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君の隣が、僕の帰る場所  作者: 玲瓏さん
中学1年生編
4/52

第4話 たまたま


    * * 優子視点 * *


火曜日の朝、教室へ入る前に、私はリュックサックの紐を握り直した。


今日は、自分から挨拶をしようと思っていた。 昨日、話したくないわけではないと言った。それだけでは伝わらなかったのなら、もう少し自分から声をかけてみればいい。 何を話すか分からなくても、おはようなら言える。


自分の席の近くに、戸田さんと富永さんがいた。 2人の話が途切れたところで、私は足を止めた。 言おうと決めていたのに、すぐには声が出なかった。 また話が始まってしまう前に、紐を握ったまま口を開いた。


「……おはよう」


戸田さんが顔を上げた。 目が合ったと思った。 けれど、返事はなく、すぐに富永さんへ向き直った。


「莉奈、昨日の続きなんだけど」


富永さんも私の方を見たあと、うん、と戸田さんへ答えた。 私の声は、2人の間に入らなかった。


聞こえなかったのかもしれない。 名前を呼ばなかったから、自分たちへの挨拶だと分からなかったのかもしれない。


「と、戸田さん……おはよう」


さっきより少し大きな声で言った。 戸田さんの手が、筆箱の上で止まる。 それでも、こちらを見なかった。


リュックサックの紐を持ち直して、2人の横を通った。 立ったまま返事を待ち続けるのが、恥ずかしかった。


「美咲、おはよ」


すぐあとから来た女子が声をかけた。


「おはよう。今日、早いじゃん」


戸田さんの返事は、すぐに聞こえた。 富永さんも笑って、その子へ何か話した。


私は自分の椅子を引いた。 教科書を出す前に、机の上を手で払った。何かが落ちていたわけではない。手を動かしていないと、今の挨拶を聞いていた人の顔を見てしまいそうだった。


私にだけ返事がなかった。 そこまで考えると、お腹の辺りが冷たくなった。


でも、話の途中だったのかもしれない。 私が入った時と、次の子が来た時では、たまたま違ったのかもしれない。 まだ朝が始まったばかりなのに、悪い方へ考えたくなかった。


「富田、おはよう」


顔を上げた。 勝也くんが、机のそばへ来ていた。


「おはよう、勝也くん」


返事をすると、勝也くんは隣でしゃがんだ。 立っている時には見上げないといけない顔が、近い高さになる。 私は、昨夜、明日話そうと決めていたことを思い出した。


「あのね……昨日、捕まえられたよ」 「ん?」 「ポケモン。今度は、倒さないで捕まえられた」 「あ、本当? よかったじゃん」


勝也くんが笑った。 その顔を見ると、朝から胸に引っかかっていたものが、少しだけ緩んだ。


「昨日の夜、もう1回探したの」 「俺だったら、見つけたところで、また同じ失敗しそう」 「だから、気をつけたよ。昨日笑われたから」 「ごめんって。俺もやったことあるんだってば」


私も笑った。 言い返そうと考える前に、声が出た。 勝也くんは困ったように笑いながら、よかったね、ともう1度言ってくれた。


朝の会が始まりそうだったので、勝也くんは自分の席へ戻った。 私は教科書を揃え、昨日配られた確認用紙をファイルから出した。 お母さんに書いてもらった欄を確かめて、机の端へ置く。


回収していた女子は、私の前の席で紙を受け取ったあと、ほかの子に呼ばれて振り返った。 そのまま後ろの席へ行く。 私の用紙だけ、机に残った。


今朝の挨拶が頭をよぎった。 また、私だけなのかと思った。


「あの、まだ……」


声が小さくなった。 回収していた子は気づかず、前へ戻っていった。


先生が紙を数えたあと、まだ出していない人はいるかと聞いた。 私は紙へ目を落とした。 このままでは、忘れたことになってしまう。先生がもう1度教室を見回した時、胸の辺りまで手を挙げた。


