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どうしようもなくオタクな私が愛される方法  作者: 成葉弐なる


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2 生徒登録

 オタクである私は、新たな推しを得たことで知識欲に駆られていた。

 なんとしてもクラウロード様のことを知らねばならない。


「では次の方、エーデル・フラワークロイツさん」


 あいうえお順に並ばされた中で早々に私の順番がやってきた。

 この世界の言語はどういうわけか日本語だった。それを知ってからは私は歓喜して家中にある少しばかりの本を読み漁ったものだ。

 貴族を優先すること無く、あいうえお順に並ばせるだなんて公爵家令息であるクラウロード様に失礼でないかと思っていたところだが、クラウロード様が私の2つ後ろに並んだことで、その考えを即座に忘れた。

 私は横向きになりながら、終始横目でクラウロード様を観察していた。

 見れば見るほどにその美しさが際立つ。

 齢5、6歳にしてこの美しなのだから成長したらどんなことになってしまうのか。

 妄想して、鼻血をだしかねないほどに興奮していたが、とりあえず今は生徒登録だ。

 母と共に生徒登録の担当者の前へと進んだ。


「ではこちらの魔道具に手をかざしてください」


 言われ、クラウロード様のことで頭がいっぱいになりながら何の考えもなく中央に水晶のような物がはまっている円形の魔道具に手をかざした。

 すると、体からなにかがすっと抜けていくような感覚がした。

 もしかして、魔力を測定されているのだろうか?


「ありがとうございました。魔力値10、傀儡師の天賦の才が与えられているようですね。その他にも魔力感知適正が高いようです。では次の方……」


 うん? 傀儡師(くぐつし)? 天賦の才?

 もしかしてこれ、保有スキル鑑定の魔道具でもあったりするの!?

 てか私の魔力値低くない!?

 傀儡師という天賦の才が普段やっているヲタコンテンツの一つである、私がぬい活と称しているお人形さん遊びに由来することは間違いないが、しかし傀儡師か。余り貴族っぽくはないよね。本当ならばぬい活だけじゃなくて、犬や猫やその他この世界ならではの動物を飼ったりなんかにもオタクとして興味があったのだが、私の家の経済状況では、それは叶わなかった。子どものためには人形一つ買い与えられるだけでも有難い話だったのだ。だからキサラに物語を書かせたりして、なんとかオタコンテンツの供給を絶やさないようにしてたわけだしね。

 私がそんな事を考えて魔道具の前から動くなくなっていたからか。

 後ろから声がかけられた。


「おい、次俺の番だぞ。邪魔だぞ、どけよ」


 男の子の声で、はっとして我に返る。


「こらカシム! お貴族様にそんな口を聞いて!」

「なんだよかーちゃん! 貴族って言っても、俺と同じ年の子供だろ?」

「バカ言うんじゃないよ! 子供でもお貴族様はお貴族様さ! 下手な口利くんじゃないよ」


 そう言って、ぽかんと殴られるカシムと呼ばれた男の子。

 しかしなんだか男の子の周りにモヤのようなものが視える。なんだろう?

 もやが気になっていた私だったが、もう一つ後ろのクラウロード様がくすりと笑ったような気配を察知。クラウロード様の無邪気な笑顔!! 推しの新たな表情に歓喜する私。だが、あの男の子のもやよりももっと禍々しい巨大なオーラのようなものがクラウロード様にまとわりついて視えた。なんだろうあれ? さっきまではあんなのなかったよね? しかし、それはそれだ。まじまじとクラウロード様を凝視するわけにはいかない。今はとにかくこの場を開けねばならない。


「失礼。どうぞ」


 そう言って場所を開けると、生徒登録担当の教員のもとを後にする……わけがないよね。なんとしてもこのカシムという男子の後のクラウロード様の鑑定結果を知らねばならない。


「? エーデルどうしたの?」


 鑑定担当の教員から少し離れたものの、そこから動かなくなった私の手を、お母様が不思議そうに引く。


「お母様、私、クラウロード様の鑑定結果が気になります」


 正直に白状すると、お母様は「それは私も気になるけれど……」と賛同してくれたようでそれ以上手を引くのを止めた。

 そんな時だった。


「魔力値500!? それに勇者の天賦の才が与えられております!!」


 大きな声で、鑑定担当の教員が叫ぶ。

 あれ? まだクラウロード様の番じゃないよね?

 じゃあもしかして、さっきの頭の悪そうな男子が勇者ってこと!?


