3ー47 板挟みの立場
オレたちは秘密の地下道を抜けて王宮の中庭へ。
人目につかないようコソコソ進み、宮廷内の回廊をやっぱりコソコソ歩いた。
下働きに見つかるくらいは平気だが、将官クラスはマズイらしい。
相手によってはグランに筒抜けになる。
だから延々コソ泥のようにコソコソ進んだコソ。
なるべく目立たないルートを選んでくれたらしく、誰とも行きあう事なく王の居室まで辿り着いた。
プリニシア王の名前はフィリップ・ロード・プリニシアというらしい。
滅茶苦茶かっこええ。
「状況のせいで茶の用意も出来ぬ。まずはそこを詫びよう」
「かまわねえよ。暇つぶしで来た訳じゃない」
「さて魔王殿。どのような話から始めようか。質問を受ける形で良いのか?」
「それで良いぞ。まずはさっきの件だ。1発目はともかく、2発目はオレの事を試したな?」
「ライル。私にはわからない。どうしてそうなるの」
「1発目はオレを狙ったものだが、実は周りにもちゃんと配慮してたんだよ。仮にオレが避けても被害なんか出ない角度だった。だが2発目は違う。明らかに背後の建物を巻き込むものだった」
「まぁそうかもなぁ。あの時、ダンナのすぐ後ろには兵舎、砲の威力次第じゃ居住区まで飛んだかもしれねぇ」
「フィリップが実はすげぇ暴君っつうなら納得がいったが、違うようだ。しかも2発目は狙いを定めてから発射まで時間がかかった。きっと何らかの計算がされてたはずだ」
「ふふふ。そこまで読み解かれてしまったか……」
フィリップは曇りの無い笑みを見せた。
悔しさとか、負の感情は一切感じられない。
「ご明察。1射目は、多少の殺意があった。この程度の攻撃で死ぬようであれば、グラン討伐など不可能であるからな。そして見事初撃を凌いだ。私はそこで降参しようとしたのだが、貴殿は言った。『その自信ごと打ち砕いてやる』と。私はつい見たくなってしまった。暴虐の限りを尽くす、技術力で有頂天となっているグランの力が敗れ去るところを。そして2射目を放った。結果はご存知のとおりだ」
「随分大げさに聞こえるが、あの発言に深い意味はないぞ。ムカっ腹が立っただけだ」
「純粋な言葉だったのだろう。だから一層胸を打ったのかもしれぬ」
そんなもんかねぇ、と思う。
本当に出任せみたいなセリフだったんだが、一大決心の引き金みたいに言われると恥ずかしくなる。
どうせなら歴史に残せるような言葉を選べば良かったと、少しだけ後悔した。
「じゃあさっきの件はいいや。次の質問は、お前の腹の中かな」
「どうぞ。何なりと」
「東方諸国に虐げられたレジスタリアからすれば、お前もグランも敵であり、悪なんだよ。大人は殺され、食物や物資は奪われ、若い連中は仕事の斡旋をエサに攫われた。それについてはどう思う?」
「口先で詫びるなら幾度でも詫びようが、それには意味を見いだせないだろうな」
「どんな連中が先導し、儲けて、或いは胸を痛めたりしたかが知りたい」
「ふむ。では内情の話となるな」
フィリップはしばらく黙り込んだ。
片手を口に添えて、思索に耽っている。
悪巧みや嘘の算段中……とは思いたくない。
「黒幕はグランに間違いないが、誰が先導しているかまでは知らぬ。申し訳ない。略奪品の配分は、こちらにほとんど回ってきていない。せいぜい10
のうち2、3という程度だ」
「何だそれ。せいぜい実費分ってもんじゃねえか」
「むしろ赤字であったのだが、連中には逆らえぬ。そして、強硬策に異を唱えた者だが、少なからず居た。特に10年前の大掛かりな侵攻が起きる前だな。反対派に有力貴族や将官も居たのだが、不審死がいくつか続くと、誰もが口を噤むようになったのだ」
「暗殺……か。止められなかったのか?」
「余程の手練れらしく、一切の証拠を見つけ出せなかった。となると、自然死や事故死として処理せざるを得ず。追及など夢のまた夢であった」
「親グラン派がたくさん居るそうだが、その事件が絡んでいるのか?」
「おそらく。我が王家に媚びても栄華は極められぬ。さらには身の安全すら危ういとなれば、大抵のものは鞍替えをしてしまうだろう。信における者と言えば、そこのレクター卿かユリウス卿くらいのものだ」
