第三話 昼食
花音「ほらもっと近づいて!今日からここが優くんの指定席ね。」
やはり近い
な、何させるつもりですか....?
おにぎりを頬張りながら首をかしげた
花音「何って、ご飯食べるんだよ?一緒に。」
ペットボトルのお茶を飲んで
冬華「恐喝されに来たみたいな顔やめてくれない?」
ぷっと吹き出した
花音「冬華それウケる。まあ間違ってないけど!」
風が吹いて花音のスカートが揺れた。本人は気にす
る素振りもない。
ずいっと優の弁当箱を覗き込んで
花音「え-、なにそれ美味しそう。お母さん作り?」
「そうですけど…」
花音「目をきらきらさせていいなぁ、うち冷食オンパレードだよ今日。」
冬華「.....人の家の食事情を羨んでも仕方ないでしょ。」
むうっと冬華を睨んでから、すぐ優に向き直った
花音「じゃあ一口ちょうだい?」
聞いているようで聞いていない。花音の手にはもう
箸が構えられていた
冬華「ため息をついて 強盗は犯罪だよ、、花音」
花音「友達の間ではギフト交換って言うんですう。はい優くんも私のから好きなの取っていいよ?」
花音は自分の弁当をずいっと優の前に押し出した。冷食だと言っていたが、妙に彩りだけは良かった。
ここで空気を読まなければ、彼女らから絡まれる事ももう無くなるだろうか、
「じゃあ、からあげで」
花音「ぱちくりえ、遠慮なくいったね!?」
冬華「口の端がほんの少し上がった .....度胸あるね、君。」
取られたからあげの跡地を見つめて
花音「私のメインディッシュ.....まあいいけど!
そのかわり優くんのそれ何?その茶色いやつ。」
花音はもう切り替えていた。指差した先は筑前煮だった。食い意地の張り方が小学生男子と変わらない。
(冬華は)静かに食べながらも、横目で優を観察している。昨日の怯えた様子とのギャップを測っているようだった
花音「ねーねー、これ何ていうの?」
「筑前煮っていうやつ」
復唱して
花音「ちくぜんに.....なんかおばあちゃんみたいな名前。おいしい?」
ぽつりと
冬華「筑前煮くらい知っておきなよ。受験に出るかもしれない。」
花音「出ないでしょ!」
あまりに高校生に似合わない会話だ、思わずクスッと笑ってしまった
「あはは」
ぴたっと固まって......
花音「あ、今笑った」
(冬華も)箸を止めた
ぱあっと顔が明るくなった
花音「なにそれ!もっと早く笑ってよ!昨日ずっとお化けみたいない顔してたのに!やっぱり思った通りだ。昨日から変だと思ってたけど、優くんって普通の二年と反応違うんだよね」
花音は嬉しそうに優の背中をばしばし叩いた。痛い、普通に。水泳部で鍛えられた筋肉はこの貧相な体には効きすぎる。
小声で.....
冬華「花音、痛がってる。」
はっと手加減して、でも笑顔はそのまま
花音「ごめんごめん。でもさ優くん、笑うと普通にかっこいいじゃん。もったいないよそんな顔してたら。」
冬華「……ええ。確かに怖がり方が雑というか、状況をちゃんと見てる。だから前から少し気になってた」
屋上の風が少し弱まった。三人の影がコンクリート
の上で重なっている。
どういう風の吹き回しだ?
かっこいいなんて母親と姉ぐらいにしか言われた事が無かった。思わず顔を赤らめてしまう。
花音「きょとんとして吹き回しって何?」
呆れた顔
冬華「風の向きが変わること。つまり急に態度が変わったねって皮肉だよ。」
むっとして
花音「私いつもこんな感じだし!ねえ冬華、私って怖いイメージある?」
冬華「昨日の動画見せて脅した人間の台詞じゃないね。」
花音「あれは戦略!コミュニケーションの第一歩!昨日のアレはただのきっかけ。ほんとは前からちょっと気になってたんだよね」
冬華が深いため息をついた。この二人のやり取りは日常茶飯事らしく、周囲の空気を気にする様子もない。
冬華「接触する理由ができただけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
思わずため息をつきたくなる…それ、合理性ゼロじゃないか。リスクに対してリターンが見合ってない。
「戦略も何も、ただの犯罪者予備軍じゃないですか」
がーんと大袈裟にのけぞった
花音「はあ!?犯罪者!?ひどくない!?」
宮本の肩が震えている。笑いをこらえているのか…
冬華に気づいて
花音「ちょっと冬華!今の笑うとこじゃないでしょ!」
咳払いでごまかして.
冬華「.....いや、的確だなと思って。」
花音「味方してよ!幼馴染でしょ!」
花音はぷくっと頬を膨らませて優を指差した。
花音「いいもん、犯罪者予備軍でもなんでも。こうして優くんが毎日おいしいおかず持ってくれば許してあげる!」
弁当の蓋を閉じながら
冬華「.....それ、たかりって言うんだよ。」
「まぁ思ってた脅しじゃなかったし良いですよ」
もっと怖いものかと思っていた。いや、俺のよく読む漫画にありがちな展開を期待していた。そういう意味では残念でもある。
すいっと顔を寄せて
花音「へぇ〜?どんなの想像してたの?」
(冬華も)興味を引かれたのか、本から目を上げ
二対の目が優を見つめている。好奇心むき出しの花音と、冷静だが確実に食いついている冬華。
指折り数え始めて
花音「金銭要求?パシり?それとも......もっとヤバいやつ?」
淡々と
冬華「まあ動画の使い道なんていくらでもあるからね。全裸で校庭一周とか。」
ぶっと吹いた
花音「冬華それ天才!」
引き気味で
「絶対嫌ですよそんなの!というかよくそんな事思い付きますね...」
涼しい顔で
冬華「小説で読んだだけ。実践する気はないよ。.....多分。」
「多分」を拾って
花音「出た、冬華の保険!」
冬華「リスクヘッジと呼んで。」
けらけら笑ってから、ふと真顔になった
花音「まあでもさ、実際そういうのもアリだったんだよ?なんで私たちが屋上でお弁当してるかわかる?本当は入れないのに冬華が生徒会権限で開けてるんだけどさ」
風の音だけが一瞬、間を埋めた。
空を見上げた
花音「暇だったの。ずっと。」
視線は手元の本に落としたまま
冬華「.....なんでも出来るって、つまらないんだよ。」
強者の余裕...!?
この二人は生粋の優等生、部活で見てきたから分かるがスポーツ然り勉強然りなんでも出来る。
花音「ぷっと噴き出して 強者って!ゲームじやないんだから!」
冬華「本のページをめくりながら あながち間違ってないのが腹立つね。」
ごろんとコンクリートに寝転がった
「花音テストも部活も適当にやれば結果出るし、告白は毎日されるし。」
冬華「....自慢?」
花音「事実!むくっと起き上がって優を真っ直ぐ見た だから優くんが必要なの。怯えたり笑ったりツッコんだり、忙しい子って新鮮!」
五時間目始の予鈴が屋上まで届いた。花音はぱん
ぱんと制服の埃を払って立ち上がる。
スマホをちらっと見て
花音「放課後もよろしくね?水泳部の練習、見学させてあげよっか。」
冬華「鍵を指先でくるくる回しながら 拒否権
は。」
花音「ない!」




