第19話 俺たちにできること
第18話 もう行けない を読み飛ばした人向け前回のあらすじ。
教科書への嫌がらせに気づいた勝也は、荒川と協力し、どちらかが優子の近くにいるようにしていた。優子は持ち物を傷つけられることを恐れ、少し席を離れる時にも、教科書や筆箱をすべてリュックサックへ入れて持ち歩いていた。それでも、勝也と貸した本について話したり、一緒に図書室へ行ったりする時間には、わずかに表情が和らいでいた。
火曜日は、新たに持ち物を取り上げられることなく終わった。翌日も同じように過ごせればいい。そう願って登校した優子だったが、水曜日の放課後には、勝也の委員会があった。勝也は荒川に見守りを頼み、優子と「また明日」と挨拶を交わして教室を出る。
ところが、その直後、荒川にも「先生が呼んでいる」という伝言が届く。それは玲奈が別の男子を通して伝えさせた、偽の呼び出しだった。荒川が職員室へ向かった間に、優子は荷物をすべて持って教室を離れ、人の少ない女子トイレへ立ち寄る。そこで、美咲、莉奈、玲奈、奈々の4人から深刻ないじめを受けてしまう。
教科書やノートなどを傷つけられ、一部は持ち去られた。携帯電話も使えなくなり、優子自身も怪我を負い、大切に伸ばしていた髪の一部を切られる。途中、居合わせた生徒に助けを求めることはできたが、その生徒は立ち去ってしまい、助けは届かなかった。
一方、呼び出しの行き違いを不審に思った荒川は、勝也へ事情を伝えていた。委員会後、2人は優子を探し、荷物を背負って教室を出たという目撃談を聞く。さらに、靴箱には外靴も上履きもなく、傘立ての日傘もなくなっていた。持ち物を守るためにすべて持ち帰ったのだと考えた2人は、優子が無事に帰ったと思い込んでしまう。実際には、彼女はまだ校内から出られずにいた。
奈々がひと足先に帰ったあと、残った美咲たちは、立ち去る前に優子を口止めする。誰かに話せば、勝也に「優子が陰で悪口を言っていた」と嘘を伝え、勝也にも危害を加えるという脅しだった。勝也に嫌われることも、自分を気遣ってくれた彼が傷つくことも、優子には耐え難かった。助けてほしいと思いながらも、誰にも言わないと約束させられてしまう。
ようやく解放された優子は、残された荷物を集めて帰路につく。外靴と日傘は見つからず、上履きのまま帰宅した。母の美和は、娘の怪我や髪、傷つけられた持ち物を見て異変に気づく。しかし、何があったのか尋ねられても、優子は泣くばかりで事情を話せなかった。
美和は翌日の学校を休ませると決め、担任へ連絡する。連絡を受けて帰宅した父の泰臣も、優子の様子を見て、無理に答えを求めることをやめた。両親は娘を責めず、まず休ませようとする。一方、担任は「調査する」「待ってほしい」と繰り返すだけで、何を確認したのかを具体的に答えない。両親は不信を強め、傷つけられた持ち物を残し、担任だけに任せず学校への対応を考えることにする。
家へ戻り、母がそばにいてくれても、優子の恐怖は消えなかった。両親が自分を見捨てるはずはないと分かっていても、脅された言葉や、助けを求めても届かなかった出来事が、話そうとする声を止めてしまう。
明日は学校へ行く支度をしなくていい。そのことに少しだけ安堵しながらも、優子は、休めばすぐ元に戻れるとは思えなかった。勝也のいる隣の席を思い浮かべても、そこへたどり着くまでの廊下や、また1人になる放課後が怖かった。
優子の中に残ったのは、「もう、行けない」という思いだった。
木曜日の朝、みんなと教室へ入ると、隣の机には何も載っていなかった。 まだ来ていないのかな。いつもより早く着いたわけではなかったけれど、始業までは、まだ少し時間がある。俺は入口から隣の席へ目を向けた。 前の方では、男子2人が昨日のテレビの話をしている。窓を開けに来た小島さんへ挨拶をして、俺は自分の席へ向かった。
リュックサックを下ろし、1時間目に使う物を出した。 教科書を机の左端へ置いてから、いつもの癖で少し右へ動かす。隣の机に出してある物へ、ぶつけないようにするためだった。
