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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
283/313

3ー52 はじまりの洞窟

何百年かぶりに見た洞窟は随分と変わっていた。

と言っても、入り口が崩れたり建物が建ったりとか、そういう変化じゃない。

逞しく長ったらしいツタが何本も垂れ、苔がやたら広がっている印象を受けただけだ。

入ってすぐの場所に大きな変化は無く、かつてシルヴィアと暮らした日々を、うすボンヤリと思い出す程度には形を残している。


ーーここから全てが始まったんだ。


そう思うと感慨深くなるな。

ツレのせいで台無しだが。



「へぇー。ここが話に聞いてた洞窟なんですねぇ。いつぞや潜った坑道と比べたら、文明の跡もへったくれも無いですが」


「何だよ潜るって。そんな事までやってたのか?」


「そうですそうです。あれはアルフがポックリ死んじゃった後ですかねー」


「ポックリって言うな。つうかそろそろ降りちゃくれませんかね?」


「あーダメダメ。どこに敵が潜んでるか分かりませんからねっと♀」


「ポジショニング! コラッ!」



アシュリーは譲らない。

正面から向き合うことをガンとして譲らなかった。

おんぶで密着しつつ秘術を使うという案をだしたが、一顧だにせず却下された。

『そりゃダメですねぇ論外です。対面式じゃないと隠蔽率がアレなんで、そりゃもうメチャクチャにアレなんでアレ(♀)しましょ』だとか言う。

本当かよと思うが、確かめる術はない。

よって卑猥な姿勢のまま暗がりを行く。



「どうですどうです? こんな暗がりで美少女と密着だなんて。2・3本いっちゃいますか?」


「黙ってろトリ。清龍さんに清めてもらうぞ」



清龍は何故か撃てないがな。

何度試しても煙しか出ねぇ。

もしかすると、モコと再会出来てないことも関係してるのかもしれない。

ともかく奥へと進む。



「なーんか、あちこち崩れてんな。地震でもあったか?」


「ありましたねぇ、落盤事故。もうだいぶ昔ですけど、崩落騒ぎは話題にあがってましたよ」


「そうなのか。目的地に着けると良いんだが。最悪掘り進む事まで考えなきゃならんな」


「掘り進むって、掘削の知識は持ってましたっけ? 下手にいじるとドボンと生き埋めですけど?」


「そりゃおまえ、ドドォーンのバキバキーでズギャンよ」


「ああ……これはダメそうですね。思いがけず、太陽も見納めになっちゃいましたか」



アシュリーが何やら絶望味のスープをすすり出したが、大げさな奴だと思う。

そもそも今の所は正解ルートを通れてるんだから。

たぶん、きっと。

というか、穴はほぼ一本道となっていた。

脇道に逸れようにも進めない。

だからひとまず、行ける所まで行くことにした。



「……行き止まりか。いや、待てよ?」


「あらー。こんな所で幻術が見れるなんて、意外ですね。入り口が見えなくなるように、術式が施されてますよ」


「やっぱりか! じゃあこの中で合ってるぞ」


「ほんとですか? 良かったぁ、地面をホリホリする必要無くなりましたね?」


「もちろんだ。さて、肝心のアイツは居るのかな……?」



居るのか、居ないのか。

居たとしても、何かしらのトラブルに巻き込まれているかもしれない。

覚悟を決めておく。

振り返ってアシュリーを見ると、こっちも真剣な顔をしていた。

もしかすると戦闘になるかもしれない。

気を引き締めて中に入ると……。



「ふぇぇ。何ですか、ここ。天井に天然の魔水晶が散りばめられてますねぇ。純度も相当に高いですよ」


「うん。あの時と変わらない様子だな」



空洞の中はかつてと同じ形を保っていた。

2部屋分の広さには、足首までかかる高さの草が茂っている。

奥の方には不思議な果実の実木々に、透明で輝きを帯びたような小川が流れている。

そして、乳白色の台座。

かつてはここがモコの居場所だったんだが、果たして……。



「モコ! 無事だったのか!」



台座に寝転がる白黒柄の猫が見えた。

間違いなくモコだろう。

オレの声が聞こえていないのか、全くの無反応だ。


ーーまさか体を患っているのか?


