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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
293/313

3ー62 兄と妹のセイセン

トントコトン、トントコトン。

小太鼓を先頭にして、とある一団が街中をゆっくり歩いている。

その手にはチョウチンを持って。

辺りはすっかり日が沈んでいるので、そうして寄り集まった灯りが随分暖かいものに感じられた。


トントコトン、トントコトン。

そのどこか調子ハズレというか、妙に軽い音も楽しげだ。

今宵のイベントは厳かな物とは違うらしい。

事実、道の端から一行を眺めている観衆も、ワイワイと雑談のかたわらに眺めているのだから。

この空気感。

何となく月明ゲツメイの人柄を思い起こさせる。



「チョウチンって初めて見たけど……随分綺麗ねぇ、ボワっと光ってて」


「剥き出しの火とはまた違いますよねー。そこに風情があるというか、味わい深いというか」


「ほえぇ……きれーい! みんな、どこへいくの?」


「丘の上にあるジンジャ……神様が住む家に向かってるそうだ。追いかけてみるか?」



シンディの答えはもちろんイエス。

口で言う代わりに、全力のジャンプで返事をした。

なので、オレたちはチョウチンの集団の後を付いていった。


ちなみに観衆の動きは様々で、同じようについて行く人たち、通りや建物の窓から酒を片手に眺める者たちと、思い思いに楽しんでいるようだ。

決まり切ったしきたりが無さそうで、異国人のオレたちも気軽に参加できると言うものだ。


そのまましばらく歩き、緩やかな坂を登っていると、トリイを潜っていった。

そこでは真ん中を歩いてはいけない。

家主である月明が怒るそうなのだ。

ちょっとばかり神経質だと思う。



「おや、流れが止まったね。どうしたんだろう」


「兄様。私の背では奥まで目が届きません。どんな様子ですか?」


「僕も同じさ。全然見えないよ」


「おとさん! みたい、みたい!」


「おうよ、しっかり掴まってな」



左右の肩に3人を乗せ、大木の枝まで飛んだ。

ここからだと先の方まで見ることが出来た。

それで先頭集団だが、終着点に着いたようだ。

奥の建物の前で平伏して、ジッとしたまま動かない。

すぐ後ろに居並ぶ人たちも全員がチョウチンを地面に置き、地に頭を垂れている。



「みなのもの。大義であるぞ」



戸が開き、威厳と慈愛を織り混ぜたような声が聞こえた。

そこから姿を表したのは月明だった。

いつもの華やかなキモノではなく、白を基調とした格好をしている。


太鼓を叩いていた男が黒いトレーを月明に手渡す。

そこに乗せられているのは、イネの束とサカヅキだ。

そしてゆったりとした動作で戸の奥にしまわれ、再び月明は手ぶらの姿で現れた。



「我が兄である太陽神は、今もなお冥界にて悪神の討伐中じゃ。しかし恐れるでない。必ずや勝利を収め、世界に平和をもたらすであろう!」



街の人々がより深く頭を下げる。

驚かない所を見ると、周知の事実らしい。

だがオレは初耳だ。

冥界?

悪神?

