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どうしようもなくオタクな私が愛される方法  作者: 成葉弐なる


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6/12

6 祝福授与式

 帝都シグルドガーデン北側の貴族街の中心にあるシグルド帝国帝城の大広間で行われた祝福授与式兼お茶会には、多くの貴族たちが自身の子を連れて馳せ参じていた。

 なんでも新たな貴族子女にとってはこの場で祝福を与えられた者のみが、後に真に貴族として振る舞うことが許されるという話であり、母からは欠席は重病を患っていたとしてもあり得ないと言われている。

 私はといえば、普段着る漆黒のワンピースではなく紅色のドレスを着ていることに慣れない気分で、祝福の授与式が始まるのを母と共に待っていた。加えて、母からは祝福を皇帝陛下から賜る際に使うという指輪を渡されている。当家の宝飾品の類は数個を除いて売り払ってしまっていたと思っていたので、私は意外に思いつつもその指輪を受取り、チェーンを付けて胸にペンダントのようにして下げている。


「良い? エーデル。名前を呼ばれたら陛下の元へ行って一礼するのよ?」

「はい。お母様」

「そのあとは、覚えているわね?」

「はい。承知しております」


 そろそろ祝福授与式の時間なのだろう。お母様が心配そうな表情で私に確認する。

 そんな時だった。会場に大きな声が響いた。


「皇帝陛下。ご入場!!」


 多くの騎士や側仕えを引き連れて、皇帝陛下が大広間中央の階段をゆっくりと降りてくる。

 儀式用の豪奢な長髪ウィッグを身に着けた皇帝陛下は、これまた儀式用の豪奢な衣装で身動きを取るのが大変そうに見えたが、私はそれ以上に陛下の発する莫大な魔力のオーラに圧倒されていた。禍々しくも清々しく、しかし見るものに威厳を感じさせるような圧倒的力を思わせる魔力だった。陛下は階段の一段高くなっている踊り場で止まると、台が運ばれてきて設置された。

 あれが第17代皇帝陛下、リオネス・ドラゴンルーラー様。

 初代皇帝は帝領北のノーザンライト山脈に連なる強大なる力を持つエンシェントドラゴンを討伐しドラゴン族を従えたというシグルド様。その功績とドラゴンルーラー(ドラゴンの支配者)の名を(ほしいまま)にし、自身の苗字としたという。そしてその末裔がリオネス様だ。伝説のように語られるお話は、小さい頃に母から聞かされたものだったが、リオネス様のこの圧倒的な魔力を見れば、どうやら伝説は本当であったことを思わせた。17代目にしてそして、戦争無く平和を維持している帝国においてこの魔力量となれば、当時の初代皇帝は如何ほどの実力を誇示していたのか。


「ではこれより、余より新たな貴族候補に祝福を授ける!」


 リオネス皇帝陛下が一言を発すると、陛下の脇に控えていた側近により名前が読み上げられた。


「エーデル・フラワークロイツ。前へ!」


 えーっ! よりによって一番最初!?

 私は緊張でどきどきと心臓を鳴らしつつ、陛下の前へと進み出た。

 そうか、お母様はだから何度も何度も私に言い聞かせていたのか。一番最初だから。

 私はいつものようにドレスの裾をもって一礼するとペンダントとして首から下げていた指輪を捧げるように両手で陛下の前に差し出した。


「フラワークロイツ騎士爵家の娘――エーデルに、唯一神イアーナ様の御名の元、祝福を授ける。ブレッシング」


 皇帝陛下が私の名を呼び、そしてイアーナ様の御名の元にブレッシングを詠唱した。

 お兄様がいつも食事の際にしているのとは比べ物にならないほどの光が陛下の胸から出て、私の手の上に降り注ぎ、指輪にその魔力が吸われていく。


「祝福感謝致します。陛下にも唯一神イアーナ様の祝福があらんことを、ブレッシング!」


 私はお母様に習った通りにブレッシングを詠唱した。

 自分の身体から少ない量の魔力が放出されるのを感じる。

 たぶん私の保有魔力量の2割くらいだろうか?

 私の魔力値が10だったことを考えると、詠唱ブレッシング1回につき2が消費されるということだろう。覚えておいて損はない。

 しかし、私はこのブレッシングの詠唱をするのは初めてだった。

 別にブレッシングを使ったことがないわけではなかったが、練習でもお母様からこう言うのよと教えられるのみで、実際に詠唱をしたことはなかった。

 いつもは無詠唱でやっちゃうんだよねぇ魔法。

 そんなことを思っていると、私の胸から皇帝陛下が出した光の量に勝るとも劣らない量の光が飛び出して、陛下の頭上に降り注いだ!

 やば、やりすぎたかも。普段無詠唱しか使わないからどうにも加減が、ね。


「おぉ! 素晴らしき祝福だ! 日がな一日人形遊びに耽っているというそなたが一番手というから心配していたが、しかし杞憂であったようだな。今後も貴族として研鑽を続けよ」


 とリオネス陛下からはお褒めの言葉を賜る。

 私が人形遊びに耽っているのって皇帝陛下にまで伝わっていたの!?

 私が混乱しつつも踊り場からゆっくりと降りると、こちらを見ていたクラウロード様がにこりと私に笑いかける。いやいやいや、別になにかやらかしちゃったわけではないから! なんで笑ってるんですかクラウロード様!