「あ、あの……あります」


うまく説明できず、用紙を持ち上げた。


「ああ。じゃあ、今持ってきて」


席を立つと、回収していた子が私を見た。


「ごめん。富田さんの、取ってなかった?」


私は小さく頷いた。


「私、途中で呼ばれて、そのまま行っちゃったんだ。ごめんね」


その子は、机の上の紙と私の顔を見て謝った。 先生にも、私が取り忘れました、と伝えてくれた。


「じゃあ、これで揃ったな」


先生は紙を重ねた。 それ以上、誰にも何も言われなかった。


席へ戻る途中で、もう1度、ごめんね、と声をかけられた。 私は首を振った。


「大丈夫……だから」


小さく答えて、目を伏せた。 怒っていないことが伝わったか気になったけれど、それ以上の言葉は出なかった。


忘れられることは、ある。 私も、声をかけられていたのに別のことを考えていて、返事が遅れる時がある。 今朝の挨拶も、そういうことだったのかもしれない。


そう思うと安心できた。 安心できる方へ、考えを寄せたかった。


    * * *


2時間目が終わり、手を洗って教室へ戻ると、机の上にあった定規が見つからなくなっていた。


透明で、真ん中に青い線が入った15cmの定規だった。 授業の終わりに、ノートへ線を引いた。筆箱の横へ置いたところまでは覚えている。


筆箱の中を見た。 ノートの下も、教科書の間も確かめた。 なかった。


机へ手をついた時に、落としてしまったのだろうか。 椅子を引き、床へしゃがんだ。 机の脚の陰には、小さな消しゴムの屑しかなかった。


「何してるの?」


富永さんの声がした。 立ち上がると、こちらを見ていた。急に聞かれ、答えるまでに少し間が空いた。


「定規が……さっき、まで……」 「落としたんじゃない?」


机の上にあったと、続けようとした。 でも、富永さんの顔を見ていると言葉が詰まり、頷くだけになった。


「じゃあ、あるんじゃないの」


富永さんは、自分の筆箱を閉じた。 私は少し迷ってから、もう1度口を開いた。


「あの、そっちに……」


富永さんが顔を向けた。 私は、隣の机の下へ目を落とした。


「落ちてたら、教えて……もらってもいい?」


返事はなかった。 富永さんは戸田さんへ向き直り、次の授業の話を始めた。


今度は、聞こえていたと思う。 私の方へ顔を向けたまま、言い終わるのを待っていたから。 それなのに、聞かれなかったみたいに話が変わった。


もう1度頼もうとして、口を閉じた。 自分で落とした物を、何度も探してほしいと言うのは、迷惑かもしれない。 そう考えると、さっきまで出ていた声が出なくなった。


席の周りを見ているうちに、予鈴が鳴った。 次は定規を使わない。今は見つからなくても困らない。 私は教科書を開き、床を見ないようにした。


けれど、人が通るたび、足元へ目が向いた。 踏まれて折れてしまったら嫌だった。 椅子が動く音がするだけで、そちらを見てしまう。


「じゃあ、ここ、線を引いておいて」


先生に言われ、私は鉛筆で文章の下をなぞった。 途中で少し曲がった。 いつもなら消して引き直すところを、そのままにした。


授業が終わると、勝也くんがプリントを持って席を立つのが見えた。 昨日、国語で分からなかったら聞いてねと、私から言った。 そのことを思い出し、教室の前から戻ってきたところで声をかけた。