今日は、気にする必要がなかった。
椅子を引いて座ると、後ろのドアが開いた。 顔を向けた先にいたのは、別の女子だった。その子が友達へ、おはよう、と声をかけながら、俺の席の前を通っていく。
連絡帳を開くと、昨日の委員会で決まった、朝の挨拶運動の当番が目に入った。 担当する日と、その日に立つ場所。間違えないように数字を囲んである。それを確かめているうちに、昨日、委員会の途中で廊下へ出たことを思い出した。
優子の席も、靴箱も、空だった。 日傘もなかった。
昨日は、俺たちが戻る前に帰っていた。 今朝、顔を見たら、上履きも持って帰っているのか聞いてみるつもりだった。 荷物が増えて大変なら、何か持てるかもしれない。
そう考えていたことを、まだ1つも聞けていない。
「勝也、ちょっと聞いていい?」
一緒に登校してきた翔太が、俺の机の横へ来た。 まだ自分の席へ荷物を置いていなかったらしく、肩から下ろしたリュックサックを片手に持っている。
「うん。どうした?」 「昨日の最後の問題、やった?」 「やったけど」 「最後だけ答え違うんだよな。あとで見ていい?」 「うん。俺が間違ってるかもしれないけど」 「途中、見たいだけ」
翔太が自分の席へ荷物を置きに行くのを見て、俺も問題集を出した。 頼まれたページを開いたところで、後ろを誰かが通る気配がした。つい、そちらへ顔を向けてしまう。
今度も、優子ではなかった。
* * *
予鈴が鳴る少し前、荒川と目が合った。
荒川は俺の隣を見てから、こちらへ来た。 机の後ろに立ち、声を落とす。
「まだ来てへんの?」 「うん」 「そっか」
荒川も教室のドアへ目を向けた。 その顔を見て、何度も入口を確かめていたのは俺だけではなかったのだと分かった。荒川も、優子が来るのを待っていた。
「昨日のこと、聞いてみるつもりだったんだけど」 「自分もや。杉浦、まだ話してへん」
前の方へ目を向けると、杉浦が女子と話していた。 戸田も近くにいる。 誰かが見せた物を覗き込み、短く笑った。
いつも見ている教室だった。 優子だけが、まだいなかった。
担任が入ってきたので、荒川は自分の席へ戻った。 俺も前を向き、挨拶をした。
先生は出席簿を開いた。 何人かの方を見てから、窓際へ目を移す。
「富田は休みだ。連絡があった」
それだけ言って、今日の連絡へ進んだ。
俺は、次の連絡を始めた先生の顔を見ていた。 今日は欠席する。それは分かったけれど、昨日、家へ帰ってからどうしていたのかまでは、そのひと言では分からなかった。
風邪かもしれない。 別の用事かもしれない。
そういう可能性を考えようとすると、教科書にあった黒い字が浮かんだ。 月曜日、紙で隠していたところ。 俺が尋ねた時、周りを見てから口を閉じた優子の顔。
休んだ理由を、勝手に決めることはできない。 けれど、いつもの欠席と同じようには聞けなかった。
連絡を終えた先生が出席簿を閉じ、教卓の上の紙を持った。 そのまま出ていきそうになったので、俺は慌てて席を立った。教室を出る前に追いつき、声をかける。
「先生。富田、明日は来られそうなんですか」
教室の入口で聞くと、先生が足を止めた。
「まだ分からん。来るなら来るし、休むなら連絡がある」 「……そうですか」 「お前も、次の授業の準備をしなさい」
先生はそのまま廊下へ出ていった。
誰に何を聞けば、もう少し分かるのだろう。 そう思いながら、俺は席へ戻った。
隣の椅子は、机に収まったままだった。
* * *
1時間目は、黒板を見るたびに窓の光が目へ入った。
雲が動くと、机の上の明るさが少し変わる。 隣から、ページをめくる音はしなかった。
先生の説明が終わり、問題を解く時間になった。 鉛筆を持ち直して取りかかったのに、1問目の途中で計算が合わなくなった。書いたところを順に見直していくと、符号を1つ写し間違えていた。
消しゴムを取ろうと左へ手を伸ばしたが、机の端にはなかった。 さっき、ここへ置いたはずなのに。少し探すと筆箱の下から出てきて、それで間違えたところを消した。
