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君の隣が、僕の帰る場所  作者: 玲瓏さん
中学1年生編
28/52

第24話 怒りの先に



 担任の先生が向かいの椅子を引いた。座る前に、もう1度こちらの顔を見たので、俺も顔を上げた。


「自分が何をしたか、分かっているな」

「……はい」


 膝の上の右手を見た。拳へ当てた白いYシャツの裾には、自分の血が染みていた。左手で裾を押さえ直すと、引っ掻かれた腕の傷にも袖が擦れた。長袖の夏服は、教室で汚れたままだった。


 戸田の制服を掴んで押し、教室のドアを壊した。そのあと、頬を叩かれて、俺は戸田の顔を2回殴った。ここへ来ても、ガラスが割れた時の音がまだ耳の奥に残っていた。


「戸田は泣いていたぞ。顔も腫れて、血が出ていた」

「はい」

「お前は、女子を相手に殴ったんだ。何かあってからでは遅いんだぞ」


 頷くと、首の後ろまで重く感じた。


 戸田には、椅子へ座らせたあとで謝った。服を破ったことも、本気で2回殴ったことも、本人に謝った。それで戸田の傷が消えたわけではないし、俺に向けた、怯えた顔も変わらなかった。


 痛い思いをさせたことを、悪かったと思った。謝った時の気持ちは、嘘ではなかった。それでも、あの時は戸田を殴る必要があったという考えは変わらなかった。痛いと声を出した顔が浮かぶ。その前に、優子のことを笑っていた顔も。同じ人の顔だった。


「どうして、あんなことをした」


 聞かれて、顔を上げた。


「富田がされたことを、戸田に聞いてたんです」

「だから、それで殴っていいのか!」


 言い終えるより先に、先生の声が返ってきた。


「どうして殴ったのかを、話してるんです!」

「今は、お前がしたことを聞いているんだ! よその話へ持っていくな!」


 開けかけた口を閉じた。

 どうして、と聞いたのは先生だった。それなのに、優子の名前を出しただけで、もう聞こうとしなかった。


 先週、教科書のことを相談した時もそうだった。優子が何も言わないから分からないと言われた。今は、優子のことはよその話だと言われている。

 何から説明しても、同じなのだと思った。


「……お前に何を言っても、無駄なんだな」


 先生の動きが止まった。

 俺を見る目が細くなり、机に置かれた手に力が入った。


「今、何と言った!」


 声が、狭い部屋に響いた。肩が動いたけれど、俺は目を逸らさなかった。


「富田のことは、聞く気がないんですか!」

「教師に向かって、お前とは何だ!」


 先生が机へ手をついた。引いてあった椅子が膝に押され、床を擦った。


「人に怪我をさせておいて、その態度は何だ! まず、自分が何をしたのか話しなさい!」


 頬が熱くなった。目の前の大人を、お前と呼んだ。自分でも、そう言ったのは分かっていた。家へ電話をかけられるかもしれないし、明日、教室でまた叱られるかもしれない。それでも、その言葉を取り消す気にはなれなかった。


「戸田の制服を掴んで、押した。入口のドアにぶつかって、ドアが外れて、ガラスが割れた。そのあと、戸田に頬を叩かれて、俺は殴り返しました!」


 口にするたびに、教室で見たことが戻ってきた。戸田の顔が横を向いたこと。誰も声を出さなくなり、春樹の手も机の縁を掴んだまま動かなかったこと。


「荒川が止めに入って、そこでやめました」


 先生は俺を睨んだまま聞いていた。


「ドアとガラスを壊して、すみませんでした」


 座ったまま頭を下げた。顔を上げても、先生の表情は変わらなかった。


「殴ったことはどうなんだ。悪いとは思わんのか!」

「戸田に怪我をさせたことは、悪かったと思ってます! でも、あの時は必要でした!」

「殴る必要などあるか! 謝りなさい!」


 膝の上で、右手を押さえ直した。


「戸田には、本人に謝りました。でも、富田の話を聞きもしないお前に、殴ったのが間違いだったって謝るつもりはない!」

「口答えするな!」

「話も聞かずに謝れって、お前のそういう態度が気に入らないんだよ!」


 戸田に謝ったのは、痛がって、怯えている顔を見たからだった。先生に言われたからではない。どうして殴ったのかも聞こうとしないこの人に、同じように頭を下げる気にはなれなかった。