「勝也くん……昨日の国語、できた?」 「できたよ。でも途中、ちょっと迷った」


勝也くんは足を止めた。 私が座っているのを見て、机の横へしゃがむ。


「答えを探す時、前のところも読んだ?」 「読んだ。今回はちゃんと」 「じゃあ、大丈夫だった?」 「多分。でもここなんだけど、どこまで書くのか分かんなくて」


ノートを取りに戻り、私へ見せてくれた。 答えは途中まで書いてあり、最後のところに小さく印がついていた。


私は教科書の同じ場面を開いた。


「これ、あとで言ってることも入れたら、分かりやすいと思う」 「あと?」 「うん。ここ。だから、こう考えたんじゃないかな」


指で示すと、勝也くんが目を近づけた。


「ああ。そこまで使えばいいのか」 「多分だけど」 「そっか。ありがとう。あとから見ても分かるように、書いとく」


勝也くんがノートへ書き足した。 私の説明が役に立ったのが嬉しくて、書き終わるまで、その手元を見ていた。


「俺、答えを書いたらすぐ閉じるからさ。次の日、何でそう思ったか忘れるんだよね」 「閉じる前に、もう1回読んだら?」 「それ、昨日も春樹に言われた」


私が笑うと、勝也くんも笑った。


「今日は読む。ちゃんと」 「うん」


次の授業の先生が来たので、勝也くんは立ち上がった。 戻っていく背中を見送り、私は教科書をしまった。


話しかけたら、止まってくれた。 分からないところを聞いて、ありがとうと言ってくれた。 それが嬉しかった。


同時に、さっき富永さんへ頼んだ言葉を思い出した。 私は、あの時も返事が欲しかっただけだった。 分からない、と言ってもらえたら、それでよかった。


机の下を、もう1度だけ見た。 定規は、まだなかった。


    * * *


昼休みに定規を見つけてくれたのは、同じクラスの男子だった。


「これ、誰の? 掃除用具入れの前に落ちてたんだけど」


青い線が見えた。 私のだと思ったのに、声をかける前に、その子が別の方を向いた。 このまま持っていかれてしまうのが嫌で、私は少しだけ手を挙げた。


「わ、私の……だと思う」


受け取ってみると、見慣れた青い線が入っていた。 端にある、小さな擦り傷も同じだった。


「……ありがとう」 「壊れてない?」


端を確かめ、頷いた。 大丈夫だと答えようとした時には、その子が見つけた場所を指していた。


その指の先へ、目を向けた。 私の席からは、ずいぶん離れていた。


「誰か、蹴ったのかもね。俺も消しゴム、教室の反対側まで行ったことあるよ。落としたと思って下見たら、もうなかった」


その子が笑った。 私も何か返したかった。見つけてくれて、助かったのだから。 でも、何と言えば会話が続くのか分からず、定規を持ったまま頷くことしかできなかった。


「透明だと気づかないしね。名前、書いとけば?」


「……うん。ありがとう」


少し遅れて、もう1度礼を言った。 その子は手を軽く上げ、友達のところへ戻っていった。


席へ戻って、定規を筆箱の奥へ入れた。 いつもより深く差し込む。 それから、ふたを閉めた。


探していたから嬉しかったと、それくらい言えればよかった。 頭の中では言葉になるのに、相手が目の前にいる間には、うまく出てこなかった。


落としただけだった。 人が歩く場所へ転がって、少しずつ遠くへ行った。 そういうことなら、誰かを疑わなくて済む。


少し離れた席で笑い声がした。 私は自分の席に座ったまま、そちらへ目を向けた。


勝也くんが、近くの席の大島さんと話していた。 2人とも座ったまま、椅子の向きを少し変えている。 大島さんが何かを言うと、勝也くんはすぐに笑って返した。


「それ、またお菓子の話?」


周りの声が途切れた時、その言葉が聞こえた。


「部活の話だって」 「じゃあ、お菓子以外は?」 「荷物も運んでる」


大島さんが笑い、勝也くんもつられて笑った。 同じようなことを、何度も話したことがあるみたいだった。


途中からは、近くを通る人の声に重なって聞こえなくなった。 でも、大島さんが手を少し広げ、勝也くんが首を振っているのは見えた。 何かを言い返した勝也くんへ、大島さんが指を向ける。 勝也くんは笑ったまま、自分のノートを持ち上げた。


「ほら。宿題は終わった」 「それ、部活の報告なの?」


今度は、私にも聞こえた。 おかしくて、少し笑いそうになった。 勝也くんは、昨日の夜にも宿題をしていた。部活で終わる物と、家でやる物があるのだろう。


大島さんは、ノートを見せてもらいながら、まだ何か話していた。 勝也くんの方からも話を続ける。大島さんはすぐに答えた。 返事を待つ間に、どこを見ればいいのか迷っているようには見えなかった。


羨ましかった。


私も、勝也くんと話せるようになってきた。 さっきだって、自分から声をかけられた。 それでも、大島さんが何のためらいもなく笑っているのを見ると、胸の奥が少し寂しくなった。


席が近いから、思いついた時にそのまま話せる。 勝也くんが何か言えば、すぐに言い返せる。 私が知らない話の続きも、2人の間にはあるのかもしれない。


そんなことまで考えてしまい、私は目を伏せた。 勝也くんがほかの子と話すのは、当たり前だった。 私とだけ話してほしいと思っているわけではない。 ただ、あんなふうに、話したい時にすぐ話せたらいいのにと思った。


もう1度顔を上げると、大島さんが笑いながら勝也くんのノートを返していた。 勝也くんも笑って受け取った。


私は、図書室へ行く時刻を確かめた。 今日は昼休みの当番だった。 机の上の物をしまい、椅子を入れる。 2人の会話を、最後までは見ていなかった。


    * * *


図書室では、返却された本を棚へ戻した。 背表紙の番号を確かめ、同じ番号の本が並んでいる場所を探す。 棚の隙間へ入れると、少し出ていた背表紙を、隣の本と揃えた。


何をすればいいか分かっていると、気持ちが落ち着いた。 でも、番号を見ても戻す場所が分からない本があると、手が止まった。 先生は近くにいた。聞けばいいと分かっていても、声をかける時を決められなかった。


背表紙と棚の番号を、もう1度見比べた。 間違えたところへ入れるわけにはいかず、先生がこちらを向いた時、ようやく本を持ち上げた。


「先生……この本、どこに……」 「戻す場所、分からなかった?」


私は頷いた。


「それは隣の棚だね。最後のところまで見ると、こっちが先で、そのあとに今の本が来るから」


先生が棚を指した。 私は本の並びと番号を見比べ、空いている場所へ戻した。


「……ありがとうございます」


言い終えてから、息をついた。 先生は、短い言葉でも何に困っているのか分かってくれた。 また聞けるかと思うと迷うけれど、今の質問で困らせたわけではなさそうだった。


最後の本を戻す前に、表紙を少し見た。 読んだことのない話だった。裏の紹介を読みかけたところで、教室へ戻る時刻が近いと気づく。 今日は棚へ入れるだけにした。 今度来た時に、もう少し見てみたいと思った。


