第四十四話 どうして
「次は、当てるぞ。お前はなんなんだっ!」
海斗さんの持つ銃から白い煙が立ち上がっていた。
相手を威嚇するように言葉を言い放ち、銃を持ち直すように構える。
「……君は、感染者を殺すのか?」
亮さんの視線が海斗さんに向けられる。
「襲ってきたら身を守るために、殺す。この隔離区を守るのが僕の使命だからな」
きっぱりと海斗さんが言い切った。
「それと、仲間を襲う奴も――殺す。それは人間であろうと関係ない」
亮さんに対する脅し。
「ふむ、そうか……君は警備隊の……まぁ、いい。そして、蕾さんって言ったかな、まさか君が――消えないチクタクだったとは。もう少し早く出会えていれば、”俺達”もこんなことをしないで済んだかもしれない」
一度だけ出会った時のことを、彼は覚えていた。
ただ、蕾さんのことを見た時、彼の表情が曇る。
後悔を滲ませるように、額の中心にシワを寄せてわずかに頭が下を向く。
「斗賀見君、それと他の人達も少し話さないか? なに、敵意はないさ。あったとしても、ただの医者で研究員の僕では勝てないさ」
「……その話を聞くメリットはなんだ?」
海斗さんがそう言い返す。
「なに……こうなった真実を君達は――知りたくないかね?」
◇
「――雅さん……」
「こんばんは、斗賀見さん」
亮に案内された部屋には、雅さんの姿があった。
彼女の名前を呼ぶといつもと変わらず、静かに挨拶をしてくる。
「どうして、ここに……?」
その問いに彼女は答えず、寂しそうな笑みを浮かべた。
亮さんに雅さん、二人の行動を見ていると何故か胸がじく、じくと痛む。
「まぁ、楽にしてくれ……と言っても、そう言う訳にはいかないみたいだね。本当になにもしないよ。僕の役目は終わったんだ」
亮さんの声色はいつものように、柔らかいものとなっていた。
――ガッ……ガガガッ
「あー、こちら神矢。亮、聞こえるか」
ノイズ音の後に、男性の声。
紙切神矢――彼の声が無線から聞こえる。
「こちら亮、聞こえる」
「了解した。もう少しで正門を開ける。そっちはどうだ?」
「ああ、職員はほとんど感染したか、死んだよ――」
そう、亮さんは神矢さんに静かに伝えた。
「うぃーっ! お疲れ。ちなみにさ、やっぱり”何も失ってない”、茜は巻き込めねーわ」
「そうか……どうするつもりだ?」
「薬で眠らせた。だからなー……まぁ、俺は落っこちてた銃で、な」
二人が淡々と会話を進めていると、横に並んだ海斗さんが再び銃を構えた。
「――どう言うことだ!?」
「あ? 亮、他に誰かいるのか?」
「……斗賀見君だ」
「マジ、か……よりにもよってこんな時に」
海斗さんの肩が震えている。
このままではいつ銃を発砲するか分からない。
「亮さん、神矢さん、それに雅さんも……この、感染者が隔離区に現れたのに何か関係があるんでしょうか」
感情が昂った海斗さんの変わりに、俺が口を開く。
下で出会った職員と、この三人の言動。
彼らがこの事件に関わっているのは間違いなかった。
「そうだよ」
亮さんはそう言った。
「嘘……ですよね? だって、あれだけみんなを助けるために……新薬もできそうだって、言ってたじゃないですか?」
「助けたいと言う思いも本当。新薬ができそうだったのも――本当だよ。ただね、それよりもこの第五隔離区セクターβ、この世界への憎しみがそれを上回ったと言うことだよ。本当にただ――それだけ」
「それだけって、だからって……街をこんなにしたんですかっ!?」
言葉を発しているうちに、言葉尻が強くなり声が震えてしまう。
「ああ、否定しない。君は『殺す側』だから分からなかっただろうけど……僕はね。この街が本当に――憎いんだ」
亮さんは俺から視線を逸らさず、真っ直ぐに見据える。
瞬きもほとんどしない彼の瞳の奥からは、黒い憎しみが滲み出ているように見えた。
「……どうして。そんな……」
俺は声がほとんど、出ない。
「あの……神祭所長。それが本当なら、どうやってこの隔離区に感染者を……」
汐音さんが亮さんに言葉をかける。
「そうだな、順を追って話そう。これは、俺達三人の遺言と思って君達は覚えていてくれ」
亮さんがそう言う。
「亮……まぁ、いい。忘れられるのもしゃくだからよ、俺達の罪をしっかり見てくよ。斗賀見君」
無線から、紙切神矢の声がした。
「ごめんね、斗賀見さんに、みんな。もう、少し私達の――”時計の針”が動き出しちゃったの。本当にごめんなさい」
三人が口々にそう言うと、神祭亮の口がゆっくりと開いた。




