3ー54 異端者会談
「それじゃあ長くなるけど見ていってよ。有史にも存在しない、世界の一端を」
モコが言葉を切ると、目の前の人物たちが、いや映像が動き出した。
雰囲気はやや重たく、会議の一場面だと想像した。
ーーやぁみんな。全員で揃うのはこれが初めてかな? 今日はよろしくね。消し去るもの、揺るがすもの、そして定めるもの。
ーー消し去るものだ。名をディストルという。
ーー初めまして、私は揺るがすもの。名はクエスと言います。よろしくお願いしますね。
恭しく丁寧に頭を下げたクエスという青年。
聞き間違いだろうか、彼は『揺るがすもの』であるとも名乗った。
オレの知る『揺るがすもの』とは、顔を醜く歪め、手当たり次第に破壊を繰り返した狂人なんだが。
背格好や顔立ちは似ているにしても、目の前の柔和な男とは雲泥の差だった。
「驚いてるね。クエスは……全然別人になっちゃったもんね」
「モコ。こいつはあの男の前世とか、そういうヤツなのか?」
「違うよ、本人だよ。消し去るものと揺るがすものには寿命が無いんだ」
「本人って……マジかよ」
外見の共通点はあまりにも少なかった。
銀色の美しい髪を整えて、後ろ縛りでまとめている。
表情は柔らかで微笑を絶やさない。
装いは神官のような神聖さや威厳があり、純白の布を全身に巻きつけるようにしている。
かつて見かけた、上半身裸で下品に笑いながら暴れまわる狂人とはかけ離れすぎていると思った。
人格だけゴッソリ入れ替わったという印象を抱く。
ーーさて、これから地上で各々仕事に就いてもらうよ。役目については説明したとおりさ。
ーー世界の不要なものを集め、過剰なものを消し去ること。それがオレの役割だ。
ーー私は、安定してしまった物事に変化を与え、促進させます。
ーーオレはあれだ。世界中の美味いもん食って、友達いっぱい作ってよ、そんで……。
ーー違うよ。君の役目は世界の文明とか、そういうのをキチッと安定させることだよ。人と交わるのはあくまでも調査の為だよ、観光気分で行かないで欲しいなぁ。
ーーわぁーってるよ。ちょっと間違えただけだ。
ーー大丈夫かなぁ。不安になるよ。
前世のオレと思しき男がクソ寒い事を言う。
あれは理解してない時の顔だぜぇ。
「君はなんというか、最初の時から抜けてるんだよねぇ」
「やめろ。本人はこれでも必死なんだよ」
「どうだか。懸命になるのは娘に関する事だけじゃないの?」
「それの何が悪い」
「うん、もういいや」
向こうのオレたちはしばらく話を続けたが、大きく揉める事は無かった。
最終確認というか、細かい情報を共有しているだけのようだ。
ーーええと、消し去るものと揺るがすものは不死。定めるものは寿命有り、ということで良いね?
ーー別に良いけどよぉ。オレだけ短命って酷くないか? イジメか?
ーー違いますよ。私とディストルは長い間物事を見つめていないと、力の使い所が見えなくなるんです。世界に必要な物事を弱めたり、最悪消してしまったり……。ですが定めるものは、逆に長寿で臨んでしまうと大変です。偏見や贔屓の感情が芽生えてしまい、正しく力を振るうことが出来なくなるでしょう。
ーーはい、はい。クエス先生、丁寧な解説ありがとさん。でもな、オレも理屈は理解できてんだ。感情は別って話だよ。
ーーそんなヘソ曲げないでよ。短命の代わりに、キミには毎回ハーレムとか、誰もが羨む暮らしを用意するって約束したじゃないか。
ーーそうだけどよ、本当かねえ? 可愛い子居る?
ーーもちろんさ。
ーー家事得意なのとか、頼れる仲間とかさ、素直で優しい子供とかも?
ーーもちろんもちろん。期待しててよ。
ーーだったら、良いけどさ。
今サラッとだが、すごい話がでたな。
もしかして、シルヴィアやリタたちと巡り遇えたのも、この約束が絡んでいたのか?
「どうだい、ライル。僕は約束を守ったでしょ?」
「可愛い子っていうのにまだ出会ってないぞ」
「その子なら、今頃向こうでお酒を愉しんでるよ」
「やっぱりアシュリーか。あれを美少女枠に入れるのヤメろ」
「可愛いじゃないか、見た目は」
「見た目だけだから文句言ってんだよ」
「そこまでは知らないよ。じゃあ続き見よっかー」
顧客の苦情を無視しやがった。
改善する気ナシかよ。
ーーそれじゃあみんな、次会うのはいつ頃にする?
ーーそうですね、500年後くらいで良いんじゃないですか?
ーーふざけんな。オレはその頃は骨になってんじゃねえか。
ーーああ、失礼。では20年後くらいで。
ーーじゃあそんくらいで。
ーーお前ら雑すぎだ。
全員が席を立つと、すべてが消えた。
登場人物が瞬間移動したとかではなく、映像そのものが無くなったようだ。
「これが僕らの始まりさ。と言っても世界の始まりってわけじゃない。地上はすでに多くの人族、獣人や亜人が居たし、魔獣だって多数存在していた」
「ふぅん。つまり、ある程度出来上がった物事にちょっかいを出していったって訳か。誰かの作った積み木をいじくるようにさ」
「うっすら敵意みたいなのを感じたけど……まぁそんな所だよ。そのころの状況はというと人族や獣人は既に大陸中に国を築いていた。亜人や原初の獣は独自のルールやテリトリーを作ったり、魔獣も好き勝手に暴れてたさ。確かに異様な力をもってしてボクらが介入するのは、ちょっと倫理的にマズイけどさ……ここまで混沌としてしまうと放っておけなくなったんだ。至る所で血が流れて、命が奪われるという有様だったからね」
「まぁ、事の発端は分かったよ。荒れまくった世界を何とかして整えようとした訳だ。んで、オレに見せたかったっていうのは、これだけか?」
「ううん。これはまだ導入だよ。本当に見て欲しいのは、次の映像だね」
モコが宙に指を彷徨わせると、再び似たような景色が目の前に浮かんだ。
ただし、今度は全員がいる訳じゃない。
モコとクエスの2人きりだ。
「揺るがすもの『クエス』の身に何があったのかを、君にも知って欲しいんだ」