優子の机には、何もなかった。 だから余計に、自分の机の上の物が多く見えた。
月曜日は、教科書を間に置いた。 俺が見つけられなかった説明を、優子が指で教えてくれた。 ここと言った声は小さかったけれど、聞こえていた。
今日も来ていたら、分からないところを聞けただろうか。 俺が先に解けたら、教えられただろうか。
そんなことを考えている間に、また鉛筆の先が止まっていた。 まだ1問目も終わっていない。俺は顔を上げて残り時間を確かめ、書きかけの式へ目を戻した。
今、ここで考えていても、優子が何をしているかは分からない。 分からないままでも授業は進むし、チャイムは鳴る。 昨日も、そうだった。
* * *
休み時間、荒川が席へ来た。
「ちょっとええ?」 「うん」
俺たちは教室の後ろから廊下へ出た。 階段の方は人が多かったので、壁際へ寄る。
「昨日の伝言、本人にもっぺん聞いたんやけど」
荒川が言った。
「やっぱり、杉浦に頼まれたって。先生から直接言われたんやないっていうのは、昨日と一緒やった」 「先生の名前は?」 「担任。そこも間違うてへんかった」
俺は頷いた。 昨日、荒川を呼びに来た男子が、勝手にそんなことをする理由は思いつかなかった。 だからといって、杉浦がなぜそう言ったのかも分からない。
「杉浦に聞いてくる」 「俺も居ていい?」 「うん。昨日のことやしな」
教室へ戻ると、杉浦は自分の席のそばにいた。 隣の女子と話し終わったところで、荒川が声をかけた。
「杉浦。昨日、自分が先生に呼ばれとるって、伝えてもらったやろ」 「え?」 「職員室行ったんやけど。先生、呼んでへんって言うてたんよ」
杉浦が荒川を見た。 それから、その横にいる俺へ目を動かした。
「ああ……それ、私の聞き間違いだったかも」 「誰かほかの人のことやった?」 「多分。よく分かんないけど」 「どこで聞いたん?」 「廊下だったと思う。ごめんね」
言いながら、杉浦は机の中から教科書を出した。 その上へ筆箱を載せる。
荒川は、すぐにはその場を離れなかった。 もう少し説明してくれると思ったのだろうか。俺も同じように、杉浦が次に何を言うのか待っていた。
杉浦は、ほかの女子へ顔を向けた。
「さっきの何ページだっけ」
会話が終わったようだった。
「……分かった」
荒川が言った。 俺たちは席から離れた。
強く聞き直そうと思えば、できたのかもしれない。 でも、聞き間違いではないと言えるものを、俺は持っていなかった。
廊下へ戻ってから、荒川が小さく息を吐いた。
「すっきりせえへんな」 「うん」 「間違えたんやったら、それで終わりなんやけど」
昨日、荒川には少しの間だけ頼むと言って、委員会へ向かった。 その荒川も、用事のない職員室へ行くことになってしまった。 聞き間違いだとしても、誰を呼ぶ話だったのかくらいは、分かってもよさそうだった。
話しているところへ、別のクラスの生徒が通りかかった。 俺たちは通り道を空けるように少し脇へ寄り、声を落として続きを話した。
「昨日は富田も先に帰ってたしな」 「うん。荷物も靴も日傘もなかったし」
荒川が頷いた。 俺は、昨日見た空の靴箱を思い出した。
「上履きも持って帰ってるなら毎日、荷物増えるよな」 「そうやな。置いとくんが心配なんかもしれへんけど」 「今日、聞こうと思ってたんだけど」
そこまで言って、教室の方へ目を向けた。 顔を見たら聞けると思っていたことが、いくつもあった。 上履きのことも、貸してもらっている本のことも。 けれど、今日は隣にいなかった。
「……あの教科書のこと関係あるのかな。休んだの」
俺が言うと、荒川も教室の方を見た。
「それは、まだ分からへんけど」 「うん」 「どっちにしても、あんなことされたままなんは嫌やな」
俺は頷いた。 風邪を引いて休んだだけかもしれない。明日には来られるのかもしれない。 でも、そうだったとしても、あの教科書に書かれた字がなくなるわけではなかった。 誰が書いたのかも、俺たちはまだ知らない。