「……もったいなきお言葉」
「重ね重ね、すまぬ。そなたほどの忠臣を己の力で守ってやれなかったことは、今も悔やまれてならぬ」
「もはや過ぎた事にございます。こうして一族ともども命があるのですから、お気になさいますな」
またまた懺悔と労わりみたいな会話が起こる。
仲良いなほんと、いっそ付き合っちゃえよ。
それはさておき。
ある程度話を聞き終えて、この国の実情が見えてきた。
グランと一緒になって暴れまわってるのかと思いきや、半ば脅迫されての行動だったわけだ。
逆らえば死。
だったら、勝ち馬に乗って略奪や侵略をした方がずっと良い、という考えに至ったと。
腹が立たなくもないが、それも処世術というヤツなのかもしれない。
誰しも魔王になれる訳じゃないしな。
「じゃあ最後にひとつだけ良いか?」
「ひとつだけと言わず、お好きなだけ」
「これからお前らはどうする? それだけ脅されてるなら、レジスタリアに侵攻しない訳にはいかないだろ? そのための兵器なんだし」
「その事についてなのだが……貴殿にご協力いただけたら、引き延ばす事が可能だ。更に言えば、時間を稼いで貰えれば、反グラン勢力を形成する用意がある」
「ふぅん。悪くなさそうな話だ。オレに何をさせたい?」
「都より北東に行くとタク山という名峰がある。その近くにとある施設があるのだが、そこを陥としてほしい」
「よくわかんねえが、重要なもんなんだろうな」
「獣人の収容所だ。囚われたものたちは今この瞬間も生命の危機に瀕している」
「世直し、人助けの為?」
「いいや。実益のためだ。かの収容所は限られたものしか知らぬ。私とて詳細までは知らされておらぬが、強力な魔水晶を生成しているらしい」
これは穏やかな話じゃないな。
話が事実なら警備は相当厳重だろう。
でも協力して得られるものも大きいし、何より獣人を放っておきたくはない。
「いいぞ。やってやる。その代わり約束は守れよ」
「勢力の結成についてだな。もちろんだとも」
「わかった。よろしく頼む」
「……となると、私は仲間と認めて貰えたのかな?」
「今後の働き次第だ。さっきの話が出任せだったら許さないし、嘘まみれだったら命を奪うかもな」
「なら安心して欲しい。事実誤認くらいはあったかもしれぬが、私の想いに偽り無い」
真っ直ぐな眼をしてやがる。
美形のオッサンに見つめられるシチュエーションってのも困りもんだな。
エリシアの鼻息がうるせえし。
「そうだ、魔王殿。手持ちの武器が壊れていたな。替えのものは?」
「あいにく、何もねえ。一旦本拠地に帰ろうかと思ってた」
「では友好の証も込めて、こちらを進呈しよう」
フィリップが壁に飾っていた剣を鞘ごと手渡してきた。
派手な装飾のないシンプルな作りだが、妙な迫力のあるものだった。
試しに少しだけ刃を拝んでみたが、美しさを感じるほどに鋭い。
これは知る人ぞ知る名剣かもしれないな。
「この剣だが、由緒正しいものだ。銘を『聖剣ミレイア』という」
「おいその呼び名ちょっと待て」
「聖剣ミレイアですって!?」
これまで無言だったエリシアが色をなした。
一体何を慌ててんだか。
前世のお前ならいざしらず、ミレイアの事なんか知らないだろうに。
「その剣は……伝説の細工師グレンが、亡き妹のために打った唯一無二の名剣! それが何故ここに!?」
「我が父祖が、当時のレジスタリア王より譲り受けたものだ。外交取引の中でやり取りがあったようだ」
「おい、グレンは伝説の男って呼ばれてんのか?」
「ライルは物を知らなすぎる。割と有名な話」
「悪かったな! でも、そうかぁ。あのグレン兄様がなぁ……」
グレンは伝説の細工師で、クライスは伝説の宰相ねぇ。
なんだか知った顔が大出世してて、魔王さんは嬉しい限りだよ。
クライスは別にどうでも良いが。
オレは丁重に剣を受け取り、腰に差した。
アイツの名前で敵をバッサバッサ斬るのは少しためらわれるが、もはや言うだけ野暮だろう。
これから頼むぞ、ミレイア。
そして剣をありがとう、グレン。




