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第三十四話 脱出経路について

 「つまり、外に出るのは斗賀見と蕾の二人になったと言うことかな。ん〜、斗賀見は正規ルートで出られない?」


 海斗の口調にはふざけた様子はない。

 方向性が決まってから、この隔離区を脱出する方法を四人で考えていた。


 「あー、それね。多分無理じゃないかな?」

 「汐音……それはどうして?」


 「第三検疫所で陽性患者を診察してるのは、斗賀見くんだけ。今のところ、他に担当できる人もいなければ、的中率百パーセントの魔法使いだよ?」


 汐音さんと海斗さんが、これからのことについて話し合っている。


 「所長二人が上に報告しているだろうし……特別条項第一条だっけ? 緊急の時は、政府の命令に従わなければならない。これに、当てはまるかも」


 緊急の時、ってのが曖昧たけど、と汐音さんが話しを続けた。

 俺はそれを聞いて、少し考える。

 正規ルートで外出許可がダメなら、やっぱり海斗さんにどうにかしてもらうしかないのか。


 「あ〜、なんか斗賀見の功績からすればそう言うことやりそうだわ……なら、後一週間は待って欲しいかも」


 そもそも、蕾さんをどうやって隔離区の中に入れたのだろうか。

 どこかに特別な出入口があるのか。


 「物資運搬用の箱の準備が、蕾の分しかないんだよ。斗賀見用の大きいのが今回は——ない。それに登録書に大きさとか書いて提出してるからさすがに、キツイかも」


 つまり、入ってくる時も同じような感じで蕾さんは隔離区の中に侵入してきた、だろう。

 下手をすれば自分も罰せられるのに、かなり覚悟がいることだ。

 そこまでして、彼らは紗花蕾を信頼してるし、助けたいと思っている。


 言葉にしなくても、行動だけでそれがヒシヒシと伝わってきた。


 「海斗はいざと言う時、役に立たないわね。バックアッププランとか考えといてよ、普通さ。 第一警備部隊、隊長なんでしょ」


 「おうえーい! 汐音のその毒舌、最高だぜぇ!」


 この二人のやり取りを聞いていて思ったけど、と言うか海斗さんって普通に話せるんだ、と思った。

 それと、汐音さんと一緒なら年齢は俺の一つ上。


 二十三歳で——警備隊の隊長。


 彼はかなり優秀だ。


 「ただなぁ、結構感染者間引いてるんだけど、そろそろキツイかも……あっ、汐音がちゅーして——」

 「——じゃ、一週間後、よろしくね」


 汐音さんの彼に対する扱いは存外酷いけど、罵倒されたり、冷たくされたりすると、体を身じろぎしながら喜ぶ。

 ある意味では、相性はピッタリなんじゃないだろうか。

 よろしくお願いします、と頭を下げると、突然立ち上がる。


 ふんぞり返りながら、俺を見下ろして。


 「別に、お前のためじゃないっ! 汐音にお願いされたからだ!」


 今度はツンデレキャラへと変貌を遂げた。

 乾いた笑で返事をすると、肩に寄りかかるようにピッタリとくっついていた蕾さんも、「よろしくねぇ〜」と言っていた。


 「海斗さん、ところで、間引くってのは……その……感染者を」

 「——殺してる。定期的に減らさないと、壁の近くまで寄ってくるからな。蕾の体質のせいなのか、最近は本当に多い」


 陽性患者の数も確かに、増えていた。


 「できれば、人を殺さなくてもいい世界になって欲しいな」


 時折見せる海斗さんの真面目な雰囲気は、自分の心に蓋をするためなのかもしれない。

 こう、話す時は俺達を見ないで、遠くを見るよう顔を上に向けていた。


 その目つきは鋭く、睨みつけるようで、でも、やるせないような灰色の感情が籠もっているように見えたのだ。


 「その、俺、ダメ元で申請してみますよ」


 なるべく、海斗さんの負担も減らしてあげたい。

 そう思った発言だったが、彼は難しい顔をして首を横に振った。


 「下手なことをして、目を付けられては困るから。君みたいな、雑魚はおとなしく待っていてくれ。僕がかっこよく、脱出させてみせるからさ……そして、その後は汐音と——」


 「——それはない。二人が脱出したら私も出て行くもん。斗賀見くんを、『神社』に連れて行って、探し人じゃなかったら、また一緒に探すだけ」


 神社——それが、俺の目的地の場所なのか。


 「斗賀くんのお父さんって、神主さんだったんだよね?」


 汐音さんが、そう言った。


 「そうですよ」

 「その、神社の名前って『見聞(みきき)神社』って名前じゃない?」


 その名前が出てくるとは、思わなかった。


 「そうですけど、その名前をどうして汐音さんが?」

 「それは、ここにいる三人が、神様に連れてきてって言われた神社なんだ。特に、蕾はよく神様の夢を見ていてね、何度も聞いてたんだよね?」


 「うん……やっぱり、斗賀くんは神様が探していた人だ——絶対そう」


 ここまで来ると、俺も信じざるを得ない。


 「海斗さんも、汐音さんも、神様の夢を……?」

 「そうだぜ、ベイベー!」


 「うん。そうじゃなかったら、蕾の頭がおかしくなったって、今ごろ病院探してるもの。神様ね、蕾のこと信じて——助けてあげてってお願いされたんだ。だから、幼馴染三人、これまでずっと一緒に、ね」


 三人の絆はかなり強いのだろう。

 そして、蕾さんを中心に二人が協力する。


 それにしても、その夢に出てくる神様とはいったい何者なのだろうか。


 俺が見聞神社(実家)に戻るだけで、本当に——世界は救われるのか。

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