第三十一話 昔と変わらない部分
「あれ? 斗賀見さん?」
あの後、蕾さんと一通りのことを話して俺は彼女のことを全面的に応援することにした。
その後、「やけパフェだ」って言って、蕾さんはもう一つ注文して平らげた。
その後、二人で外に出て歩いていると、雅さんと出会って声をかけられた。
後ろには、亮さんも。
手に買い物袋を持っていることから、ご飯の買い出しでもしていたんだと思う。
「斗賀見君、おはよう。今日は……ん〜、デートかな?」
俺と蕾さんを見て、亮さんがそう言ってくる。
「うん! 今日は斗賀くんとデートなんだぁ。あ、私は紗花蕾です。いつも、お世話になっています」
俺が答えるより先に、蕾さんが前に出たと思うと二人に話かけた。
「あ、ちょっと……蕾さん」
慌てて彼女の手を引いて、軽く後に引っ張った。
デートと言われて慌てたと言うより、今も鳴っている胸の音が聞こえてしまうんじゃないかと不安になったのだ。
朝はほとんど音はしないと説明されてるけど、俺の耳は「チクタク」と言う音がずっとしているのだから。
「なんだか、初々しくていいですね」
雅さんの瞳が静かに緩む。
「本当だね。僕達も最初はこんな感じだったっけ? 雅」
「ん〜、亮は今も昔も変わらないかな。そう言う私も、あんまりかも」
仲の良い、夫婦だと思う。
「いいな! 羨ましいなぁ!」
蕾さんは憧れるような眼差しを向けて、二人を見ると突然俺の横に並んだ。
「え——?」
唐突に指を絡ませてきて、手が少し強く握られる。
「あははっ! 積極的な彼女さんだね!」
珍しく声を上げて笑う亮さんに、俺は思わず視線を下げた。
頬が熱い。
でも、蕾さんの手、しっとりとしてい柔らかくて、ずっと握っていたくなる。
俺が軽く握り返すと、蕾さんは少し驚いたように目を見つめ返してきた。
「二人の未来に——幸あれ」
首から下げた小さい小瓶。中には何かしらの液体が入っていた。
それを亮さんが包むように握って、俺達に向けてそう言ってきた。
「あ、あの、ありがとうございます。ところで、いつも思ってたんですけど、その瓶の中身ってなんですか?」
「これかい? 御神水だよ。近くの神社にある湧き水を毎日汲んでるんだ」
「亮はね、医者なのに神人深くて、『心爆症』が治せるようになりますように、って神棚にお供えしてるんです」
その話を聞いて、亮さんのイメージが少し変わったかもしれない。
優しいし、知的だけど、神秘に頼るような人じゃないと思っていた。
「そう、なんですね。自分の父も、神主だったので、なんか嬉しいです」
俺は素直にそう言った。
その後は、少し雑談をして亮さん達と別れた。
「いい人達だったね! 幸あれ、だってぇ〜」
亮さんに言われたことを思い出して、蕾さんの口元がにへらと綻んだ。
蕾さんの足取りは軽い。
でも、明日でこれが終わってしまうと思うと、嬉しさの後ろに孤独が待っていて、彼女のように素直になれなかった。
俺は、あの時からずっと手を握ったまま。
自分に刻みつけるように、彼女の温もりを一秒でも長く——感じていたい。
「お家に、着いちゃった」
少し寂しそうな蕾さんの声色に、俺の胸がさらに締め付けられる。
蕾さんの方を、見れない。
「……大丈夫だよ。また——会えるよ」
柔らかい口調で蕾さんが口を開いたが、少し震えている。
はっ、となって下に向けた顔を上げると涙が滲んだ彼女の顔が映った。
「私も、ずっと斗賀くんと一緒がいいよ……」
初めて聞いた、彼女本音。
なんとか笑顔になろうとするが、口元がくちゃくちゃと歪む。
その拍子に蕾さんの頬を涙がとめどなく、伝う。
ただ、それでも彼女は笑おうと必死だった。
「やだよ。離れたくない……でも、だめなの——」
嫌だよ、俺だって。
「——斗賀くんも笑おう。寂しいけど、笑顔でお別れ……したいな」
その言葉に俺は耐えられなくなって、蕾さんを感情のままに抱きしめる。
彼女の体は熱い。
父親の神社で抱き締めた少女の頃の、蕾さんと変わらない。
頭を撫でる彼女の手が昔よりも大きくて、あの時のような安心感を与えてくれた——




