第二話 クラスメイト
次の日
朝のホームルームが終わると同時に、ポケットの中
でスマホが震えた。
花音からのLINE。「おはよ~屋上ね!忘れてないよね?」その三秒後に冬華からも。「来て。」一句点ひとつ。温度差がすごい。
昨日あんなことがあったから呼ばれたのは分かる。
…でも、それだけじゃなく、二人ともどこか待っていたみたいな雰囲気があるのがとにかく気になった。
昼休みの屋上は風が強かった。給水塔の影に花音と冬華が並んで座っている。二人とも弁当を広げていて、まるで昨日のことなど何もなかったかのような日常感だった。
ぶんぶん手招きして
花音「こっちこっち!遅いよ優くん!」
高林花音…クラスは一緒だったが話した事なんて碌に無かった。なのに、まるで昔から友達だったみたいな距離で来る。
花音はクラスでも誰とでも話せるタイプだけど俺にはなぜか、一度も話しかけてこなかった。
話そうと思えば話せただろうに、あえて避けてたような感じすらある。それなのに朝から絡まれて少しこの人の事が分かった気がする。この人は…とにかく近い。
物理的にもそうだけど、たぶんそれ以上にパーソナルスペースってやつを一切気にしない。思ったことはすぐ口に出すし、面白そうなら迷わず首を突っ込む。悪く言えば遠慮がない。なのに不思議と嫌われない。
むしろ、周りはあいつに巻き込まれて笑ってる。
笑顔が多くて、表情もころころ変わる。クラスでも部活でも、あいつがいるだけで空気が軽くなる。いわゆるムードメーカーってやつだ。本人はそんな自覚なさそうだけど。
ただあいつ、ちゃんと分かってる。
空気を読むっていうか、人の弱いところとか、踏み込んでいいラインとか。全部わかった上で、わざと踏み越えてくるタイプだ。しかも楽しそうに。
わざわざ間隔を開けて座ったのに平然と詰めてくる。近すぎて胸が…思わずニヤけそうになるが、そんな事をすれば変な人間と思われかねないし、プライドが許さないので息を止めて無理に真顔を作る。
さらに近づいて
花音「ねえねえ、そんな顔してると損だよ?」
ああいうのを一軍と呼ぶのだろうか、天然じゃない。計算でもない。ただ面白いからやってるだけだ。この胸も…ワザとやっているのか?
たぶん、一番厄介なタイプだと思う。
かくいう俺はクラスでは特に目立つわけでもなく、誰からも話しかけられない。
名前を覚えられているかどうかすら怪しい、校内でのみ話す人間がまばらに…そんな立ち位置だった。
卵焼きを箸でつまんだまま
冬華「二分遅刻。」
一方で、宮本冬華は真逆だ。
あいつは距離を詰めてこない。必要以上に喋らないし、無駄なこともしない。ただ、ずっと見てる。
人のことを。
昨日だけじゃない。
そういえば、授業中とか、休み時間とか……ふと視線を感じることが何度かあった気がする。
気のせいだと思ってたけど、あれはたぶん全部冬華だった。
何考えてるのか、どう動くのか。そういうのを、静かに観察してる。…俺の言えた事ではないだろう。正直両者共に見ていて眼福でしか無い高嶺の花。その優れた審美眼から放たれる一言がするどく突き刺さり、クラス内での立ち位置を盤石な物としている。
冬華「……君は本当に騒がしいね」
とか言いながら、少しだけ口元が笑ってる。
あれはたぶん、皮肉半分、本音半分。
頭もいいし、何でもできる。なのに表に出ない。お高く止まり続けている。活発な花音とは真逆な人間…本人がやる気ないだけなのか、それとも全部わかった上で退屈してるのか。
正直、どっちか分からない。
ただ一つ確かなのは、花音に振り回されてるってことだ。
あんなに静かなやつが、あいつの隣だとほんの少しだけ崩れる。
冬華「まったく……まあ、嫌いじゃないけど」
ああいうことを言う時点で、花音にもう負けてると思う。
昼食を食べながら聞き耳を立てる限り、この二人、昔からずっと一緒らしい。
性格は真逆。でも、だからこそ離れないのかもしれない。
正反対のまま、ぴったり噛み合ってる。
見てる分には面白いけど関わる側からすると、たぶん碌な事にならない。
きっかけなんて何でも良かったのだろう。
昨日の事件は、ただ二人にとって俺へ近づく口実になっただけだ。
少なくとも俺は、そう思ってる。