人間たちが収容所や灰で世界を荒らしまくっていたのだ。

ひょっとしたら悪影響を受けているのかもしれない。

だとしたら、参加が遅れたのも頷ける。

台座の側まで駆けつけて、かつての仲間を診る事にしたんだが……。



「モコ、大丈夫か! モ……」


「ぬふぅん。そんなにマタタビを持ってきて……僕をどうしようってんだい?」


「……おい」


「スピー、スピィー」


「起きろこの野郎!」


「アヒィンッ!」



気持ッち良さそうに高いびきしてやがった。

お前が現れなかったのはピンチじゃなくて寝坊だった訳か。

三味線にするぞボケが!



「イタタタ……。あれ、アルフじゃん。もう目覚めたの?」


「おうよ。起きたかネボスケが。こちとら16年早く動き出してたぞ」


「えーー。本当かい? そりゃ気づかなかったなぁ。大地の力が弱まってるのかな、まだ本調子になれな……クァーーッ」


「会話中にアクビたぁ、偉くなったもんだな?」


「ごめんごめん。なんだか眠くって。大酒飲んだ次の日みたいな気分だよ」


「猫が酒を語るなよ。アシュリー、見てのとおりだ。モコは無事……」



振り返ってみるとアシュリーが目を白黒させていた。

震える指はモコを指して、口は魚のようにパクパクと開閉を繰り返している。

なんだそれ、トリ辞めたの?



「えぇーー!? モコが喋ってる! 何ですかこれ、どういう事です?」


「あ、やっべ。そういやコイツの本性知ってんのはオレだけだったか」


「あーーぁ、バレちゃった。アルフもおっちょこちょいだなぁ」


「ていうか、ライルは驚かないんです? 猫が口きいてんですよ?」


「まぁな。出会った当初からこんなんだったし……」


「ちょっと待って。君は今、ライルと名乗ってるのかい?」


「何だよモコ。それの何がおかしいってんだ」


「いや……おかしくは無いよ。うん。そうかぁ、君がライルねぇ」


「うす気味悪ィな。ハッキリ言えよ」


「ないしょー。教えてあげる義理は無いしね」



キシシとカンに障る嫌らしい笑みと歪んだ視線を送ってきた。

冗談抜きでオシャレ楽器にしてやろうかテメェ。



「さてと。折角ここまで来たんだ。少しゆっくりしていくかい?」



モコが台座から飛び降りると、オレの方を見た。

どこか試すというか、うかがうような目になっている。



「ゆっくりって、ここでまたキャンプでもしろってのか? 懐かしい日々の思い出に浸りたいのか?」


「違うよ、そういうんじゃない。まぁ……懐かしい日々にってのは間違いじゃないけど」


「何だそれ。分かりやすく言えよ」


「相変わらずセッカチな性質たちだよね、君はさ」



モコが台座に前足をかざした。

するとそれが大きく脇に動き、跡には空洞が出来た。

中は階段になっている。



「大陸史さ。この奥に行けば、かつて世界で起きていた事を全て見る事が出来るよ。それこそ神話の時代からのものがね」


「モコ……お前はオレに何を見せようってんだ?」


「そうだねぇ、知っておいて欲しい、大きな事件を……かな」


「おい、待てよ!」


「とりあえず付いてきてー」



オレの返事を聞く事もなく、モコが階段を降りていった。

問答無用ってやつだ。



「仕方ねえな。アシュリーも付き合うか?」


「ええと、もう訳わかんないです。モコって昔からこうなんです? そん時から喋ってました? あとマイペースすぎません?」


「何というか、慣れろ。それから出来ればでいいが、これからもアイツを愛玩動物として可愛がってやってくれ」


「え、無理ですけど。もう普通の猫とは見れないんですけど」


「何してんのさー。早く来てよー」


「催促されたぞ。ともかく行くか」


「ああもう。頭が痛くなってきましたよ……」



促されるままに地下深くまで降りていった。

大陸の歴史を見せるというが、それはどういう意味なのか。

様々な疑問がやたらと湧いてくるが、ひとつだけハッキリしている事がある。

それは……オレたちは明らかに世界から隔絶された場所にやってきたのだ、という事だ。


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