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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
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3ー67 空のお仕事

連れてこられたのは、何とも色気の無い場所だった。

辺りに飾りや華などの、目に引っ掛かる物は何一つない。

ただ単に広いだけ。

石造りの床と壁だけが広がる空間だ。


フランは玉座の方に体を向けると、膝を着いた。

仕草でオレらも倣うように指示したので、仕方無しに後に続く。

だが、アシュリーだけはそっぽを向いて、床に向かって唾を吐いた。

アイツがここまで攻撃的になるのも珍しい。

よほど深い因縁があるようだ。



「龍王様。地上の者共をお連れしました」



堅く、凛とした声でフランが言った。

誰も居ない玉座に向けて。

すると、彼女は耳打ちするような小さな声で言った。



「では、あなた方はそのままで」



オレたちに釘を刺してから、フランは玉座の方へと歩きだした。

そして、無人のそれに腰を落ち着けて、居丈高いたけだかになりつつ声を出した。



「遠路ご苦労でした。私が龍王代理のフランです」


「おうそうか。茶番なら沢山だから帰って良いか?」


「龍王の間での儀式を、茶番と評しましたか? 無礼討ちしますよ?」


「ならかかってこい。そろそろ本気で殴りたくなってきた頃合いだ」


「やれやれ……。暴力で解決しようだなんて、これだから地上人は野蛮だと罵られるのですよ」


「アシュリー。こいつは深刻な病でも抱えているのか?」


「不治の病ですね。関わり合うだけ無駄なんで帰りましょうよ」


「まぁまぁ、そう焦らずに。少しくらい話をしていきなさい」



フランの長話は割と苦痛だったが、これまでの疑問点はいくつか解決した。

まずはここへ到着した時の茶番。

あれは今は亡き龍王への気遣いであり、自分はあくまでも『代理人』の立場である事を忘れない為らしい。

それは言われなきゃ分かんねぇよ。


あと、コイツの仕事ぶりについても知ることが出来た。

どうやら空から地上を監視するといった、治安維持を担っている……ようなのだ。

これまでの世界の混迷ぶりを思えば、嘘やホラにしか思えないが、フランは胸を張って言う。



「私が地上の変化に目を光らせているのは事実です。現に重大な封印が解かれてしまったことを察知して、自ら足を運んだではないですか」


「さっきの件か。つうか、どうして畑の罠にかかってたんだよ?」


「現場に急行する途中、素晴らしく実った作物を視認しました。これは私への供物に違いないと確信し、納められる前にいただくことにしました」


「職務放棄の上に泥棒かよ、救えねぇ。グランやプリニシアの横暴も、そんな風にして見落としてきたんだろうな」


「いいえ。世界地図の塗り絵などに興味はありません。どこが栄え、滅びようとも、永劫に関与する気は無いのです」


「それのどこが治安維持だこの野郎」


「世界にとって、致命的な場面のみ介入すると言っているのです」



そう言うと、フランは木の筒を手渡してきた。

見慣れないものだ。

その両端には透明な水晶板が取り付けられている。



「なんだよ、これ?」


「筒の細い方から覗き込み、壁の方を見てごらんなさい」



言われた通りにしてみると、自分の目を疑うような景色が広がった。

筒の向こうは陰気な石壁じゃない。

抜けるような青空と、深緑の大地が見えたのだ。



「もしかして、外の景色か?」


「勘だけは良いようですね。それは龍王様の遺された魔道具です。地上で起こっている事の大半を視認する事が出来るという、極めて有用な代物なのです」


「でもこれじゃ、遠くの出来事は分からないだろ」


「筒を右に回すと拡大、左で縮小。さらには筒に魔力を籠めることで、現地の物音を聞くこと可能です」


「……ほんとかよ?」



筒を右に回してみると、また光景が変わった。

見えたのは田舎町の大通り。

場所はコロナで間違いない。


大きな建物の側で男女が言い争いをしている。

よく見るとそれは領主夫妻だった。

彼らは自他ともに認める仲だと記憶していたが、そんな2人でも喧嘩をするものだろうか。

魔力を筒へ流し込み、会話を聞いてみる事にした。



「あぁグロリア! 何よりも愛しきグロリア! 君は僕を独りにして、どこへ去ろうと言うのか!」


「おぉセロニアス! 誰よりも尊いセロニアス! 私の愛はあなたの想いに決して劣ることはありません……ですが、ゆえに、ゆえに行かねばならないのです!」


「なぜだ! 君を独り行かせる訳には行かない! 2度と離れる事はないと誓ったではないか!」


「なりません。あなたの双肩には、コロナ住民の未来がかかっているのです。どうか堪えて……お願い……」


「構うものか! 君をうしなうくらいなら、公務なんか投げ捨ててやる!」


「あぁ……こうしている間に時間がッ! 八百屋のスーパータイムセールが終わってしまう……」


「グロリア。確かに魅力的な商談かもしれない。玉ねぎが2個の料金で3個手に入るのだから。だけど、君の身の安全は何物にも代えることは出来ない。聞き分けてくれ」


「セロニアス! ごめんなさい、私が間違えていたわ!」


「良いんだ、分かってくれたなら! 今夜は酒場で食事を摂る事にしよう!」


「素晴らしいアイディアだわ、ぜひそうしましょう!」



町の往来で何やってんだ、あいつら。

ちなみに八百屋は2軒先くらいにあり、目と鼻の先であり、つうか今の会話全部やめてたら買うことが出来ていただろ。

店主や町の人も呆れ顔だ。


どこに危険が潜んでるっつうんだ。

道端で転ぶ事か?