 俺の声も大きくなっていた。足元の手提げが靴に触れ、椅子の下へ寄せ直した。口は閉じたままにしておいた。この先生に、優子の教科書を見せるつもりはなかった。


「お前は、何のためにここへ呼ばれたと思っている!」

「俺がしたことを話すためだ! でも、富田が何をされたかも関係あるじゃないですか!」

「まだその話をするのか!」


 聞いてくれるとは、もう思えなかった。それでも、優子のことをよその話にされたまま、黙ることはできなかった。


「富田が何をされてたか、見た人もいるんだ! お前にも話せるって言ってくれた人が!」

「勝手に聞き回って、今度は教師に無駄だとまで言う! 委員長なら、何をしてもいいと思っているのか!」

「話を聞かないお前のせいだろ! お前が聞かず! 行動しないから、俺たちで聞いたんだ!」

「その態度を改めろと言っているんだ!」


 俺も椅子から立っていた。膝から浮いた右手に気づき、左手で押さえた。傷が痛んで、Yシャツの裾に広がった赤い染みが目に入った。

 宣仁に止めてもらったばかりだった。机を叩くことも、目の前の人へ手を伸ばすこともしたくなかった。手は下ろしたまま、顔だけを上げた。


「お前には、先に相談しただろ! 荒川も、俺より前に相談してる!」

「だから、本人が何も言っていないと説明しただろう!」


 先生が、机越しに顔を突き出した。

 また、それだった。本人が言わなければ分からない。俺と宣仁が相談に行ったことまで、それで済ませるつもりなのだ。


 言えないから、俺たちが話した。そのことさえ、何度言っても伝わらない。

 もう、こんな学校に何かを期待すること自体が馬鹿らしかった。俺がどう思われようが、何を言われようが、どうでもよくなった。


 大きなため息をついた。隠す気にもなれず、肩を落としながら長く息を吐いた。


「息くせぇんだよ、デブ」


 さっきまでのように怒鳴り返す気力さえなかった。先生の顔を見たまま、口から出るに任せた。


「何だと!」


 先生の顔が赤くなった。机を叩く音がしても、俺は黙っていた。


「クラス委員長が人を殴って、教師にまでそんな口を利くのか! 皆の見本になる立場だろう!」


 言い返そうとすれば、まだ言いたいことはあった。でも、口を開かなかった。拳へ当てたYシャツの裾を押さえ直し、机の端へ目を落とした。


「こっちを見なさい! 話をしているんだ!」

「もう、お前に何も話すことはない!」


 顔を上げると、先生は俺を睨んでいた。ドアの向こうで足音が止まったようだった。

 先生の手が机の縁を掴んだ。指が白くなるほど力を込め、俺へ向けて声を張り上げた。


「お前にクラス委員長を任せたのは間違いだった!」


 最後の声に重なるように、ドアが開いた。


 入口には学年主任の先生が立ち、その後ろに生徒指導の先生もいた。開いたドアの端からは、宣仁の顔も見えていた。


 もう言い返す気にもならずにいた俺は、開いたドアへ顔を向けた。主任の先生が、俺と担任を順に見た。


「廊下まで聞こえています」


 低い声だったが、部屋の中へはっきり通った。


「2人とも、声を落としてください」


 主任の先生が、俺へ向き直った。


「鵜飼。腹が立っていても、先生を『お前』と呼んだり、侮辱したりするのはやめなさい」


 俺は、視線を落とした。担任への怒りは残っていた。でも、今の言葉は、相手を傷つけるために言っただけだった。主任の先生にまで、同じ調子で言い返したくはなかった。


「……すみません。言い方が悪かったです」


 主任の先生に向き直り、頭を下げた。顔を上げてから、言葉を選び直した。


「富田のことは、学校で調べてください」


 主任の先生は頷いた。

 続いて入った生徒指導の先生が、担任と俺の間へ立った。


「富田さんへのいじめについても、荒川から話を聞いて来ました」


 主任の先生は、担任へ向けて言った。


「以前から相談を受けていたことも聞いています。教室で起きたことと合わせて、私たちも確認します」


     * * *


 担任の手が机から離れた。主任の先生へ向き直った途端、声まで変わった。


「ああ、ちょうどよかったです。鵜飼は、全く反省の色がなくてですね。反省文や、別室登校も考えた方が――」

「その話を決める前に、何があったのかを確認します」


 主任の先生は言い終わるのを待たずに遮り、俺たちの机の横まで来て止まった。


「殴打と、ドアが壊れたことも聞いています。怪我をした生徒の対応と、教室の確認は、ほかの先生にも頼んでいます」

「ですから、こちらでは私が指導を――」

「今は、話を聞いてください」


 俺は、担任の顔を見た。

 何か言おうとした時、生徒指導の先生がこちらを向いた。


「鵜飼。まず座ろう。君が話そうとしていたことも聞くから」

「でも、俺――」

「聞く。だから、少し息を整えて」


 示された椅子へ、俺はもう1度座った。立つ前より足に力が入らなくなっているのが、腰を下ろす時に分かった。


 宣仁は入口で止まり、入っていいのか迷っているように主任の先生を見ていた。


「荒川も、ここにいてくれ。自分で見たことを、あとで聞きたい」

「はい」


 宣仁が入ってきてドアを閉めたあとも、担任は立ったままだった。


「今のような態度です。自分がしたことを認めても、すぐに別の話へ持っていく」


 主任の先生が、担任へ顔を向けた。


「富田さんのことを、今ここで無関係にはできません」


 俺は、顔を上げた。


「鵜飼も先週、教科書のことで相談に来たそうですね。生徒たちが別々に訴えている内容も、確認が必要です」

「その件は確認しています。ですが、今は殴ったことを――」

「殴ったことは、本人からも聞きます。富田さんへのいじめと、これまでの対応についても、そのままにはできません」


 主任の先生は、担任の返事を待った。

 すぐに俺の方へ話を進めなかった。


 担任は、少しして椅子へ座った。


「鵜飼」


 呼ばれて、主任の先生を見た。


「今日、教室で何があったのか、君からも聞かせてほしい」

「俺がしたことは、話します。途中で、富田のことを話すなって止めないでください」


 主任の先生を見たまま、答えた。


「そこを話さないと、どうして言い合いになったのかも説明できません」

「分かった。順番に聞く」


 先生が替わったからといって、信用できたわけではなかった。けれど、俺が戸田にしたことまで、話さずに済ませるつもりはなかった。


 右手を動かしかけると、裾を当てている傷が痛んだ。押さえていた左手を少しずらしたところで、生徒指導の先生が眉を寄せた。


「その手、ずっと押さえているのか」

「殴った時に切れました」

「腕にも血がついてるな」

「そっちは、教室で引っ掻かれました」

「まだ手当てはしていないのか」


 俺は頷いた。


「先に保健室へ行こう。話の続きは、そのあとで聞く」

「結構です」


 先生の顔を見て、答えた。


「手当ては今はいいです」

「腕だけじゃなく、手も痛むんだろう」

「今、関係ありますか? 俺が不要だと言ってるんです」


 先生は、すぐには言葉を返さなかった。

 膝から手を動かさなかった。血が床へ滴ることはなくなっていたが、傷に当てた裾から指を離す気にはなれなかった。


 痛くないわけではない。でも、自分の手より先に、聞いてもらわなければならないことがあった。話す相手が替わっただけで、学校に対する怒りまで消えたわけではなかった。


「君の怪我も、そのままにはできない。富田さんの話を終わらせようとしているわけではないんだ」

「だったら、先に話を聞いてください」


 生徒指導の先生は、主任の先生へ目を向けた。

 主任の先生が俺の手を見てから、顔へ視線を戻した。


「分かった。話は聞く。ただ、血がまた出たり、痛みが強くなったりしたら、すぐに言ってくれ。手当てのことも、あとでもう1度話そう」


 俺は、短く頷いた。


 俺が座ったまま息をつくと、宣仁も壁際の椅子を1つ引いて座った。


 主任の先生が机の横へ椅子を寄せると、生徒指導の先生もその隣に座った。持ってきた紙とペンを、机の上へ置くのが見えた。


 主任の先生は、ペンを持つ前に担任へ向き直った。


「鵜飼の話を聞く前に、相談への対応を確認させてください」

「鵜飼から、教科書のことで相談を受けていたんですね。そのあと、何をしましたか」


 担任が、椅子の上で体を動かした。


