第4話・突き付けられた最悪の~取り戻したのは日常で~
第6章 油断が齎す最悪の
第4話・突き付けられた最悪の~取り戻したのは日常で~
重い瞼を持ち上げて、うっすらと目を開いたインスは、天幕の中に設置された明かりの眩しさに一瞬目が眩む。
「「「……………っ」」」
ごくりと、唾を飲み込み、様子を見つめるアインたちを順番に視界に収めて、アインのところで視線が止まる。
「……ぁ……いん……く……」
「…………いんすさま………」
掠れた、吐息のような声を絞り出したインスの呼び掛けに、アインの声も震えて弱々しい。
ぼろぼろと、身体中の水分が涙になって出てきているかのように、止まらなくて、しゃくりあげるアインが、凍えて震える小さな手をきゅっと握りしめた。
「……が、く……なく、て……よ……」
ふわりと、微かに微笑んだインスの、その途切れがちの言葉を、クロードとステールが読み解き、一気に青ざめる。
アイン君が口にしなくて、よかった……
自分が毒入りスープで死にかけたことよりも、アインの無事に心底安堵している。
それもどうかと思うが、二人が青ざめたのは別の理由。
もし、万が一……
((……アインが、一口でも口にしていたら……))
間違いなく即死していた。
インスでさえ、痩せているとはいえ、大人の体格と体力を持つインスでさえ危うかったのだ。
小さなアインに一口でも食べさせていたら、吐かせる間もなく全身に毒が回っていただろう。
それを、そのことを、今の今まで思い至らなかったうかつさに絶句して、二人は一瞬、視線を交わし合う。
「……ごめ、なさ……ぼ、くが……っ」
「すまん! インス!! 俺がっ!!」
震える声をようよう絞り出したアインの声をかき消して、ステールが大きな声で叫ぶとガバリとその場で身を伏せる。
「余計な意地張って! よく知りもしないくせにっ!! すまんっ!!」
「「………………」」
「……るさ……すよ……」
土下座の体勢で大泣きするステールに、クロードとアインは呆気に取られて目を丸くし、インスは声を絞り出して「うるさいですよ。」と苦情を漏らす。
「……ぉ、なか……す……した……」
「……インス……?」
それから、じっとステールを見たインスの言葉に、首を傾げる。
「……ぁ、いん……くん……の、しょ……じ……?」
アイン君の食事は?
「……べ、別鍋に、ある……けど……?」
「な、ら……ささ、と……」
この状況で、何を言っているんだ? と思いながらも答えると、さっさと食事にしろと睨んできた。
「……インス様……?」
やり取りに、ものすごく困惑したような表情でアインがそっと、声をかける。
すると、インスはふわりと、それはそれは優しくほほ笑んで……
「しょ、くじ……して、さい……ね?」
食事して下さいね?
「「「………………」」」
告げたインスの言葉に、クロードとステールは一気に脱力し、アインは困惑したまま言葉に詰まる。
「……アイン。とりあえず、先にお前の食事らしい……この死にかけの病人は、自分のことよりよっぽどお前が大事なんだな……お前のことが最優先で、他は全部後だとよ」
「……え……? で、でも……」
あきれ返ったステールの言葉に、アインはますます困惑……というより、若干混乱しつつオロオロと大人たちを見回す。
「インスにも何か食わせられそうか? 体力を回復させるのに、少しでも入れさせたいが……」
「ぁ、なら、パナードにするのがいいと思います」
そんなアインを見ながら、立ち上がったステールの問いかけにはすんなりと返事が返って来て……
ある意味こっちも優先順位がインスなんだな……と悟る。
「分かった。悪いが、また見てくれ……別鍋には赤い実を入れてはいないが、他が大丈夫なのかとか、パナードにするのも変なものが混ざらないか、お前が見ろ……俺は俺自身を信用できないし、クロードにやらせたら間違いなく食えなくなる」
「……ぇ? ……えっ?」
真面目な顔でそう告げたステールに、何と返していいか分からなくて困惑する。
「よし、行くぞ。クロード、インスを頼むな」
「分かった」
「………………」
「……え……? ス、ステール様!?」
そうと決まればとばかりにアインを抱き上げたステールがクロードに声をかけ、何か言いたげにインスがステールを睨み、急に抱き上げられたアインが混乱して声を上げる。
なかなかにカオスな状況になってきたが……
((……いつも通り、だな……))
それが、日常が戻って来た証拠のようで、クロードとステールは心の中でホッと、一安心したのだった。
第6章第4話をお読みいただきありがとうございます。
死の淵から蘇ったインスが、真っ先に気にしたのは自分の体ではなく、なんとアインの食事(笑)。
自分の失敗を激しく悔いて大号泣するステールと、ブレないインスの過保護っぷりに思わず脱力する大人たち。
絶体絶命の危機から、いつものカオスな日常へと戻ります。
ようやく少し安心できそうですが……?
次回もお楽しみに!
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