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怪異認定  作者: asnt2026


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第29話 二つ目の操作盤

警察はその日のうちに、


久世が使用していた設備を押収した。


小型制御装置。


投影機。


振動装置。


録音機。


電源。


壁内へ通したケーブル。


美琴は、


一つずつ運び出されるのを見ていた。


驚くほど小さい。


幽霊を作るのに、


大掛かりな装置は必要なかった。


むしろ。


怖がる人間の頭の中で、


残りが完成する。


それが一番嫌だった。



「これで終わるんですかね」


森岡が言った。


廊下。


警察官が行き交っている。


「何が?」


「怪異」


久世の装置は止められた。


電源も切られた。


投影機も外された。


なら、


白い女は出ない。


壁から声も聞こえない。


電話も鳴らない。


そのはず。


「終わってくれないと困る」


美琴は言った。


でも。


もし終わったら。


戸倉は?


片桐は?


誰が?


その答えだけが残る。



三枝が、


久世の作った配線図を見ていた。


警察官に頼まれ、


旧設備との接続を確認している。


「違う」


突然言った。


「何がです?」


松永が聞く。


三枝は図面を指す。


「これだけじゃねえ」


久世も近づく。


「どういう意味です」


「お前、中央側しか見てねえだろ」


久世の眉が寄る。


「中央?」


「昔の刺激設備は、中央制御室から動かした」


「それは知っています」


「でも零号区画は別だ」


「別?」


三枝が壁の奥を見る。


嫌そうな顔。


「現場側にもあった」


「操作盤が?」


「ああ」


久世が初めて、


本当に言葉を失った。


「資料にはありません」


「あるわけねえだろ」


三枝が吐き捨てる。


「あの部屋自体、正式には存在しねえんだから」


美琴の背中が寒くなる。


「どこにあるんです?」


三枝。


「昔のままなら」


全員で地下へ向かう。


零号室。


規制線。


その手前。


今日見つかった保守通路。


警察官が先に入る。


三枝が案内する。


「ここを右」


「壁しかありません」


「下だ」


床。


古い金属板。


ボルト。


埃。


工具を使って外す。


その下。


縦長の小さな盤。


錆びたスイッチ。


端子。


古い表示。


美琴には何が何だか分からない。


久世はしゃがみ込む。


顔つきが変わっている。


「これ……」


「設備の試験用だ」


三枝。


「中央を通さず、現場で音や照明を確認する」


「なぜ」


「故障確認だよ」


「これを使えば」


久世が言葉を止める。


三枝が代わりに答える。


「お前が付けた機械を通さなくても、昔の設備なら直接動かせる」


美琴は理解する。


「じゃあ」


「誰かがここから操作したなら」


久世が盤を見る。


「私の側には記録が残らない」


美琴は、


あの夜を思い出す。


『開けて』


美琴の名前。


『開けないで』


久世が作っていない怪異。


「誰がこの場所を知ってるんです?」


松永が聞く。


三枝は答える。


「昔の設備を扱ってた奴」


「具体的には」


「俺」


美琴が三枝を見る。


「片桐」


死んだ。


「戸倉」


消えた。


そして三枝は、


少し間を置いて、


「佐伯も知ってたかもしれねえ」


美琴の胸が鳴った。


「佐伯さん?」


「看護師でしょう」


森岡が言う。


三枝が顔をしかめる。


「表向きはな」


「どういう意味ですか」


「被験者の状態を見ながら刺激を調整してた」


「刺激?」


「音を上げる。照明を落とす。温度を下げる。そういう操作だ」


美琴の頭の中で、


何かがつながり始める。


佐伯。


壁の音響設備について、


「もう壊れてるでしょう」


と言った。


零号室の電話が鳴る前、


壁を見た。


そして。


『開けて』


を聞いたとき、


鍵を落とした。


久世が聞く。


「佐伯さんは今どこです?」


誰も答えられなかった。


さっきまで一階にいた。


事情聴取も受けていた。


だが。


松永が無線を飛ばす。


返事。


「佐伯さん、部屋にいません」


美琴の喉が鳴る。


三枝が、


「まさか」


と呟いた。


そのとき。


地下の奥。


もう撤去されたはずの音響設備から、


ザ――。


ノイズ。


全員が止まる。


久世の顔が変わる。


「電源は?」


警察官。


「落としてあります」


ザザ――。


そして。


女の声。


『……冬馬』


久世が凍りついた。


美琴も。


今まで一度もなかった。


久世の名前。


『冬馬』


久世は、


ゆっくり暗闇を見る。


そして初めて。


科学者ではなく、


姉を失った弟の顔で、


「……姉さん?」


と呟いた。

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