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怪異認定  作者: asnt2026


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第11話 消えた教授

午前六時二十二分。


美琴は戸倉の部屋の前にいた。


眠れなかった。


昨夜の言葉が頭に残っている。


全部話す。


何を?


二十四年前、


何があった?


美琴はノックした。


「戸倉先生」


返事なし。


もう一度。


「神崎です」


沈黙。


ドアノブを回す。


鍵がかかっている。


「戸倉先生?」


胸騒ぎ。


美琴は久世を呼んだ。


三枝がマスターキーを持ってくる。


「中で寝てるだけじゃねえのか」


鍵を回す。


扉が開く。


ベッド。


空。


机。


空。


窓は閉まっている。


戸倉はいなかった。


「トイレじゃない?」


森岡が言う。


だが、靴がある。


外履き。


室内履きも。


財布。


スマートフォン。


鞄。


全部置いてある。


久世が窓を見る。


三階ではない。


二階。


外へ出られない高さではないが、


窓は内側から施錠されている。


「先生、どこ行ったんでしょう」


美琴が言う。


久世は答えない。


ベッドの脇。


床。


何かを見ている。


紙。


昨夜まで机にあった、


「俺じゃない」


と何度も書かれた紙。


その裏側に、


新しい文字があった。


朝になったら全部話す。


その一行だけ。



施設内を全員で探した。


一階。


二階。


三階。


四階。


地下。


トイレ。


倉庫。


実験室。


屋上。


どこにもいない。


外も確認した。


大雨。


地面はぬかるんでいる。


新しい足跡はない。


「窓から出たなら痕跡が残る」


三枝が言う。


「玄関は?」


「夜中は俺が閉めた」


「非常口」


「全部センサー付きだ」


「警報は?」


「鳴ってない」


森岡が小声で言う。


「じゃあ……どこ行ったんです?」


誰も答えない。


片桐が苛立っている。


「警察に連絡しろ」


「圏外です」


小西がスマートフォンを振る。


「固定電話も外線死んでます」


「車で下りる」


「道が塞がってます」


三枝が舌打ちした。


佐伯は青ざめている。


「戸倉さん……」


美琴はふと気づいた。


「靴」


全員が見る。


「部屋に靴がありました」


「だから?」


「でも……」


美琴の頭の中に、


昨日の左足の跡が浮かぶ。


零号室。


「地下をもう一度見ませんか」



零号室の前。


最初は何もなかった。


だが、


森岡が懐中電灯を床へ向けた。


「あれ」


扉の脇。


靴。


黒い革靴。


一足。


きれいに揃えて置かれている。


美琴は息を呑む。


「戸倉先生の?」


佐伯が顔を覆った。


三枝が吐き捨てる。


「誰かが持ってきたんだろ」


「部屋には別の靴がありました」


美琴が言う。


「これ、予備だったんでしょうか」


久世がしゃがむ。


靴には触れない。


サイズ。


底。


中。


慎重に見る。


片桐は遠巻きに見ている。


「開けるぞ」


三枝が零号室の扉に手をかける。


久世が止める。


「待ってください」


「何だ」


「まず写真を」


撮影。


位置を記録。


そのあと扉を開ける。


零号室。


誰もいない。


机。


椅子。


電話。


昨日と同じ。


ただ、


一つだけ違った。


電話の受話器が、


外れている。


コードが床に垂れている。


久世が近づく。


美琴は入り口から見ていた。


受話器の下。


床に、


一滴。


水。


そして少し先に、


濡れた足跡。


左足だけ。


一つ。


二つ。


零号室の奥へ。


壁まで。


そこで終わっていた。


「……壁」


森岡が言う。


「壁の中に入ったみたいじゃないですか」


三枝が怒鳴る。


「馬鹿言うな!」


だが声が大きすぎた。


自分に言い聞かせているようだった。


久世は壁を叩いた。


コン。


場所を変える。


コン。


さらに。


鈍い音。


空洞ではない。


「裏側は?」


美琴が聞く。


三枝。


「土だ」


「地下だから?」


「ああ」


「じゃあ、通路は」


「ない」


そのとき。


佐伯が、


「もうやめましょう」


と言った。


全員が振り返る。


佐伯の顔が真っ白だった。


「何を?」


美琴が聞く。


「ここ」


「でも戸倉先生が」


「警察が来てからでいい」


「いつ来られるか分かりません」


「それでも」


佐伯の声が強くなる。


「これ以上、触らない方がいい」


「どうしてですか」


美琴が聞く。


佐伯は答えなかった。


久世がゆっくり立ち上がる。


「佐伯さん」


「何」


「この部屋で、二十四年前に何があったんです?」


佐伯の唇が震えた。


「知らない」


「本当に?」


「私は看護担当だっただけ」


「でもこの部屋を知っている」


「知らない」


「昨日、電話が鳴ったとき止めましたね」


「驚いただけ」


「今も、この部屋を調べるなと言った」


佐伯が久世を睨んだ。


「あなたは」


一瞬、


何かを言いかけた。


そして飲み込む。


「あなたは、何も知らない」


久世の表情が変わった。


ほんの少し。


「何をです?」


佐伯はそれ以上答えず、


零号室を出ていった。



午後になっても戸倉は見つからなかった。


三枝が床下。


配管スペース。


旧設備室まで調べた。


いない。


久世も加わった。


だが、


いない。


まるで研究所から、


一人だけ消えた。


夕方。


美琴は廊下の窓から外を見ていた。


雨。


森。


霧。


隣に久世が立った。


「先生」


「はい」


「戸倉先生、生きてると思います?」


久世はすぐに答えなかった。


「そう願っています」


「幽霊に連れていかれたと思いますか」


「いいえ」


「即答ですね」


「幽霊が人間を物理的に移動させたという実証例を私は知りません」


「じゃあ人間?」


「その可能性の方が高い」


「誰が?」


久世は答えない。


美琴は窓に映る自分を見る。


その後ろ。


廊下の奥。


一瞬、


白い服の女が立っていた。


美琴が振り返る。


誰もいない。


窓を見る。


もういない。


「神崎さん?」


「……何でもありません」


今度は、


久世を呼ばなかった。

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