第4話 白い女
翌朝。
撮影スタッフの小西が叫んだ。
「神崎さん!」
美琴は朝食のパンを持ったまま管理室へ走った。
モニターの前に人が集まっている。
「何?」
「これ見てください」
昨夜の監視映像。
時刻は午前三時十二分。
二階廊下。
誰もいない。
十秒。
二十秒。
そして、
画面右側から、
白い人影が横切った。
一瞬だった。
だが、人の形に見えた。
長い髪。
白い服。
「戻して」
小西が再生する。
白いもの。
「女ですよね」
森岡が言った。
「俺たち、この時間もう寝てました」
「参加者は?」
「全員部屋です」
美琴は画面を見つめた。
昨日、建物の外から見た白い影を思い出す。
「久世先生は?」
「今呼んでます」
十五分後。
久世は映像を何度も再生していた。
「元データは?」
「これです」
「加工してませんね」
森岡が身を乗り出す。
「じゃあ」
「加工されていないことと、幽霊であることは別です」
久世はカメラを確認しに廊下へ向かった。
美琴たちもついていく。
監視カメラのすぐ近くに立ち、角度を見る。
そのあと、天井付近を眺めた。
「三枝さん、脚立あります?」
「あるが」
三枝が持ってきた脚立に久世が上がる。
カメラの横。
小さな蜘蛛の巣。
久世はそれを指で摘まんだ。
「これですね」
森岡が不満そうな顔をする。
「蜘蛛の巣が女になるんですか?」
「赤外線カメラの場合、レンズのごく近くにあるものは非常に明るく、大きく映ることがあります」
久世が小さな紙片をカメラの前で動かした。
管理室のモニターを見る。
白い影。
人間の胴体のように見えた。
「昨日は蛾か何かが糸に引っかかったんでしょう」
「髪みたいなのも?」
「そう見えただけです」
久世は脚立から降りる。
森岡がため息をつく。
「また違った……」
美琴は笑った。
「残念そうに言わないの」
「いや、番組的には幽霊が出た方が」
「本人が遭遇したら泣くくせに」
そのとき、
「つまらないねえ」
佐伯が後ろで笑った。
「昔はもっと怖かったのよ、ここ」
美琴が振り返る。
「昔から出たんですか?」
「出たっていうか……」
佐伯は少し考え、
「怖い実験をしていたからね」
「どんな?」
「私は看護担当だったから詳しいことは知らないけど。暗い部屋に人を入れたり、音を聞かせたり。何か見えたとか、聞こえたとか」
久世が佐伯を見る。
「感覚遮断実験ですね」
「ああ、そういう名前だったかしら」
佐伯は微笑んだ。
その顔に不自然なところはなかった。
ただ美琴は、
佐伯が話している間、
片桐がずっとこちらを見ていたことに気づいた。




