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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
278/313

3ー47  板挟みの立場

オレたちは秘密の地下道を抜けて王宮の中庭へ。

人目につかないようコソコソ進み、宮廷内の回廊をやっぱりコソコソ歩いた。

下働きに見つかるくらいは平気だが、将官クラスはマズイらしい。

相手によってはグランに筒抜けになる。


だから延々コソ泥のようにコソコソ進んだコソ。

なるべく目立たないルートを選んでくれたらしく、誰とも行きあう事なく王の居室まで辿り着いた。

プリニシア王の名前はフィリップ・ロード・プリニシアというらしい。

滅茶苦茶かっこええ。



「状況のせいで茶の用意も出来ぬ。まずはそこを詫びよう」


「かまわねえよ。暇つぶしで来た訳じゃない」


「さて魔王殿。どのような話から始めようか。質問を受ける形で良いのか?」


「それで良いぞ。まずはさっきの件だ。1発目はともかく、2発目はオレの事を試したな?」


「ライル。私にはわからない。どうしてそうなるの」


「1発目はオレを狙ったものだが、実は周りにもちゃんと配慮してたんだよ。仮にオレが避けても被害なんか出ない角度だった。だが2発目は違う。明らかに背後の建物を巻き込むものだった」


「まぁそうかもなぁ。あの時、ダンナのすぐ後ろには兵舎、砲の威力次第じゃ居住区まで飛んだかもしれねぇ」


「フィリップが実はすげぇ暴君っつうなら納得がいったが、違うようだ。しかも2発目は狙いを定めてから発射まで時間がかかった。きっと何らかの計算がされてたはずだ」


「ふふふ。そこまで読み解かれてしまったか……」



フィリップは曇りの無い笑みを見せた。

悔しさとか、負の感情は一切感じられない。



「ご明察。1射目は、多少の殺意があった。この程度の攻撃で死ぬようであれば、グラン討伐など不可能であるからな。そして見事初撃を凌いだ。私はそこで降参しようとしたのだが、貴殿は言った。『その自信ごと打ち砕いてやる』と。私はつい見たくなってしまった。暴虐の限りを尽くす、技術力で有頂天となっているグランの力が敗れ去るところを。そして2射目を放った。結果はご存知のとおりだ」


「随分大げさに聞こえるが、あの発言に深い意味はないぞ。ムカっ腹が立っただけだ」


「純粋な言葉だったのだろう。だから一層胸を打ったのかもしれぬ」



そんなもんかねぇ、と思う。

本当に出任せみたいなセリフだったんだが、一大決心の引き金みたいに言われると恥ずかしくなる。

どうせなら歴史に残せるような言葉を選べば良かったと、少しだけ後悔した。



「じゃあさっきの件はいいや。次の質問は、お前の腹の中かな」


「どうぞ。何なりと」


「東方諸国に虐げられたレジスタリアからすれば、お前もグランも敵であり、悪なんだよ。大人は殺され、食物や物資は奪われ、若い連中は仕事の斡旋をエサに攫われた。それについてはどう思う?」


「口先で詫びるなら幾度でも詫びようが、それには意味を見いだせないだろうな」


「どんな連中が先導し、儲けて、或いは胸を痛めたりしたかが知りたい」


「ふむ。では内情の話となるな」



フィリップはしばらく黙り込んだ。

片手を口に添えて、思索に耽っている。

悪巧みや嘘の算段中……とは思いたくない。



「黒幕はグランに間違いないが、誰が先導しているかまでは知らぬ。申し訳ない。略奪品の配分は、こちらにほとんど回ってきていない。せいぜい10

のうち2、3という程度だ」


「何だそれ。せいぜい実費分ってもんじゃねえか」


「むしろ赤字であったのだが、連中には逆らえぬ。そして、強硬策に異を唱えた者だが、少なからず居た。特に10年前の大掛かりな侵攻が起きる前だな。反対派に有力貴族や将官も居たのだが、不審死がいくつか続くと、誰もが口をつぐむようになったのだ」


「暗殺……か。止められなかったのか?」


「余程の手練れらしく、一切の証拠を見つけ出せなかった。となると、自然死や事故死として処理せざるを得ず。追及など夢のまた夢であった」


「親グラン派がたくさん居るそうだが、その事件が絡んでいるのか?」


「おそらく。我が王家に媚びても栄華は極められぬ。さらには身の安全すら危ういとなれば、大抵のものは鞍替えをしてしまうだろう。信における者と言えば、そこのレクター卿かユリウス卿くらいのものだ」


