7 帝城でのお茶会
ノエル・サーチリザルト先輩に付いていくと、たくさんの初等学校に所属する下級貴族を紹介してくれた。そうして私はみんなで円卓に座ってお茶を飲みながら、人形派閥設立の宣伝をすることにした。
「皆様、本日はお会いできて光栄です。ところで話は変わるのですが、私、初等学校で新たに創作系派閥として人形派閥を立ち上げたいと考えているのです。その為には、3年生以上の生徒一人を含む3人の派閥員が必要となります。もしこの中にお人形遊びが好きな方がいらしたら、ご一緒致しませんか?」
私が人形派閥への誘いを口にすると、少なくない下級貴族女子たちが、お人形遊びについて話をし始める。そしてそんな中、たった一人だけ手をあげてくれた人がいた。
紫色の長髪を携え水色の瞳をした綺麗な人だった。確か新5年生だったかな?
「はい……」
「えっと、そちらの……確か、ルメール子爵家のミーレス先輩ですよね。どうぞ」
「それはどんなお人形でも構わないのかしら?」
「はい! どんなお人形でもぬいぐるみでも構いません!」
「ちなみに貴方の人形は?」
「私は、ヴァルプルギスエンデの兎のぬいぐるみを使って活動する予定ですが、もちろんお人形を持っていない方であっても、被服派閥などと協力して新しく作るのならば歓迎致します」
「ヴァルプルギスエンデと言ったら結構な高級ぬいぐるみ製造元だった気がするけれど、貴方、本当に持っていて?」
「はい! 持ってます! ウサミントって言います!」
今日は連れてきていないというか、お母様が絶対に駄目だというので連れてくることは叶わなかったが、ウサミントは確かに我が家にいる。
「そう……嘘はついていないようね。いいわ、私が3年生以上の一人として人形派閥に入ってあげる。ちょうど創作系派閥を探していたところなのよ」
ミーレス先輩はそう言うと優雅にお茶を一口飲んだ。
「本当ですか!? 助かりますー!」
「良かったねエーデル!」
ノエル先輩が軽く手を叩きながら、声を弾ませた。
そんな折、別の下級貴族が情報を齎してくれる。
「人形といえば、第1王女殿下と第5王女殿下も大層気に入ったお人形を所有されていると聞いたことがあるわ」
「まぁ……私たちが余り知らないだけで、まさかお人形遊びって割と主流な趣味なのかしら?」
「この中に王女殿下たちとお会いになったことがある方がいて?」
ミーレス先輩が聞くと、みんな黙り込んでしまう。
下級貴族ではあまり王女殿下と会う機会はないのだろうか。
するとノエル先輩が声を上げた。
「私は、第5王女殿下だったらお会いしたことがあるわ。その時も確かに人形に着せるお洋服をご所望だったみたいだから、噂じゃなくて本当のことなのかもね」
ノエル先輩はきっと被服派閥での活動中に第5王女殿下にお会いしたのだろう。被服派閥で人形やぬいの衣装を作ろうとしていたとか、まるで私と考え方が同じに思えた。第5王女殿下……もしお会いすることが叶ったならば仲良くなれるかもしれない。
そんなことを考えながら下級貴族同士でのお茶会を楽しんでいたのだが、そこへ上級貴族の初等学校生徒の集団がやってきた。
「貴方達、ちょっとよろしくて?」
金髪縦ロールの上級貴族のその一言に、私たちは息を飲んだ。
「これはこれは……ウェスタンライト公爵家のリーゼロッテ様」
この中で一番親の爵位が高いミーレス先輩が立ち上がると、リーゼロッテ様たちの前に進み出て一礼して対応した。
「あら、ルメール家のミーレス……だったかしら?」
「はい。覚えていただいていて光栄にございます。本日は我々下級貴族会にどのようなご要件でしょうか?」
「別に貴方たち下級貴族たちに要件があるというわけではないのだけれど、貴方よ、貴方! 私は貴方に用があるのよ、エーデル・フラワークロイツ!」
リーゼロッテ様は私たち下級貴族に用があるのではなく、私個人に用があるのだと私を指名した。他の新一年生である下級貴族たちは突然の上級貴族令嬢の登場に怯えて縮こまっていて、いまにも泣き出しそうだ。無理もない。まだ5、6歳の子供なのだから。だが、私は冷静に口を開いた。
「は、はい! 私になにか御用事でしょうか?」
お茶会の席から立ち上がり、ミーレス先輩同様にリーゼロッテ様の前に進み出て一礼する。しかしリーゼロッテ様は豪華な扇で自身の口を覆うと、何やら気恥ずかしそうにして黙り込んでしまった。
うん? どういうことだろう。用事があったんじゃなかったのか。
「エーデル様……リーゼロッテ様は2つ年上ではあるけれど、クラウロード様の許婚なのよ」
私の横で耳打ちするようにミーレス様が私に教えてくれた。
つまり、クラウロード様のことを私に聞きにきたってこと?
