↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/50

第四十七話 感謝の言葉

 「後は簡単な話だ。所長と言う地位を利用して、感染者を隔離区の中に招きいれた。茜や雅に、斗賀見君が陽性とつけた人物を選別してもらってな」

 

 結局、俺は利用されただけなのだろう。

 この隔離区を壊すために、この耳の能力を体よく使われた。

 

 「だからよ。斗賀見君を辞めさせないように、あの手この手と、いろいろ手を回したんだぜ。ああ、勘違いするなよ。俺は斗賀見君は嫌いじゃない。でも、その音が聞こえる能力は――憎い」

 

 人を殺すためにあるようなものだからな、と神矢は話を続ける。

 

 「なぁ、もう一度、教えて欲しい。斗賀見君のその耳は、亮の中の音も聞こえてるんだよな?」

 

 「……はい」

 

 「そうか、それが本当なら――神に与えられた力なのかもしれないな」

 

 そう神矢が口にして、無線からは声が聞こえなくなった。

 

 「斗賀見君の耳、まだ発症すらしてない音すら聞き分けるのか。それは一研究者としては興味深い」

 

 僕はついさっき感染したばかりなのだから、と亮さんは続ける。

 

 「まあ、さっき神矢が説明した通りだよ。後は、この御神水を飲ませて、効果が切れるくらいに診察に来て欲しい。そう言って外におびき出したら、後は勝手に活性化する」

 

 これが今回の事件の真相だった。

 

 「後はね、そこかしこに御神水を飲水に混ぜて、ばら撒けば感染者達が勝手に末期感染者に転位する。負の連鎖を起こせれば俺達の作戦は成功」

 

 つまり、この隔離区は彼らの手の上で転がされていた。

 

 「火事だって起きる。消火用のドローンの火消し水にも混ぜて、それが蒸発して水蒸気になれば否応無しに人の体内に取り込まれる、か」

 

 海斗さんが会話の続きを口にする。

 亮さんは、御名答、と言ってはにかんだ。

 

 「それで、復讐を果たした気分はどうだ?」

 

 「……悪くはない、かな」

 

 「そうか、結局はお前達は罪もない人間を巻き込んで、自己陶酔に浸っているだけか」

 

 そう、海斗さんは冷たく言い放つ。

 

 「そうだね……結局は同じことをしてしまったかもしれないね。でも、僕はどうしても許せなかった」

 

 亮さんが一言一言、口にするたびに表情が歪んでいく。

 俺は立ち上がり、亮さんと雅さんを真っ直ぐに見据えた。

 

 「……あの、亮さん、神矢さん、雅さん」

 

 俺が三人の名前を呼ぶと、全員の視線が俺を向いた。

 

 「なんだい? 斗賀見君? 僕達を罵りたいなら好きにしたらいいよ」

 

 自虐的に亮さんがそう言うが、俺にはそんなつもりは一切ない。

 裏切られた、利用された、その結果が隔離区の崩壊に繋がった。

 でも、彼らにも言い分はある。

 

 もし、同じ立場だった蕾さんが言ったように、同じことをしていたかもしれない。

 だから、全てを否定することはできないのだ。

 

 「その……今までいろいろとありがとうございます。そんなに、辛い思いをしてたのに……俺なんかに良くしてくれて」

 

 俺は感謝の言葉を述べて、深々と頭を下げた。

 その行動に見えはしないが、三人が動揺するような気配がした。

 

 下げた頭を戻すと、二人は大きく目を見開いて俺を見る姿が映る。

 

 「確かにショックでした。でも、皆さんに救われたことも事実です。その……気持ちは分かると言えないですが、自分のことばかりで全然気づけなくてすいません……」

 

 俺が三人のことに気づいたとして、どうにもできなかっただろう。

 でも、もしかしたら未来は少しくらい変わっていたかもしれない。

 そう思うと、やるせなく心がぎゅっと締め付けられる。

 

 「はは……まさか、お礼を言われるとは」

 

 「ちげーねぇ……」

 

 「斗賀見さん」

 

 三人が口々に言葉を述べる。

 

 「これが、一番、、心が痛いわ……」

 

 神矢がそう言うと、亮さんと雅さんが視線を下に落とす。

 

 「こんなことされても、俺はみなさんを嫌いになれませんでした」

 

 「斗賀見君……君は優しすぎないか?」

 

 「かもしれません。でも、その優しさが――死んだ父が残した遺言です。俺は父のように立派じゃありませんが、この優しさで救われる人が一人でもいれば十分です」

 

 自分の気持ちをしっかりと言葉に乗せて、三人へ伝えた。

 全てを言い終えると、雅さんからすすり泣く声がする。

 

 「ああ、斗賀見君。君にもう少し早く会えたら良かったかもしれない。本当に……」

 

 亮さんは自分の胸に右手を当てて、指先で強く胸を握る。

 苦しそうに、息を荒げて充血した目が俺を見た。

 

 「斗賀見くんは本当に、どこまでも優しいよね」

 

 そう口にしたのは汐音さんだった。

 

 「この中で、一番酷いことされてるのに、そんなこと言ったら私達からは何も言えないよ」

 

 海斗さんの横に並ぶ汐音さんに目を向けると、優しい眼差しと目があった。

 

 「はぁ……そろそろ、俺の時間もなくなってきた」

 

 唐突に亮さんがそう言う。

 

 「え? どう言うことですか?」

 

 「な、まさか――」 

 

 海斗さんが何かに気づいたらしく、再び銃を構え直す。

 

 「ふふ、最後は僕達の命を持って償うつもりだ」

 

 そう言って、亮さんは雅さんの肩を抱く。

 

 「これを持って行きたまえ」

 

 ポケットから一枚のカードを取り出すと、机の上にそれを置いた。

 

 「これは?」

 

 「外に出たいなら必要になるからね。そのカードがあれば第三検疫所までの扉を開けることができるよ」

 

 そう亮さんが言う。

 俺はそれを恐る恐る受け取った。

 

 「僕達はやることをやったから、これでおしまい。君達は世界を救うんだろ? そこに僕達はいないけど、昔のような平和な世界が来ることを願ってる」

 

 「いろいろと、お世話になりました」

 

 二人が丁寧に頭を下げた。

 

 「なら、正門を開けるぞ。斗賀見君、世界を救ってくれ。だから、感染者に殺されるんじゃねーぞ」

 

 無線から聞こえる神矢さんの声。

 今も力強く、男気が溢れている。

 たけど、少しだけ震えているようにも聞こえた。

 

 「ああ、そうだ。茜、もし茜に会ったらすまないと伝えてくれ。彼女は俺達のためになりたい、親友を助けたいって、エゴに付き合ってくれただけだからよ」

 

 神矢さんが遺言のような言葉を言うと、機械のボタンが押された音が無線からした。

 

 「じゃぁな――」

 

 大きな音がする。

 ドサッと重いものが落ちる音がして、そこから彼の声は一切聞こえなくなった。

 

 亮さんが無線に手を伸ばして、電源を切る。

 

 「さぁ、君達も早く行きなさい」

 

 彼の言葉に誰も返事をすることなく、俺達は外に出た。

 

 次第に大きくなる時計の音。

 

 背後で大きな爆発音が聞こえたが、俺達は足を止めることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。