「……もったいなきお言葉」


「重ね重ね、すまぬ。そなたほどの忠臣を己の力で守ってやれなかったことは、今も悔やまれてならぬ」


「もはや過ぎた事にございます。こうして一族ともども命があるのですから、お気になさいますな」



またまた懺悔と労わりみたいな会話が起こる。

仲良いなほんと、いっそ付き合っちゃえよ。


それはさておき。

ある程度話を聞き終えて、この国の実情が見えてきた。

グランと一緒になって暴れまわってるのかと思いきや、半ば脅迫されての行動だったわけだ。

逆らえば死。

だったら、勝ち馬に乗って略奪や侵略をした方がずっと良い、という考えに至ったと。

腹が立たなくもないが、それも処世術というヤツなのかもしれない。

誰しも魔王になれる訳じゃないしな。



「じゃあ最後にひとつだけ良いか?」


「ひとつだけと言わず、お好きなだけ」


「これからお前らはどうする? それだけ脅されてるなら、レジスタリアに侵攻しない訳にはいかないだろ? そのための兵器なんだし」


「その事についてなのだが……貴殿にご協力いただけたら、引き延ばす事が可能だ。更に言えば、時間を稼いで貰えれば、反グラン勢力を形成する用意がある」


「ふぅん。悪くなさそうな話だ。オレに何をさせたい?」


「都より北東に行くとタク山という名峰がある。その近くにとある施設があるのだが、そこをとしてほしい」


「よくわかんねえが、重要なもんなんだろうな」


「獣人の収容所だ。囚われたものたちは今この瞬間も生命の危機に瀕している」


「世直し、人助けの為?」


「いいや。実益のためだ。かの収容所は限られたものしか知らぬ。私とて詳細までは知らされておらぬが、強力な魔水晶を生成しているらしい」



これは穏やかな話じゃないな。

話が事実なら警備は相当厳重だろう。

でも協力して得られるものも大きいし、何より獣人を放っておきたくはない。



「いいぞ。やってやる。その代わり約束は守れよ」


「勢力の結成についてだな。もちろんだとも」


「わかった。よろしく頼む」


「……となると、私は仲間と認めて貰えたのかな?」


「今後の働き次第だ。さっきの話が出任せだったら許さないし、嘘まみれだったら命を奪うかもな」


「なら安心して欲しい。事実誤認くらいはあったかもしれぬが、私の想いに偽り無い」



真っ直ぐな眼をしてやがる。

美形のオッサンに見つめられるシチュエーションってのも困りもんだな。

エリシアの鼻息がうるせえし。



「そうだ、魔王殿。手持ちの武器が壊れていたな。替えのものは?」


「あいにく、何もねえ。一旦本拠地に帰ろうかと思ってた」


「では友好の証も込めて、こちらを進呈しよう」



フィリップが壁に飾っていた剣を鞘ごと手渡してきた。

派手な装飾のないシンプルな作りだが、妙な迫力のあるものだった。

試しに少しだけ刃を拝んでみたが、美しさを感じるほどに鋭い。

これは知る人ぞ知る名剣かもしれないな。



「この剣だが、由緒正しいものだ。銘を『聖剣ミレイア』という」


「おいその呼び名ちょっと待て」


「聖剣ミレイアですって!?」



これまで無言だったエリシアが色をなした。

一体何を慌ててんだか。

前世のお前ならいざしらず、ミレイアの事なんか知らないだろうに。



「その剣は……伝説の細工師グレンが、亡き妹のために打った唯一無二の名剣! それが何故ここに!?」


「我が父祖が、当時のレジスタリア王より譲り受けたものだ。外交取引の中でやり取りがあったようだ」


「おい、グレンは伝説の男って呼ばれてんのか?」


「ライルは物を知らなすぎる。割と有名な話」


「悪かったな! でも、そうかぁ。あのグレン兄様がなぁ……」



グレンは伝説の細工師で、クライスは伝説の宰相ねぇ。

なんだか知った顔が大出世してて、魔王さんは嬉しい限りだよ。

クライスは別にどうでも良いが。


オレは丁重に剣を受け取り、腰に差した。

アイツの名前で敵をバッサバッサ斬るのは少しためらわれるが、もはや言うだけ野暮だろう。


これから頼むぞ、ミレイア。

そして剣をありがとう、グレン。





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