「富田さん、今日はそこまでで大丈夫だよ」


私は、空になった返却用の台を見てから頷いた。


「……はい」 「お疲れさま。午後の授業、遅れないようにね」


頭を下げて、図書室を出た。 全部戻せましたと、自分から言うつもりだった。 先生に声をかけてもらうと、また短い返事だけになってしまった。


戻ると、戸田さんたちが掃除の話をしていた。


「じゃあ、先に向こう行けばいいんだよね」 「道具も、あっちにあるでしょ」


富永さんが言った。 私は椅子へ手をかけたまま、2人を見た。 いつもの掃除場所のことではないように聞こえた。


そのまま座りかけて、手を止めた。 もし場所が変わっていたら、私だけ違うところへ行ってしまう。 話の間へ入るのは怖かった。でも、聞かずに座ってしまえば、あとから声をかけるのはもっと難しくなりそうだった。


「あの……戸田さん」


戸田さんがこちらを向いた。 見られると、用意していた言葉が出にくくなった。


「掃除、場所……変わったの?」


「何で?」


今の話が聞こえたから、と説明しかけて、口をつぐんだ。 勝手に聞いていたと思われるのも怖かった。


「図書室に……行ってた、から……」


戸田さんは、私を見たあと、富永さんへ目を向けた。 富永さんが、少し口元を曲げた。


「変わってないよ。富田さんは、いつものところ」


私は、椅子の背を握った。 もう1つだけ、確かめておきたかった。


「東側の……階段?」 「うん」


今度は、はっきり返事があった。


「……ありがとう」


私は席へ座った。 聞いてよかったと思った。 2人だけ、何か別の仕事を頼まれたのかもしれない。それなら、私の掃除場所が変わったわけではない。


午後の先生が入ってきて、教室が静かになった。 私は教科書を開いた。


黒板を写している間も、昼間の会話を少し思い出した。 戸田さんは返事をしてくれた。 朝は、やっぱり話しかける時が悪かったのかもしれない。


定規も見つかった。 今日は、それほど悪い日ではなかったのかもしれない。 そう思えることが、嬉しかった。


    * * *


掃除の時間になり、私は東側の階段へ向かった。 いつも使っている用具入れから、ほうきとちり取りを出す。 階段の隅には、細かい埃が溜まっていた。


まだ、ほかの人は来ていなかった。 先に始めていようと思い、上の段から少しずつ掃いた。 でも、下まで戻ってきても、誰も来なかった。


戸田さんは、いつものところと言った。 東側の階段かと聞いたら、うん、と答えてくれた。 だから、ここで合っているはずだった。


「ここから階段の前までな。折り返して戻ったら終わり」


廊下の向こうから、鳥居君の声がした。 顔を向けると、鳥居君と鶴見君、それから勝也くんが、横に並んで屈んでいた。 3人とも、床についた両手の下に雑巾がある。


「勝也、もう少しそっち」 「俺、端すぎない?」 「大丈夫。行けるって」


鳥居君が、前を向いた。


「よーい、どん!」


3人の足が動いた。 雑巾を押しながら、廊下をこちらへ進んでくる。 鳥居君がすぐに前へ出て、そのあとを鶴見君が追った。


勝也くんだけが、途中で止まった。


「ちょっと、俺だけ柱があるんだけど!」


廊下の端に張り出した柱の手前で、勝也くんが顔を上げていた。 笑いを含んだ声に、先を行く鳥居君も笑った。


「よければいいだろ!」 「よけてる間に離されてるんだけど!」


勝也くんは雑巾を持ち上げ、柱を回り込んだ。 もう1度床へ置いた時には、鳥居君はずっと先にいた。


私はほうきを動かす手を止めて、その様子を見ていた。 勝也くんが追いつこうと足を速める。 でも、前の2人も止まらない。


鳥居君は階段の手前で向きを変え、来た方へ戻っていった。 少し遅れて、鶴見君も折り返した。 2人とも雑巾の進む先を見ていて、階段の脇にいる私には気づかなかった。


私も掃除をしなければと思い、下まで掃き寄せた埃のそばへしゃがんだ。 ちり取りへ入れていると、遅れて来た勝也くんが、階段の前で止まった。


「あれ。富田?」


顔を上げると、目が合った。 勝也くんは雑巾から片手を離し、膝をついたまま、私の方へ少し向き直った。 さっきまでの大きな声とは違う、近くの私にだけ話しかける声だった。