一度だって聞いたこと無い。


唯一心当たりがあるとすれば『揺るがすものクエス』だが、あいつは豊穣の森で眠りこけている最中だ。

となると『消し去るものディストル』って事になるのか。



「今宵は存分じゃ。みなのもの、真に大義であった。各々体を休め、また明日からの生業に精をだすのじゃ」



その言葉を聞くなり街の人たちが一人、また一人と帰っていく。

ヤジ馬なんかはもっと露骨で、神前にも関わらず、談笑しながらだった。

月明は特別『不遜じゃ!』と怒る様子はない。

ただ成り行きを静かに見守っているだけだ。


そして、辺りから人が消えた。

こうなると驚くほどに静かだ。

屋内へ立ち去ろうとする月明を呼び止め、みんなを連れて顔をだした。



「おつかれさん、月の神さん」


「おお、魔王殿。よう来てくれた」


「お前に兄が居たんだな。しかも太陽の神様ってんだから、それらしいよな」


「う、うむ。まぁそうかのう」


「ところで悪神って何の事だ? ヤバイやつなのか?」


「う、うむ。まぁそれなりに……じゃな」



月明が言葉を濁し、視線は逃げ場を求めるかのようにアチコチをうろついた。

もしかすると劣勢なのかもしれない。



「なぁ、遠慮するなよ。お前にはいつも助けられてるからさ。たまには恩を返させてくれよ」


「いやいやいや! そんな大袈裟な話ではないのじゃ! ほんともう下らぬもので!」


「下らない訳あるかよ。月明、ちゃんと考えてるか? 判断ミスひとつで大勢の人が路頭に迷うことだってあるんだぞ?」


「……酒盛りじゃ」


「うん?」


「兄は今、冥界で酒を呑んでおる。その悪神というのは妾の幼馴染みじゃ」


「ええ? でも討伐がどうのって?」


「戦も、悪巧みも何も起きてはおらん。性質の悪いヤツらがたむろってるだけじゃ」


「だったらさっきの演説は何のために……」



その時、空のほうから笑い声が聞こえてきた。

始めは遠く、やがて近く。

みるみるこちらに向かって迫ってくるバカ笑いは、底抜けに明るいもので、夜の静けさを切り裂くような騒がしさだった。


そして愉快な声の主は月明の真ん前に着地。

若い男だが、ただ者では無い雰囲気だ。

特に背中にある剣からは、冷や汗が吹き出るほどの威圧感がある。



「月明ぃ! 今帰ったぞぉー!」


「兄上! なぜ戻られた! 大人しくしておれと申したではないか!」


「つれない事言うなよぉ。今日はオレを祝う日なんだろぉゲェェエフッ!」


「臭い! 肉親が世捨て人よりもクッサイ!」



お兄ちゃん到来……らしい。

僅かなやり取りで察してしまった。

嘘をついてまで太陽神を隠そうとした理由について。

恐らくヤポーネ屈指に偉い神様がこれでは、示しがつかないというもんだ。



「愛する月明ちゃんがクサイクサイ言うから、風呂入るか。お兄ちゃんと一緒にな」


「ふざけるでない。そのような真似を誰がするか!」


「んでその後は一緒の布団で寝んの」


「その失言は酔うておるせいじゃな? そうであろう? そうだと申せ」


「だいじょぶだいじょぶ。これはヤラしくない……健全なアレだから」


「ああもう……話が通じぬ!」



とことんマイペースな兄ちゃんだこと。

2人の関係性は、アーサーたちのと真逆みたいに見える。

大きな違いと言えば、ツッコミ役の疲弊具合だろうか。


不意に太陽神が振り向いた。

その目は真っ先にオレを見た。



「そういやアンタら。お客さんかい?」


「まぁ、そんなところだ」


「オレは陽明ようめいってんだ。可愛いキャワイイ妹が世話になっているようだな」


「豊穣の森の魔王だ。こちらこそ月明には世話に……」


「魔王だと!?」



絶叫とともに陽明が剣の柄に手をやった。

僅かに刃が見えただけで、恐ろしい魔力が飛び出した。

目の前に太陽でもあるかのような、莫大なエネルギーだ。

すかさず皆を後ろに匿って迎撃態勢に入る。



「テメェ……よくも大事な大事な大事な大事な妹に手を出しやがってぇ! 死ぬ覚悟は出来てんだろうな!」


「まて! 手を出したって何の事だ! それはお前の思い違いだぞ!」


「んな訳あるか! その証拠はこれだ、ここにはかつて月明がマメに書き続けた、一冊の日記がある!」


「なっ!? 兄上がなぜそれを!」


「こんな風にかかれているぞ。愛しき異国の魔王様。そなたの逞しき腕に力強く抱かれたならば、妾の未熟な魂は……」


「やめろぉおーーッ!」



今度の絶叫は妹の方からだ。

そして制止の声だけにとどまらず、拳打の雨あられが浴びせられた。

こめかみ、アゴ先、眉間にみぞおち。

全てが急所に命中し、陽明は堪らずよろけてしまう。



「やめ、やめて! 月明ちゃん! お兄ちゃん死んじゃうよ!」


「死ね! この程度で死なぬのは知っておるが、死ねぇぇ!!」



最後は渾身の力を込めた蹴りが見舞われた。

それにより、夜空に向かって陽明が飛んでいった。

逆走する流れ星のように。



「はぁ……はぁ……」


「月明さん? あなたはライルの事が好きだったの?」


「あ、いや、その!」



彼女の受難は終わらない。

今度は我が家の3人と渡り合わなくてはならないのだ。

兄が盛大に我が家のタブーに噛みついたせいだ。



「ち、違うぞ! 奥方を押し退けてまでとは考えておらぬ!」


「本当ですかぁ? 怪しいもんですね」


「こういうタイプは一途。ちょっとやそっとじゃ諦めない」


「信じてくれ。妾は何と言うか、2番目! たまにの女で十分なのじゃ!」


「まぁ、2番目くらいなら良いかしら」


「そうですね。私の次で我慢するなら」


「意外とわきまえてる。私より下で良いなら歓迎する」



オレの意見を無視して、女連中で謎取引が行われた。

一言くらいオレに聞いても良いじゃないか。

どこか渇いたようなため息がこぼれた。


すると、そんなオレを気遣ったのか、アーサーがポツリと言った。



「ちゃんと相手を決めないライルさんも悪いんだよ」



それは正論だった。

でも正しき意見が世の中でまかり通らない事を、若すぎる彼はまだ知らないのだ。

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