2.復讐子息は伝えられ、
初めての生誕祭も、2回目の生誕祭も、そしてそれから先の生誕祭も。
これ以上ないくらい輝いていた。時が経つに連れて、人も多くなってきている印象。
何よりも、…儀式を行うティーアが、凄く光り輝いている。
多分唯一無二の存在なんじゃないかな、って思うくらいで。僕は毎年その生誕祭が楽しみになった。綺麗な色を付けてくれる生誕祭。その真ん中にいるのはティーアだし、…その周りでキラキラとした希望に満ちた皆の顔を見るのが僕は好きだ。それは兄さんも例外なんかじゃない。直前までフランさんと言い合いばっかな兄さんも、ティーアが帰ってくると2人とも口を閉ざしてティーアのことを褒め称える。…ちょっと羨ましい。
けど、ティーアの凄さは僕も知ってるし、ティーアのことは僕も認めてるから大丈夫。
そんなことを考えながら、僕は毎年のようにティーアとセラフィーナ様、そしてレオンハルト様と生誕祭で顔を見合わせた。お継母様やお父様は放任主義だから、兄さんにくっついてるっていう条件付きで行かせてもらえてるんだよね。
平民とか身分とかを気にしてないのは、多分僕のお母様の身分が下の方だったから。…よく分かんないんだけど、僕らの家系って結構複雑。
昔から僕のことをよくしてくれるパラヴィお継母様はの実子はアスタグラン兄さんで、パラヴィお継母様の身分は高めって言ってた。
そして僕の実母ことボライフお母様の身分は低めって。
…詳しく聞いてもそれくらいしか返ってこなかった。聞いたのは結構昔だから、今聞いたらまた新しい返事とかくれるのかな。ちなみに、ロイドお父様は…外では完璧主義者なんだけど、家に帰ってくるとお継母様の方が断然強い。気持ち的にも圧倒的大差をつけられている。
パラヴィお継母様は、僕がまだ幼い頃からお仕事で外に出てしまっているお父様をしっかりと恨んでいるようで、僕との時間を沢山作ってくれていた。
はじめのうちはうまく受け取ることは出来なかったけど、…兄さんやアボイドの助力や、ティーアやセラフィーナ様の応援もあってか、その気持ちを受け取ることが出来ている、…気がする。
フルール村の人達だって、兄さんの弟だと分かったら貴族とか関係なく接してくれるし、…いや、元々知らないのか。
けど、知ってるロータスさんだって、僕のことは友達の弟って感じで扱ってくれる。それは嬉しい。
たまにエンシャンツ家にお邪魔させて頂くこともあって、その度にセラフィーナ様とはクリスティーナ様やティーアの話をすることが出来て、…こういう話はセラフィーナ様としか出来ないから。あと、生誕祭では魔法の練習もするようになって。
…昔、2人が言っていた、前世の記憶が〜って言う意味がよく分からなかったけど、最近は分かるようになってきた。だからこそ、2人の魔法のセンス…っていうのかな?セラフィーナ様は新しい斬新な魔法を、ティーアは古くて廃れた難しい魔法を当然のようにやってのける。
…知識が僕らより遥かに次元が違う。
まあ、だからこそ常識はずれな部分があることも否めないけれど…、そこは2人の良い所だろう。それよりも、問題なのは……
「……はぁ、」
…セラフィーナ様のお兄様である、レオンハルト・エンシャンツ様のことだ。
僕より4歳年上であるその人は、地位も権力も名声もある。
それなのにそれを表には出さず、誰にでも優しく紳士的、で有名だった。学園内でも、学年がだいぶ離れ、中等部高等部という差があるにも関わらず、その噂は深く浸透していた。
確かに、毎年の生誕祭で会っていれば、少なからず分かってくる。噂以上の中身が。
地位と権力は当然あるし、名声だってきっとある。僕以外ならば女性や子供だけでなく年上の大人やご年配の方まで幅広く優しさに溢れており、紳士的な対応を行っている。…そう、僕以外なら。いや、正確に言えばセラフィーナ様やティーアにもそれぞれ態度が違う気はしている。セラフィーナ様には甘いし、ティーアには少し厳しい。それでも、2人のことは心から信頼している音が聞こえてくる。…だからこそ、僕以外なのだ。
なんとなく、初めて会った時から避けられてる気がして。