「今日、そこなの?」 「うん……まだ、ほかの人が来てなくて」


誰もいない階段を見た。 勝也くんも、上の踊り場へ目を向けた。


「そこ、放課後にワックスかけるから、今日は別のところ掃除するって聞いたけど」 「……そうなの?」 「うん。さっき、廊下で先生が言ってたよ」


ほうきの柄を握り直した。 場所は変わっていないと、確かめたはずだった。


「変わってないって……聞いたから」 「ああ、そうだったんだ」


勝也くんは、もう1度階段を見た。


「どこになったかは、俺も聞いてないんだ。ごめんね」 「ううん」


勝也くんが謝ることではなかった。 教えてもらえなければ、私は、このままここを掃いていた。


ほかの人がいる場所を、探さなければと思った。 でも、どこへ行けばいいのか分からない。 誰に聞こうか考えていると、勝也くんが廊下の方を指した。


「あっちにさ、モップで寄せた埃があるんだ。まだ集めてないのがあって、一緒にやってほしいな」 「でも……みんなのところに、行かないと」


遅れて来たと言われるかもしれない。 勝手に違う場所を掃除していたら、それも怒られそうだった。


勝也くんは、私の返事を待ってから言った。


「何か言われたら、こっちに人手が欲しかったから、俺が頼んだって言うよ」


すぐには頷けずにいると、勝也くんは、手に持った雑巾を少し上げた。


「俺、まだこれも終わってないし。手伝ってくれたら助かるよ」


廊下の向こうでは、鳥居君が立ち上がっていた。 鶴見君も、雑巾を持って腰を伸ばしている。


誰も来ない階段に残るより、勝也くんと一緒に行きたかった。 役に立てることがあるなら、私も手伝いたかった。


「……うん。じゃあ、ここのだけ集めたら」 「ありがとう。俺、そこの柱の下、取っておくね」


勝也くんが立ち上がった。 私がちり取りへ埃を入れ終わるまで、近くの柱の裏へ雑巾を伸ばしていた。 遅いぞ、と廊下の向こうから鳥居君に呼ばれる。


「俺のところ、障害物あるから!」 「そこもちゃんと拭いといてね」


鶴見君の声がした。 勝也くんが、分かってるよ、と答えたので、私は少し笑ってしまった。


さっきまで、誰も来ないことばかり考えていた。 今は、勝也くんが柱の下から手を引っ込め、雑巾についた埃を見ている。 顔を上げると、私へ、行こうか、と言ってくれた。


ほうきとちり取りを持ち、隣へ並んだ。


「勝也、最下位」


戻ると、鳥居君がすぐに言った。


「見れば分かるよ。俺のところだけ、柱が何本もあったんだから」 「じゃあ、次は場所変える?」 「次もやるつもりなの?」


鶴見君が聞いた。 勝也くんは鳥居君を指し、やる気なのはこっち、と言った。


2人が私の方を見たので、私はほうきの柄を持ち直した。 勝也くんが、廊下の壁際へ目を向ける。


「富田にも、埃集めるの手伝ってもらうことにした」 「ああ、助かる。こっちも残ってるから」


鶴見君が、モップで寄せた埃のある場所を示した。


「……うん」


小さく頷いた。 勝也くんの友達でも、顔を見て話すのはまだ緊張した。 何か言い足そうとしている間に、勝也くんが私のそばへ戻ってきた。


「俺、ちり取り持つね」 「じゃあ、お願い」


ちり取りを渡すと、勝也くんは壁際へしゃがんだ。 私がほうきで寄せた埃を、床へ押さえたちり取りで受けてくれる。


「もう少し、そっちにしてもらっていい?」 「ここ?」 「うん。ありがとう」


掃き入れると、縁に細いごみが残った。 勝也くんがちり取りを少し引いてくれたので、もう1度ほうきを動かした。 今度は、全部入った。


「取れたね」 「うん」


ただ掃除をしているだけなのに、嬉しかった。 私が言えば、勝也くんは聞いてくれる。 手を止めて待ってくれるし、私がやりやすいように、ちり取りの位置も変えてくれた。


さっき、ほかの人を探しに行っていたら、今、どこにいただろう。 考えかけて、やめた。 次の埃のところへ移る勝也くんに、私もついていった。


掃除が終わる頃には、壁際もきれいになった。 道具を戻すと、勝也くんは雑巾を持ち上げた。


「俺、これ洗ってくるから。富田、先に戻ってて」 「うん」


もう少し一緒にいたかった。 でも、勝也くんは鳥居君たちと手洗いへ向かったので、私は先に教室へ戻った。


    * * *


自分の席へ着く前に、戸田さんに呼び止められた。


「富田さん、何で来なかったの?」


足が止まった。 富永さんも、戸田さんの隣にいた。 2人とも、笑っていなかった。


「どこ行ってたの? こっち、人数足りなかったんだけど」


さっきまで少し軽くなっていた気持ちが、また縮んだ。 ほうきを握っていないのに、指に力が入った。


「廊下の……掃除を……」 「何で勝手に違うところ行くの?」


戸田さんの声が強くなった。 私は、顔を上げかけて、また目を落とした。


「でも、東側の……階段って……」 「そんなこと言った?」


返事が、すぐに来た。


「昼休み……聞いた、時に……」 「富田さん、声小さいから。別の話してたのに、勘違いしたんじゃない?」


富永さんが言った。 すぐ隣で、私と戸田さんのやり取りを見ていたはずだった。


東側の階段かと聞いた。 戸田さんは、うん、と答えてくれた。


それを言わなければと思うのに、2人に見られると喉が詰まった。 何から説明すれば、最後まで聞いてもらえるのか分からなかった。


