザネも炉端に寄り、座ると肩当てやら胸当て、防具を外してゆく。

 すると、ハルが布を一枚カザネの方へ投げる。

「服を脱いで、それで体を拭け」

 と、言うが早いか、自分も濡れた服を脱ぎ始める。

「なっ!?」

 目の前でなんの躊躇もなく脱ぎだしたハルに、カザネは声をあげ、慌てて後ろを向く。

 ははっ、と、笑い声が聞こえて、

「なんだよ、恥ずかしがるような仲かね」

 と、面白がるような声が聞こえる。

「曲がりなりにもお前は女なんだから、男の前で簡単に脱ぐな!」

 カザネは言うが、ハルは鼻をフンと鳴らして笑い、

「へーへー。曲がりなりにも、ね」

 と、まるで気にしない口調で答えた後、立ち上がってどこかへ歩いていくような音が聞こえた。

 カザネは振り向かずにため息をつき、上着を脱ぐと体を拭き始める。

 しばらく経って、足音は、器の中で揺れるような水音と共に戻ってきた。

 それが火にかけられたのか、今度は火に当たって弾ける水音が聞こえる。

 じっくりと湯が沸いていく。

 荷物を探り、何か包みを開ける音の後、あたりにふわりと、嗅ぎ慣れた薬草の匂いが広がった。

 止まり木の前の宿でよく嗅いだ、体を温める薬草茶の匂いだ。

 この匂いも音もひどく懐かしく感じ、目を閉じた。心地がいい。

 カザネの意識は、まだスイが生きていた、冬越えの日々に引き戻された。

 

 家族と言うものがあるのならば、そういうものなのかもしれないと、思った時がある。

 カザネが王族であるという肩書は消えず、手放しで歓迎されているわけではなかった。

 だけど、ただ黙って何もせず、そこに居るだけでも許されている気がした。

 ゼンとスイは、カザネをただの子供のように扱うときがあったし、ハルはいつでも遠慮がなかった。

 

 あの宿での、あの日々だけは、自由に息ができた。

 自分は生きているのだと、生きていてもいいのだと、思えた。


 だから、守りたかった。

 もう行けない場所であっても。

 ゼンと、あの宿を。

 

 カザネの近くに、ことり、と、何かが置かれる音がした。

「もう服は着たからこっち向いても大丈夫だよ。熱いうちに、飲みな」

 ハルの声に、カザネは今の状況を思い出した。

 ほんの少し、緊張が走る。

 命の危険が迫るような緊張ではない。

 ここには、カザネとハルしかいない、という妙な緊張だった。

 考えてみれば、森の中を二人きりで散策したことはあったが、宿の中で二人きりになったことは一度もなかった。

 サギリたちが気を付けていたのだろう。

 カザネは今更ながら、体を拭くのに使った布を肩からかけ、ゆっくりと振り向くと、置かれた器に目を落とし、それを手にした。

 

 口に含めば、香りと味が口いっぱいに広がる。

 特別、美味いというほどのものではないが、滋味で、懐かしい。

 ほう、と、息を吐いて、カザネはようやく視線を上げると、ハルを見た。

 カザネと目が合った瞬間、目が優しく細められ、ハルは穏やかに微笑む。

 カザネは思わず目をそらし、ごまかすように薬草茶を飲んだ。

 なぜだかわからないが、ハルを眩しく感じて、身体が熱くなる。

 

 ハルは視線を逸らしたカザネを茶化すでもなく、何も言わず黙っていた。

 ハルがお茶を含んで飲み込む、喉の音が聞こえるほど、静かだ。

 静寂に、緊張が増す。

 心臓が強く激しく脈打って、その音が、ハルにまで聞こえてしまいそうだった。

 

 ゆっくりと視線を上げ、再び、ハルと視線を合わせる。

 今度は、ハルが顔を逸らした。

 その首筋に、さっきカザネが付けてしまった傷跡が見え、眉間にしわを寄せた。

「……痛むか?」

 カザネが言うと、ハルは驚いた顔でカザネに視線を戻す。

 カザネの視線の先が、自分の首筋に向けられていることに気づいて、ハルは自分の首筋に触れ、傷をなぞった。

 ピリッとしたわずかな痛みが走って、ハルが顔を顰めると、カザネが腰を浮かせる。

「……大したことない」

 苦笑いを浮かべてハルは答えたが、カザネはそのまま手を伸ばした。

 カザネは傷を避け、ゆっくりと指先で首筋を撫でる。

 ハルが短く、吐息を漏らした。

 二人は視線を合わせて見つめあった。

 揺らぐ炎に照らされて、ハルの瞳が潤んで見える。

「……どこまでなら、触れてもいい……?」

 何故そんな質問をしたのか、カザネは、自分で自分が理解できていなかった。

 ただ、先刻まで目も合わせられなかったのに、今度はハルから目が離せない。

 ハルも視線をそらさず、

「……試してみるかい?」

 と、穏やかに、息を混ぜるような声で言った。

 カザネは手を後頭部へと回し、ハルを引き寄せ—————、そのまま唇を重ねた。


 ――――――――――――――


 ハッと、梧は目を覚ました。

 びっしょりと全身に汗をかいている。

 ひどい頭痛と全身の痛みがまた襲い掛かってきて、ベッドの上で再び身を縮めた。


 —————あの日、カザネとハルは一線を越えた。

 だが、それが本当に同意によるものだったかどうか、梧には思い出せない。

 試してみるかとハルは言ったが、その後のハルはどう思っていたのか、やめてくれと言い出せずに、カザネに押し切られたのではないのか。と、疑念がわいた。

 あの時のカザネは、戦の中で極限状態だっただろう。

 そんな状態で、正常な判断ができていたのかわからない。

 考えるだけでも、自分がおぞましかった。

 自分の欲求を満たし、その結果、ハルを死に追いやったのだとしたら……、カザネはなんと罪深いのだろう。

 梧は結局、()()()()人間なのか。

 


 体調が悪いことも相まって、考えはどんどん悪い方へと向かって行く。

 梧は、たまきと出会う前の、自分を責めてばかりいた頃に戻りつつあった。

切るところ間違えた感あるので、今後もしかしたら、46と47とで整理するかも。(めも)


日曜に粗方書いておいたので、上げれました。

頑張れ、私ぃ。

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