あの時凄い上から目線だったのは全然気にしてないし、むしろ、僕の方こそあの時はわけもわからず変な態度を取ってしまったという罪悪感がある。…だから話したい、って思ってるんだけど、自分から話しかけに行けなくて…。
毎年生誕祭でもティーアとセラフィーナ様を挟んで挨拶…程度の会話しかしない。
これは会話とは呼べないか…、…でも!それくらいしか話せないんだよ!いざ目の前に立ったら、公爵様としてのキラキラが半端ないっていうか…兄さん並の兄さん感があるっていうか!いや、セラフィーナ様のお兄様だから合ってるんだけど、それ以上にこう…、決意が見えるんだよな…。大人のようなかっこよさ。大人以上の強い意志の音が聞こえてくるんだ。
…生誕祭の日。2人を挟んで間近で見るレオンハルト様は、学園での噂を更に超えてくる。
その度に、自分から遠のいていく気がして。きっともうあの時の僕のことなんて忘れてるだろう。僕なんかより2人の話が強烈だっただろうし。
今日は始業式。
昨日はセラフィーナ様世代の入学式があった…ということで、今日は高等部との合同授業。
そういえば、王子殿下もセラフィーナ様と同い年なんだっけ。
セラフィーナ様は3ヶ月くらい前の生誕祭で会ったばかりだけど、元気にしてるかな? あ、それから…ティーアも学園に入学式してるんだよね。
これ聞いた時びっくりしたなぁ。
兄さんがフルール村の近くにも学園があるって言ってたから、そっちに行くのかって思ってたし。その話題になって「嬉しい」って言ったら、セラフィーナ様が共感してくれたのも良い思い出だ。ティーアはツーンってなってしまったけれど。
そんなことを考えていても、いつの間にかレオンハルト様の方に思考が寄せられる。
ティーアとセラフィーナ様、と来たらレオンハルト様が思い浮かぶのは当然だし、2人とは普通に仲良しだからこそ、レオンハルト様のことが気になってしまう。特に、最近は遠くから見ても分かるくらい変な感じがするんだよなぁ。気の所為…かな? 昔見た兄さんが居なくなっちゃう夢。
今でもたまに見るんだけど…、その夢に似た感じっていうか。
レオンハルト様が更に見えなくなってしまうかのような…黒い霧で覆われてしまうかのような、そんな感じ。
レオンハルト様は全く知らないだろうけれど、僕は一人ぶるりと身震いをする。…大丈夫、レオンハルト様は弱くないから。僕よりも強いお方だから、…だから、大丈夫。
そんなことを思っていると、不意に後ろから声が掛かる。
「よう、久しぶりだな、リスク」
「っっレオンハルト様…!?」
…レオンハルト様だ。
驚きの中に嬉しさと困惑が入り混じってなんとも言えないような顔をしてしまう。
「お久しぶりですね」と一言添えるだけで精一杯だった。
後ろを振り向けば、そこにはわざわざ高等部側の入り口から歩いてこちらまで来てくださっているレオンハルト様の姿。僕は中等部側の近くに居たからこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
そんな気持ちから目を合わせられないでいると、レオンハルト様が眉を垂らしながら「…すまない、あの時は…」と口を開いた。
けれど、僕は彼が言い切る前に反射的に口を開いた。
「あ、謝らないで下さい!? 僕は全然気にしてませんから!しかも、僕の方こそ…!」
違うんだ。僕の方こそあの時は何の考えもなしに動いていた。ティーアやセラフィーナ様の秘密を知っても尚何の反応もしなかった。それがほんっっっとに申し訳なさすぎて…。
だけど、2人にそれを言ったらもうすんごく「気にしないで!?!!」と言ってきたので今は言わなくなった。…だからこそ、レオンハルト様にはまだ言えてないことが不安で…。…覚えてないだろう、って…思ってたんだけどな…。
覚えてたんだ、覚えてしまったんだ、覚えててくれたんだ。
…覚えなくて良かった、掘り起こさないで良かった。…それでも、話しかけてくれたことが嬉しくって。
「ただ、その…なんか変な感じがして…」
でも、素直に出せない僕はモゴモゴと言い訳をし始める。
結構本気で変な感じがするのは事実なのだが、それをわざわざ言ってしまう。こういう所は僕の悪い癖だと自覚してはいるのだけれど、中々変われない。せっかくレオンハルト様が話しかけてくれたっていうのに…!!