でも私、アイネリア様がきっと大丈夫って言うから医務室には行ってないよ? まぁあれは演技だったわけだからクラウロード様はピンピンしてると思うけどさ。だがそれは私たち二人だけの秘密だ。勝手にクラウロード様が実は膨大な魔力を隠し持っていることを教えてはいけないだろう。どうすればいいだろうか? 私は苦慮した末に、取り敢えずアイネリア様のお見立てをまとめることにした。
「もしかして、クラウロード様のことでしょうか? 母、ヴァイスリリーとクラウロード様のお母様のアイネリア様は貴族学院時代からの親友であると伺っております。先程少しお話させて頂いた感じですと、アイネリア様は、クラウロード様はきっと大丈夫だとおっしゃっていました。私にはクラウロード様の詳しいご容態は分かりかねますが、しかしアイネリア様のお見立てが正しければ、今頃は医務室を出ている頃合いではないかと……」
視線を伏せたままにそう説明をしてアイネリア様のお見立てをまとめると、リーゼロッテ様は扇を閉じること無く私に問う。
「そう! 貴方は医務室に行ったわけではないのね?」
「はい……!」
私が返事をすると、上級貴族の取り巻き達が「アイネリア様のお心を案じますわ。きっとクラウロード様がご心配だったでしょうに、この下級貴族と来たら、様子を見に行くこともなく、アイネリア様のお見立てを真に受けるだなんて……! リーゼロッテ様! 我々は今すぐにでも医務室へ向かうべきですわ!」とリーゼロッテ様を医務室へと誘導せんとする。
まぁ行くのはいいけど、多分もういないと思うけどね。
私は内心さきほどの愚か者演技を見た時同様に馬鹿馬鹿しいと思いつつも、顔を伏せてリーゼロッテ様の動向を窺っていた。
「そう、そうね。では私は急いで医務室へと向かいますわ。エーデル・フラワークロイツ、一応ありがとうと言っておくわ!」
そう言って扇を閉じたリーゼロッテ様は踵を返すように私たち下級貴族の元を去っていった。
「ふう。よくやったわねエーデル様。いえ、これから人形派閥でご一緒するんだもの。エーデルとあえて呼ばせてもらうわ。エーデル。あの一言で事態を察せられるなんて、貴方本当に1年生かしら?」
とミーレス先輩が私に訝しむような視線を送ってくる。
あれれ、私、一年生としてはやりすぎてしまっている? いやそんなことないよねたぶん。
「偶然です、偶然!」
そう返して場を和ませると、この下級貴族会の実質的な主催者であるノエル・サーチリザルト先輩が「なんにせよ、四公のご令嬢を不機嫌にさせること無く済んでよかったですね!」と微笑む。
ノエル先輩の言う四公とは、ノーザンライト公爵家、サザンライト公爵家、そして先程のウェスタンライト公爵家に、イースタンライト公爵家を加えた四公爵家のことだ。他にもその名に冠している光の名から四光と書く場合もある。この四公こそが現在のシグルド帝国皇帝陛下を補佐して主導している貴族たちである。貴族を束ねるノーザンライト。商人を束ねるサザンライト。そして魔法系職を束ねるウェスタンライトに、創作や工芸職人を束ねるイースタンライトと各自支配する分野は異なるが、確かにこの帝国を四つの力で支配しているのだ。我がフラワークロイツはかつて武力を束ねていたセンターライト家に属していたのだが、武力を束ねるのはやりすぎだという何代か前の皇帝陛下によって、四公と皇帝家に併合されて以来、どこの勢力にも属することも叶わず、戦争もなく平和なものだから貧乏貴族街道まっしぐらというわけである。
まぁ、私はそんなどこにも属さないフラワークロイツのあり方は割と気に入っていたが、お金に関しては別である。なんとかしなければならないとは思ってはいる。
そんな事を考えていると、祝福授与式後のお茶会もお開きとなり、私はお母様に合流すると、帝城をあとにするのだった。




