5-B 異世界にきたセンの昼
こっそりジャンルをハイファンタジーからアクションにしてみました。
ジャンルあたりの作品数が多いのと少ないのはどちらがいいのでしょうね。
「以外に時間かかったじゃん」
部屋に荷物を取りに戻った旋は、ベッドに寝転んでテーイに掴まれていた腕を擦った。
クリスはベッドからいなくなっている。
元々ここはクリスが仲間と一緒に借りていた部屋だ。
クリスの仲間は今、別々の用事で街を出ている。
「仲間が戻るまでいてくれ。四人部屋の料金が一人だときついんだ」
昨日の夜、旋はクリスに真剣に頼まれた。
クリスは女の知り合いにも声をかけているそうだ。
もしかしたら女冒険者に知り合えるかもと、下心を持った旋はクリスの仲間が戻るまで部屋に泊まる事にしていた。
「さてと」
反動をつけてベッドから起き上がった旋は今度こそ買い物に行こうとポケットから硬貨を取り出して数える。。
「えへへ。金貨~」
だらしない表情で一枚しかない金貨を縦に摘まんで眺める。
昨日ドロップ品を売った時に産まれて初めて金貨を受け取った。
他の硬貨よりズッシリとした重み。
精緻な紋様。
「特別感があるよね~」
旋は袖で金貨を磨く。
金貨一枚が銀貨百枚
銀貨一枚が銅貨十枚
銅貨一枚が鉄貨十枚
品物の価値が日本と違うので単純に比較できないが、銀貨が千円ぐらいの価値のようだ。
昨日の見廻りについて行って良かった。
旋は飽きずに金貨を眺める。
また今度お願いしてみよう。
旋はドイルの話を思い出す。
あまり知られていないだけで騎士の見回りには、迷惑をかけなければ誰でもついて行っていいそうだ。
同行者が騎士の代わりに敵と戦う事で騎士の体力が消耗せず楽に見回れる。
同行者は騎士がいるので安全にドロップ品を手に入れられる。
ドロップ品は魔物を倒した人の物なので、騎士から他人に物をあげてはいけない規則にも引っ掛からない。
ダンジョンに行くのに騎士だけで厳しそうならボランティアを募集する。
昨日のクリスとテーイはボランティア枠だ。
騎士は冒険者を雇わなくていいし、ボランティアは騎士の戦闘力を頼りにできる。お互いに利益のある話だ。
「おっと、買い物、買い物」
臭い服でドイル達に会いたくない。
数え終った硬貨を大事にポケットにしまう。
初回特典の鞄の中身をベッド横の棚に移す。
空にした鞄を持ってナイフを鞘ごとズボンの腰に挟んだ旋は買い物に出掛けた。
「素敵なお買い物~あなたの近所のフフフフフン」
旋はある駅を降りたら聞こえていたという歌を、適当に歌いながら昨日と違う広場の屋台を見て回る。
午前中テーイに引っ張られて神殿巡りしたかいあったじゃんと、少しこの街に詳しくなった旋は迷わずに広場にこれた自分を誉めた。
衣類の屋台も、食べ物の屋台も、日用品の屋台もごちゃごちゃだ。
日本のスーパーに慣れた旋には買い物がしづらい。
服を見たいが服屋隣の食べ物の屋台から漂うスパイシーな香りが気になってしょうがない。
まず腹ごしらえと旋は服を買うのを諦めて隣の屋台でスープを買った。
熱々の具だくさんのスープだ。屋台の看板は角の生えた亀。
一杯の値段は銅貨十一枚。スープの器とスプーンを返せば銅貨二枚戻ってくる。
旋は広場の長椅子に座ってスープを食べる。
おしい!美味しいじゃなくて、おしい。
カレーに必要な何かが足りていない。
美味しいスープなのだがカレーを知っている旋はちょっと物足りなく感じた。
食べ終わる頃に、また子供達に囲まれる。
「この器?」
旋が聞くとコクリと子供達が頷く。
怒られる事もあるのか腰が引けている。
「はい、どうぞ」
なるべく優しそうに聞こえるように心掛けながら旋は子供に器を渡す。
器を貰って笑顔になった子供達がスープの屋台に走っていく。
屋台で銅貨を貰った子供達がパンを買ってみんなで分けている。
やりきれない。ため息をついて旋は買い物に戻る。
「う~ん。服は難しいじゃん」
広場を変えながら服以外の日用品を手に入れた旋は、長椅子に座って膝の上で頬杖をついた。
きちんとした建物の服屋は諦めた。
客層が違う。
少なくても今の服では店に入れない。
服を買いに行く服がない。
広場で売っている服は古着だ。
サイズもデザインもバラバラ。
試着も出来ないので選びづらい。
そこそこの値段の店はちゃんと洗ってから売っているが、安い店だと臭う服がそのまま売っている。
じゃあ、そこそこの値段の店にしようかなと思えば、好みの服が安い店にあったりする。
洗って臭いがとれるならそっちの方がいい。
「あ~めんどくさい」
旋が日本の服売り場のありがたみを考えながら立ち上がり、次の広場に向かった。
「兄ちゃんを離せよ!」
旋が寂れた建物が並んだところにある広場に近づくと、甲高い子供の叫び声がした。
人相の悪い男が叫んでる子供より大きな少年の両手を捕まえて、吊り上げている。
「へっ。今日こそ焼きいれてやる。汚いガキが!」
少年を捕まえている男の横で鼠みたいな小男が錆びだらけのナイフを舐めた。
「お前らみたいなガキがうろちょろすると客が減るんだよ!」
旋は男達が今やっている行為の方が客が減ると思ったが、逆に野次馬が増えていた。
「俺と同じ顔にしてやる」
鼠みたいな小男の左右の頬には三本づつ横に古い傷があった。男が鼠みたいに見える原因だ。
小男も昔誰かに同じ事をされたのかもしれない。
負の連鎖です。ドイルの言葉を思い出す。
でも、ここで眺めるだけなら旋は異世界にきていない。
普通の人が野次馬になるところ。
誰かが助ける。
そう考えて一歩下がるところ。
皆が思うその誰かに旋はなるのだ。
「やめなさい」
旋は一歩踏み出す。




