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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
279/313

3ー48 被支配者の声

エリシアとアランを連れて北へと進む。

レクターは王都を出た時点で、家族の元へと送り返した。

アイツは付いてくる気のようだったが、貝殻の首飾りを渡して『お前の娘に届けてやれ』と言ったら、渋々帰っていった。

我ながら格好良い事したと思う。


腰には新しい剣。

そして革袋にはプリニシア王直通の通信球。

これ以降はフィリップと直接会話が可能となる。



「アラン。順調か?」


「そうだなぁ。あの王が教えてくれた情報に嘘はないみたいだ。哨戒線もバッチリだ」


「だったら収容所行く前に、コロナに寄りたいんだが」


「まぁ良いけどよ。派手なことやらんでくれよ? 目立つと周辺の敵全員が集まってきちまう」


「コロナに何の用があるの? 観光?」


「そうだな。ある意味観光かもな」



コロナはグランの植民地と化しているはずだ。

レジスタリアとは違って、亜人や獣人も大勢住んでいた街だから、弾圧も激しいに違いない。

耳にする噂話はどれも酷いものだが、実情は誰も知らない。

ともかく現状をこの目で確かめておきたかった。


進路をやや西に変え、コロナに着いた。

入り口の門にはグランの旗が靡いている。

飛龍の上に二本の槍の穂先が交差するものだ。

その旗の元で、見張りらしき兵が眠りこけている。

原因は、辺りに転がる酒瓶から明らかだった。



「うわ。仕事中に深酒か。ひでぇもんだな」


「レジスタリアでもここまでじゃなかった。あり得ない」


「まぁ、この街には年寄りとガキしか残ってなぇから。反乱を恐れる心配がないからって所でしょ?」



アランの言う通り、街中には子供と老人がいるだけだった。

残りの若年層は全て収容所に囚われているらしい。

相変わらず無茶苦茶やる連中だな。


その時、酒場の前を通過しようとしたが、中ではヒト騒ぎ起きていた。

瓶の割れる音とともに怒声が響く。


ーーこのババァ! いつもいつも遅ぇんだよ!


ーーすいません、どうか堪忍してくだせぇ。


ーー許せだと? オレを誰だと思ってる! 二等国民のプリニシア兵だぞ! お前らとは生きてるステージの違う、雲の上の存在なんだぞ!



「……何だか喉が乾いたな。よっていかないか?」


「いいね。私も飲みたい」


「なぁダンナ方。ほんっっと頼むから、手荒な事すんなよ? コロナは治安維持軍の一大拠点なんだからな?」


「わぁってるよ。平気だって安心しろよ」


「へーきへーき」


「本当かよぉ……」



中に入ると、客はほとんど居なかった。

腰に剣だけ差した酔客が4人。

そのうち1人がお婆さんに掴みかかっている。

オレは騒ぎを見てないフリをしつつ、中へと入っていった。



「お婆さん、麦酒くれよ。3つな」


「何だテメェらは! 今は取り込み中だ!」


「お若い方ァ、すんません。今は兵隊様のお相手で、ババァは手一杯でして……」


「あー、平気平気。オレらは勝手に貰うから。金はここに置いとくぞ」



銅貨をカウンターに置いて、酒樽から麦酒を拝借した。

オレを咎めようとする声も、エリシアの姿を見つけて止まる。



「おい、良い女が居るじゃねぇか」


「そこの女。酌をしろ。嫌とは言わねぇよな?」



ーーガタン。


腰に手を携えながら、連中が立ち上がった。

ニヤニヤと勝ち誇ったような顔を浮かべ、酌だけじゃ済まない事は用意に想像できる。


ーータン、タンタン!


方やオレはカウンターに麦酒を3杯分注いで並べた。

すかさずエリシアがそのひとつを手に取る。



「お前の酒が飲みたいってよ。一杯くれてやったらどうだ?」


「わかった。そうする」


「あぁぁ。マジで止めてくれ。絶対面倒なことに……」


「兵隊さんよ、ごくろうさん。オレからの奢りだ、飲めよ」


「浴びるほど飲むと良い。文字通り」



エリシアの投擲とうてき

足の低いゴブレットが一直線に、男の眉間に向けて放たれた。

それはまるで、敵兵を討つ槍のよう。


ーーパカァン!


