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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
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3ー50 心配して何が悪い

「セロニアス、セロニアス、お願い……返事をしてぇ!」


「グロリア、僕はもう、ダメだ。ここから動けそうにない……」


「あぁ、セロニアス! せっかく助けてもらえたのに! これから幸せに暮らそうって約束したじゃない!」


「まーだやってんのかアイツら」


「トイレの前で騒いでる。変態さんかな」



あの後オレはセロニアス夫妻をはじめ、全てのコロナ住民を助け出した。

占領されていた彼らの故郷も瞬く間に制圧。

ミレイアの剣は恐ろしいほどに切れたものだった。


そこで、帰ろうとしたオレたちを引き留め、飲めや歌えやの大騒ぎ。

まぁ気持ちは分かる。

久々の帰郷はさぞや嬉しいだろう。

だが止めときゃいいのに、セロニアスなんかは酒酒肉、酒肉肉と、盛大に食い倒していた。

弱りきった体を考えもせず。


その結果がこれだ。

現住所トイレ。

せっかく牢屋から出してやったのに、更に悪い環境に引きこもってやがる。



「セロニアス。様子はどうなの?」


「グロリア。だいぶ水っぽい。口も段々酸っぱくなってきた」


「ああッ! 私はなんて無力なの! 神様、どうか孤独に戦うセロニアスに、愛する夫に祝福を!」


「そんな事に神様使うなよ。向こうも驚いてんぞ」


「見てみたい。トイレに神様が居るのなら」


「さぁてね。ヤポーネになら大勢居る。そんな神もいるんじゃねぇの?」



悲壮感漂うお手洗いとは対照的に、オレたちは遠くで海苔ウメ食ってる。

お礼だとばかりに色んなお婆ちゃんがくれたんだが、作り手によって食感や味が違うのも面白い。

オレはしっとり派、エリシアはパリパリ派。

アランはそもそも苦手だそうな。

未熟者め。


しばらくして。

ゲッソリ痩せこけたセロニアスと、涙で目元を腫らしたグロリアが、オレたちの見送りに来てくれた。

たまに聞こえる雷鳴は、きっと腹の音だろう。



「魔王殿。満足に、お礼もできず、申し訳なく……」


「良いって、無理すんな。そもそも報酬の為にやったんじゃない」


「それでもこんなに貰った。全部金貨って凄い」


「そちらはどうぞ、お気兼ねなく。収容所からの、ブン取り品ですから」


「お前らの復興にだって金は要るだろうに。良いのか?」


「我々の分は、十分に押さえています。そちらは、進呈して問題ないもので……」


ーーゴロゴロゴロッ。


「へぅぅ!」


「はぁ……。戻って寝てろ。グロリア、後は任せたからな」


「はい、この度は誠にありがとう……ヘムゥッ!」


「お前もかよ!」



腹痛の2人は近くのお婆ちゃんに任せ、オレたちは森の家へと戻った。

帰宅の経路はコロナ、ロランとなり、その上空を飛行しても問題ない。

今後は西回りルートで東進するのが楽だろう。



「それにしてもなぁ。愛してるからってトイレの前で泣いたり、排泄物の具合なんか聞くもんかね?」


「愛ゆえに。愛するがゆえに聞いてしまうもの」


「はぁー。そうかい。オレは死ぬまで分からんだろうさ」


「果たしてそうかしら」


「それだけは断言してやるって。ただいまー」


「あらお帰りなさい。だいぶ時間がかかったのねぇ」



帰宅すると、リタとミアが出迎えてくれた。

珍しく愛娘の姿が無いが……。



「シンディはどうした?」


「えーっと、シンディちゃんは、えっとぉ……」


「あの子なら体調崩して寝てるわよ」


「何だってぇーー!?」



オレは前傾姿勢で家の中を駆け抜けた。

まさか、世界の出来事にかまけている間に、娘を危険な目に晒してしまうとは!

バカ野郎!

何が父親だ、クズ野郎め!


普段は何とも思わない距離がひどくもどかしい。

子供部屋まであと一歩、着いた!



「シンディ! 大丈夫か!?」



小さなベッドに横たわる、更に小さな体。

それが今にも消え入りそうな程に儚く感じられた。



「あ、おとさん。おかえんなさーい」



顔色が悪い。

心配させまいと気丈に振る舞っているのか……なんて健気な子なのか!



「リタ! リタァーッ!」


「はいはい。ここに居ますよっと」


「症状はどうなんだ? 治療法は? 回復の兆しはあるか?」


「あのねぇ、大袈裟よ。ちょっとお腹がゆるくなっただけだから」


「おナカだしてねちゃったの。だから、おナカいたいの」


「そうか、下痢が激しい……と。リタ、便の様子は?」


「そこまで見てる訳がないでしょう。何を言ってるの?」



何を言ってるのときたか。

心配だから聞いたに決まってるだろうが!



「カァーー! お前、クァアーーッ! そこは普通確かめるだろうよぉ!」


「今日はダントツで面倒だわ。ねぇエリシア、向こうでなにかあったの?」


「あった。安否確認の為に、排泄物を報せ合う夫婦に遭遇した」


「そう……特殊な体験をしたのね」


「シンディ、今日はお父さんがずっとそばにいるからな! ずっとずぅっと一緒だぞ?」


「ほんとう? じゃあエホンよんで、ネコさんのやつ」


「もっちろんさ!」



オレは絵本を読み聞かせつつ、シンディのお腹を撫で続けた。

悪いヤツ居なくなれ、悪いヤツ居なくなれと、心で念じながら。


やがて日が暮れて夜になると、シンディは眠りに就いた。

穏やかな寝顔だ。

それを見て、オレも多少警戒を解いた。


そして翌朝。

朝の食卓に着いていると、シンディが元気良くやってきた。

朝は寝ぼすけさんなのに珍しい。



「おとさんおはよう! もうおナカいたくないの!」


「そうかそうか、それは良かった!」



念のため排泄具合を確認したが、そちらも問題ないようだ。

ここでようやく胸を撫で下ろした。

エリシアの白い目については、全力で無視した。


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