第四十二話 出口を求めて
「斗賀くんは、あんまり見ちゃ、だめっ!」
そう言って両手で必死に目を隠そうとしてくる蕾さんの手の先には、爆発で死んだ二人の断片がそこらじゅうに散らばっている。
「うん、ありがとう」
顔を隠すのに手を上げている蕾さんが疲れないよに、わざと顔を背けて見ないようした。
「蕾さんは……大丈夫なの?」
「私は、平気だよ。こう言うの、ずっと外にいたから、ね」
隔離区の外からは毎日のように爆発音が聞こえていた。
その数だけ、命が散っていると言うことは今みたいな惨状が多く広がっているのかもしれない。
「その……海斗さんはともかく、汐音さんは平気なの?」
「私? 平気ではないけど……こう言う光景、外では普通にね。だから、少しくらいなら大丈夫かな……」
少し顔色は青いけど、その場から動けなくなるようなことはなさそうだった。
「お喋りは、後回しにしよう。それよりも早く、ここから脱出するぞ」
海斗さんがそう言うと、真っ白な廊下をゆっくりと歩き始める。
「斗賀見、時計の音は聞こえるか?」
「いえ、今のところはなにも」
肩ごしに海斗さんが俺を見ると、小さく頷く。
銃を構えた手はそのままだったが、肩から力が抜けたのが見て取れた。
「そうか……聞こえたらすぐに教えてくれ。それと――無理はするな」
彼なりの気遣いだったのだと思う。
俺は小さく「ありがとうございます」と言葉を返し、彼の後ろをついて行く。
長い廊下。たまに見える、窓の向こうはどれも同じような作りになっていた。
感染者も死体もなく、さっきの出来事を除けば第一検疫所の中は平和そのものである。
「しかし、迷路みたいだな。見取り図でもあればいいんだが」
同じような景色の繰り返しに自分達がどこを彷徨っているか分からなくなる。
人もいなければ物音も一つしない。
そう思って歩いていると、両開きの扉の前に到達した。
「この、向こう。もしかしたら出口に繋がってるかもしれないな。ただ……」
ロックがかかっているせいか、開けることができない。
海斗さんが扉に耳を当てて、向こう側の様子を確認する。
「ちょっとだけ、音がする……斗賀見、君も確認してくれないか?」
海斗さんに言われるまま、左の耳を扉の表面に押し当てた。
「感染者の音にだけ、集中してくれ」
扉の表面はひんやりとしていて冷たかった。
それのおかげで、火照った体がわずかに冷やしてくれる。
――チッ……チッチッ………………
「……感染者、います」
押し当てた耳の鼓膜が感染者の鼓動を捉える。
すっと顔を離して、海斗さんにそのことを伝えた。
「ダメ……か。なら、別のルートを探そう」
「海斗、それなら二階への階段を探しましょう。第三検疫所まで繋がってる廊下があったはずよ」
「さすが、私の汐音だ。なら、階段を探そう」
海斗さんの言葉に、「誰が私のよ」とぼやくが、汐音さんの言葉に反応することなく身を翻して先に進む。
「アイツ、焦ってるわね」
汐音さんは小走りで海斗の元へ向かう。
横に並ぶと、何か話しかけているようだった。
「二人とも仲いいね」
「海斗くんも汐音っちも、息ピッタリなんだよ」
俺の横に蕾さんが並ぶと、そう言っていた。
蕾さんに向けた視線を再び二人の背中へと向ける。
時折、汐音さんが笑いながら海斗さんに話しかける姿が目に映る。
そのおかげか、彼から放たれるピリついた空気がかすかにやわらいだ気がした。
なんとなく、そんな二人の関係が羨ましく思える。
お互いが、親友のような存在なのだろう。
海斗さんはぞっこんみたいだけどさ。
いいな。本当に。
そんなことを考えていると、不意に横から声をかけられる。
「斗賀くんは、世界が元に戻ったらどうしたい?」
蕾さんからの唐突な問いに、俺はすぐに答えられなかった。
「……ん〜、考えてないかな。蕾さんは?」
「私はいろいろな所にお出かけしてみたいな。後は美味しいもの、たくさん食べたい。斗賀くん――連れてってね」
そうハニカム彼女の顔を見て、頬がわずかに熱くなる。
「うん、一緒にいろんなところに行こうか」
そう返すと、蕾さんほ嬉しそうに何度も頷く。
「――階段、あったぞ」
先頭を歩く海斗さんが振り向いて、そう言葉をかけてきた。




