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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
289/313

3ー58 アイドルというお仕事

ゴルディナの劇場は大盛況だった。

一階席も二階席も満員御礼。

まるで戦場を思い起こさせる群衆の数に、ただただ驚くばかりだ。



「んーー。凄い数ねぇ。しかも若い子ばかりだわ」


「なんか臭くないです? お風呂入ってない系の」


「空気がこもってるからだろ。汗の臭いってあるよな」


「ええ……? そういうのとは違うと思うんですけど。風呂入ってないだけなんじゃ?」



アシュリーの言う通り、中は凄い熱気だった。

大勢の人々が今か今かと開演を待ちわび、大声で叫び続けている。

野太い声がまた締め切った会場によく響いた。

野外会場だったり、壁や屋根が取り払われていればマシだろうが、今はそれらの全てを満たしていない。



「おとさん、すごいの! いっぱいいるの!」


「はわわわ……。ここに集うニンゲンどもの臓物を集めただけでも、だいぶ捧げ物が捗ります!」


「舞台裏に案内してもらえて良かったね。あの場所にいたら、シンディちゃんとか、窮屈な目に遇ったろうから」



オレたちが居るのは客席じゃない。

いわゆる舞台そでという、出演者側のエリアに招待されている。

アーサーの言う通り、客席に通されていたら大変な事になったろう。

シンディたちが蹴られでもしたら、観客全員をゴルディナごと焼き払うつもりだったからだ。

みんな命拾いしたな。



ーーキラリィィヌちゃぁあん!


ーーぎぃやぁあ! ギラリィぢゃぁぁあん! ぉおおあん!


「すげぇ叫んでんな。大人しく待てないもんかね」


「すっごい人気だからじゃないです? 風呂入る時間も惜しいほどに」


「ほんとかよ。どうしてそこまで熱中できるかねぇ」



ここまで人々を熱狂させる楽団とはどんなものか。

それは間もなく知ることとなる。


反対の舞台そでから、5人の少女が順々に姿を現した。

客席の方に向かって手を振り、微笑みかけたりウィンクしたりと色々な動きを見せたが、とりあえず全員が媚びている。


それから、ギターとかいう楽器を手に持つ。

5人がそれぞれ違う大きさのものを与えられているが、その差に何か意味はあるのか。

音楽に疎いオレには良く分からなかった。



「みんなぁー! 私たちに会いに来てくれてありがとぉーー!」


ーーキラリィぢゃぁあん!



最前列の少女が問いかけると、会場が揺れた。

重なる絶叫もすさまじく、こちらにもビリビリと振動が伝わる。

愛されるにしても程度ってもんがあるだろうに。



「じゃあ早速一曲目いくよー! 準備はいいカナー?」


ーーイェァァア!


「寂しい夜はー?」


ーー血反吐に溺れてぇえ!



謎の掛け声の応酬のあと、演奏が始まった。

どうやらこの場所限定のルールや合言葉があるらしい。

おじさんにはちょっと付いていけないなと思う。



「悲しくて、寂しくて、独りで眠れないのぉ」


ーーキュン! キュキュン!


「染まりたい、あなた色に、血溜まりの海の中でぇ」


ーー骨まで愛してぇ!


「引き裂かれたあなた、素敵な臓物あなた、不敵に笑うから」


ーーズッキュ、キュンキュン!


「資産家柄どれくらい? 手早く挙式あげちゃいましょう」


ーー相・続・人ナシ!


「夜半ごろ血濡れるナイフ、あなただけにワタシ染まりたい」


ーー全てを搾り引き抜いてぇぇえ!



ヤバイ。

詞の内容はボンヤリとしか伝わらなかったが、どう読み解いても危険物にしか成り得ないぞ。

こんなもの子供たちに聞かせたくはなかったが、随分と熱中してしまっている。

ここでお預けというのも可哀想だが……親としてどうするか悩ましい。


それからも楽曲は続いた。

雰囲気や詞の内容は全部ガラリと違うものだが、大抵が酷いもんだ。


とにかく流血が伴う。

必ず何人かが殺されてる。

そんな物語を延々と聴かされてしまい、公演が終わった頃には疲れきってしまった。

それはリタたちも変わらないらしく、元気なのはシンディとミアくらいのものだ。



「すごいのミアちゃん! おウタたのしかったの!」


「素晴らしかったですね! 言い回しも的確で、手に内臓の温度が伝わってくるようでした! しかもですよ、ああやって信者を集めれば、向こうから勝手ににえがやってくるのですよ!」



特にミアの感激っぷりが強い。

まぁ無理もないか、何せ彼女の世界観をまんま再現したような歌だった訳だからな。

生クリームのようにプルプルと体を震わせて、身震いするのも当然か。

……というか、オレはなぜ菓子に例えたんだ?

クライスかよ、気持ち悪い。



「それでライル。この後キラリーヌさんと打ち合わせがあるのよね? そろそろ向かった方が良いんじゃない?」


「うーん。ちょっと頭痛い。明日にでも変えてもらおうぜ」


「そう。なら一言伝えないとね」



リタが向こうと話を通してくれたが、特に問題は無かったらしい。

これからやる予定だった打ち合わせは、明日の昼前に変更だ。

とりあえずオレも頭を下げてから退室する。

良い汗かいたメンバーが「気にしないでいいですよー」と、晴れ晴れした顔で言ってたが

、どうにも態度が公演内容とそぐわないなと思う。


それからは宿に移動。

娘たちの興奮は覚めやらず、ベッドの上ではしゃぎ出す。

単純にじゃれるのに飽きると、シンディが歌いだした。

備え付けの木箱をステージに見立ててるんだろう。

間に合わせの舞台の上で元気いっぱいに声を張り上げた。



「♪アリさんのぼれ、アリさんおよげ、あのヤマのぼれ、水タマリおよげ♪」


「わぁすごい! とってもお上手ですよぉ!」


「ほんと? おねえさんみたいになれる?」


「成れますよ! ちなみにあの人たちは、アイドルっていうお仕事だそうですよ」


「アイドル? なりたい! シンディはアイドルになりたい!」



今の言葉には胸がざわついた。

なぜだろう、今日のようなイベントをシンディがこなす未来を想像したら、無性に腹が立ってしまう。

見世物になるのが嫌なのか、不特定多数の男どもに色目を使われるのが我慢ならんのか。

たぶん両方な気がする。



「では一緒にがんばりましょう! 大陸で一番のアイドルになるために!」


「がんばるのミアちゃん! いっぱいおウタうたうの!」



乗り気だ。

この娘たち乗り気過ぎる。

父親としては、もっと花屋さんとか、細工屋みたいな道を歩んで欲しい。

この熱意が一過性のものであれと祈りつつ、その日は眠ることにした。

ついでに頭痛も和らげと付け加えて。


翌朝。

シンディは珍しく早起きしていた。

いつもなら朝食ギリギリまで寝ているというのに、どういう風の吹き回しだろう。



「おとさん、おはようなの! きょうからあさは、おウタのれんしゅうするの!」


「……オッフゥ」



目覚めの一撃は重たかった。

笑顔でダメージを与えるなんて、かなりの高等技術だと思う。

2日続けてもたらされた頭痛に、アイドルという存在の業の深さを思い知らされてしまった。

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