「もう少し聞ける人いないかな。教科書に書いてるところとか、ほかに何かされてるところを見た人」 「自分も知ってるやつに聞いてみる」 「俺たちが見てない時に何があったのか、知らないままなの嫌なんだ」
荒川は俺を見た。 笑わずに、頷いた。
「自分もや」
チャイムが鳴り始めた。 教室へ戻る生徒が、俺たちの横を通っていく。
俺も足を動かした。 自分の机まで戻り、隣を見た。
今日の休み時間は、荒川と交代しなくてもよかった。 そのことが、嫌だった。
* * *
給食の時間になり、班ごとに机を寄せた。 同じ班の4人が食器を受け取る中、俺も机の上へ給食を並べた。廊下側の前の方では、翔太と春樹が自分たちの班の席に着いていた。
優子の机には、食器が置かれなかった。 人数を数えていた当番の子がそこを1つ飛ばして、次の席へ進んでいく。欠席なのだから当たり前なのに、俺はその手元を目で追ってしまった。
俺は自分の箸を取った。
同じ班の子たちが、次の体育の話をしていた。 聞こえてはいたけれど、会話へ入ろうとすると、何を話していたのか確かめ直さなければならなかった。空いた机へ目が戻るたびに、そこに食器がないことを、また見てしまう。
月曜日に教科書を見てから、荒川と2人で気にしていた。 それでも、俺たちが知らないことばかりだった。今朝、先生に聞いても、優子が明日来られるのかさえ分からなかった。
みんなにも、話を聞いてもらいたい。
そう思って廊下側へ目を向けた時、同じ班の男子が、あ、と声を出した。
「鵜飼、コップ」
机へ置いた腕が、水の入ったコップに当たりかけていた。 俺は慌てて腕を引き、コップを少し奥へ動かした。
「ごめん。ありがとう」
箸を持ち直して、皿へ目を戻した。 口へ運べば、味は分かった。飲み込んでから、もう1口取った。 何から話せばいいのかは、まだ決まらなかった。
* * *
給食を片づけ、机を元へ戻すと、昼休みになった。 俺が廊下側を見たところで、翔太と目が合った。少し手を上げると、春樹にも声をかけて、こちらへ来てくれた。 2人が来る間に、近くを通った真弓と綾香にも声をかけた。
「勝也、今日も考え事?」
真弓に聞かれ、顔を上げた。
「……そんなに分かる?」 「うん。今も、呼んだんだけど」 「ごめん。聞こえてなかった、何?」 「今は、それを聞いてる」
机から手を離すと、翔太もこちらを見ていた。 春樹は通路を塞がないように机の横へ寄った。何か話すのだと思って、待ってくれているようだった。
月曜日にも、静かだと言われた。 あの時は、ちょっと考え事、とだけ返した。 今日もそう言えば、その先を聞かずにいてくれるかもしれない。
でも、そうしている間に、優子は休んだ。
「放課後、少し時間、もらっていい?」
4人の顔を順番に見た。
「話したいことがあるんだ。頼みたいことも」 「いいよ」
最初に答えたのは、春樹だった。
「部活の前でいい?」 「うん。でも、ちょっと長くなるかもしれない」 「分かった。先に言っておく」 「俺も平気」
翔太が言った。 真弓も、綾香も頷いてくれた。
「ここで話す?」
綾香が小さく聞いた。
「できれば、人がいないところがいい」 「じゃあ、帰りの会が終わったら、いったん集まろ」
真弓がそう言って、俺の顔を見た。
「今は、無理して言わなくていいから」 「……ありがとう」
礼を言ってから、みんなに何から話せばいいのか、また考え始めた。 教科書に書かれた言葉だけでは、うまく伝わらない気がした。俺が知っている昔の優子のことも、話しておきたかった。
「また考えてる」
春樹に言われて、顔を上げた。
「……ごめん」 「別に。放課後、ちゃんと聞くから」
春樹はそう言って頷いた。 翔太も、帰りの会のあとだな、と確かめてくれた。俺はもう1度頷き、4人がそれぞれ席を離れるのを見送った。
* * *
そのあと、荒川の席へ行き、4人にも話したいと伝えた。
「俺と富田のことも、話そうと思って」 「富田とのこと?」 「あ、うん。それも、あとで。荒川も一緒にいてくれる?」 「もちろん。自分が見たことは、自分で話した方がええやろし」
