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怪異認定  作者: asnt2026


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第24話 開けないで

美琴は壁から飛び退いた。


「今、聞いた?」


森岡が頷く。


「聞きました」


「何て?」


聞き間違いであってほしかった。


森岡の答え。


「開けないで」


同じだった。


二人は壁を見た。


ただの白い壁。


古い塗装。


ひび。


それだけ。


『……開けないで』


二度目。


今度は、


少し離れた場所から聞こえた。


「どこ?」


森岡が懐中電灯を向ける。


右。


左。


天井。


スピーカーはない。


『開けないで』


三度目。


美琴は思わず背後を振り返った。


今度は、


耳のすぐ後ろから囁かれたように感じた。


誰もいない。


「久世先生呼んで」



十分後。


久世。


松永。


三枝。


佐伯。


全員が壁の前にいた。


「ここです」


美琴が指す。


「壁から聞こえました」


久世が耳を近づける。


叩く。


コン。


場所をずらす。


コン。


「内部に空間がありますね」


三枝が言う。


「昔の配線スペースだ」


「音響設備は?」


久世が聞く。


三枝は少し考える。


「この辺は……あったかもしれん」


「何のための?」


「実験用だよ」


久世が三枝を見る。


「壁から音を出す設備?」


「昔の話だ」


「現在も動きますか」


「知らねえ」


佐伯が横から言う。


「もう壊れてるでしょう」


全員が佐伯を見る。


佐伯は少し驚いたように、


「二十四年も経ってるから」


と付け足した。


久世は何も言わない。


松永が壁を確認する。


「明日、設備業者を呼びます。それまでは触らないでください」


美琴は久世に聞いた。


「先生」


「はい」


「明日香さんだと思いますか」


佐伯の肩が、


わずかに動いた。


久世。


「なぜそう思うんです?」


「女の声だから」


「それだけ?」


「私の名前を呼んだのも女の声でした」


「それでも明日香とは断定できません」


「じゃあ、どうして『開けないで』って」


久世が黙る。


美琴は続けた。


「私を止めてるんじゃないですか」


「何から?」


「分かりません」


でも、


そう感じた。


これまで。


戸倉を追った。


片桐を追った。


二人は怪異に怯えた。


けれど自分への声は、


少し違う。


『開けないで』


命令。


それとも、


警告。


森岡が言う。


「明日香さんが神崎さんを守ろうとしてるとか」


三枝が鼻で笑った。


「幽霊が親切に忠告かよ」


「でも」


「だったら戸倉と片桐は何なんだ」


誰も答えられない。


そのとき。


久世が、


「おかしいですね」


と言った。


美琴が見る。


「何が?」


「……いえ」


「今、おかしいって」


久世は壁を見る。


「言葉です」


「言葉?」


「明日香は零号室に閉じ込められていた可能性が高い」


「はい」


「なら」


久世の言葉が止まる。


美琴は先を考えた。


そして気づいた。


明日香が言うなら。


『開けないで』


ではない。


逆だ。


「……開けて」


美琴が呟く。


久世が見る。


「明日香さんは、出たかった」


「そのはずです」


「じゃあ、どうして『開けないで』なんて言うんですか」


誰も答えない。


美琴は佐伯を見た。


佐伯は壁を見ている。


ひどく青い顔で。



その夜。


美琴は眠るため部屋へ戻った。


森岡には隣室でドアを開けたまま休んでもらう。


電気は消さない。


午前一時四十八分。


目を閉じる。


眠れない。


二時。


時計を見ないようにする。


そのとき。


壁。


カリ。


美琴は目を開けた。


カリ。


起き上がる。


「森岡?」


返事なし。


隣室から寝息。


カリ。


壁へ近づかない。


今度はそう決めた。


そして、


声。


『……開けないで』


美琴は毛布を握った。


『開けないで』


目を閉じる。


聞かない。


『開けないで』


三度目。


そのあと。


別の音がした。


カチ。


何かが外れるような音。


美琴は目を開ける。


壁の隅。


古い棚の後ろ。


ほんの数ミリ。


壁が、


開いていた。

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