 そうして踊り場から降りると、私を皮切りに下級貴族から順番に名を呼ばれいていく。


「エーデル、貴方動けるのね? 大丈夫よね?」

「はい。お母様。少々やりすぎてしまいました」

「そう。それならいいのよ……」


 お母様は何故か私の心配をしていたが、私はなんともない。

 それ以降、見れば陛下からの祝福に対して返す光はせいぜい1/100程度が関の山だ。

 小さな小さな魔力で返すというのが習わしのように思えた。

 やっぱり私、なんかまずいことしちゃったかな。

 そうして20名ほどの貴族の子が陛下から祝福を受けて返し、ついに最後となるクラウロード様の順番がやってきた。

 陛下が祝福を授けると、クラウロード様を心配そうに見やる。

 どうやら陛下はクラウロード様が魔力値0なことを知っているらしかった。


「出来るのか? クラウロードよ」


 陛下が小声でそう聞くのが聞こえた。


「はい。全力で以てお返し致します。はああああああああああああ! 皇帝陛下に唯一神イアーナ様の祝福があらんことを! ブレッシングー!」


 クラウロード様は雄叫びを上げると、ブレッシングを仰々しく詠唱。

 するとぽっと小さな小さな小さな光が陛下の頭の上から降り注いだ。

 陛下に光が降るのを見送ると、クラウロード様は膝をついて、ぜぇはぁと肩で息をし始めたではないか。


「よくやったぞクラウロード! クラウロードは魔力不足の貧血のようだ! 誰か! 医務室まで運んでやれ!」


 と陛下が言い、前に出てきた騎士がクラウロード様を抱きかかえると、医務室へと運んでいく。私は一連の騒動をバカバカしく思いながら、クラウロード様渾身の魔力値0の愚か者演技を見送り、皇帝陛下にまで嘘をついていて大丈夫なのだろうか、と心配をした。


「これにて祝福授与式を終える! 貴族候補たちはさらなる研鑽を!」


 と皇帝陛下が大きな声で言うと、会場には拍手が鳴り響いた。

 陛下が階段を上がり去っていくと、お茶会を再開した淑女たちによって頻りに噂話が花咲き始めた。


「見ました? ノーザンライト家のクラウロード様」

「はい! たかだかブレッシング1回にあの騒ぎよう。まるで品がなっておりませんわね」

「本当に! 雄叫びを上げるだなんて陛下に失礼では?」

「さすがは魔力値0の愚者ですわね。アイネリア様もさぞご傷心でしょうに」

「ですが魔力値を少しは伸ばせたということなのでしょうか?」

「さぁ……それはどうなのでしょうね。魔力値0の平民ならば本来は詠唱すら途中で失敗する可能性もあると聞きますし、たぶんご自身の命を削って魔力を生成したのではないかと……」

「まぁ、命を削ってだなんて野蛮ですわね」

「えぇ、本当に! 貴族にあるまじき行為ですわ」

「それよりもですわ! 皆さん最初のフラワークロイツ家のエーデル様の祝福を見まして?」

「見ましたわ! 陛下よりも大きな量の光に見えましたが……」

「まさかあの噂の人形狂いが魔力量で陛下に匹敵すると?」

「そんなことあるのかしら? 私、生徒登録会ではせいぜい魔力値10程度だったと聞きましてよ?」

「まぁ、それじゃあクラウロード様のように命を削って魔力を作り出したのかしら?」

「騎士爵家の娘さんですもの。それがことの真相でしょうね。陛下の前で見栄を張ろうだなんて、無礼ではなくて?」

「えぇ本当に! ほほほ」

「しっ! 皆様お静かに、アイネリア様とヴァイスリリー様のお二人に聞こえてしまいますわ!」


 いやしっかり聞こえてるんだけどね……。しかし命を削って魔力を生成するなんて方法もあるのか。それはそれで大変なことだね。私は自分たちには該当しない事象だとはっきりわかっていたので他人事だ。

 お母様は噂話を聞いて、「エーデル、アイネリア様のところへ行くわよ」とアイネリア様の元へと駆けつけるように私の手を引いた。さすがは貴族学院時代の親友同士だ。

 即座にアイネリア様の元へと駆けつけたお母様は「クラウロード様のところへ行かなくていいの? アイネ」とアイネリア様に問うた。


「えぇ……きっとクラウロードは大丈夫よ。きっと……本当に祝福を陛下にお返し出来てよかった……」


 とアイネリア様は項垂れつつも安心した様子だった。

 それは命を削ってでも魔力を生成したという事実を前に、盲目的に我が子の身を大丈夫だと思い込む母親のそれだった。

 しかし、こんな様子じゃ貴族子女の皆に人形派閥発足の協力を仰ぐこともできやしない。

 私はそう思っていた……のだが。


「御機嫌よう、エーデル様」


 突如として背後から声を掛けられ、私は困惑しながらも振り返ると、そこには被服派閥長のノエル・サーチリザルト先輩がいた。


「ノエル先輩!」


 知り合いを見つけてぱーっと表情が明るくなったであろう私。昨日みた姿と違い、豪華なドレスに身を包み化粧もしているらしいノエル先輩は少しだけ大人びて見えた。


「色々言われているようだけど、身体の方は大丈夫?」

「はい。なんともありません! 魔力たった2を使っただけですから」

「魔力たった2……? それはもしかして先程のブレッシングのこと?」

「はい!」

「おかしいわね、ブレッシングの詠唱には最低でも魔力8はいるはずだけれど……」

「え? そうなのですか?」

「えぇまぁ……私も詳しくはないけれど……それより元気そうで安心したよ! 良かったら下級貴族の知り合いを紹介させてくださらない?」

「はい! 喜んで!」


 思ってもいないお誘いに、私は天にも登る気分で誘いを受けた。

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