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怪異認定  作者: asnt2026


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第12話 説明できない

その夜、


誰も食堂で話さなかった。


戸倉の椅子が空いている。


片桐は一度もそこを見ない。


三枝は酒を飲んでいた。


佐伯はほとんど食べていない。


久世も静かだった。


午後十一時。


美琴は管理室で昨日までの映像を確認していた。


戸倉が消える直前。


何か映っていないか。


午前零時。


午前一時。


戸倉の部屋の前。


誰も通っていない。


廊下の監視カメラには、


戸倉が自室へ入る姿が最後に映っている。


午前一時三十七分。


戸倉。


扉。


入室。


それ以降、


出ていない。


「おかしい」


森岡が言う。


「窓から出た?」


「内側から鍵」


「誰かが後で閉めたとか」


「じゃあその人はどうやって出るの」


「……ですよね」


美琴は映像を早送りする。


午前二時。


何もない。


二時十七分。


映像が一瞬だけ乱れた。


「止めて」


森岡が止める。


画面にノイズ。


一秒ほど。


「停電?」


「他のカメラは?」


確認。


一階。


正常。


地下。


正常。


二階廊下だけ。


二時十七分。


一秒。


映像が乱れている。


「先生呼びます?」


美琴が立ち上がる前に、


背後から久世の声。


「見せてください」


いつの間にいたのか。


美琴は驚いた。


久世は映像を見る。


何度も。


「何か分かります?」


「まだ」


またその言葉。



翌朝。


久世は全員を零号室へ集めた。


電話機。


足跡。


戸倉の靴。


監視映像。


三時間以上調べたらしい。


「説明してくれ」


片桐が言う。


「まず、分かっていることだけお話しします」


久世は壁際に立った。


「電話回線は使用不能です」


三枝が頷く。


「外線は二十四年前に切断されています」


「ではなぜ鳴った」


「電話機自体に電流を与えれば、ベルを鳴らすことは可能です」


美琴が少し安心する。


やっぱり説明できる。


「じゃあ誰かが電気を」


「その痕跡がありません」


美琴の安心が止まる。


「どういうことです?」


「電話機内部にも、壁内の接続にも、外部電源を新たに引いた形跡が確認できませんでした」


三枝。


「古い回線に残ってたんじゃないのか」


「測定しました。電圧はゼロです」


「じゃあ」


「現時点では、ベルが鳴った方法を説明できません」


沈黙。


久世は続ける。


「次に音声」


森岡の録音データ。


『……戸倉さん』


あの声。


「録音機側への混入、無線機器による干渉も調べました。可能性は低い」


美琴。


「低い?」


「完全にゼロとは言いません。ただ、少なくとも簡単な機材で行えるものではありません」


「足跡は?」


「水です」


三枝。


「誰かがつけたんだろ」


「もちろん可能です」


「なら」


「ただし」


久世が止める。


「足跡が現れた廊下の監視記録には、誰も映っていません」


片桐の顔が強張る。


「カメラの死角」


「ありません」


「じゃあ、お前は何が言いたい」


久世は答えない。


「戸倉は?」


佐伯が小さく聞いた。


「戸倉さんは、どこへ行ったの」


「分かりません」


「部屋から出てないんでしょう?」


「映像上は」


「窓も閉まってた」


「はい」


「靴だけがここにあった」


「はい」


佐伯の声が震える。


「それでも、分からないの?」


久世は彼女を見る。


「分かりません」


その言葉で、


部屋の空気が変わった。


三枝が苛立ったように壁を殴る。


「ふざけるな」


誰も反応しない。


「専門家なんだろ!」


久世は黙っている。


「今まで何でも説明してきたんだろ! 足音も女もガキの声も!」


「ええ」


「じゃあこれも説明しろよ!」


「できません」


三枝の拳が止まる。


美琴は、


その一言を聞いた瞬間、


背中が冷たくなった。


久世冬馬が、


できない。


「……先生」


森岡が聞いた。


「それって」


久世が見る。


「これって、本当に……」


森岡は言葉に詰まった。


幽霊。


その二文字を口にするのが怖いようだった。


片桐が代わりに言った。


「怪奇現象だと?」


久世はすぐには答えなかった。


零号室。


灰色の電話。


左足だけの濡れた跡。


戸倉の靴。


二十四年前に死んだ明日香。


午前二時十七分。


全部を順番に見る。


そして言った。


「超自然現象だと断定する証拠はありません」


誰かが息を吐いた。


続く言葉を待つ。


「ただ」


久世は珍しく、


言葉を選んでいるように見えた。


「少なくとも現時点で、私はこの一連の現象を通常の環境要因だけでは説明できません」


三枝が何も言わない。


片桐も。


佐伯は目を伏せている。


美琴は聞いた。


「つまり……?」


久世が美琴を見る。


「原因不明です」


「今までのとは違う?」


「違います」


「本当に?」


「はい」


森岡が小さく呟いた。


「久世先生でも……」


その瞬間。


電話が鳴った。


ジリリリリ。


全員の身体が固まる。


ジリリリリ。


誰も動かない。


美琴は壁の時計を見る。


午前二時十七分ではない。


午前十時四十三分。


違う。


久世が電話へ近づく。


受話器を取る。


耳に当てる。


何も言わない。


「先生?」


美琴が聞く。


久世の顔から、


ほんの少しだけ血の気が引いた。


「どうしました?」


受話器を持ったまま、


久世が佐伯を見る。


なぜ佐伯なのか。


美琴には分からなかった。


やがて、


受話器の向こうから、


女の声が漏れた。


小さく。


かすかに。


けれど、


そこにいた全員に聞こえた。


『……開けて』


佐伯の手から、


持っていた鍵が落ちた。


金属音が、


零号室に響いた。


カラン。


誰も拾わない。


もう一度。


電話の向こうで、


女が言った。


『……開けて』


そして佐伯だけが、


泣きそうな顔で、


扉の方を見た。

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