「その時点では、誰がしたのか分からなかったんです」

「それで、富田さんには何を確認しましたか」


 主任の先生が聞いた。


「本人からの訴えはありませんでした」

「こちらから尋ねたかどうかを聞いています」


 担任の返事が止まった。

 俺は、膝に置いていた手を少し動かした。


「……本人の様子も見ながら、確認しようとしていました」

「実際に話を聞く前に、欠席が始まったということですか」


 担任は、少し間を置いて頷いた。


「荒川から相談を受けたあとも、同じですか」

「ですから、本人が――」

「その返事は、先ほども聞きました。相談を受けて、何をしたのかを聞いているんです」


 生徒指導の先生がペンを置いた。担任がそちらを向いたが、先生は目を逸らさず、その顔を見ていた。


 主任の先生は、手元の紙へ目を落としてから続けた。


「ここへ来る前に、荒川から聞いたことも確認します。相談を受けたあと、相手の生徒へ荒川の名前を伝えましたか」


 宣仁は、膝へ置いた手を握ったまま黙っていた。


 担任が、机の上で手を組み直した。


「誰から聞いた話なのかを説明しただけです」


 生徒指導の先生が、担任を見た。


「相談した生徒の名前を、相手に伝えたんですか」

「注意するために必要なことです」

「そのあと、荒川が何かされていないかは確かめましたか」


 返事を待つ間に、宣仁が膝に置いていた手を開いた。担任は、それでも何も言わなかった。


 宣仁も、口を開かなかった。

 主任の先生は、担任から返事がなかったことを書き留めた。

 担任へ向き直るまで、少し間があった。


「ご家庭からは、連絡が来ていますか」


 主任の先生が、担任へ続けて尋ねた。


「欠席の連絡は、来ています」

「この被害については」


 担任は、机の端へ目を落とした。


「……先週、お母さんから。持ち物のことと、怪我のことを」


 俺は、顔を上げた。


 俺たちが知らない間に、優子のお母さんも先生へ話していた。


「いつですか」

「水曜日の、夕方です」


 主任の先生の顔が、少し変わった。


「怪我をして帰った、その日のうちに連絡があったんですか」

「はい。ただ、本人がまだ何も話せないということだったので、確認を――」

「お母さんは、どこを怪我していると」


 担任は手の怪我について答え、髪も一部切られていたと聞いたと言った。右手の指を曲げかけた俺は、傷が痛んで動きを止めた。


 あの日、俺は優子がまだ学校にいることも知らず、家へ帰っていた。それから何があったのか、何日もかけて聞いて回った。

 先生は、その日のうちに聞いていた。


「……先生は、知ってたんですか」


 声が出た。


 担任は俺を見なかった。


「そのあと、お父さんからも、お話はありました。ただ、誰がしたのかというところまでは、ご家庭でも分からないと」

「だから、学校で調べてほしいって言われたんじゃないんですか!」


 また大きな声になり、横にいた宣仁が俺を見た。


 主任の先生が、俺へ顔を向けた。


「鵜飼。今、私が確認する」


 言われて、息を止めた。主任の先生は俺が口を閉じるのを待ってから、もう1度担任へ顔を向けた。


「学年には、この件で相談がありませんでした。校長先生や教頭先生には、報告しましたか」


 返事は、すぐにはなかった。


「……もう少し、状況が分かってからと思っていました」


 主任の先生が、机に置いていた手を握った。


「いい加減にしてください!」


 俺へ向けられた声ではなかった。それでも肩が動き、椅子の背から体が少し離れた。


「生徒から相談があった。保護者からも、怪我と、髪を切られたという連絡が来ていた。相談した生徒の名前は相手に伝えて、被害の報告は学年にも上げず、今日まで置いていたんですか!」

「置いていたわけではありません。本人から詳しく聞けるようになってから――」

「話せないと言われているでしょう!」


 今度は生徒指導の先生の声だった。机に置いていたペンが、動いた指に当たって転がった。


「だから保護者が連絡してきたんです。何をされたか分からないなら、ほかの生徒に聞くこともできた。あなたは、その相談まで止めている!」


 担任が口を開いたが、主任の先生はその顔を見たまま続けた。


「それで、相談に来ていた生徒に、委員長を任せたのは間違いだったと怒鳴るんですか!」

「鵜飼が、あれだけのことをしたので――」

「鵜飼のしたことは、私たちも聞いています! 今は、あなたが相談を受けてから何をしていたかを聞いているんです!」


 主任の先生は、声を緩めなかった。


「助けを求めてきた生徒の話を聞かずに放っておいて、今度は怒鳴って黙らせる。それが、あなたの指導ですか!」

「生徒の前で、そのような言い方は――」

「2人とも、あなたに相談していた生徒です!」


 生徒指導の先生が言った。

 机の下で、宣仁の足が止まった。


「この2人が何度話しても、あなたは取り合わなかった。今ここで、そのことまで曖昧にするつもりはありません!」


 担任は、俺の方を見た。


「お前も、自分に都合のいいところだけ――」

「鵜飼に言うことではないでしょう!」


 主任の先生の声が、重なった。

 担任の顔が、そちらへ戻った。


「ここからは、私たちで話を聞きます。あなたは、この場を離れてください」

「担任として、私もここに――」

「あなたを、1年3組の担任から外す方針です」


 主任の先生が言った。


 担任が目を見開いた。口は開いたままなのに、次の言葉が出てこなかった。


「ここへ来る前に、荒川から聞いた内容は校長と教頭へ報告しています。その時点で、担任を交代させる方針は、既に決まっています」


 俺も先生を見た。壁際の宣仁も顔を上げていた。


 俺と担任が言い合っている間に、そこまで話が進んでいたのだ。自分の教室の担任が替わる。そう言われても、すぐには意味を飲み込めなかった。


 担任が机の縁を掴み、背筋を伸ばして主任の先生へ向き直った。何か言おうと息を吸ったところで、生徒指導の先生が立ち上がった。


「校長と教頭が待っています。校長室へ行ってください」


 強い声に、担任の口がゆっくり閉じた。生徒指導の先生はドアを開け、その脇に立ったまま担任を見ていた。


 しばらくして、椅子を動かす音がした。立ち上がった担任は、俺にも宣仁にも目を向けずに机の横を通った。今度は、言い返す声もしなかった。


 生徒指導の先生が、体を横へずらした。

 担任は、その横を黙って出ていった。


 ドアが閉まった。


 主任の先生はしばらく閉まったドアを見ていた。握っていた手を開いて長く息を吐くと、戻ってきた生徒指導の先生が、机に転がったペンを拾った。


 宣仁も、俺も何も言わなかった。足元の手提げは、まだ閉じたままだった。


「……鵜飼」


 主任の先生が、こちらを向いた。

 まだ、眉の間に皺があった。


「私たちも、さっき荒川に聞くまで把握していなかった。相談があった時に、学校で確かめるべきだった」


 俺は、先生の顔を見た。


「もう、富田さんのことは関係ないと言って話を止めることはしない」


 喉が動いた。

 すぐには返事が出なかった。


「ただし、鵜飼。担任の対応と、君が人を殴ったことは、どちらも確認しなければならない」


 俺は、右手へ目を落とした。


「そのことについても、君から話してほしい」

「はい」


 右手を膝へ戻し、主任の先生を見た。


「富田に何をしたのか、戸田たちに聞いていました。教室でも、戸田は富田にしたことを笑って話してたんです。それで、言い合いになりました」


 主任の先生は口を挟まなかった。俺は、続けた。


「俺が先に、戸田の制服を掴みました。そのまま押して、入口のドアにぶつけました。ドアが外れて、ガラスが割れました」

「ドアが壊れたのは、その時なんだな」

「はい。そのあと、戸田に頬を叩かれて、俺は顔を殴りました」


 左手で、拳へ当てたYシャツの裾を押さえた。


「俺は、本気で殴りました。荒川が止めてくれるまで、自分ではやめられませんでした」


 生徒指導の先生のペンが動く音がした。宣仁は、隣で黙って聞いていた。


「止められたあと、戸田がそのままガラスのところへ倒れそうだったので、体を支えながら、掴んでいた制服を離しました。そのあと椅子へ座らせて、殴ったことと、制服を破ったことを本人に謝りました」