「ちゃんと自分のところ掃除してよ。私たちだって――」 「富田なら、俺が頼んで手伝ってもらってたんだ」


戸田さんの声の途中で、勝也くんの声がした。


振り向くと、入口からこちらへ歩いてくるところだった。 手を拭いたハンカチをポケットへ入れ、私のそばで止まる。


「こっちに人手が欲しかったから。モップで寄せた埃を、一緒に集めてもらってたんだ」 「でも、富田さん、こっちの担当だったのに」


戸田さんが言った。 勝也くんは頷いた。


「うん。俺が呼んだんだよ。富田も、みんなのところに行かないとって言ってたから」


私は勝也くんを見た。 階段の前で、少し迷って言ったことまで覚えてくれていた。


「掃除はちゃんとしてくれてたよ。何かあったら、俺に言って」


声は大きくなかった。 戸田さんも富永さんも、私へ続けて何か言おうとはしなかった。


「……もう終わったから、いいけど」


戸田さんがそう言って、自分の席へ戻った。 富永さんもついていく。


私は、まだその場に立っていた。 言えなかった説明が、頭の中に残っていた。


「富田、ありがとね。助かった」


勝也くんが、私の方を向いて言った。 さっき、ちり取りを持ってくれていた時と同じ顔だった。


「ううん。私も、ありがとう」 「ん?」


何か言われたら、俺が頼んだと言う。 本当に、そうしてくれた。 私がうまく説明できなくなっているところへ来て、掃除をしていたことも話してくれた。


「さっき、言ってくれて」 「気にしないで、俺がお願いしたんだから」


勝也くんはそう言って、少し笑った。 帰りの会が始まりそうだったので、私も椅子を引いた。 勝也くんが自分の席へ戻るのを見送ってから、座る。


間に入ってもらえて、ほっとしていた。 怒られたまま、自分の席へ戻らずに済んだ。 最後にありがとうと言ってもらえたことも、嬉しかった。


それでも、連絡帳を出そうとした手は、少し震えていた。


どうして、場所を聞いたことまで違うことになってしまうのだろう。 戸田さんへ自分で確かめたことまでは、勝也くんに話していない。 私自身も、戸田さんがどうしてああ言ったのか、分からなかった。


小学校の時にも、みんなが行く場所を私だけ知らなかったことがある。 後から追いついても、どうしていなかったのかと聞かれた。 また、同じことが始まっているのだろうか。


そう思うのが怖くて、私は連絡帳のページを開いた。 教室の前へ目を向け、戸田さんたちを見ないようにした。


    * * *


帰りの会で、先生は明日の提出物について話した。 私は連絡帳へ書き写した。 いつもなら黒板を見て写すだけなのに、今日は、隣の行へ別の連絡も書いてあるのではないかと、端まで確かめた。


先生の声を、聞き逃したくなかった。 あとから聞けばいいと、簡単には思えなくなっていた。


帰りの挨拶が終わると、教室に話し声が戻った。 戸田さんと富永さんは、何事もなかったように、部活へ行く準備をしていた。 私だけがまだ、掃除の時間の続きを考えている。


間違えたのなら、間違えたと言ってくれればよかった。 知らなかったのなら、そう言ってほしかった。 朝、確認用紙を取り忘れた子は、私を見て謝ってくれた。それだけで、もう気にならなくなった。


今は、ちゃんと聞いたことまで、なかったみたいになっている。 勝也くんが話してくれたおかげで、掃除をしていなかったとは言われずに済んだ。 でも、場所を確かめた時のことは、最後まで説明できなかった。 私の聞き間違いだと決められてしまったことが、悲しかった。


「富田さん、一緒に行く?」


井上さんが来た。 リュックサックを肩へかけ、入口の方を見ている。


「……うん」


頷いて立ち上がった。 誘ってもらえたことは嬉しいのに、井上さんへ何か言い添える前に、リュックサックへ手が伸びた。


私は机の中を覗いた。 筆箱を入れたか気になった。 定規は、筆箱の奥へ戻した。ちゃんとあるはずだった。


「忘れ物?」


首を振りかけて、止めた。まだ筆箱が見つかっていなかった。


「筆箱……」


リュックサックの中に筆箱があるのを見て、口を閉じた。 すぐに指をかけると、井上さんも手元を見た。


「あった?」 「……うん」


待たせてごめんねと言おうとした時には、井上さんが入口へ歩き出していた。 井上さんと廊下へ出る。


「今日は、先輩に持ち方をもう1回見てもらうんだ」


井上さんが言った。


「昨日、フルート持ってる途中から、変な力が入っちゃって。先輩に言われると、あ、ってなるんだけど。また忘れるんだよね」


井上さんが笑った。 私にも、似たことがあった。 私も、と言いかけたのに、そのあと何を話せばいいか考えているうちに、声を出す時を逃した。


「富田さんは、昨日どうだった?」 「……まだ、うまく……できなくて」 「そうだよね。いっぺんに覚えること、多いもんね」


私は頷いた。 井上さんは、短い返事でも待ってくれる。嫌な顔もしていない。 それでも、目を合わせると緊張して、言おうとしていたことを飲み込んでしまった。


勝也くんとは、国語の話から、ノートを閉じるのが早いという話までできた。 今も話したくないわけではないのに、同じようには続けられなかった。


部活では、昨日より長く音を出せた。 途中で息が続かなくなったけれど、先輩は、今のところはよかったよと言ってくれた。 もう1度やってみると、同じところまではできた。


