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怪異認定  作者: asnt2026


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第14話 赤い固定ピン

三枝は赤い金属片を拾わなかった。


「何なんですか、これ」


美琴がもう一度聞く。


「知らねえ」


「さっき『捨てたはず』って」


「聞き間違いだ」


「最近、それをよく言われます」


三枝の眉が動く。


「戸倉先生にも」


沈黙。


「三枝さん」


「……保守用の部品だ」


ようやく答えた。


「何の?」


「古い扉」


「零号室?」


三枝は美琴を見た。


答えそのものだった。



久世を呼ぶ。


赤い金属片を見た久世は、手袋をして持ち上げた。


「固定ピンですね」


「知ってるんですか?」


「形状から判断しているだけです」


三枝が舌打ちする。


「安全装置を殺すためのもんだ」


美琴が振り返る。


「安全装置を?」


「実験室の扉には非常開放機構があった。停電したり、中の奴がパニックになったら開くようにな」


「じゃあ、これを使うと?」


「開かなくできる」


森岡が顔をしかめた。


「何でそんな物が必要なんです?」


三枝は答えない。


久世が代わりに聞く。


「保守時ですか」


「そうだよ」


「扉の調整中に勝手に開放されないよう固定する」


「そういうことだ」


「零号室にも?」


三枝の口が止まった。


「覚えてない」


久世は赤いピンを見る。


表面には錆。


だが、


一部だけ妙に新しい擦り傷がある。


美琴にも分かった。


「これ、最近使われてません?」


三枝が奪うように手を伸ばす。


久世が避けた。


「触らないでください」


「俺のだ」


「二十四年前の物なら、今は研究所の備品でしょう」


「だから何だ」


「なぜ捨てたと思ったんです?」


三枝が黙る。


「三枝さん」


久世の声は穏やかだった。


「二十四年前、これを使いましたか?」


「使ってねえ」


即答。


「では、なぜ捨てたと?」


「似たもんを全部処分したんだよ」


「いつ」


「閉鎖のときだ」


「理由は?」


「必要ねえからだ!」


怒鳴り声が廊下に響いた。


三枝は呼吸を荒くしながら久世を睨む。


「俺は設備担当だった。それだけだ」


「それ以上のことは聞いていません」


「聞いてるのと同じだろ」


三枝が背を向ける。


数歩進み、


止まった。


「その部屋」


誰も何も言わない。


「零号室はな」


三枝は振り返らず続ける。


「普通の実験室じゃなかった」


「どういう意味ですか?」


美琴が聞く。


三枝は答えなかった。


そのまま去っていく。



午後十一時五十五分。


美琴は眠れず、食堂で水を飲んでいた。


佐伯が入ってくる。


「神崎さんも眠れない?」


「はい」


佐伯は向かいに座った。


顔色が悪い。


「三枝さん、零号室は普通の実験室じゃないって言ってました」


「そう」


「佐伯さんは知りませんか」


「また取材?」


「違います」


美琴は少し笑った。


「もう仕事って感じじゃなくなってます」


「帰りたい?」


「正直に言うと」


「私も」


佐伯も笑った。


一瞬だけ、


いつもの穏やかな佐伯に戻る。


美琴は聞いた。


「明日香さんは、零号室に入ったことがありますか?」


佐伯の笑みが消えた。


「どうしてそう思うの」


「電話が鳴る。足跡が出る。『開けて』って声がする」


「偶然でしょう」


「久世先生は説明できないと言っています」


その名前を出したとき、


佐伯の目がわずかに動いた。


「冬馬君は……」


美琴は聞き逃さなかった。


「冬馬君?」


「昔から知ってるから」


「久世先生も研究所に?」


「違うわ」


佐伯はすぐ答えた。


「明日香の弟。それだけ」


「よく来てたんですか?」


「……たまにね」


それ以上、


佐伯は話さなかった。


午前零時二分。


突然。


館内のどこかで、


ジリリリリ。


電話が鳴った。


佐伯の身体が硬直する。


美琴も立ち上がった。


零号室ではない。


音は、


一階廊下の古い内線電話からだった。


久世たちも集まる。


三枝。


片桐。


森岡。


全員が電話を囲む。


片桐が苛立ったように言う。


「またか」


久世が受話器を取った。


雑音。


ザ――。


そして。


『……片桐先生』


片桐の顔から、


表情が消えた。

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