 戸田は俺を見て、顔を庇おうとしていた。手を貸した時にも、体が震えていた。


「戸田に怪我をさせたのは、俺です。ドアとガラスを壊したのも。すみませんでした」


 頭を下げた。殴る必要があったという考えを、取り消したわけではなかった。それでも、戸田が痛がっていたことも、俺を怖がっていたことも、なかったことにはできなかった。

 主任の先生は、どうして殴ったのかも最後まで聞いた。その相手に、自分がしたことを話して謝る言葉は出た。担任に向かっては、どうしても言いたくなかった言葉だった。


 顔を上げるまで、どちらの先生も次の質問をしなかった。


「今話したことは、記録しておく。その場にいた生徒にも、学校から確認する」


 主任の先生が言った。

 俺は頷いた。


 向かいの空いた椅子へ目を向けた。担任の返事がおかしければ、主任の先生も生徒指導の先生も聞き流さなかった。話を聞こうとしていることは分かった。

 でも、だから信用できるとは思わなかった。


「教科書のことで相談に来てくれた時、どんな被害があったのかも確認したい」


 主任の先生が言った。


「傷められた教科書やノートを、今、何か持っているだろうか。持っているなら、実物を見せてほしい」


 足元の手提げへ目を落とした。包んだまま持ち帰ることもできた。けれど、これを見てもまだ、何も分からないと言うだろうか。


「あります。見るだけなら」

「ここで、状態を確認させてほしい」

「はい」


 左手で手提げを開こうとすると、宣仁が椅子を寄せた。


「持っとこか」

「うん。袋の口、開けててくれる?」


 広げてもらった袋から、左手で包みを取り出した。腕を曲げると傷に袖が擦れたが、右手は膝へ置いたままにした。紙を開くと、数学の教科書が見えた。


「これが、富田の教科書です」


 名前のあるところを開いた。

 主任の先生が、少し体を前へ寄せた。


「中も、見せてもらえるか」

「はい。ここ、引っかかるので、ゆっくりめくります」


 左の指先で紙の端を示した。教科書は自分の前に置いたまま、2人の先生からも見える向きへ傾けた。


 破れている端を避けて1枚めくると、印刷された問題の上まで、黒いマジックで塗り潰されていた。太い線が何度も重なり、文字も図も途中で読めなくなっている。次のページにも、優子に向けたひどい言葉が、問題文を横切って書かれていた。


 先生は何も言わず、ページへ目を落としたままでいた。俺はその顔を見ていた。戸田は、ふうん、と言った。担任には、見せる気にもならなかった。今ここで見た物まで、本人が何も言わないから分からないとは言わせたくなかった。


