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第四十八話 別れと未来

 俺にとって慣れ親しんだ階段を全員で駆け下りて行く。

 汐音さんが毎日座っていた受付のカウンターが、暗がりの中、静かに佇んでいた。

 

 「急げ、急げっ!」

 

 海斗さんは第三検疫所の扉を力付くで開けると、俺達を急いで外に出るようにと、手招きする。

 

 「扉、開いてる。神矢さん……」

 

 外に出て最初に目に映ったのは、開け放たれた巨大な鉄の扉だった。

 

 「三人は、そこから動くな」

 

 海斗さんがそう言って、扉へ向かって走る。

 その間もチッチッチッっと末期感染者の時計の音が俺の鼓膜を揺らし続けた。

 

 扉の向こうに消えたと思ったら、ドサッと鈍い音が何度か聞こえて海斗さんが再び姿を見せる。


 「みんな、こっちだ!」

 

 汐音さん、蕾さんが扉へと向かう。

 俺は自分の職場だった第三検疫所に目を向けると、これまでのことが頭に浮かんだ。

 

 もう二度来ることはないと考えると、少し寂しい気がする。

 ただ、この場にずっと立っているわけにはいかない。

 小さい声で第三検疫所に「ありがとう」、と言葉を伝えて俺はその場を去った。

 

 「海斗さん、これ……」

 

 「……仕方ない。あまりそれは見るなよ」

 

 人が倒れていた。

 ただ、首が向いては行けない方向へと曲がっており、ピクリとも動かない。

 

 「まだ、そこまで感染者は集まって来てないみたいだ。今のうちにどこか隠れる場所を――探してくれ」

 

 その言い方はまるでここに自分は残る、と言っているような言い方に聞こえた。

 

 「海斗……まさか」

 

 「言っただろ? 汐音、僕は仲間を見捨てないって。他にも仲間も部下もいるんだ。大切な君と友人が無事に脱出できたなら、今度は他の仲間も助けないとな」

 

 海斗さんは汐音さんを真っ直ぐに見据えて、その後に蕾さんと俺を一瞥した。

 

 「だからさ、もし僕が無事だったら、汐音とずっと一緒にいたい――」

 

 海斗さんは汐音さんから顔を逸らさない。

 汐音さんも見つめ返して、口を固く閉ざしたままだった。

 

 「……はぁ〜、たく、なんで死亡フラグ立ててんのよ、あんたは」

 

 大きなため息の後、汐音さんは一度下を向く。

 

 「まだ、こっちは気持ちの整理がついてないって言うの。まぁ……それが済んだら考えないでもない……けどさ」

 

 こわばった海斗さんの口元が、綻んだ。

 

 「――ありがとう。絶対に戻るから」

 

 たくさん言いたいことがあったのかもしれない。

 それを堪えるように、唇を一文字に結んでくるりと背中を向けた。

 

 「あ、海斗さん!」

 

 俺が名前を呼ぶと、肩ごしにチラリと見てきた。

 

 「その、いろいろと――ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げると、蕾さんも「ありがとね〜」と言って手を振る影が見える。

 海斗さんの口がわずかに吊り上がる。

 

 キザっぽく、彼らしく笑って後ろ手に手を振った。


 「俺は隔離区をどうにかするから、三人は世界を――救ってくれ。じゃぁな、アデューッ!」

 

 彼はそう言って、こっちを振り向くことなく隔離区の中へと走って行ってしまった。

 

 「海斗は相変わらずだねぇ。子供の頃から正義感強いし、汐音っちにずっとぞっこんだなぁ」

 

 「そう……だね。てかさ、なんか気まずいんだけどさ。海斗いないと」

 

 「え〜、なんで? 私は汐音っちと一緒で嬉しいけどな」

 

 ヒョイっとはしゃぐように飛び跳ねて、蕾さんが汐音さんに抱き着く。

 蕾さんを抱き締めながら、汐音さんは俺を真っ直ぐに見たと思ったら、肩が大きく上がった。

 

 そして、腹の中に溜まったものを吐き出すように、息を吐いて抱きついている蕾さんから手を離す。

 

 「しょうがないわね。とりあえず、どこか隠れる場所を探しましょうか」

 

 汐音さんがそう言うと、ゆっくりと歩き始める。

 

 「第五隔離区はもう――終わりね」

 

 少し離れたところから、俺達の故郷に目を向けた。

 

 「終わり、ですね」

 

 黒い壁に囲われて、中はいっさい見ることはできない。

 ただ、赤いようなオレンジ色のような明かりが空を照らしている。

 まるで、そこだけが昼に戻ったように明るく、時折飛び交うドローンの白いライトが明滅していた。

 

 「大丈夫だよ! 隔離区なんてなくても、もう少しでみんなの病気無くなるからさ。汐音っち、悲しい顔、しないで」

 

 「そうね。後は斗賀見くんを見聞(みきき)神社に届けるだけ」

 

 まだ、自分が探し人なのか不安だった。

 もしもこれで違うとなれば、汐音さんも海斗さんも――

 

 「痛っ! ちょっ、汐音さん!」

 

 「なに、辛気臭い顔してるの? 大丈夫だよ。どんな結果になっても斗賀見くんのこと恨んだりしないからさ」

 

 そんなに顔に出ていたのだろうか。

 汐音さんに思いっきり叩かれた背中を擦りながら、彼女を見た。

 

 「そうだよ、斗賀くん。でもね、絶対神様が探していた人は斗賀くんだよ。証拠とかないけど、何となく分かるんだ」

 

 ヒョイっと顔を覗き込む蕾さんの顔は、視界に入る。

 

 「……うん、そうだね。まだどうなるか分からないもんね」

 

 「そうそう! 早く一緒にお出かけしたいな〜」

 

 「はぁ〜! 妬けるから辞めてくれないかしら!」

 

 「汐音っちも一緒に出掛けるんだよ? 海斗も。みんなでお出かけしようよ」

 

 まだ、世界は救われていない。

 それでも、蕾さんは未来を思い描いて楽しそうだった。

 

 「そう……ね。それも、私の気持ちの整理がついたらね――」

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