俺は頷いた。 荒川から聞いたことを俺が全部話すより、その方が伝わる。
「部活、遅くなるけど」 「言うとく。勝也、何回もそれ気にせんでええよ」 「うん」
荒川は少しだけ笑った。
「頼むって言うたやろ。自分も、やるつもりで言うとるから」
そうだった。 何度も聞いていたら、荒川に何度も同じことを言わせてしまう。
「ありがとう。じゃあ、帰りの会のあとで」 「うん」
席へ戻り、リュックサックからノートを出した。 月曜日の夜、自分で見たことを書いた物だった。 後ろのページを開くと、社会の授業の前、と書いてある。
書いておいてよかったと思った。 何から説明しようか考えると、頭の中では、昨日の靴箱と月曜日の教科書が一緒に出てきた。
それぞれの日にあったことは、違う。 俺が自分で見たことと、荒川から聞いたことも違う。
鉛筆を持ち、次の行へ昨日の日付を書いた。 風紀委員会。 荒川が職員室へ。 戻った時には、富田も荷物もなかった。
富田は先に下校。 そう書いて、今日の日付へ移った。
欠席。理由は分からない。
月曜日の記録へ目を戻す。 教科書にあった言葉と、それを隠そうとした優子の手。 今日の欠席と関係があるかは分からなくても、あれを見たことは、みんなに話そうと思った。
隣の椅子を見た。 紙の上では、名前を何度も書ける。 本人には、聞きたかったことが1つも届かなかった。
* * *
帰りの会が終わると、教室はいつもの騒がしさに戻った。 先生が出ていき、部活へ向かう生徒たちが道具を持って立ち上がる。戸田たちも、女子同士で話しながらドアへ向かった。 その後ろ姿が目に入り、俺は開いていたノートをいったん閉じた。
今、追いかけて聞きたい気持ちはあった。 教科書のことを知っているのか。 昨日、優子に何か言ったのか。
ただ、俺が知らないことは、何ひとつ減っていない。 知らないと言われたら、その先へ進めなかった。
翔太が自分の席のそばで誰かと話していた。 先に行っていてほしいと伝えているのが聞こえた。 綾香も、吹奏楽部の子へ声をかけてから戻ってきた。
俺たちは、教室に残った生徒が少なくなるのを待った。 窓際の後ろへ集まると、最後まで話していた男子2人が、じゃあな、と手を上げた。
「また明日」
俺が返すと、2人は廊下へ出た。
教室には、俺たちだけになった。
春樹が、前の席の椅子を借りてこちらへ向けた。 真弓と綾香は机の横に立っていたが、俺が座ってと言うと、それぞれ近くの椅子を持ってきた。 荒川は通路側へ腰を下ろす。 翔太は1度ドアの方を見てから、俺へ顔を向けた。
「で、どうした?」
いつもの聞き方だった。 ふざけても、わざと声を低くしてもいなかった。
俺は、机へ置いたノートから手を離した。
「富田のことで、手伝ってほしい」
4人の目が、少し動いた。 空いている隣の席を見る人もいた。
「今日、休んでること?」
綾香が聞いた。
「それも気になってる。けど、その前からのこと」
どこから話せばいいのだろう。 昼休みに順番を考えたはずなのに、口にしようとすると、別のことから話したくなった。 いきなり教科書の字を見せても、驚くだろうか。先に、先生へ相談したことを伝えた方がいいのか。考えるほど、最初のひと言が決まらなかった。
俺は、1度、息を吸った。
「その前に、1つ言ってなかったことがあって」
春樹が頷いた。 急かす人はいなかった。
「俺と富田、小さい頃、家が隣だったんだ」 「……え?」
翔太の声がした。
「転校する前の?」 「うん。幼稚園の頃から、小4で引っ越すまで。小学校も一緒だった」
真弓が、俺をまっすぐ見た。 綾香は少し口を開け、それから、隣の机へ目を向けた。
「富田、俺の幼馴染なんだ」
声に出すと、自分が今から何を頼もうとしているのか、少しはっきりした気がした。 優子とのことを隠していたつもりはない。ただ、4人へきちんと話す機会を作らないまま、今日まで来てしまっていた。
「そっか。だから、2人でよく話してたんだ」
春樹が納得したように頷いた。