 主任の先生は、書き込まれた言葉を確かめ、生徒指導の先生へ同じところを示した。

 2人が見終えるまで、俺はページを押さえていた。


 宣仁に袋を支えてもらい、英語の教科書とノート、理科のノートも順番に出した。包んでいた紙を重ねて場所を空けていると、主任の先生も自分の紙を端へ寄せた。


「これらは、どうやって君の手元に来たんだ」

「それは話しません。学校で調べてください」


 左手で表紙を押さえた。答える代わりに、優子の名前があるところを2人の先生へ向けた。


 英語のノートを開くと、優子が書いた字の上にも黒いマジックの跡が重なっていた。主任の先生は、そこでもしばらく目を止めた。


「最初に相談した時から、教科書は読むところまで塗り潰されてたんです」


 俺は、先生の顔を見た。


「だから、担任に相談しました。でも、何もしてくれませんでした。今、ここにある教科書もノートも、こんな状態です」


 主任の先生が、ペンを置いた。


「俺も荒川も話しました。富田のご両親も連絡してた。それでも、今まで何も変わらなかったんですよね」

「学校として、対応できていませんでした」

「担任だけの話じゃないです。俺は、学校を信用してないんです」


 主任の先生から目を逸らさず、続けた。


「先生は、さっきの担任よりは話を聞いてくれます。でも、それだけで、もう大丈夫だとは思えません」


 先生は、すぐには返さなかった。机に広げた教科書とノートを見てから、俺へ向き直った。


「相談してくれていたのに、学校として対応できず、富田さんの被害を止められなかった。君たちにも、何度も訴えさせてしまった。申し訳なかった」


 主任の先生が、俺と宣仁へ頭を下げた。

 俺は、左手でノートの端を押さえたまま待った。先生が顔を上げてから、答えた。


「謝ってほしいんじゃありません。行動で誠意を見せてください」


 さっきのように、声は大きくならなかった。先生が頷いても、俺は頭を下げ返さなかった。


「学校で何があったのか、先生たちで調べてください。富田のご両親にも、学校が何をしたのか、ちゃんと説明してください」

「分かりました。こちらで調べて、確認できたことと、これからの対応をお伝えします」


 そう答えた先生の顔を見た。今ここで言ったことを、本当にしてくれるかは、まだ分からなかった。


「富田のことで、俺たちが調べた事をまとめた資料はあります」

「その資料も、見せてもらえるか」

「見せません」


 リュックサックは、足元に置いたままだった。口を開けるつもりはなかった。


「富田の教科書やノートは、ここで見てください。でも、俺たちが調べた資料は出しません。先生たちが、自分で調べてください」


 主任の先生は、俺の返事を書き留めた。


「学校で調べるために、話を聞ける生徒を教えてもらうことはできるか」

「誰に何を聞くかも、学校で考えてください。先生が富田のことで聞きたいことがあったら、話してもらうようには頼んであります」


 椅子の下へ寄せていた足を、少し戻した。


「俺たちに聞いて済ませないで、学校側で調べてください。それくらいの誠意は、見せてください」

「分かった。私たちで、1人ずつ話を聞きます」

「話した人の名前を、戸田たちに教えないでください。荒川の時みたいなことは、もうしないでください」


 隣で、宣仁が顔を上げた。


「怖がってる人もいます。それでも、話してくれたんです」

「相手の前へ呼び出して、誰が話したかを確かめるようなことはしない。話を聞く場所も、こちらで考える」


 主任の先生は、宣仁へ目を向けた。


「荒川。富田さんが何をされていたか、君が見ていたことについても、改めて聞きたい」

「自分も、今ここで話すつもりはありません」


 宣仁が答えた。膝の上で握っていた手を、ゆっくり開いた。


「前に相談した時、聞いてもらえませんでした。今度は、先生らで調べてください」


 主任の先生は何か言いかけたが、宣仁が口を閉じると、そのまま待った。

 誰も、続けて話そうとはしなかった。


 生徒指導の先生がペンを置き、主任の先生へ顔を向けた。


「ほかの先生たちの確認状況を、見てきます」


 主任の先生が頷くと、生徒指導の先生は立ち上がった。ドアが閉まる音を聞いてから、俺は机へ目を落とした。


 これで確かめられないと言われても、資料を開くつもりはなかった。何があったのかを調べるのは、学校でやってもらいたかった。

 主任の先生は、自分の紙へ短く書き留めた。俺にも宣仁にも、その続きを求めなかった。


 ドアを叩く音がして、主任の先生が入口へ向かった。外にいた先生から紙を受け取り、短く話をしてから、こちらの机へ戻ってきた。


「見ていたことを話しに来ている生徒がいる」


 俺は、顔を上げた。


「ほかの先生も、それぞれ話を聞いている。今届いたのは、富田さんの机が教室から出されていた時の話だ」


 綾香が聞いてくれた話を思い出した。出された机も、優子が1人で戻したのだと聞いていた。


「誰が何を見たか、こちらで確かめていく。今日だけで確かめきれないことは、明日も続ける」

「……はい」


 先生たちが聞きに行けば、話してくれる人はいた。それを、今まではしてくれなかった。


     * * *


 主任の先生は書いた紙を見直し、途中で書き足したところへペンの先を戻した。


「今日までに、学校として確認できていなかったことがある。富田さんのご家庭へは、このあと、こちらから電話で連絡する」


 約束を聞いてもすぐには安心できず、俺は返事をする代わりに尋ねた。


「今から、ですか」

「校長先生と教頭先生へ、ここで新しく聞いたことも報告して、連絡を入れる。今後は、私たちで対応する」

「富田に、何回も説明させたりは」

「まず、保護者の方に今の様子を聞く。無理に話させるつもりはない。お母さんには、ご自宅で富田さんについていていただく」


 俺は、頷いた。


     * * *


 ドアが、軽く叩かれた。


 生徒指導の先生が戻ってきた。

 入口の向こうに、春樹たちがいた。


「鶴見たちも、まだ学校にいました。こちらで待ってもらっています」


 春樹が俺を見た。顔を向けると、教室を出る時と同じ、少し強張った表情をしていた。リュックサックを下ろし、片手で持っていた。


「教室にいた生徒にも、今日のことと、富田さんのことで知っていることを、1人ずつ聞こうと思います。まず、鶴見からでよいですか」


 生徒指導の先生が言った。

 主任の先生は頷いた。


 春樹と交代するために、机へ広げた教科書とノートを閉じた。包んでいた紙へ左手を伸ばすと、主任の先生が声をかけた。


「その教科書とノートは、学校で預からせてもらえないか」


 先生は、傷んだ教材を示した。


「校長先生たちにも、実物を見てもらいたい。何がされていたのかを確認するための、大事な物だから」

「渡しません。他の先生に見せたいのなら、今ここに呼んで現物を見るだけにしてください」


 俺は、表紙へ手を置いた。

 入口で待っていた春樹も、こちらを見た。


「俺たちが持っている富田の物は、全部、ご両親に渡すつもりです。教科書もノートも、ほかの私物も。資料も、全部です」


 主任の先生は、口を挟まずに聞いていた。


「学校には置いていきません。見てもらったのは、こんな状態になってたって知ってもらうためです。預けるためじゃありません」


 紙へ手を伸ばしかけたまま、先生の顔を見た。話を聞いてもらえたことと、優子の物をここへ残していいかどうかは、同じではなかった。


「富田の物なので、俺が勝手に学校へ渡すこともできません」

「分かった。無理に預かることはしません。ここで確認するだけにします」


 主任の先生が、生徒指導の先生へ顔を向けた。


「教頭先生に、こちらへ来ていただけるか確認してもらえますか」


 生徒指導の先生が頷いた。春樹たちには廊下で少し待つように伝え、部屋を出ていった。

 俺は、包みかけた紙をもう1度広げた。


 待っている間も、主任の先生のところへ別の先生が来た。廊下で短く話す声がして、紙が1枚増えた。俺は教科書を自分の前に置いたまま、ドアが開くたびに顔を上げた。


 しばらくして、生徒指導の先生が教頭先生を連れて戻ってきた。


「待たせたね。校長先生は、今も担任から話を聞いています。私は先に、こちらの教材を確認させてもらいます」


 教頭先生は、俺の前の教科書へ目を向けた。


「開いてもらってもいいだろうか」


 俺は頷き、黒いマジックで塗り潰されたページを開いた。教頭先生は机の横へ立ち、俺がめくる手を止めると、体を屈めて書かれた言葉を読んだ。

 ノートも、同じように見せた。教頭先生の目が、優子の字と、その上を横切る太い線との間を動いた。


「ここに書かれている名前も、確認させてほしい」


 名前のあるところへ戻した。主任の先生は、教頭先生がどの教材を見たか、自分の紙へ書き足していた。足元のリュックサックには、誰も手を伸ばさなかった。


「これらは、ご両親に渡すと聞きました。校長先生にも、私が今見た状態を伝えます。学校で確認したことは、ご家庭へ報告します」

「俺たちが調べたことを聞いて済ませないで、学校で調べてください」

「学校で調べます。ほかの先生にも、引き続き確認を頼んでいます」


 教頭先生は主任の先生と少し話し、校長室へ戻っていった。俺は、その後ろ姿を見送った。教科書もノートも、机の上に残っていた。


「改めて現物を確認する必要があれば、ご両親に相談する。その時も、勝手に預かることはしない」


 主任の先生が言った。


「ご両親に、直接話してください」


 先生が頷いたので、左手で包みの紙を寄せた。宣仁が、教科書の角へ引っかからないように端を押さえてくれた。


 優子が、これを見たいと思うかは分からなかった。まずはお母さんかお父さんに渡して、どうすればいいかを話すつもりだった。

 足元のリュックサックに入っている資料も、先生の前へは出さなかった。


 生徒指導の先生が、紙を1枚、主任の先生へ渡した。

 2人で短く話したあと、主任の先生が俺へ向き直った。


「鶴見たちにも、話を聞くつもりです。君には、学校から伝えることもあるから、もう少し待っていてくれ」

「はい」


 左手を膝へ戻し、Yシャツの裾を右の拳へ当て直した。待つとは答えたが、優子のことで調べた内容を学校へ話すつもりはなかった。


 主任の先生に、宣仁と隣の空き部屋で待つように言われた。紙を折るところや袋へ戻すところは宣仁に手伝ってもらい、教科書とノートを包み直した。資料の入ったリュックサックは、足元へ置いた時のまま閉じていた。


 宣仁に支えてもらってリュックサックを背負い、手提げは左手で持った。先生は、荷物を持ち出すのを止めなかった。ドアを開けると、廊下で待っていた春樹が、生徒指導の先生に呼ばれてこちらへ来た。