できることが増えるのは、嬉しかった。 楽器を片づける時、明日も同じように吹けたらいいと思った。


でも、リュックサックへ筆箱を戻す時、昼間の定規を思い出した。 掃除の場所を聞いた時の顔も、続けて浮かんだ。 楽器を吹いている間、考えずにいられただけだった。


帰り道では、今日あったことを順番に思い返した。 そうすれば、どこで私が聞き違えたのか分かるかもしれないと思った。


図書室から帰った。 掃除の話が聞こえた。 場所が変わったのかと聞いた。 東側の階段かとも聞いた。


何度戻っても、戸田さんの返事は同じだった。


それでも、わざとだと決めるのは怖かった。 聞き間違えたのなら、明日、もっと気をつければいい。 声が小さかったのなら、少し大きくすればいい。


そうではないのなら、私は何を変えればいいのだろう。 考えても、答えは出なかった。


途中で、柱の前で止まった勝也くんの姿を思い出した。 俺だけ柱があるんだけど、と言った時の声も、ちり取りを持ってしゃがんでくれたところも、よく覚えている。 あの時間は、楽しかった。


また一緒に掃除ができたらいいと思った。 それから、明日は自分の持ち場へ行かなければと考えた。 今度は、誰に聞けば間違えずに行けるのだろう。 家へ着くまで、そのことが気になっていた。


夜、定規の端へ、小さく名前を書いた。 透明な部分に、富田、と黒い字が残った。 これなら、誰かが拾ってくれた時に、すぐ私の物だと分かる。


名前を書き終えると、少し安心した。 インクが乾くのを待ってから、筆箱へ戻した。


明日の教科書をリュックサックへ入れる。 宿題も入れた。連絡帳も入れた。 忘れ物がないようにしておけば、少なくとも、自分のことで慌てずに済む。


口を閉じてから、もう1度だけ開けた。 筆箱の中の定規を見て、今度こそリュックサックを閉じた。


    * * *


翌日の水曜日は、教室へ入ると、先に自分の机を見た。


椅子も、机の横のフックも、昨日と同じだった。 机の上には、何も置かれていない。 それを確かめてから、顔を上げた。


「……おはよう」


近くの子が振り返り、挨拶を返してくれた。 目が合うと、それ以上何を言えばいいか分からず、私は小さく頭を下げて席へ向かった。 戸田さんと富永さんは、まだ来ていなかった。


私は席へ座った。 昨日、家で書いた名前を見ながら、定規を筆箱から出す。 折れていない。端も欠けていない。 ちゃんとここにあるのだから、もう探さなくていい。


そう思っていたのに、机の中へ手を入れた時、指が止まった。


置いて帰ったノートが、裏返しになっていた。


昨日は、表紙を上にして入れたと思う。 教科書の下に重ねて、端を揃えたはずだった。 今は、裏表紙の端が、教科書より少し手前へ出ている。


私が、そう入れたのだろうか。


取り出したノートを、すぐには開けられなかった。 定規がなくなった時とは違う。 ここにある。ただ、向きが違っているだけだった。


昨日、帰る前に筆箱を確かめた。 その時、一緒に出して戻したのかもしれない。 井上さんを待たせないように、急いでいた。 そうだったような気もしてきた。


表紙をめくると、自分の書いた字があった。 昨日の授業で使ったページまで、順番にめくった。 消されたところも、知らない字もない。 紙がなくなっているようにも見えなかった。


何もなかった。 何もないのに、全部確かめるまで、閉じられなかった。


「富田、おはよう」


勝也くんの声に顔を上げた。 連絡帳を手にした勝也くんが、机のそばへしゃがんだ。


「おはよう、勝也くん」 「今日、朝のうちに連絡帳、出すんだよね」 「うん。昨日、先生が言ってた」 「よかった。帰りだったかと思って。ありがとう」


勝也くんは立ち上がり、連絡帳を持って教室の前へ行った。 私もリュックサックから出した。


昨日、忘れないようにと確かめて入れた物だった。 持ってきているのに、ノートを見ている間、出すことを忘れていた。


先生の机へ置き、席へ戻った。 さっきのノートも、今日は家へ持って帰ろうと思った。 その教科の宿題がなくても、リュックサックへ入れればいい。 少し重くなっても、それなら、自分でしまった向きのままになっている。


