第三十三話 神祈斗賀見
「実は——」
俺が思わず口を滑らせたことで二人が素早く反応を見せる。
しばらく考えて、誤魔化すこともできたけど、蕾さんを含めた三人に俺は正直に話すことにした。
末期感染者じゃなくても、時計の針の音が聞こえる。
感染者からは初期、末期関係なく心臓の音は聞こえないこと。
全員は黙って静かに、俺の話に耳を傾けていた。
「なるほどね、初めて聞いた……もう少し早く知りたかったかも」
「これは、これは……僕も予想外なんだが」
汐音さんと海斗さんは、少し驚いたような反応を見せる。
「ごめん……これがバレたらどうなるか、怖くてずっと黙ってたんだ」
「ううん、このご時世なんだから、見つかったらモルモットにされてたかもしれないし、私でも同じように黙っていたかも」
ずっと秘密にしていたことが、後ろめたくて三人の顔を見ることができなかった。
「——的中率百パーセントの魔法使い。噂には聞いてたけど、斗賀見は本当に魔法使いだったか。いやー、僕と同格かそれ以上に美しい存在じゃ〜ないか!」
俺の噂は警備隊の人達にも伝わっていたのか、以前神矢さんが言っていた言葉を口ずさんでいた。
「あ、あっ、その……斗賀くんは、神様の夢……みない」
蕾さんが控え目だけど、期待するように身を乗り出して声をかけてくる。
「……さすがに、そう言う夢は見たことないんだよ。ごめん、ね」
俺の言葉に蕾さんの眉がしゅんっと小さくすぼむ。
乗り出した体がストンッと元の位置に戻って、俯いてしまった。
「……うん、大丈夫。そうだよね……」
俺が探し人とだと、期待していたのだろう。
「斗賀見くん、他には隠してることはない? 初期感染者から完治した人、その手がかりが……どうしても欲しいの」
少しでも、可能性があるならと、汐音さんは懇願するように話しかけてくる。
六年間、ずっと蕾さんは『神様』に言われた人物を探していた。
体質、のようなもので感染者が集まってきてしまう。
そのことを話していた彼女は、肩がすっと丸まって小さい体躯がさらに縮んでいるように見えたのだ。
焦点もまともに定まらないで、でも口元だけは無理に笑おうとして——どうにか言葉を発しようとする彼女を、見ていることができないくらい胸が締め付けられた。
だからこそ、無理に引き留めない決意だって——できたのだ。
俺なんかよりもずっと辛い思いをしていた蕾さんを見て、もっといろいろしてあげれば良かったと、思うと腹の奥が重たくなった。
もし、このことを話して未来が少しでも開ける可能性があるなら——俺は、躊躇しない。
「蕾さん……そのさ、俺——光を見ても感染しないんだ」
少し躊躇いはあったけど、しっかりした口調でそう、言った。
「これまでに三回、感染者の爆発する光を見たけど、発症しなかった」
「と、斗賀見くん、もしかして——あの時も……?」
俺は汐音さんに頷く。
宗教家が外で爆発した時も、そうだ。
検査の結果も問題なければ、今も時計の音なんてしない。
あのバスの事故の時も、父が死んだ日も。
俺は『心爆症』を発症することは——なかった。
その言葉を聞いた蕾さんは、目を丸くして時が止まったように固まってしまう。
「斗賀くん……もしかして、斗賀くんは私達が探してた——人?」
「それは、分からない。でもさ、神様がいるなら運命なのかもね」
そう言い切ると、蕾さんは顔が下を向く。
海斗さんも、汐音さんも、誰一人口を開かず、蕾さんのことを見守っていた。
「……斗賀くん、その……あの」
何か言いたげに、何度もこっちを見ては口ごもって下を向いてしまう。
それでも必死に言葉にしようと頑張る蕾さんは、何回目かでようやく決心がついたようだった。
下唇を軽く噛み、強い意志が籠もった瞳で俺を見る。
「斗賀くん、私と一緒に来てくれませんか? その……神様が探してる人かは分からないけど、これはあんまりだよぅ」
最初ははっきり喋っていたが、次第に声が沈む。
「せっかく、いろいろ吹っ切る決意してたのに、また——希望ができちゃった。だめ、かな?」
蕾さんがもう一度、俺を真っ直ぐに見た。
「俺も——蕾さんと、一緒にいたいよ」
そうはっきりと伝えると、彼女の腕が首に巻きついてくる。
ぎゅっと抱き締めてきて、蕾さんはしゃくり上げるように泣いていた。
そっと、後頭部を撫でると、さらに腕の力が強くなる。
「良かったんだけどさ、斗賀見くん取られちゃったよ……あー、でも、まだ諦めたくない!」
「ヘイヘイヘイ! 汐音、ここに超絶イケメンがいるじゃないか!」
「海斗、あんたは絶対に——お断り!」