「富田さんのノート、見てもらえた?」


 春樹が小さく聞いた。


「うん。俺が戸田を殴ったことと、ドアを壊したことも話して、謝った。でも、富田のことで調べた内容は話してない。資料も見せてない。学校で調べてくださいって言った」

「そっか」


 春樹は、持っているリュックサックへ目を落とした。


「資料も、見つけた物も、全部、富田のご両親に渡そうと思ってる。春樹の分も、いいかな」

「うん。俺の分も渡す。先生には、俺からも学校で調べてくださいって言う」

「頼む」


 春樹が頷いたので、俺はそこを空けた。生徒指導の先生が椅子を勧め、富田の被害について知っていることを尋ねる声が聞こえた。


「今ここで、俺から話すつもりはありません。学校で調べてください」


 春樹の返事が、廊下まで届いた。俺は振り返らず、宣仁と隣の部屋へ向かった。


     * * *


 隣の部屋は教室よりも小さく、長い机が2つ並んでいた。部屋の端には、使っていない椅子が重ねて置かれていた。


 宣仁が入口に近い椅子を引いた。俺も荷物を下ろし、その隣へ座った。


「2人とも、向こうの角まで聞こえてたで」


 宣仁が、小さな声で言った。


「……うん」

「先生らも、急いで来てくれた」


 俺は、入口の向こうを見た。

 委員長にしたのは間違いだった、という言葉も、俺が言い返したことも、あの角まで届いていた。


「のりちゃん」

「ん?」

「さっき、止めてくれてありがとう」


 宣仁はすぐには返事をせず、膝へ置いていた指を少し動かした。


「あれ以上は、あかんと思ったから」

「うん」

「自分も腹立ってる。水曜のことも、今の先生の言い方も」


 宣仁は俺を見た。


「でも、もう殴るな。自分が横におらん時も」


 返事をするまでに少し時間がかかった。戸田の顔と、上げたままだった自分の拳が浮かんだ。


「……うん。もう、しない」


 宣仁が頷いた。


「先生に腹立った時、また立ったやろ。外から見えて、ちょっと怖かったわ」

「殴ろうとは、思ってなかったよ」

「うん。手、下げてたな」


 その手を見た。膝の上で、血の染みたYシャツの裾をまた左手で拳へ当てていた。


「でも、見てる方は、さっきのことがあるから」


 俺は顔を上げられなかった。春樹や翔太も、きっと同じように感じていたのだろう。俺がもう大丈夫だと言ったところで、2人がさっき見たことまで消えるわけではなかった。


「……ごめん」

「うん」


 宣仁はそれだけ答えた。大丈夫とも、仕方ないとも言わず、隣に座ったまま俺の返事を聞いてくれた。


 少しして、春樹、翔太と真弓、綾香も通された。しばらくここで待つように言われたらしい。


 誰もすぐには話さなかった。翔太は俺の腕と、血で汚れたYシャツを見てから、少しだけ顔を上げた。


「まだ、手当てしてないのか」

「うん。俺が断った。先に、話したかったから」

「……そっか」


 それで、また黙った。


 真弓がリュックサックを机の下へ置いた。綾香も座ったけれど、背もたれには寄りかからなかった。


 そこにいる5人の顔を見た。綾香と目が合うと小さく頷いてくれたが、膝の上の手は、まだ組まれたままだった。


「ごめん」


 俺が言うと、真弓が顔を上げた。


「さっき、教室で。みんなも、怖かったよな」


 誰も、そんなことはないとは言わなかった。


 翔太が、机の角を指で触った。


「うん。怖かった」


 短い答えに、俺は頷いた。


「もう殴らない。のりちゃんと約束したから」

「……うん」


 翔太は俺の手へ1度目を向け、それから自分の膝を見た。


「今、また怒ってんのかどうか、ちょっと分かんなくてさ」


 言われて口を閉じた。俺が黙っている間も、翔太はそう考えていたのだ。何も言わずに座っているだけでも、怖がらせていた。


「怒ってる。戸田たちにも、先生にも」


 そのまま答えた。


「でも、みんなにじゃないよ。話しかけてもらって、大丈夫」


 翔太が、少し息を吐いた。


「分かった」


 真弓が、俺の顔を見た。


「主任の先生は、聞いてくれたんだよね」

「うん。俺がしたことの説明は、最後まで聞いてくれた。教科書も見せた。でも、それで学校を信用できたわけじゃない。富田のことは、学校で調べてくださいって言った」

「私たちも、あとで1人ずつ聞かれるって」


 真弓はリュックサックから折った紙を出した。俺の家で書いた分とは別に、今日のことも書いていた。


「忘れる前にと思って。廊下で待ってる時に、綾香と」


 綾香も、自分の紙を見せた。


「でも、同じにしようとはしてないよ。私が聞こえなかったところ、真弓には聞こえてたりしたから」

「うん。そのままで、いいと思う」


 俺が言うと、綾香は頷いた。


「勝也君の声も、書いてある」


 少し迷ってからそう言った綾香の紙へ、俺は目を向けた。何が書かれているかまでは読めなかった。


「うん。消さなくていいよ」

「……うん」


 綾香は、紙を自分の前へ戻した。


 優子に何があったのかを確かめるための記録に、今日、俺がしたことも加わった。友達だからという理由で、その部分だけなくしてほしくはなかった。


「俺たちが調べた資料は、先生には見せなかった」


 真弓が、紙から顔を上げた。


「前に、話してくれた人には、先生が聞きたいことがあったら話してほしいって頼んだ。でも、俺たちが代わりに説明するつもりはないって」


 翔太が、腕を組んだ。


「俺も、今は話したくない。散々放っておいて、今になって聞かせろって言われても」

「私も。学校で調べてくださいって言う」


 真弓が答えると、綾香も頷いた。春樹は、俺の隣にある荷物へ目を向けた。


「資料と、見つけた富田の物は、全部ご両親に渡したい。みんなの分も、いいかな。春樹には、さっき話した」


 真弓は頷き、綾香は、自分の書いた紙へもう1度目を落とした。


「今日のことも、一緒でいい?」

「うん。それも、渡したい」


 綾香が頷いた。翔太も、俺の方を見て、いいよ、と言った。


「自分も、それでええと思う」


 宣仁の返事を聞いて、俺はもう1度、ありがとうと答えた。


 俺は、椅子へ少し深く座り直した。

 机の向こうに、空いた椅子が1つあった。


「富田、何も知らないんだよな」


 翔太が言った。


「今日、こうなったことも」

「……うん」


 俺は答えた。


「俺が、迷惑がってるなんて言ってないことも。まだ、言えてない」


 真弓が、手元の紙から顔を上げた。


「それは、会えたら、ちゃんと言ってあげて」

「うん」

「学校には、学校で調べてもらおう」


 頷いて、何か返そうとした。でも、ありがとう以外には出てこなかった。


 宣仁が、時計を見た。


「家にも、遅なるって連絡せなあかんな」

「私、電話借りられるか聞いてくる」


 真弓が立った。

 翔太も、自分も借りたいと言った。


 綾香は紙を畳んでから、俺の腕をもう1度見た。


「痛かったら、ちゃんと言ってね」

「……うん」


 答えると、綾香は少しだけ肩の力を抜いた。

 それから真弓の後ろについていった。


