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怪異認定  作者: asnt2026


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第9話 映像の中の女

翌朝。


雨はさらに強くなっていた。


山道の一部が土砂で塞がれたという連絡が入った。


復旧には少なくとも二日。


戸倉は何も言わなかった。


ただ、窓の外を見ていた。


逃げ道を塞がれた人間の顔だった。



午前十時。


森岡が管理室から美琴を呼んだ。


「昨日の映像、見てください」


「何か映ってた?」


「……たぶん」


モニター。


昨夜、美琴が戸倉と話していた二階廊下。


映像には、


美琴。


戸倉。


二人しかいない。


ペタ。


音が入る。


戸倉が怯える。


二人が廊下の奥を見る。


そこまでは覚えている。


森岡が映像を止めた。


「ここです」


「何?」


「二人の後ろ」


美琴は画面に顔を近づけた。


何もないように見える。


「少し明るくします」


森岡が露出を上げる。


廊下の暗がり。


戸倉の背後。


白いもの。


美琴の喉が鳴った。


人。


女。


白い服。


髪が肩より少し長い。


顔は暗くて見えない。


戸倉から三メートルほど後ろを、


歩いている。


「これ……」


「昨日、いました?」


「いない」


「俺も撮ってましたけど、見てません」


再生する。


戸倉が歩く。


白い女も歩く。


美琴が戸倉に追いつく。


女が止まる。


戸倉と美琴が話す。


女はその場に立っている。


そして、


ペタ。


音。


美琴と戸倉が振り返る。


その瞬間。


女が消えた。


「久世先生呼んで」



久世は一時間近く映像を見た。


元データ。


カメラ。


廊下。


照明。


監視設備。


昨日の白い影のときとは違う。


すぐに答えが出ない。


「加工じゃないですよね」


森岡が聞く。


「少なくとも、このデータ自体に編集した痕跡はありません」


「じゃあ本当にそこにいた?」


「映像に何かが記録されたことは事実です」


「何かって」


「分からないものを、急いで人間と呼ばない方がいい」


久世はカメラの位置から廊下を見る。


何度も。


角度を変える。


床。


壁。


古い観察窓。


「先生」


美琴が言う。


「昨日の夜、あそこには誰もいませんでした」


「そうでしょうね」


「でも映ってる」


「はい」


「前の白い影とは違いますよね」


「違います」


その言葉に、


森岡が黙った。


美琴も。


久世がはっきり「違う」と認めた。



映像を戸倉に見せるか迷った。


だが結局、


戸倉本人から、


「何かあったんですか」


と聞かれた。


美琴は嘘をつけなかった。


管理室。


再生。


白い女。


戸倉は最初の一秒で、


椅子から立ち上がった。


「止めろ」


「戸倉先生」


「止めろ!」


森岡が再生を止める。


戸倉の呼吸が荒い。


「誰がこれを」


「カメラです」


「そうじゃない!」


机を叩く。


「誰がこんなことした!」


久世が静かに聞く。


「誰に見えました?」


戸倉は口を閉じる。


「知っている人ですか?」


「知らない」


「見た瞬間に立ち上がりました」


「驚いただけです」


「では、もう一度」


「やめろ!」


今度は悲鳴に近かった。


佐伯が戸倉の肩に触れる。


「大丈夫」


戸倉はその手を振り払った。


「触るな」


佐伯の顔から笑顔が消える。


「戸倉さん」


「お前ら、何で平気なんだ」


「何を言ってるの」


「来てるんだぞ」


片桐が低く言う。


「やめろ」


戸倉が片桐を見る。


「来てますよ」


「戸倉」


「分かってるでしょう」


「黙れ」


「今度は誰です?」


空気が凍った。


三枝が立ち上がる。


「何の話だ」


戸倉は笑った。


「本当に覚えてないのか?」


「戸倉!」


片桐の声。


大きかった。


戸倉は黙った。


しばらく誰も話さない。


そして戸倉は、


ぽつりと言った。


「明日香」


久世の目が動いた。


一瞬だけ。


美琴は見逃さなかった。


「今、何て?」


久世が聞く。


戸倉はしまったという顔をした。


「何でもありません」


「明日香と言いましたね」


「違います」


「聞きました」


美琴も言う。


戸倉は立ち上がった。


「もういい」


そのまま部屋を出ていった。


久世は追わなかった。


ただ、


誰もいなくなったモニターに映る、


白い女を見ていた。

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