それともカボチャを足元に落として骨折とかか?

馬鹿馬鹿しい。

つうか八百屋の前で『晩御飯は酒場にいく』発言は、営業妨害そのものじゃねぇか。


深めの溜め息を漏らしてから、オレは不思議な筒をフランに返した。



「どうですか。それで情報収集も容易いでしょう」


「そうだな。まぁ……有益なものがどれだけ見つかるかは知らんが」


「さて、本題です。この空から得た情報を、つぶさに知りたくは有りませんか?」


「……何が目的だよ」


「あなたは本当に話が早い。こちらから世界の異変をお知らせする代わりに、あなたには供物を捧げていただきます」


「情報提供の代わりに野菜を寄越せってのか」


「無粋な言葉。ですが、平たく表現すればそうなるでしょう。いかがですか?」



悪い話じゃないと思う。

大陸の情勢をいち早く察知できるのはありがたい。

一応クライスが目を光らせてはいるが、それにも限界はあるだろう。

偽情報を掴まされても、事態の把握がしやすくなるし。



「緊急案件以外は、10日に1度定期的に報せろ。それで好きな野菜2品くれてやる」


「足りませんね。10品寄越しなさい」



フランの要求を聞いてから、リタの顔を見た。

彼女は項垂れて首を横に振った。

そこまで食われてしまっては、オレたちの食べる分すら怪しくなるからだ。



「物には相場ってもんがあるだろ。お前がやってるのは座って眺めてるだけだぞ。3品」


「情報は時に最新鋭の兵器を凌ぐ力を発揮します。8品以下では承知できません」


「そうか。じゃあ交渉決裂だ。帰るぞ」


「では、一大事となれば力を貸しましょう。我ら龍王様が腹心は、戦場において鬼神のごとき働きますよ」


「我らって、他に誰が居るんだよ?」


「3人のうち1人は腹痛、もう1人は昼寝をしています」


「本当に役立つのかよ……。じゃあ4品だ。それ以上はどんな条件付けてもダメだからな」


「クッ……。ならば、アンコも用意しなさい。そうすれば4品で手を打ちましょう」



アンコとは、クライスがいつの頃か自慢していた菓子だったか。

まぁそれなら我が家の財布は痛まないな。



「良いだろう。報酬に見合う働きをしろよ」


「では交渉成立ですね」


「早速だが、グランの様子を知りたい。さっきの筒をもう1度貸してくれ」


「それは構いませんが、無駄ですよ」


「無駄な事があるかよ。いいから貸せって」



再び不思議な筒を手にして、南東方面を向いた。

だが、ちょうどグラン城の辺りだけ、霞がかって何も見えなかった。

そこだけ霧でも発生しているようだが、タイミングが悪かったのか。



「あの場に魔力が集約されすぎて、望遠筒が使用不可となっています」


「じゃあ、あのエリアだけは、完全に見聞きすることが出来ないのか?」


「その通りです。豊穣の森でも似たような現象が起きますが、比較にはなりません」



そのまま西の方を向いたが、フランの言う通りだった。

ぼんやりと白んではいるが、森の中や家まで確認することが出来た。

物音も断片的にだが聞くことができる。

そこまで確認して、何やら寒気が襲ってきた。



「……グランでは今、何が起きている?」


「さぁ。知りようもありません。ですが、1つだけ確かな事があります。それはあの国の連中が、かつてない物を生み出している、という事です」


「かつてない……兵器か? それとも生物か?」


「詳細は不明。ですが、豊穣の森を上回るほどの魔力を集めるなど、並大抵の作業では不可能です。もちろん自然発生ではなく、意図して作られた状況です」


「意図して……」



これまでグランが辿った軌跡が思い起こされる。

大陸中の資源を独占し、特殊な加工を施した鉄材を延々作らせていた。

そして、獣人などを収容し、魔水晶を大量に生産させていた。

そこまで大がかりな搾取をしていたにも関わらず、大陸西部の独立には介入してこなかった。

更には同盟国であるプリニシアの内戦に対しても、対策はひどく消極的で、まるで寝返られても平気だと言わんばかりだ。


そこまで考えると、血の気が引いていくのを感じた。

グランは何かを企んでいる。

つまらない武器や兵器ではない、とてつもなく強力なものだ。

それが悪用される事を阻止したいが、情報は一切ないという有り様だ。



「ともかくクライスたちと相談だな。1度地上に帰ろう」


「あぁ、お待ちなさい」


「どうしたフラン。まだ何か重要情報を持ってるのか?」


「報酬は先払いでください。野菜4品とアンコを」


「まずは仕事してからだバカ野郎。アシュリー、ここから帰りたいんだが、頼めるか?」


「え? 話終わりました? クソきめぇ女がうるせぇんで、心の小旅行に出てたから聞いてませんでした」


「森に帰りたいんだが」


「はーいオッケーです。こんな汚ねぇ場所に居たら身体中カビだらけになっちゃいますもんねー」


「お待ちなさい、このままでは飢え死にしてしまいます。あなたには暖かい血が通っていないのですか?!」



オレたちは背中に罵詈雑言を投げつけられつつ、その場を後にした。

この一件により、オレはフランから『冷血漢』と呼ばれるようになるんだが、全く心が痛まないのが不思議だった。




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