「ふっ、そうか。それじゃ、その予感が当たらないように頑張るよ」
「えっ…いや、そういうわけじゃ…!」
違うんです!今のは気にしないでくださいッッッ!!!と言いたかったけれど、それ以上に周りの視線が凄かった。
流石レオンハルト様…皆こっちを見てますよ?噂の的ですよ?…絶対僕が話しかけられてたって噂になるだろうし、後で周りからも質問攻めになるんだろうなぁと思い、若干遠い目になってしまう僕。
でもって、「準備体操を一緒にどうか」、と提案されてしまえば、僕に断る余地など無く即座に回答をした。…その余裕さは大人顔負けだと思う。
きっと幼い頃から素晴らしい器の持ち主だったのだろう。
もう良いや。質問攻めでもなんでも受け持とう。…レオンハルト様からの提案を断る方が失礼に値するじゃないか。
「これ、意外と体力使いますよね…っ」
「ああ本当に。フィーナはなんで、これをっやろうと思ったんだろうな…っっ」
それから、セラフィーナ様考案のらじお体操という物を一緒にやってみる。「ホントは音楽があって〜」と言っていたから、実際の音楽はどんな感じなのかぜひ聴いてみたい。
そんなことを思いながら僕は改めてレオンハルト様の方を見上げる。
…うん、男の僕から見ても惚れるよ。
顔だけじゃなく中身も格好良いし、…話しかけてくれるんだもんなぁ。本当は僕から話しかけない限り、僕が話すことなんて出来ない程凄い方である筈なのに…
それから、僕らは体育学の体術講義の場へと向かう。
レオンハルト様も同じ所だったらしい。
剣術や銃術は叱られる…というか、お継母様に「怪我をしたらどうするの!」と言われてしまうので、体術を選んだ。…座学は…またエンシャンツ家お邪魔する為の口実になるかな、って思って。なんたってエンシャンツ公爵家は、書物を保有している屋敷の中でも国内有数の量を誇る家だから。
なんか、まだまだ理由がないと気が引けるって言うのもあるから。気軽に行くには到底及ばない。
レオンハルト様も大体同じ理由らしく、周りを見渡せば知ってる顔も幾つか同じ方向へ向かっていた。
僕はレオンハルト様と共に体術の理由について話す。
すると、レオンハルト様が突然黙り込んでしまった。
…まさか、僕はまた何か粗相を…!?そう思って顔が青くなってくる。けれど、レオンハルト様はまた「すまない」と言い放った。
「ただ、…口で伝えるのって大切なんだなって思っただけさ」
謝るのは違います!!と思ったけれど、次の一言で口の筋肉が緩みその意思は砕かれる。
……口で伝えるのが大切、か…
そういえば、僕自身もレオンハルト様に自分から話しかけることはしなかったっけ。自分から心を閉ざしていたってたっていうか…、……また変なこと言って変な思いさせたくない、って思ってた。
けど、…レオンハルト様は声をかけてくれた。…そういう、事だったんだ。
「…それはわかります。僕も、兄さんにいつも言ってるんですけど、中々素直になれないみたいで」
分かっている…筈だった。
僕はもう、兄さんを見てて分かってたことだった筈。それなのに、僕は自分のことで考えていなかった。…これじゃ僕自身何も分かっていないのと同じじゃないか。
…兄さんも素直になれずに、毎回…今日も喧嘩ばっかでぇ〜と嘆いて帰ってくるんだよね。…素直になって話せばいいのに…って思ってるんだけど、…自分にも言えることだったなぁと思い始める。……反省しないと。
それからレオンハルト様とは別れ、各自同い年くらいの人や友達と体術の実技練習を行う。
少し難しい説明もあったけれど、やってみれば案外簡単にこなせた。
一緒にやった人達からはレオンハルト様のことについて質問攻めになったけれど、僕が変なことを言ってレオンハルト様の印象を悪くさせてしまうのは勘弁なので、噂通り優しい人だったよ〜と言っておく。
嘘はついてないし、…もっと語りたい気持ちでいっぱいだったけれど、それこそ、凄い優しくて行動力もあって!周りのことを考えられて柔軟性もあって妹さん想いで視野が広くて一緒にいて会話を回してくれて〜だなんて言ったら、変なことになりかねない。
僕との関係を聞かれても、一度会ったことがあります、の一点張りにしておく。
同級生からは、一度会っただけで…!?と驚かれるが、…まともに話すのは二度目…むしろ初めてなので、間違ってはいないだろうと思い肯定しておいた。
質問攻めに疲れ果てた僕は一人一時休憩を挟んでいると、見に来ていた1年生の中から、「なあ!俺と勝負しないか!」という声が聞こえてきた。
…振り返って見てみれば、
「………僕…???」
すっごい目をキラキラさせてこちらを見つめている、ほぼ年齢が変わらないけれど…まだ幼さが残っている、…そんな少年が、堂々と廊下を踏み出し、僕の方に向いていたのだった。
………僕?????
同級生やレオンハルト様を押しのけて、僕なんかと勝負?????




