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第十八話 鉢合わせと少し先の未来

 「さっきの爆発、驚いたね」


 エコバッグを肩にかけて横を歩く、汐音さんは頭をキョロキョロとさせて壁の方を見ていた。

 遠くの方でもくもくと立ち上がる煙が見えたけど、街の中は静かだった。


 そうですね、なんて相づちを打ちながら俺と汐音さんは帰路についていた。

 両手に持った二人分の食材が地味に重い。

 一応、なにかあった時のために、多目に買ったが少し買いすぎた。


 「ねえ、斗賀見くんって一人暮らしだよね」


 唐突な質問に俺は思わず言葉が詰まる。


 「……そ、そうですよ」


 やましい関係じゃないけど、蕾さんのことがバレるのはまずい。

 見つかれば、蕾さんは殺されて。俺はこの街から永久追放となる。


 「今日さ、家に行っていい? 昨日のお詫びにご飯作ってあげるよ」


 俺の前に汐音さんがヒョイッと飛び出す。

 ぶつからないように足を止めると、何やら探るような瞳を向けてきた。

 これが平時なら良かったのに、我が家には特大の爆弾がいるのだ。


 「あ〜、嬉しい申し出……なんですが。今日はちょっと」


 なるべく汐音さんに目を合わせないようにして、俺はその横をツカツカと通り過ぎて行く。


 「あ、俺の家こっちなんで」


 と、適当なことを言ってまったく関係ない道へと、俺は入って行く。

 少し遠回りになるが仕方ない。


 追っては……来てない。

 明日、職場で会ったら謝ろう。

 心の中で謝罪しながら、俺は足を進めた。


 「ふぅ、ようやく帰ってこれた」


 一旦、荷物を下ろしてポケットから鍵を取り出した。

 鍵穴に差し込んでガチャリとドアノブを回すと、ゆっくりと引いた。


 「ただいま〜」


 重たい荷物と、遠回りをしたことで体力を奪われて、言葉の尻がわずかに揺れる。

 その声に反応するように、部屋の奥からガサガサと物音がした。


 「——へぇー、ここが斗賀見くんの家なんだね」


 は? え? なんで?

 俺の心の中が焦燥感に覆われると、変に股間の方がぎゅっと縮めるような感じがした。


 「し、汐音さん!? なんで!?」


 そう言うしかなかった。


 「なんか、斗賀見くん隠してる顔してて、気になっちゃった。テヘ」


 なんて、ふざけて見せるが俺はそれを相手にする余裕はない。

 ガチャッと奥の扉が開く音がした。


 この時ほど、時間が巻き戻って欲しいと思ったことはない。


 「斗賀くん、おかえり〜」


 蕾さんの陽気な声。

 その後に、汐音さんが。


 「え? 蕾——?」


 ——汐音さんは紗花蕾の名前を呼んだ。


 ◇


 隔離区と言うのは人々が安全に暮らせる都市のことを指している。

 人口はおよそ百万人くらいで、この謎の感染症が発生してから急ピッチで建造が進められた。


 政府による強引な政策は、かなりの非難を浴びて暴動にまで発展したと言う話も聞いている。

 聞いている、と言うのは、当時俺、神祈斗賀見はまだ子供だったこと、それと両親が死んだことに、この耳のせいで人との関わりを避けて、閉じこもっていたことであまり知らない。


 気づいた時にはこの隔離区に向かうバスに乗せられていて、眩い閃光が俺の瞳の奥を照らしたことを覚えている。


 施設の子供を乗せたバスは、感染者の襲撃を受けて大破した。

 死者三十名。生存者、一名。

 それが俺である。


 目の前で、起きた突然の惨劇。

 仲の良い友達こそいなかったが、見知った顔はここで全員が死んだ。

 肉片になって、父と母の元に向かったのだ。


 羨ましい。なんで俺だけ生き残ったのか、血と肉の焼ける中で俺はそう思った。

 割れた窓から車外に吹き飛ばされて、怪我はしたけれど感染はしていなかった。


 後で知ったことだが、光を見ると同じように、この病気に感染するとのこと。

 動画や映像越しでもそうだ。


 だから、隔離区の中のネットワークは完全に外から遮断されている。


 人権もあるし、食料も、仕事だって。

 外の世界が今、どうなっているか知らないが旧来の生活は保障されていた。


 殺傷規定第一号第一条規定

 『感染を広げた者は、即殺処分とする』


 つまり、この法律があるからこそ、下手なことはできない。

 この隔離区での人権は、法律を守るものにのみ適応される。

 それ以外には——ないのだ。


 外からの襲撃には圧倒的な防御力を誇る。


 だが、内側に侵入された時——地獄の監獄へと変わる。


 この日——第五隔離区セクターβは崩壊した。


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