ヒロコの手紙
このお話は「番外編」です。本編は前回にて完結しており、続編や後日談ではございませんのでご注意ください。
こうしてラブレターを書くのなんて初めてだから、とても緊張しています。こんな事、書くべきじゃ無かったかしら。
私、トウヤくんが好きです。この前の事、覚えていますか?
私がお友達に、ヒロコさんは家がお金持ちだから、お稽古も塾も通わせてもらえて、頭が良くて羨ましいだとか、素敵なお洋服や靴も買ってもらえるから可愛らしくて、男の子からモテていて良いわね、なんてイジワルを言われていた時。貴方が、「頭が良いのはヒロコさんが努力したからだし、いくら綺麗な洋服を着せてもらっても、それに見合うだけの自分にならなくちゃいけないと思う。努力にお金は必要だけど、そうしてひがんでも君たちは何も得られないと思うよ。」って言ってくれたんです。私は人より裕福な分、一層の努力をして、お家の力では無いと思ってもらえるほど、自分の力で偉くならなくちゃいけない。そう思っていました。だからお友達に言われた事は、とても悲しかった。でも、貴方のように言い返す勇気は無かったの。貴方はどうしてそんなに強く生きられるの?私も、貴方といれば強くなれるのかな。私も、群れから脱け出してみたい。貴方と生きたいの。
返事は、学校で聞くのは恥ずかしいので、どこかで待ち合わせたいです。十五時に、神社。この手紙を見て返事が決まったら、来て下さい。毎日その時間に、赤鳥居の下で待つわ。
なんて、十年も前に書いたラブレターを、久し振りに思い出して書いてみました。貴方が来てくれなかった事、とても悲しかった。でも、仕方なかったのよね。私がこの手紙を貴方の下駄箱に入れて、間もなくだった。貴方の友達、ヨシカゲヤシロくんが不慮の事故で死んでしまったのは。あれからの貴方、ますます心を失くしてしまったようだった。本当はね、話しかけようと思ったの。でも、出来なくなってしまった。私、ヤシロくんを憎く思ってしまったの。彼が死んでしまわなければ、私は貴方からの返事を貰えたのに。彼は貴方の心に居座ってる。ずっとずっと、想ってもらえるなんて、ずるい。羨ましい。その時、私は自分を醜く思ったわ。友達と一緒だと思ったの。彼は貴方の中で親友という地位を築いてきたんですもの。私は待つばかりだった。恥ずかしくて、惨めで、結局卒業するまで私は一言も、貴方と話せなかった。
それでも何故か、時折十五時に神社に行ってしまうの。今は仕事があるから、行っていないけれど。学生の頃は、よく赤鳥居の下でしゃがみ込んでた。貴方が来ないなんて分かってた。なのにどうしてかしら。今でも分からないの。綺麗な私でいたかったのかしら。
それでね、この前祖父のお墓参りに行ったら、丁度ヤシロくんのお父さんとお母さんに会ったのよ。ヤシロくんの卒業アルバムを見せてもらったの。お墓参りの時は毎日持ってくるそうよ。最後の寄せ書きのページ。貴方のメッセージが無かった。貴方は特別仲が良かったから、別のページも見させていただいたわ。でも、どこにも無いの。どうして、何も書かなかったの?あの日の事故は、ただの事故よね?貴方にとって、彼は親友よね?貴方はあの日の事、今でも考えているの?教えて。私は今でも貴方を想ってる。
でも、私はこの手紙を、どこへ届けたら良いかも分からない。会いたいと願うばかり。神さま、お願い。どうかこの手紙と強い想いが、私を貴方の元へ運んで下さいますように。
ヒロコちゃんが主人公を想う理由を作中にてお話しできなかったので、番外という形で公表させていただきました。
これにて本当に、「神様の遺書」完結となります。
番外編まで読んでいただき、ありがとうございました!