 みんなとは、まだいつもどおりには話せなかった。それでも、同じ部屋にいてくれた。俺は椅子に座ったまま、3人が出ていった入口の方を見ていた。


     * * *


 電話を借りた3人が戻って、しばらくすると、生徒指導の先生が来た。

 入口から部屋を見渡し、翔太の名前を呼んだ。


「鳥居。富田へのいじめについて、君が知っていることも聞きたい」

「俺は、今は話しません」


 翔太は、座ったまま答えた。


「学校で調べてください」


 先生の目が、ほかのみんなへ移った。


「私も、そう思っています」


 真弓が言った。綾香も、先生を見て頷いた。


「私も、今はお話ししません」


 先生は春樹を見た。春樹は、さっき伝えたとおりです、と答えた。

 誰も、机の上へ資料を出そうとはしなかった。


「その返事も、主任の先生へ伝えます」


 先生は、持っていた紙を揃えた。

 怒鳴ることも、すぐ話せと繰り返すこともなかった。でも、それで気持ちが変わるわけではなかった。


「鵜飼。学校から伝えておくことがある。もう1度、こちらへ来てくれ」


 リュックサックを背負おうとすると、春樹が後ろから支えてくれた。左手で手提げを持って立つと、顔を上げた春樹と目が合った。


「待ってる」

「うん」


     * * *


 生徒指導室では、主任の先生が、机の紙を揃えていた。

 向かいの椅子は、空いたままだった。


 生徒指導の先生が俺より先に部屋へ入り、ほかのみんなも聞き取りを断ったと伝えた。


「鵜飼も、富田さんの被害について調べた内容は話さない、という返事は変わらないんだな」


 俺は、勧められた椅子へ座った。手提げは自分の足元へ置いた。


「学校で調べてください。俺たちの返事は、変わりません」


 主任の先生は頷き、机の紙を脇へ寄せた。俺たちの資料は、その中にはなかった。


「学校で確認を進めます。今は、君への連絡を聞いてほしい」


 先生は、連絡事項を書いた紙を手元へ寄せた。


「君のお母さんには、後日、学校へ来ていただきたいとお伝えした」


 俺は、顔を上げた。


「何を、話したんですか」

「来校のお願いだけだ。詳しいことは、まだ話していない」


 母さんは、詳しい理由も聞かされないまま、学校へ来るように言われたのだ。家に帰ったら、今日何をしたのか、自分の口で話さなければならなかった。


「今日のことは、帰ったら君からも話してほしい。こちらから説明することも、後日の場で伝える」

「……はい」

「君とは、明日も話をする。明日はいつもどおり登校してくれ。登校したら、私のところへ来てほしい」

「分かりました」


 先生は、担任が持ち出した反省文や別室登校を、俺へ言いつけなかった。

 今日はまだ確かめることが残っていると、そう説明した。


「教頭先生にも見てもらった教材の状態は、校長先生へ報告する。資料は見せないことと、集めた物はご両親に渡すという君の返事も、そのまま伝える」

「先生たちが調べたことは、ご両親にちゃんと説明してください」

「そうします」


 手提げを足元へ置き直した。中の物は、宣仁に手伝ってもらって包み直したままだった。


 生徒指導の先生が、俺の右手へ目を向けた。


「最後に、手当てを受けていかないか。富田さんの件は、君がここを出ても調べ続ける」


 俺は拳へ当てていた裾をそっと離した。傷の周りには乾きかけた血が残っていたが、さっきから新しい滴は落ちていなかった。白いYシャツの血の染みは、そのままだった。


「いいえ、結構です」

「放っておいていい傷だと、君が決めるんじゃないぞ。帰ったら、お母さんにも必ず手と腕を見せなさい」

「母さんが帰ってきたら、見せます」


 優子のところへ行く前に、ここに残ることもできる。そう分かっていても、早く、迷惑なんかじゃないと伝えたかった。俺は右手を膝へ戻した。


 主任の先生は生徒指導の先生と目を合わせてから、紙を閉じた。


「今日は、ここまでにしよう」


 その言葉を聞いても、すぐには立てなかった。

 机へ目を落としたまま、聞いた。


「富田のこと、明日になったら、また分からないって話にはならないですよね」


 主任の先生は、紙を置いた。


「ならない。ほかの生徒から聞いた話も、ここで見た教材の状態も、学校の記録として残している。確認できていないところがあるからといって、全部なかったことにはしない」


 先生は、机に置いた紙へ手を添えた。


「相談を受けたあとに何をしなかったかも、確認する。それは君たちに調べてもらうことではない」

「……はい」


 ようやく椅子から立つと、生徒指導の先生がリュックサックを支えてくれた。片方ずつ肩紐を通し、手提げは左手で持ち上げた。右手は、ぶつけないよう体の前へ寄せていた。血の染みた裾は、ズボンから出したままだった。


「失礼します」


 開けてもらったドアを出ると、廊下の窓から入る光がさっきより低くなっていた。


     * * *


 隣の部屋へ戻ると、春樹たちも帰ってよいと言われていた。


 荷物をまとめる時、それぞれが持っていた記録を集めた。春樹が、聞き取りを書いた分と今日のことを書いた分を確かめながら重ね、宣仁が俺のリュックサックへ入れてくれた。

 学校の先生には、誰もその中身を見せていなかった。優子の被害について自分たちが見たことも、調べたことも、学校で改めて調べてもらうと伝えてあった。


 口を閉めてもらってから、リュックサックを背負った。みんなで荷物を持ち、昇降口へ向かった。


 宣仁が、俺の歩く速さに合わせた。


「これから、富田のところ行くんやな」

「うん」


 学校へ言いたいことは言った。でも、優子へは、まだ何も言えていなかった。


「今日、会えるとええな」

「……うん」


 土曜日、返事のなかったインターホンを思い出した。今日は返事があるだろうか。顔を見せてくれるだろうか。


 靴を履き替える間、手提げを壁際へ置いた。学校へ預けた物は1つもなかった。教科書もノートも、見つけたほかの私物も、みんなで集めた資料も、優子のご両親へ渡すつもりだった。


 外へ出ると、翔太が隣へ来た。


「俺たちに何かできることあったら、言って」

「うん。今日も、ありがとう」


 真弓と綾香も頷いた。

 春樹は、俺の持っている袋へ1度目を向けた。


「中の紙、曲がってない?」


 春樹は袋の口を少し広げ、覗いて紙の端を直した。教科書の角は、紙の内側に収まっていた。


「大丈夫」

「そっか」


 校門を出て、優子の家へ向くところでみんなと別れた。いつもの公園へ続く道を帰る5人に、もう1度、左手の袋を少し上げて応えた。


 右手はまだ痛かった。担任へ言い返した時の声も、喉に残っていた。


 それでも、優子の家で同じ声を出したくはなかった。聞きたいことより先に、伝えることがあった。


 迷惑だなんて、言っていない。


 俺は手提げを持ち直し、歩き出した。


     * * 学年主任視点 * *


 勝也たちが帰ったあとも、生徒指導室では確認が続いていた。


 机の端には、別の生徒が届けた教材が置かれていた。勝也が持ち帰った物とは違い、紙の間に土が入り込んだ表紙には、富田優子の名前が残っている。その横には、持ってきた生徒の名前と、見つけた場所を記した紙が添えられていた。