「富田さん、勝也とは話してることが多かったから。いつの間に仲良くなったんだろうって思ってた」 「うん。久しぶりに会えたから、俺も、また話したくて」
「入学した時に、分かったの?」
春樹に聞かれ、頷いた。
「俺はすぐ分かったよ。あんなに白い髪の子、優子のほかに見たことなかったから。俺の方は苗字が変わってたし、向こうは最初、分からなかったと思うけど。話しかけたら思い出してくれて」 「そっか……」
真弓が小さく言った。
「じゃあ、私たちと会う前に、よく遊んでた子なんだ」 「うん。優子とは毎日、遊んでた」
言うと、翔太が少し目を開いた。
「毎日?」 「学校から帰ったら、どっちかの家に行って。休みの日も、何するか一緒に決めてた。家が隣だったから、呼びに行くのもすぐだったし」
話しているうちに、昔、何度も出入りした玄関を思い出した。 何をして遊ぶか決まっていなくても、優子の家には行けた。昨日のゲームの続きをしようと言えば、それを出してくれる。違うことをしたくなったら、何をしようかと、また2人で考えればよかった。
「俺にとっては、親友だったんだ」
自分で言ってから、今、向かいに座っている4人を見た。 翔太も、春樹も、黙って聞いていた。
「今のみんなみたいに。学校のあとも会うのが、当たり前だった」 「……そうだったんだ」
真弓が頷いた。
「小さい頃から、今みたいな感じだったの?」
綾香に聞かれ、俺は首を振った。
「もっと明るかったよ。よく笑ってたし、俺には、自分からいろいろ話してくれた。ただ、人見知りは、昔からしてた」
知らない子が来ると、優子は俺の後ろへ隠れた。 俺の服をつかんだまま、顔だけ少し出して、相手を見ていたことを覚えている。初めて会う子へ自分から声をかけるのは、得意ではなかった。
「知らない子がいると、俺の後ろに隠れるんだ。だから俺から、優子も一緒に遊んでいいって聞いたり、間に入って話したりしてた」 「勝也が一緒なら、遊べたんだね」 「うん。最初は俺のそばにいたけど、慣れたら、その子たちとも普通に遊んでたよ。笑って、自分から話すようになって」
何をして遊びたいのか、小さな声で俺へ教えてくれることもあった。 それをみんなへ伝えて、一緒に遊び始める。しばらくすると、俺に言ってもらわなくても、自分で相手を呼べるようになっていた。 人見知りをしなくなったわけではない。それでも、安心していられる相手の前では、優子はよく笑う子だった。
「遊んでて面白いことがあると見てって呼ばれたり。帰る時間になっても、もうちょっとって話が続いたりしてた」 「富田さんから?」 「うん」
綾香は、少し考えるように目を伏せた。
「私、本の話する時だけ、ちょっと違うなって思ってた。勝也君に聞かれた時、少し話しやすそうだったから。でも、小学校から知ってるとは思わなかった」 「本の話は、今もしてくれるんだ」
そこは、すぐに答えられた。 席が隣になった時も、本を貸してくれた時も、一瞬、昔みたいに声が明るくなった。 俺が知っている優子が、いなくなっていたわけではない。
「ただ、入学して会った時は、ずいぶん変わったなって思った。前より俯いてるし、話しかけても、あんまり目が合わなくて」
俺は隣の机を見た。
「昔みたいに話せないのは、久しぶりだからかなって」 「勝也も?」
春樹が聞いた。
「うん。俺も、ちょっと照れくさかった。何年も会ってなかったし、急に前と同じように話しかけていいか、分かんなくて」
小学校の頃なら、名前を呼べば、そこから何か話せた。 再会してからは、声をかける前に話題を探すようになっていた。自分が照れくさくてそうなっているから、優子も同じなのだろうと、深く考えずに思っていた。
「だから、向こうも俺と一緒なんだろうって。もう少し話すようになれば、そのうち慣れると思ってたんだ」
翔太が腕を膝へ置いた。
「でも、勝也にだけ、そうだったわけじゃないんだよな」 「……うん。今、考えると」
優子が声を小さくしていたのは、俺の前だけではない。 誰かに呼ばれた時、先に肩を縮めることがあった。 返事をしても、相手が笑うとすぐに顔を下げてしまう。