    * * *


1時間目が終わると、戸田さんが私の机の横を通った。 富永さんに呼ばれ、そちらへ向かっていく。


昨日の掃除のことを、聞こうかと思った。 今なら、掃除を待っている人はいない。 私が何を聞いたのか、最後まで話せるかもしれない。


でも、また、聞いていないと言われたら。


私は、開いていた筆箱のふたを閉めた。 昨日、自分が言った言葉を、今日も説明しないといけないのだと思うだけで、声をかけるのが怖くなった。


次の授業の準備を終えてから、手洗いへ行こうと立ち上がった。 廊下へ出る前に、もう1度席を振り返る。 机の上には、教科書とノートだけを置いていた。 定規は筆箱の中に入れ、その筆箱もリュックサックへしまってある。


それでいいはずだった。


私は席へ戻り、教科書とノートも机の中へ入れた。 何も出していなければ、落とすことはない。 昨日みたいに遠くへ行ってしまうこともない。


廊下では、何人かが立ち話をしていた。 私はその横を通り、手洗いへ向かった。


戻ってくるまでに、何か変わっていたらどうしよう。


そんなことばかり考えた。 手を洗ったあと、ハンカチをポケットへ戻しながら、早足になった。 次の授業までは、まだ時間があった。 急がなくても間に合うのに、教室へ戻るまで落ち着かなかった。


席へ着くと、教科書はしまった時と同じところにあった。 筆箱もある。 ふたを開けると、名前を書いた定規が見えた。


私は椅子へ座った。 何もなくなっていないことに、ほっとした。


昨日までは、手を洗って戻ったあとに、こんなふうに確かめたことはなかった。 休み時間には本を読めたし、窓の外を見ていることもあった。 今は、机から離れている間のことばかり考えている。


そんな自分が、嫌だった。


誰かに何かをされたと、全部決まったわけではない。 定規は戻ってきた。 ノートにも、何も書かれていなかった。 掃除の場所だって、話が食い違っただけなのかもしれない。


たまたま、そういうことが続いた。 それだけだと思いたかった。


けれど、朝、返事を待って立っていたことも、掃除のあとで責められたことも、思い出すと悲しかった。 たまたまだと考え直しても、そこは変わらなかった。


机の中から読みかけの本を出した。 栞を挟んでいたページを開き、続きの行へ目を向ける。 昨日まで、次にどうなるのか楽しみにしていたところだった。


近くで椅子を引く音がした。 顔を上げると、戸田さんが自分の席へ戻っていた。 私の方は見ていなかった。


本へ目を戻した。 どこまで読んだのか分からなくなり、さっきと同じ行から読み直す。


予鈴が鳴った。 話していた人たちが席へ戻り、次の先生が教室へ入ってくる。 私は本を閉じ、教科書を出した。


授業の間は、みんなが前を向く。 誰に何を聞けばいいのか、迷わずに済む。


休み時間が終わったことに、ほっとしていた。 そう気づくと、昨日よりも、教室が怖くなっているのだと分かった。


次の休み時間には、何も起きませんように。


教科書を開いたまま、私は、まだ来ていない時間のことを考えていた。



今回の登場人物


・鵜飼勝也

 掃除場所が分からず困っていた優子を誘い、一緒に廊下を掃除する。美咲たちに責められた時も、自分が手伝いを頼んだと説明して庇う。


・富田優子

 挨拶への無視や掃除場所の食い違いに戸惑い、教室や持ち物への不安を募らせる。勝也との会話や、一緒に掃除する時間には笑顔を見せる。


・鶴見春樹

 勝也や翔太と、廊下の雑巾掛けで競争する。掃除を手伝うことになった優子に、集めた埃の場所を教える。


・鳥居翔太

 廊下で雑巾掛けの勝負を始め、勢いよく先頭を進む。柱に阻まれて遅れた勝也を、最下位だとからかう。


・井上綾香

 優子を部活へ誘い、一緒に音楽室へ向かう。フルートの練習について話し、優子にも練習の様子を尋ねる。


・大島奈々

 近くの席の勝也と、茶道部のお菓子や宿題の話で笑い合う。その気軽なやり取りを、優子は羨ましく感じている。


・戸田美咲

 優子の挨拶に答えず、掃除場所は変わっていないと伝える。掃除後には優子が来なかったことを責め、先ほどの説明も認めようとしない。


・富永莉奈

 定規を探す優子の頼みに返事をせず、美咲との会話へ戻る。掃除場所を確かめたという優子の説明も、勘違いではないかと退ける。


・確認用紙を回収した女子

 優子の用紙を取り忘れたことに気づき、素直に謝る。先生にも、自分が回収し忘れたのだと説明する。


・定規を拾った男子

 掃除用具入れの前で定規を見つけ、優子へ返す。壊れていないか気遣い、持ち主が分かるよう名前を書くことを勧める。


・図書室の先生

 本を戻す場所が分からず困っていた優子に、棚の番号の見方を教える。当番を終えた優子にも、労いの言葉をかける。


・吹奏楽部の先輩

 クラリネットを練習する優子に、うまく吹けたところを伝える。優子が、できることの増えた喜びを感じるきっかけになる。

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