 学年主任は、複数の教師から届いた記録を読み直していた。

 生徒指導の教師が、ドアを開けた。


「自分から話したいという生徒がいます」


 その後ろには、大島奈々が立っていた。鞄を両手で持ち、入口から机までを見たが、促されるまで入ってこなかった。


「入って」


 学年主任が椅子を示した。奈々が腰を下ろす前に、机に広げていた記録の束を閉じ、教材の上へ紙をかぶせた。


「話したいことを、聞かせてくれるか」


 奈々は膝の上へ鞄を置いても、持ち手から指を離さなかった。


「富田さんのことです」

「うん」

「私も、やってました」


 生徒指導の教師は先ほどまでの記録を開かず、白い紙を1枚、前へ出した。


「自分がしたことから、話してくれるか」

「ノートに、字を書きました。水曜日、トイレで」

「どんな字を」


 奈々が答えた言葉を、生徒指導の教師はそのまま書き留めた。


「ほかの子が書いてる時も、私、笑ってて。富田さんにも、ひどいこと言いました」


 どこにいたのか、誰が一緒にいたのか、何を自分で見たのか。学年主任が1つずつ尋ねると、奈々は俯いたまま答えた。


「携帯は、戸田さんがトイレに捨てました。私、その時も見てました」


 どの個室だったかを尋ねられ、入口から見た位置を説明した。

 生徒指導の教師は書き留めてから、奈々へ目を戻した。


「そのあと、私も、教科書とかノートを持って出ました。杉浦さんと」

「富田から預かったのか」

「違います。返してって、言ってたのに」


 奈々は、鞄の持ち手を握り直した。


「杉浦さんが何冊か、校舎の横へ持っていって。残りは、2人で外へ持っていきました」

「その残りは、どうした」

「道の脇へ。私が、置いてきました。返すつもりじゃなくて、捨てたんです」


 学校からどちらへ歩き、何冊ほど持っていたのか。奈々は質問されるたびに少し考え、途中にあった建物や曲がり角を挙げながら、覚えているところまで説明した。


「杉浦さんは、靴と日傘も持ってて。昇降口で、富田さんのを取ったんです。それも、曲がり角の植え込みに」

「置くところを、君も見たのか」

「はい。私も、そこにいました」


 生徒指導の教師は、教材を捨てた場所と、靴と傘の場所を分けて書いた。


「外へ出たあと、そのまま帰った?」

「その時は、戻りました。杉浦さんと、トイレへ」

「外へ出ていた間、中で何があったかは?」

「分からないです。戻った時には、富田さん、壁のところに座ってて」


 戻る前のことと、戻ってから見たことを、生徒指導の教師は別の行へ記した。

 奈々は、その紙を見つめたまま続けた。


「そのあと、戸田さんが、はさみ持ってて。富田さんの、後ろの髪を」

「切るところを見た?」

「はい」


 奈々は頷いた。


「富田さんが嫌がったら、富永さんが叩いて。蹴ったりもしてました。杉浦さんも、腕を押さえてて」

「君は、その時、どうしていた」


 鞄の持ち手が、指の中で捻れた。


「見てました」


 少し間を置いて、続けた。


「止めてないです。私も、その前は面白がってたから」


 学年主任は次の質問を急がず、奈々が顔を上げるまで待った。


「でも、髪を切られて、泣いてるのを見てたら、気持ち悪くなって。もう、やり過ぎだって思いました」


 奈々は唇を噛み、膝へ目を戻した。


「私も、ひどいことしたんだって。でも、3人に言えなくて。先に帰るって、それだけ言いました」

「その時、富田さんは?」

「まだ、そこにいました」

「君が帰ったあとのことは、見ていないんだな」

「はい」


 奈々は最後に自分が見た時の様子まで話し、それよりあとのことを聞かれると、分からないと答えた。


 生徒指導の教師が区切りの線を引く間、奈々はそのペン先を見ていた。


「ほかにも、あります」

「聞こう」

「鵜飼くんの名前を、使いました」


 学年主任は、閉じてある記録へ手を伸ばさなかった。


「どう使ったのか、自分の言葉で説明してくれるか」

「富田さんに、鵜飼くんが迷惑だって言ってたって、話しました」

「鵜飼から、そう聞いたのか」

「違います」


 奈々の声が小さくなった。


「宿題のことで、鳥居くんと話してたのを、使いました。迷惑だとは言ってなかったです。私が、付け足しました」


 生徒指導の教師が、紙へ書き足した。


「富田さんが、その言葉を信じるかもしれないと思っていた?」

「……はい」

「ほかの生徒にも、その話をしたか」


 莉奈へ話したことについても、奈々は答えた。いつ頃、どこで話したのか、自分で覚えているところから順番に言った。


 話が途切れると、部屋の外から足音が聞こえた。

 奈々は入口を見たが、立たなかった。


「今日の教室では、自分がしたことについて、何か話した?」


 学年主任が尋ねると、奈々は鞄へ目を戻した。


「鵜飼くんに、嘘だったって言いました。悪いことしたって。ごめんなさいって」

「それは、いつ?」

「戸田さんと、言い合いになってた時です。まだ、掴んだりする前に」


 学年主任は時点を確かめてから、続きを待った。


「自分だけ助かろうとしてるって、言われました。でも、私も一緒にやってたのは、本当だから」

「ここでも話そうと思った理由を、聞かせてくれるか」

「家に帰ってからも、富田さんが泣いてたの、思い出して。私も一緒にやったのに、そのままにしてて」


 言葉が止まった。

 教師2人は、口を挟まなかった。


「鵜飼くんに謝っただけで、終わりにしちゃいけないと思いました。私がしたことも、先生に言わないと」


 学年主任は頷いたが、許すとも、もう大丈夫だとも言わなかった。


「今の話を、順番に読み返す。違うところや、言い足したいところがあったら、止めてほしい」


 奈々は、小さく頷いた。


 学年主任は、奈々が話した内容を1つずつ読み返した。ノートに書いた言葉も、自分で教材を持ち出して捨てたことも、勝也の名前で伝えた嘘も、奈々がしたこととして記録されていた。ほかの3人についての説明の中へ隠れることはなかった。


     * * *


 奈々が別の教師に伴われて部屋を出たあと、学年主任は、先に届いていた記録を開いた。


 優子へ嘘を告げていた場面を聞いた生徒と、奈々が仲間へその嘘について話すところを聞いた生徒。それぞれの記録を、今書いた紙の隣へ置いた。

 教材を運ぶ2人の女子の会話を聞いた生徒、玲奈が靴と日傘を捨てるところを見た生徒、水曜の女子トイレの入口から中を見た生徒の記録も、順番に並べた。


「こちらから内容を教える前に、本人が話したことです」


 生徒指導の教師が言うと、学年主任は頷き、話の重なる箇所へ印をつけた。


 全員が、その場のすべてを見ていたわけではなかった。それでも別々に聞き取った話を並べると、同じ出来事を指している箇所が確かめられた。


 その紙の中には、宣仁から、勝也から、そして保護者から相談を受けた日付もあった。学年主任は、それらを1番上へ揃えた。


「これも一緒に、校長先生たちへ持っていきましょう」


 生徒指導の教師が、教材を包んでいた紙を戻した。

 誰が何をしたかという記録の隣に、相談を受けた学校がどう対応していたかという記録が重なった。



今回の登場人物


・鵜飼 勝也

戸田を殴る必要はあったと考え、事情を聞かず謝罪を迫る担任には、殴ったことを謝らない。戸田本人への謝罪と、主任への説明・謝罪は真摯に行うが、学校への不信は解けず、被害品だけを見せて資料や私物は持ち帰る。


・荒川 宣仁

主任たちを呼んだあと、改めての聞き取りには応じず、学校で調べるよう求める。勝也の荷物の扱いを支え、怒りを共有しながらも、もう殴らないよう約束させる。


・鶴見 春樹

勝也の返事を聞き、自分も教師の聞き取りを断る。記録を優子の両親へ渡すことに同意し、勝也の荷物を支える。


・鳥居 翔太

勝也への恐怖を隠さず伝え、学校の対応への不満から聞き取りを断る。記録を優子の両親へ渡すことに同意し、帰り際にも勝也を気遣う。


・加藤 真弓

教室で見聞きしたことを紙に残すが、教師への説明には応じず、学校での調査を求める。勝也には、優子へ嘘を訂正してあげるよう伝える。


・井上 綾香

勝也の言動も隠さず記録し、優子の両親へ渡すことに同意する。学校の聞き取りは断りつつ、まだ緊張が残る中で勝也の怪我を気遣う。


・大島 奈々

教室での謝罪に続き、教師にも自分の加害と嘘を認める。切髪を見て罪悪感を抱きながら止めず、優子を残して帰ったことまで話す。


・担任の先生

優子の話を遮り、勝也から「お前に何を言っても、無駄なんだな」と言われて激昂する。学年主任たちには過去の相談への対応を問われ、担任を交代させる方針を告げられる。


・学年主任の先生

勝也自身の行為の説明を聞き、担任の対応を問いただしたうえで、学校の対応について謝罪する。勝也たちから調査内容や資料の提供を拒まれ、ほかの生徒への確認を進める。


・生徒指導の先生

学年主任とともに聞き取りを進め、勝也に手当てを勧める。奈々の供述も記録し、ほかの生徒から得た話と照合する。


・教頭先生

勝也の求めに応じて生徒指導室を訪れ、教科書とノートの被害をその場で確認する。現物は預からず、確認した状態を校長へ伝える。

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