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怪異認定  作者: asnt2026


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第27話 幽霊を作った男

警察官を呼ぶことを、


久世は止めなかった。


それが美琴には意外だった。


地下の会議室。


美琴。


久世。


森岡。


警察官の松永。


三枝も呼ばれた。


佐伯は部屋にいない。


久世が、


「今から話すことは、私自身の違法行為を含みます」


と言ったからだった。


松永の目が鋭くなる。


「録音します」


「構いません」


美琴は久世の向かいに座っている。


さっきまでとは、


何かが完全に変わっていた。


「最初からお願いします」


松永が言った。


久世は頷く。


「この研究所で起きた怪異の一部は」


一度、


言葉を止める。


「私が作りました」


森岡が息を呑んだ。


三枝が立ち上がる。


「お前……」


松永が制する。


「座ってください」


「こいつが!」


「三枝さん」


久世が見る。


「あなたを怖がらせたことについては謝罪します」


「謝罪?」


三枝が笑った。


乾いた、


怒りの笑い。


「戸倉が消えて、片桐が死んだんだぞ」


「二人に危害を加えたのは私ではありません」


「誰が信じる!」


美琴も、


同じことを思った。


久世は続ける。


「最初の三つは私ではありません」


「最初の三つ?」


松永。


「二階の足音。監視カメラの白い影。地下の声です」


「全部原因を説明したやつですね」


森岡が言う。


「はい。あれらは実際に自然現象でした」


「その後?」


美琴が聞いた。


久世がこちらを見る。


「零号室の電話からです」


美琴の指先が冷たくなった。


「電話」


「最初に電話を鳴らしたのは私です」


森岡が口を開けたまま固まっている。


三枝が机を叩く。


「どうやって!」


「旧実験設備を利用しました」


「回線は死んでた!」


「電話回線は使用していません」


久世は淡々と説明する。


「ベル機構だけを別電源で作動させました。配線は壁内の旧刺激設備へ接続しています」


美琴は第12話で聞いた言葉を思い出す。


外部電源の痕跡はない。


久世自身が、


そう説明していた。


「先生」


声が低くなる。


「私たちに嘘をついたんですか」


久世は目を逸らさない。


「はい」


一言。


それだけ。


余計に腹が立った。


「『説明できない』って」


「言いました」


「原因を知ってたのに」


「はい」


「最低ですね」


森岡が美琴を見る。


久世は、


「そう思います」


と答えた。


美琴は言葉を失った。


言い返してほしかったのかもしれない。



久世は、


一つずつ話した。


戸倉の名前。


久世が用意した音声。


左足だけの濡れた足跡。


床へ事前に塗布した吸湿性の素材。


湿度が上がると、


足跡の形だけが浮かぶ。


「だから監視カメラには誰も映らなかった」


美琴が言う。


「最初から床にあった?」


「はい」


「左足だけなのは?」


久世が一瞬黙った。


「二十四年前、姉が零号室へ入れられる前、左足の靴を失っていた可能性があるからです」


「可能性?」


「残された写真に痕跡があります」


三枝の顔が強張る。


「お前、そこまで……」


久世は続ける。


監視カメラに映った白い女。


映像そのものを加工したわけではない。


観察窓。


ハーフミラー。


低輝度の投影。


決まった角度からカメラが撮影すると、


実際の廊下に女がいるように見える。


「だから『映像に編集の痕跡はない』って」


森岡が言う。


「……嘘じゃなかった」


「編集はしていません」


「そういう問題じゃないですよ」


森岡の声が震えていた。


久世は反論しない。


三回のノック。


梁へ設置した振動装置。


急激な温度低下。


旧空調設備。


「ここから出して」


これは、


二十四年前の明日香本人の録音。


壁面振動型の旧音響装置で再生。


そして。


鏡の明日香。


久世が用意した。


美琴は目を閉じた。


全部。


怖かったもの。


眠れなくなった夜。


背後を振り返った回数。


それらのほとんどが、


目の前の男によって作られていた。


「何のためですか」


美琴が聞く。


久世は答えようとする。


「姉の復讐?」


「違います」


「じゃあ何ですか」


「知りたかった」


「何を」


「二十四年前に、本当に何があったのか」


久世の声が、


初めて少しだけ変わった。


「事故記録は改竄されています。しかし証拠がない。関係者の証言も一致しない。二十四年間、誰も話さなかった」


「だから幽霊を作った?」


「姉の死の夜を再現しました」


「人を怖がらせて?」


「はい」


「それを実験って言うんじゃないですか」


久世が黙った。


美琴は、


資料室で見た研究記録を思い出した。


人間に、


存在しないものを知覚させる。


「あなたがやったこと」


美琴は言った。


「二十四年前の白鐘研究所と何が違うんですか」


久世の顔から、


ほんの僅かに何かが消えた。


初めて、


答えが返ってこなかった。


その沈黙の方が、


どんな言い訳よりも重かった。

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