3ー51 迎えに行こう
早朝。
豊穣の森に絶叫が鳴り響く。
「よっしゃぁぁあ! 灰が消えたぞぉお!」
アシュリーの声だ。
朝っぱらからうるさっ。
お婆ちゃんかよ、と陰口が溢れたが、そもそも200歳を軽く超える齢だった。
本当にお婆ちゃんだったなスマン。
ニワトリよりも早く朝の知らせを告げた鳥女は、本当に絶好調だった。
調子良すぎるから、何というか、羽むしって唐揚げにしてやろうかと思ったほどだ。
うざい、そしてうるさい。
その途方もない勢いは、朝の食卓にまでもたらされてしまう。
「聞いてくださいよ皆さん、やっと灰が無くなりました! これで結界を張る手間からおさらばですじょぉお!」
「嬉しいのは分かるが落ち着け。さっきから騒ぎっぱなしじゃねぇか」
「アシュリーさん嬉しそうだね。よっぽど嫌だったんだ」
「無理もないかしら。来る日も来る日も張りっぱなしだったから。腰が痛い体がダルいってよく溢してたわ」
「本格的にお婆ちゃん。これからはアシュリー婆ちゃんと呼ぶ」
「シンディちゃん。寝ぼけてないで起きてください。ご飯は耳から食べるものじゃありませんよ」
「うーん、ねむたいの。もうちこっとだけ、ねてたいの」
妙に元気なアシュリー以外は、いつも通りだった。
代わり映えしない朝の食事風景。
かつてアルフレッドとして生きていた頃と同じ光景が……。
いや、違うな。
アイツとまだ出会えていない。
「なぁ、モコの事を知らないか?」
「ええと、猫ちゃんの話よね? 言うまでもないけど、さすがにもう……」
「何を言い出すんですか。とっくに死んでますって。もし今も生きてたら、化け猫ってヤツですよ」
「……うん、まぁ、そうか」
失念していたが、リタたちはモコの本性を知らないんだった。
あの野郎は『皆には内緒ね。愛玩動物でいたいから』という態度を崩さなかったから、今でさえ普通の猫として認識されてる。
面倒臭ぇこだわりだな、後でケツビンタをくれてやる。
「エリシア。これまでに妙な猫を見てたりするか?」
「見てない。そもそもネコは嫌い。タチこそ重要」
「お前は何を言ってるんだ……。リタ、アシュリー、お前らは見てないか?」
「うーん、見かけてないわねぇ」
アシュリーも首を横に振る。
つまり、いまだにモコだけが行方知れずということだ。
オレは既に大陸の半分以上を放浪しているんだが、それでも出会えていないのは不自然だ。
もしかすると囚われていたり、何らかのトラブルに巻き込まれてやしないか。
自力で抜け出せない程の事態になっているのかもしれない。
「仕方ねぇな。探してやるか」
「生まれ変わりを探すのね。でもどこを?」
「心当たりならあるぞ。ちょっと待ってろ」
大陸の地図を広げ、その東部分を指差した。
そこは旧グランニア国境の山岳地帯だ。
先日陥落させた収容所から、それほど離れてはいない。
今ではここもグランの領土らしいが、地形までは変わっていないだろう。
「この山の辺りだ。かつてはここの街でシルヴィア、そして洞窟でモコに出会ったんだ」
「ふぅん。割りと辺鄙な所なんですねぇ」
「もしかして、そこまで行くの? 敵がたくさん居るんじゃないかしら」
「そうだよなぁ。騒ぎを起こしたばかりだもんな」
東側の情勢はというと、コロナを『蒼夜の帷』の連中に任せている。
あそこには今もケビンとコロが居るから、簡単に負けたりはしないだろう。
実際、攻め寄せるプリニシア軍を上手くあしらっていた。
その一方でグラン軍が収容所近辺を固めているとの事だ。
下手にうろつくと接敵してしまうだろう。
モコを探しに行くとしたら、何かしらの工夫が必要だが……。
「そうだ、アシュリー。お前は秘術で隠れる事ができたよな? ほら、狭い範囲内なら姿や物音を完全に隠せるってヤツ」
「あー。ありましたねぇ、そんな設定」
「そうそう……設定って言ったか!?」
「大丈夫ですよ、消せます消せます」
「頼むぞマジで。敵に見つかったら面倒なんだからさ」
「試しにやってみませんか? 今ここで」
アシュリーはそう言ってオレの首に両手を回し、それから両足をオレの尻に絡めた。
そして秘術が発動される。
相変わらず嫌な姿勢だ。
効果のほどはと言うと、どうやら成功したらしい。
その場にいた全員が驚きの表情となったからだ。
特に子供たちの反応が大きい。
視線もあちこちに揺れていて、オレたちの位置を捉えられてはいなかった。
「アシュリー、成功したみたいだぞ」
「セイコウにはほど遠いですがね。よいしょっと♀」
「微調整はやめろぉ!」
アシュリーを振りほどくなり、再び姿が見えるようになったようだ。
全員がオレらに目線を正確に合わせられている。
「リタ、今のどうだった?」
「そうね、姿も声も物音すら感じとれなかったわ。なのにイラッときたのは不思議ね」
「きっとエロい事してた。見えないのを良いことに、みんなの前でエロスに身を投じてた」
「んな訳あるか、冤罪だ」
そしてオレは被害者だ。
犯人ならそこに……そこで……。
気絶してる。
どうやら振り払う力が強すぎたらしい。
「リタ、すぐに治るか?」
「うーん。どうかしらねぇ」
「へうっ、へぅ」
「回復魔法はかけておくけど、半日は安静にさせたいかしら」
「へもっ、へもす」
「……出立は昼飯食ってからにする」
すまんモコ。
下らん理由で半日遅れそうだ。
でも悪いのはオレではなく、この鳥女である事は、認識を共有していただきたい。
古い友の頼みとして。




