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魔王様はダラダラしたい!  作者: おもちさん
第二部
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4ー42  従属国の主

プリニシア王フィリップは玉座で報告を聞いた。

同盟相手である新生グラン王国より、最新鋭の兵器を預けられたのである。

かの国はもはや、獣人も亜人も寄せ付けぬ超大国だ。

そこから寄越されたものは禍々しく、見るものを圧倒し、口上が伊達では無いことを確信させる。


ーー鉄包車てっぽうしゃ


まるで馬車の荷台を、全て鉄で生み出したかのような代物であった。

素材として黒鉄が使用されているので、魔法に対して無敵の防御力を誇る。

更には備え付けられた大砲。

こちらの砲弾も黒鉄製であり、魔力で身を守る亜人だけでなく、結界すらも容易く打ち破れると聞く。

すなわち、甦った魔王ですら……かつては大陸最強とされた魔王ですら葬ることができるのだ。



「このようなものを贈られては……戦わぬわけにはいかぬ」



フィリップは頭痛を覚えたようにこめかみを揉んだ。

グランから散々出兵を促されているが、戦力不足を理由に断っていたのだ。

再三の要請に対し、難色を示し続けた結果がこれである。



「どうあっても争わせるつもりか。どこまでも血生臭いものだ」



フィリップは壁に掛かる王国旗を見上げた。

勇壮なるたかの舞う、力強いデザインだ。

かつては大陸を二分するほどの権勢を振るったものだが、今やグランの番犬程度である。


……私は何の為に生まれたのか。

人民を極力死なせぬように立ち回るだけで精一杯とは、自立できぬ王の滑稽さよ……。


思わず口から漏れそうになるが、群臣に聞かせる訳にはいかない。

それは彼なりの、惰弱な王を支えてくれる人々への礼儀であった。

だが、フィリップの細やかな努力を嘲笑うかのように、世情とは動き続けるもの。

それは衛兵の言葉を端緒とする。



「陛下、グランよりクウギョ様がお見えです」


「……お通ししろ」


「ハハッ!」



脳裏に浮かぶのは、獰猛でまとわりつく様な顔。

フィリップは目を背けたくなる気持ちを堪えつつ、来訪者を出迎えた。

現れた男は気心知れた友人を訪ねるかのようであった。

当然のように膝を着くような真似はしない。

むしろフィリップが立ち上がり、頭を下げる有り様だった。



「久しいな。息災かな?」


「これはこれはクウギョ殿。遠路はるばるご足労いただき、感謝の言葉もございません」


「ハッハッハ。フィリップ王よ、他人行儀を申されるな。我らの仲であろう」



ふてぶてしい言い様や尊大さには、もはや慣れた。

それも自国と相手の戦力比を考えれば、当然の処世術だと言える。

下手に怒りをぶつけてしまえば滅亡であり、実際にグランの支配を受ける小国も、いくつかは攻め滅ぼされていた。


ーーグランの機嫌を決して損ねてはならぬ。


それは周辺国の主たちの共通認識であり、唯一の同盟国であるプリニシアとて例外ではない。



「此度は我がグランの史上類を見ぬ兵器、鉄包車を2輌ほど持って参ったぞ。持つべきは友と思わぬか?」


「真に。卿のお力添えには心服致します」


「うむ、うむ。これで戦力は十分。魔王を自称する連中も、瞬く間に葬ることができよう」


「そ、そうだな。急ぎ編成し、大陸西部を制圧してごらんにいれましょう」


「大王は確信しておられるぞ。盟友たるプリニシアの勝利をな」


「この次こそ……確実な勝利を献上いたしましょう」

 


フィリップは少し声をおとした。

胸にこっそりと隠した『シルヴィアたん名言集』を指でなぞりながら。


それからもしばらくの間、世間話を装った尋問は続いた。

クウギョはさすがに手練れのようで、時には貶し、かと思えば持ち上げるという態度で接した。

荒波のように不安定な距離感。

どうにか腹の内をさぐられまいと、フィリップは懸命に堪えた。


どれくらいの質問が投げ掛けられたか。

疲労でフィリップの頭が白んじた頃、クウギョは半歩だけ後ろに下がった。

謁見の終わりを報せるサインである。



「ところで王よ。これより貴殿の『庭先』をお借りしてな。ひとつ催し物を、と考えておる。このあとご予定はいかがかな?」


「大変興味深いのですが、検分や編成に立ち会わねばなりませぬ。またいずれの機会にて……」


「ふむ、ふむ。そなたにこそ列席してもらいたかったが、事情故に仕方あるまい。よく励むのだぞ」



悪臭のような高笑い撒き散らして、クウギョは去っていった。

フィリップはその去り行く背中を見つめながら反芻していた。


こちらに落ち度は無かったか。

攻め込まれる口実を与えては居ないか。


それを三度ほど繰り返し、深い息と共に全身の力を抜いた。

虎口を脱したような思いである。


だが、安心するのは早計であった。

クウギョの残虐さ、無法さを忘れたつもりはないが、少しばかり甘く見ていたのだ。

いったい『何を』催すつもりなのか。

それを尋ねなかったことは、フィリップ王の失策となるのである。





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