「いよっしゃー! かーちゃん! 俺、勇者だってさ!!」


 先程カシムと呼ばれていた男の子が嬉しそうに胸を張る。

 それにカシムの母親が、「あんたが勇者だなんて……」と絶句しているようだ。

 複数の教員が集まってきて、そしてカシムが更に騒ぎ立てる。

 その場は一時騒然となったが、しばらくして皆を伴ってカシム親子が去っていき、ようやく平穏が訪れた。


「お待たせいたしました。次の方……クラウロード・ノーザンライト様」


 鑑定担当の教員に呼ばれ、ついにお目当てのクラウロード様の番がやってきた。

 頑張ってください! クラウロード様!!

 私は精一杯の応援を胸に、彼の鑑定を見守る。


「これは……魔力値0!? それに天賦の才は……愚者(ぐしゃ)……です」


 鑑定担当教員が信じられないといった様子で鑑定結果を読み上げる。


「そんな! うちのクラウロードが魔力値0!? それに愚者!? 愚か者ですって!? 信じられないわ、魔道具の故障じゃなくて?」


 これにはアイネリア様も驚いたようで、魔道具の故障を疑う。

 私も信じられない。まさかあのクラウロード様が!?

 きっとアイネリア様の言うように魔道具の故障に違いないよ!

 アイネリア様の言い分に魔道具を交換する事態になり、すぐに再鑑定が行われた。

 しかし……。


「結果は変わりません。魔力値0、それに愚者です」

「そんな……もう一度……もう一度魔道具を交換して……!」


 アイネリア様が半狂乱でそう言いかけたが、クラウロード様が止めに入った。


「お母様。これくらいにしておきましょう。皆が驚いています。公爵家の者が取り乱すものではありません」


 魔力値0、それに愚者なんて結果でもクラウロード様は平静を保っているように見えた。

 私は正直困惑していたが、しかしこんなときでも落ち着いているクラウロード様は流石だという推しを尊ぶ気持ちもあった。それに……。

 私が考えていると、クラウロード様が鑑定の場を後にしてこちらへとやってきた。


「君も驚かせてしまったねエーデル、それにヴァイスリリー様」


 まだ焦燥が抜けきっていないアイネリア様に変わり、クラウロード様が私たちに声をかける。

 お母様がそれに「いえ……それにクラウロード様はクラウロード様ですから……」と混乱した様子で返した。

 その時、クラウロード様の手を握っていらしたアイネリア様が突然倒れ込んだ。


「アイネ!?」


 お母様が咄嗟に支えに入り、事なきを得たが、もう少しで頭から倒れ込むところだった。


「医者を! 医者を呼んでくださいませ!」


 ヴァイスリリーお母様が叫び、鑑定の場は再び騒然とする。

 集まってきた人々にアイネリア様が運ばれていき、お母様がそれに付き添う。

 私は残されたクラウロード様に声をかけた。


「その……クラウロード様……」

「エーデル。君にも心配をかけたね」

「いえ……」

「たかだか魔力値0と与えられた天賦の才が愚者だっただけさ」


 クラウロード様は平然とそう言い切る。


「クラウロード様はそれで良いのですか? 愚者だなんて……」


 私が直視できずそう言うと、クラウロード様は一言だけ発した。


「……真の賢者は自身が愚者であることを識るのさ」


 私はその言葉の意図するところが読めず混乱していたが、だが私にははっきりわかっていることが一つだけあった。


「一つだけお聞きしても?」

「なんだい?」


 クラウロード様が不思議そうに私を見る。


「なぜ……なぜあの時、魔力を抑え込んだのですか?」

「……」


 私の問いに、クラウロード様ははっとしたような表情をするが黙り込んでしまう。

 そう、私には鑑定の直後から視えていた。クラウロード様を覆う禍々しいまでのオーラのようなものが。それがクラウロード様が水晶に手をかざす直前、一気に彼の内に吸い込まれるように消えていった。そしてその巨大なオーラはいまは元に戻っている。これはきっと膨大な魔力に違いない。私はそう察した。


「……そうかさっき君、かなり高位な魔力感知を覚醒させたんだね」

「覚醒……?」


 私が不思議そうに小首を傾げると、クラウロード様は答える。


「知らないのかい? あれは鑑定の魔道具であり、そして覚醒を促す魔道具でもあるのさ。手をかざした瞬間に魔力値と天賦の才を読み取ると同時に、その者に新たな才を与えることもあるんだ」

「なるほど……それでさっきからみんなにオーラのような魔力が視えるんですね?」

「あぁ……参ったな。これでも魔力制御で隠蔽しているつもりなんだけどね。でもねエーデル」


 クラウロード様が私の手を捕まえると、言った。


「……このことは二人だけの秘密だよ?」


 はにかんだ笑顔でクラウロード様が私の手を強く握り、私は推しの圧に屈した。


「はいっ……!」


 そう小さく返事をすると、クラウロード様が「さぁ、お母様達の元へ行こう」と提案したので、運ばれていったアイネリア様達を追うことにした。

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