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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
301/313

3ー70 恐れていた事態

グラン出征の日。

オレは周りには、簡単にお目にかかれない程の、おびただしい数の兵士がいた。

味方が5000人を超える規模の戦なんて、1度も経験が無い。

これまで率いてきた数といえば、1000人がせいぜいの少勢ばかりで、常に劣勢に立たされていた。

今回ばかりは味方側が優勢との事だ。


だがそうであっても、胸を埋め尽くすのは達成感でも、高揚でもない。

強烈な不安だ。

いや、これは焦りかもしれない。

手早く戦を終わらせたい気持ちと、慎重に挑みたい気持ちがせめぎあっているのだ。



「敵は王都に引っ込んでしまったようだ。我らに怖じ気づいたのかな」



隣を並走する龍人のファングが、退屈そうに言った。

逆隣のセロニアスも同意見のようだ。

実際行軍は単調なものであり、要害でもなだらかな丘陵でも、迎撃する軍は現れていない。

クライスのもたらした情報では、グラン軍は王都を囲むようにして展開しているらしい。

それについてはフランに上空から確認させたので、裏も取れている。

この戦の主戦場は、敵が立て籠る城や砦となるのか。


……いや、違う。


心の中で、何かが否定する。

その言葉は、グランの都が近づくほどに強くなっていった。

小競り合いすら起きることなく、オレたちは敵の本拠地まで歩を進める事ができたのだ。

いよいよ心の平衡が怪しくなる。


行軍を止めさせ、十分に離れた位置から、敵陣の様子を探った。

連中は城外の平地に布陣し、軍を3つに分けて横に並んでいた。

それは総勢でも3000に満たない数だが、いくつかの大型兵器も引き出されている。

無策に攻めれば大きな被害を出しそうだが、対処法はすでに用意してあった。


その様子を見てか、指揮官たちは既に勝った気にでもなっているようだ。

それは末端の兵士まで同じようで、軍の士気は多少の緩みが見られるようになった。

気を引き締めようと思って叱ろうとする。

だが、適切な言葉は一向に浮かばなかった。


敵陣の確認が終わると、自軍の中央に主だった者たちを集めた。

もちろん軍議のためだ。

陣幕のようなものは設置していないので、青空の下で話し合う事となる。


現れた連中の顔はどれも明るく、晴れやかなものだった。

自分が一番暗い表情をしている事は、指摘されるまでもなく自覚していた。



「魔王殿。何やらご気分が優れぬ様子ですが?」


「あぁ……まぁな」



セロニアスが代表して声をかけてきた。

ファングやクライスもオレを見るが、似たような事を考えていそうだった。

そこへ、オレの後ろに控えているリタが遠慮気に言った。



「ライル。何か気がかりな事でもあるの?」


「その通り……だが、何の確証や情報も無いんだ。単なる取り越し苦労かもしれない」


「珍しいですねぇ。ライルの事だから、ひとまず突っ込んでドーンと爆発オチで終わらせるかと思ってましたよ」



アシュリーが続けて軽口を叩くが、顔は笑っていない。

リタと変わらず、オレを気遣うような表情だった。

全員から心配されてしまうほどに、情けないツラをしているのかもしれない。



「魔王殿。城攻めに疎い妾が申すのも憚られるが、気が進まぬのなら、手を休めるのも戦略の内じゃぞ?」


「さっすが月明ちゃん! 可愛い、賢い、奥ゆかしい!」


「兄上は黙っておれ!」



援軍である月明と陽明までもが気遣った。

その頃になって、ようやく気持ちが固まってきた。

彼女たちにはわざわざヤポーネから足を運んでもらっているのだ。

見えない不安に振り回され続けるのも、そろそろ潮時かもしれない。


ーー気迫で負けたらダメだ。敵に備えがあれば、工夫して応じれば良い。


吐き気にも似た不安を押し止めるようにして、オレは全軍に号令を出した。



「全軍聞け、これよりグラン攻めを開始する! 急ぐ必要はない。服を1枚1枚削ぐようにして、敵の拠点を陥落させるぞ!」



オレの言葉が、軍の端々にまで伝播でんぱした。

その時に軍の士気は最高潮に達する。

一方のグラン軍はというと、大きな変化は見られない。

恐怖、落胆、嘲笑などの感情が発せられていなかった。


だが、もう迷うつもりはない。

有言実行だ。

ひとまずは、城外の拠点を全て落とす事から始めようと思う。


最前線の兵士が、隊列を組んで進んでいく。

プリニシア兵団の歩兵たちだ。

レジスタリアは第2陣となる。

だから第1陣と十分な距離が取れた頃に、オレたちも行こう……と、考えていたのだが。



「な、何だ……地震か?」


「おい、大きいぞ!」


「全軍、その場に待機! 揺れが収まるまで動くなよ!」



狙いしましたかのような振動に、誰もが困惑した。

だが、こんなものは前触れにすぎなかった。

鳴り響く轟音は腹の底を痺れさせ、揺れも収まるどころか大きくなる一方だ。

馬は驚きのあまりに暴れ、歩兵も2本足で立っているのがやっとという有り様になる。


辺りの様子を見回していると、ふと異変に気付いた。

城の揺れ方が不自然すぎるのだ。

ここから距離があるにも関わらず、莫大な魔力がそこに集まっていることも肌で感じられた。



「もしかして、城が原因か……」



気づいたときには、もう手遅れだった。

王城の揺れが収まったかと思うと、徐々に競り上がり……。

そして、飛んだ。

城はみるみる内に遠ざかり、ついには雲の向こう側にまで到達してしまった。

その余りにも現実離れした光景に、誰もが反応することは出来ず、ただ呆然と見送るしかなかった。



「な、何だあれは!」


「飛んでる……城が飛んでるぞ!」



巨大な建築物が、今は豆粒よりも小さく見える。

あれがどれ程の高度にあるのか、目測では判断が出来なかった。



「なぁ……今、光らなかったか?」



配下の誰かが呟いた。

すると次の瞬間には、遠くにあった山が消し飛んでしまった。

誰が、何をしたのかすら、分からないままに。

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