一人が壁まで吹き飛び、動かなくなる。

それを見た連中が慌てて剣を抜く。



「何しやがる! オレたちをプリニシア国境警備軍とわかってやってんのか!」


「見て見て、命中。さすが私」


「情けねぇ威力で喜んでんなよ。オレが手本を見せてやる」



続いてはオレが左右の手で2本見舞わせた。

きりもみ回転しながら飛来するゴブレットが、確実に標的の肩を捉え、撃ち抜く。

2人がそのまま膝を折って崩れた。



「さすがライル。私の負け」


「おうそうかい。今後も精進しろ」


「約束通り私はあなたの性奴隷。欲望のままに貪るといい」


「謎景品を捏造すんな。それから、まだ1匹生き残ってんぞ」


「ま、待て!」



残された1人が剣をしまい、両手を挙げた。

命乞いかい?

それを聞いてあげると思うかい?



「お前ライルだろ? それからエリシアも! オレだよ、オレ!」


「ぁあん? 誰だよ知らねえ」


「私も知らない。少なくともおばあさんに暴力ふるうヤツなんて」


「ほらレジスタリアの学校で一緒だったろ! ジャックだよジャック!」



ジャックと名乗った男が必死に自分の顔を指差した。

じっくり眺めて見るが……誰だよお前。



「こんなヤツいたっけ? エリシアは覚えてるか?」


「なぁ、覚えてるよな! なにせライルの好敵手だぞ!」


「あー……。思い出した。やたらつっかかってきた、鬱陶しいやつ」


「言われてみたら、そんなヤツ居たかも。卒業の日に股間大炎上をさせて、毛がツルッツルになったから夜のお姉さんと遊べなかったヤツ」


「そうだよこの野郎! 変なところばっか覚えてやがって!」



すっげぇ印象薄いけど、確かに居たわ。

ケツ丸出しになったりと体を張ってくれたコメディアンだ。




「悪い悪い、今思い出した。久しぶりだな元気だったがんばってる? じゃあ殺しまーす」


「待て待て待て! 同郷のよしみで見逃してくれよ!」


「同郷のよしみって、知るかよ。お前と縁なんかほぼねえし。じゃあ死にさらしてくださーい」


「待ってライル、確かに殺すと後味悪くなるかも」


「お前までそんな事言うのかよ。さっきの見ただろ? 見逃したら別の場所で悪さするって」


「そこを何とか。何か制約付きで放免してあげよう」



エリシアが少しウズウズした顔で言う。

これは『何かやれ』という要望だろう。

……どうしたもんか。



「じゃあ、呪いをかけるか。そうすりゃ悪さもできねえようになる」


「さすがライル。そんなことも出来るんだ」


「アシュリーに1個だけ習った。じゃあかけまーす」


「お、おい。何すんだ……」



ジャックに魔力で生成した布をかけてやった。

濃紫色のそれは、頭にかかった瞬間にフッと消えた。



「こ、これは? 今なにをしたんだ?」


「ジャック。ちょっとそこのお婆さん蹴ってみ?」


「……どうしてそんな真似を」


「いいからやれ。首ポロンしてぇか?」


「クソ。わかったよ!」



ヤケクソ気味にジャックが蹴るそぶりを見せるが……。



「アビャァァァァ!!」



その瞬間にジャックに電撃が流れた。

体のあちこちからプスプスと煙があがる。



「いてぇ! いってぇ! 何だよコレぇ!」


「ジャックよ、お前はこれから聖人になるのだ。悪事を、乱暴を働こうとすると、今みたいに電撃が身を焦がすことになる」


「すごいねライル。これどういう理屈なの?」


「えーっと。ラナとマナとリャマがモニモニして大地の魔力が集まり、ビリビリする」


「わかった。ライルに聞いても分からない事が」


「詳しくは本職に聞け」


「オレをこんな体にしてどうするつもりだ!」


「大陸をさすらえよ。お前の良い噂で溢れかえるようになったら、呪いを解いてやる」



察しの悪いジャックの首を掴み、窓を開け、そして放り投げた。

方角的には奇跡の泉辺りを狙ったが、反れたら反れたで構わない。

運が良けりゃ生き残るだろう。



「あ、あのう。皆さん。兵隊さんと揉めて平気なので?」



お婆さんがおずおずと話かけてきた。

手元のアザが何とも痛々しい。



「オレらは良いんだよ。おネンネしてるヤツも片付けとく。お婆さんは人に聞かれても知らんフリしてな」


「すんません。アタシなんかの為に、危険な目に合わせてしまって……」


「構いやしねえよ。ところでちょっと聞いていいかい?」


「へぇ。お答えできる事でしたら何なりと」



オレはコロナの状況を根ほり葉ほり聞いた。

フィリップからも聞けては居るが、それはあくまで外野の意見。

亜人サイドの話も知っておきたかった。


テーブルに麦酒が3つ並ぶ。

オレらにはもう金が無いことを伝えると『お酒を3つご所望でしたんで』とお婆さんが言った。

素直に好意に甘えて、喉を潤すことにする。

それはただの酒とは違い、どこか甘美な味がした。






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