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第十五話 感染源と秋の空

 あの日から三日間、俺は隔離措置を取られている。

 ここは検疫所近くの病院の一室だ。


 医者が音を測る機械やら、心臓の音を録音する機械を部屋の中に運び入れてきた。

 看護師達がせかせかと準備をする姿を横目に、医者から問診を受けている。


 「神祈さんは、本当に"光"を見ていませんね」


 俺は「はい」と、頷くと、何やら紙に書き始める。

 その後も何個か質問を受けては、メモを取るを繰り返していると、機械の設置が終わったようだった。


 この三日間、毎日行う検査。

 慣れたように上の服を脱ぎ、医者は胸に聴診器を当てる。

 壮年の男性は目つき鋭く、何度も俺の胸に聴診器を当てた。


 軽く頷いて、次は機械による測定。

 それが終われば機械を片付けて、外に出て行く。


 医者だけが残り。

 「検査結果に何もなければ、明日退院できますよ。安心してくださいね」

 と、言葉を残して部屋を後にした。


 背中からベッドに転がると、白い天井をぼんやりと眺めた。


 感染から症状が発生するまで、二日。

 念のため、一日多く見るらしいとのこと。


 爆発した宗教家の破片を浴びた俺は、こうして検査入院と言う名の隔離措置が取られた。

 分厚い壁があったため怪我こそはなかったが、本当にすぐ反対側では凄惨なことが起きていたらしい。


 爆発の——閃光。


 見たら、終わり。

 あれは光を媒体として——感染する。

 そのことに気づくまで、人類は多大なる犠牲を出して今の体制が出来上がった。


 「あいつ、大丈夫かな」


 思わずそんな言葉が出た。

 一度荷物を取りに帰宅することを許されて、家に戻った。

 お金と合鍵を渡しはしたが、その辺で捕まってないか心配になる。


 ——トントントン

  

 そうぼんやり考えてる、病室の扉を軽くノックされた。


 「斗賀見くん、お見舞いに来たよ。こんにちは」


 また、汐音さんがお見舞いに来た。また、と言ったのは三日間毎日来るのだ。

 一応、午前十一時までの面会は許されていて、検疫官がいないため検診ができない第三検疫所は休み。

 彼女はここぞとばかりに、有休を取ったって言っていた。


 貴重な休みをこんなことに使わないで欲しいとも思ったけど、一度、本人に言ったら不機嫌になったからもう言わない。


 「汐音さん、こんにちは。明後日から、俺、復帰できそうです」


 明日が退院なら、明後日から検疫官としての仕事ができる。


 「……うん、良かった」


 そう言った汐音さんの顔は沈んでいるように見える。


 「えっと……」


 俺が彼女の反応に口ごもっていると、汐音さんは申し訳なさそうに口を開いた。


 「その、私が引き留めなければこんなことにならなかったのに……その——ごめんなさい」


 そう言って深々と頭を下げてきた。


 「ちょ、違いますよ。これは、汐音さんのせいじゃないです。それに感染しなかったですし、俺は元気ですよ」


 元気であることをアピールするために立ち上がって、力こぶを作ったり、飛び跳ねたり。

 俺は……何をやってるんだ。

 とりあえず、無事なことを必死にアピールした。


 すると、汐音さんがゆっくりと顔を上げる。

 目があったが、力がなく、いつもの澄んだ瞳が曇って見える。


 そこまで思い詰める必要はないのに、な。

 実際、時間ギリギリまで話していて、感染者が活性化する時間ではあった。

 鋼鉄の壁があるから大丈夫と思っていたら、こんなことになるとは誰が想像できるか。


 つまり、汐音さんは悪くない。

 それに彼女と話してるのは楽しいから、好きだ——複雑な気持ちだけど、な。


 「……でも」

 「でも、じゃないですよ。汐音さんが気にすることじゃないです」


 いつもなら後頭部でまとめた黒い髪の毛が忙しなく動いているのに、今は怒られた後の犬の尻尾のように静かだった。


 「それに、俺は汐音さんと話してるの嫌じゃないです。あの日は、たまたま茜さんとも話してて帰り遅くなったのも原因ですし」


 本当に偶然。そうとしか言えない。


 「——斗賀見くん……なんで、平気なの?」


 それはこんなことになったから、と言うことだろうか。

 一拍、思考が遅れると、汐音さんが次の言葉を紡いでいた。


 「酷い状態だったんだよ……頭から真っ赤で、っ、、ち、血だけで」


 汐音さんが口元を押さえた。


 「私、それを見てその場で吐いて、動けなくて。なのに、斗賀見くんは……斗賀見くんは、どうしてそんなに笑ってられるの——」


 「——慣れたからです」


 俺は感情的に言う汐音さんに考えることなく、そう言った。

 

 「慣れた……そんなの——っ!」


 なにかを言いかけて唇を強く噛むと、くるりと背中を見せた。

 そこで初めて彼女の髪の毛がハラリと動いた。

 背中越しに俺に話しかけてくる。


 「……ごめんなさい。今日は帰るね」


 そう言って、俺は一人病室に取り残される。

 外に出て行く彼女の肩はわずかに震えていて、自分の感情を抑えているようだった。


 ストンとベッドに座る。

 俺に変わって今の気持ちを代弁するように、ベッドが悲鳴を上げてくれた。

 悲しませるようなこと、言ったかな、俺。

 今度は天井じゃなくて、白い壁を見ながら心の中でぼやく。


 目を瞑って、あの日の光景を思い出す。

 瞼の裏には、"閃光"と赤い血の雨が映っていた。

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