第四話 水泳部
放課後、ホイッスルの音。濡れた床を歩く足音。塩素の匂い。放課後の体育館の湿った空気は、独特の静けさがある。
水泳部の練習、優はプールサイドで見学している。昨日のせいで花音と冬華に自然と目がいく、その綺麗な泳ぎ方につい目を奪われてしまう。
水面を割る二つの軌跡。クロールで泳ぐ花音はダイナミックそのもので、水しぶきが豪快に上がる。一方の冬華は無駄のないストロークで、音もなく進んでいく。フォームの美しさは全国レベルという噂も頷けた。
ターンして水から上がり、プールサイドに手をついた。息が弾んでいる。競泳水着から伸びる脚が水を滴らせていた。ふと優と目が合った
花音「にやっと なぁに見てんの?」
花音はわざとらしく胸元をなんとなく腕で隠す仕草をしたが、隠しきれるものでもなかった。
隣のレーンから顔を出して
冬華「.....目、泳いでるよ。」
物理的にも精神的にも。冬華はゴーグルを外し、前髪から水滴を垂らしながら優をじいっと見つめた。
その視線に射抜かれて、逸らすことすら許されない空気があった。
「見てない!」
思わず顔を赤らめてしまう。
「集中してよ」
昨日の件がなかったとしても、この二人の泳ぎはやっぱり見入ってしまう。いや、本当に何でだ?もしかして脈アリなのか…?
プールの縁に肘を乗せて、あごを手に乗せた。
花音「完全にサボる体勢えー、だって優くんの反応面白いんだもん。」
水の中で立ち泳ぎしながら
冬華「集中してないのはどっちだろうね。顔、真っ赤だよ。」
くくっと喉で笑った
花音「かわいー。ねえねえ、そんなに気になる?」
周りの部員たちがちらちらとこちらを見始めていた。「あの子誰?」「花音先輩の知り合い?」とひそひそ声が飛ぶ。
振り返って部員に
花音「大丈夫大丈夫、ただのいじり相手だから!」
いじり相手という単語がプール中に響き渡った。
すっとプールから上がり、タオルで肩だけ拭いた。水着の跡が少し白く浮かんで見えた。。
冬華「ほら、赤くなるなら見なきゃいいのに。」
ざばっとプールから飛び出して
花音「分かってるって言いながら見てたのは誰かな
あ?」
花音もプールサイドに上がった。二人が左右から優を挟む形になる。水の匂いと塩素の香りが近い。
冬華「フェンスに背を預けて、濡れた髪を絞った 男の子だね、普通の。」
顔をぐいっと近づけて
花音「で、どっちが好み?」
直球すぎる質問が飛んできた。
タオルを巻きながら横目で
冬華「......それ答えられるわけないでしょ。セクハラだよ花音。」
「今なら、訴えれば勝てる!」
花音「お腹を抱えて あはっ!また訴えるって!優くんそれ好きだね!」
冬華「髪を拭く手が止まった......こっちは動画持ってる側なんだけど。裁判所で流されたい?」
笑いすぎて涙をぬぐいながら
花音「冬華ほんと容赦ない......でもまあそうだよ優くん。口の利き方には気をつけよ?」
冬華「冗談だよ。そんなの本当に使うわけないでしょ。」
練習終了のホイッスルが響いた。部員たちがぞろぞろとプールから上がり始める中、三人だけが取り残されている。
ぐーっと伸びをした。背筋が反って、水滴が静かに落ちる。
花音「さーて帰ろっか。優くん、送ってってよ。」
(冬華は)もうベンチで着替え始めている
花音「あ、覗いたら今度はガチで動画出すから」
「な、分かってる!」
夕暮れの通学路。三人で歩くのは昨日が初めてだったはずなのに、もう何年も一緒にいるような空気だった。正確には、二人が勝手に距離を詰めてきているだけだが。
コンビニの前で足を止めて
花音「アイス買っていい?」
冬華「冬華.....昨日も食べてたよね。」
花音「昨日と今日は別腹!」
花音は許可を待たずにもう店内に消えていった。残
されたのは優と冬華の二人。
少し間があってから
冬華「.....ごめんね。」
それは昨日も今日も聞かなかった類の言葉だった。
夕日が冬華の横顔を照らしている。
冬華「花音はああ見えて寂しがりだから。君を巻き込んだのは私の判断でもある。」
「宮本…」
冬華「前を向いたまま、少し目を伏せた 感心されると困るんだけど。謝ってるの一応。」
自動ドアが開いて花音がアイスを三つ抱えて出てきた。空気が変わっていたことに気づいたのか、一瞬二人を交互に見て。
花音「....なに、いい雰囲気?」
冬華「別に。」
じとっと冬華を見てから、ガリガリ君の袋を破いた。一本を優に突き出す
花音「はい、おごり。」
ソーダ味。選ぶセンスは小学生だった。花音自身は
チョコミント、冬華は無難にバニラ。
かじりながら歩き出して
花音「ね一優くんさ、明後日日曜じゃん。暇?」
(冬華の)もう嫌な予感がするという顔
花音「三人でどっか遊び行こ!」
「えーなんで!?いきなり」
いや、本当に何でだ?もしかして本当に脈アリなのか…?いいや、まさかそんな訳
アイス咥えたまま振り返って
花音「いきなりじゃないよ、もう二日目だよ?十分親友でしょ!」
冬華「冷静に 二日で親友は普通じゃないと思うけど。」
花音「冬華うるさい!すずっと優に顔を寄せて予定あるの?ないの?」
断る選択肢が存在しない聞き方だった。アイスのソ
ーダが溶け始めている。
「ない」
花音「ガッツポーズ 決まり!」
ため息
冬華「.......どこ行くつもり?」
花音「指を立てて 映画!あとカラオケ!あとプリクラ!」
冬華「詰め込みすぎ。」
花音「もうスマホで検索し始めている 映画なにやってるかなー。あ、これ見たい!ホラー!」
画面には血まみれのポスターが映っていた。
冬華「ちらっと優を見た.....君、ホラー平気?」
「人並みに苦手ですけどまぁ見れなくはない。」
正直ホラー映画なんてほとんど見た事無いんだが…ホラー、美人、これは確定演出!断るわけない。
花音「スマホをぶんぶん振って じゃあ決ま
り!十時に駅前集合ね!」
冬華「....待ち合わせ場所くらい相談してから決めなよ。」
花音「だって早く決めないと優くん逃げるかもじゃん!」
性格は正反対なのに息はぴったりだ。
だからこそ、二人から同時に目を向けられると逃げ場がない。
否定できない信頼のなさだった。住宅街に差し掛か
り、分かれ道が見えてくる。
花音「手を振って じゃーね優くん!アイスちゃんと食べてね!」
小さく手を上げて、花音の後を追いかけた。数歩歩いてから振り返り
冬華「....おやすみ。」
二人の背中が夕闇に溶けていく。手の中には溶けかけのガリガリ君と、日曜日の約束。たった二日前まで名前すら知らなかった先輩たちに振り回されている。それなのに一嫌な気分ではなかった。それが一番厄介だと、俺はまだ気づいていなかった。
そしてこの時点で、日曜日がただのお出かけで終わらないことも。
新学期が始まり、リアルが忙しくなってきそうなのでここで完結です!冬華と花音の絡みが良かった…一応3人はこの後幸せな最後を遂げるイメージです。
初めてのなろう小説で新鮮な体験が出来ました。最後まで読んで下さりありがとうございます!また機会があれば読んでくれると嬉しいです✌️