俺と会うのが照れくさいだけなら、それとは別のことだった。
「でも、教科書を見るまでは、そういうところまで考えてなかった。昔とは性格が変わったのかもしれないし、俺にはまだ気を遣うのかもって、それで済ませてた」
俺は、机へ置いていたノートに触れた。
「隣になれた時、俺は結構、嬉しかったんだ。これならまた話せると思ったから」
優子も、小学校の席のことを覚えていた。 本を貸せると言ってくれた。 ようやく少し近くなれたような気がしていた。
「それで隣で見たら、教科書が、あんなふうになってて……」
声が1度止まった。 4人は、続きを待ってくれた。
「今まで、照れてるだけだと思ってたのも、俺がそう思いたかっただけかもしれない」
どうして変わったのかは、まだ分からない。 俺が引っ越してから中学へ入るまでの間も、優子には毎日があった。 その何年分もを、久しぶりだから、で分かったことにはできなかった。
俺はノートを開いた。
「月曜日、優子の社会の教科書、見えたんだ」
ページを、4人の方へ少し向ける。
「黒いマジックで、大きく字が書いてあった。本文の上にも太い線が何度も重ねてあって、文章が黒く塗りつぶされてたんだ。授業で読むところも、読めなくなってて」
翔太の視線が、ノートへ落ちた。 俺が記録した2文字のところで、止まった。 死ね
「……これ?」 「うん」
綾香が唇を結んだ。 真弓は少し身を寄せてから、ノートに触れずに手を引いた。
「教科書に、こんなの書いたの?」 「書いてあった。優子は、白い紙を挟んで隠してた」 「誰が?」
翔太が聞いた。 俺は首を振った。
「そこが、分からない」
言うと、教室が静かになった。 外から笛の音がした。
「聞いたんだけど、話せなくなって。周りばっかり気にしてたから、無理に聞くのも違うかなと思って」 「授業、どうしたん?」
真弓の声だった。
「俺のを使った。一緒に見れば、その時間は何とかなったから」 「あの時、忘れたって言ってたのそれ?」
春樹が言った。 俺は頷いた。
「優子のが使えないって言ったら、見せないといけなくなると思って」
綾香が、小さく息を吸った。
「私、勝也君が、本当に忘れたんだと思ってた」 「そう思ってもらうために言ったから。仕方ないよ」
自分で言った言葉に、少し引っかかった。 あの時間、優子が何も見せずに済んだのはよかった。 でも、隣の机で何が起きていたのかは、みんなには分からなかった。
俺が気づく前も、こういうことがあったのかもしれない。
真弓はノートの文字を見ていた。
「……かわいそう。これ、開くたびに見なきゃいけないじゃん」
俺は頷いた。
教科書が1冊、使いにくくなっただけではない。 同じところを授業で開くたびに、あの字を見なければいけない。 白い紙を持って、ずれないように押さえる。 そんなことをしながら、授業を受けていた。
翔太が膝の上で手を組んだ。 指を1度ほどき、もう1度組み直す。
「俺、許せねぇよ……こんなの」
声は大きくなかった。 言い終わっても、顔を上げなかった。
「休んだのも、それで?」 「分からない。そこは何も聞けてない」 「……そっか」
翔太は、それ以上、決めつけて言わなかった。
* * *
「先生には言った?」
春樹に聞かれ、俺は次のページを見せた。
「月曜の帰りに話した」 「何て?」 「本人が言いに来るようにって。誰が書いたか分からないなら、俺が勝手に決めつけるなって」
真弓の眉が寄った。
「決めつけるって、犯人のこと?」 「俺、誰の名前も出してない。教科書を見て、優子に聞いてほしいって言ったんだけど」
最後に、友達へ広めるなと言われたことも話した。 声にすると、あの廊下でのやり取りが戻ってきた。 何を言っても、本人に聞いていないというところへ戻された。
「だったら、先生が聞いてくれればいいのに」
綾香が言った。
「俺もそう言った」
そこまで話すと、荒川が椅子を少し引いた。
「自分も、前に相談しとるんよ」
4人が荒川を見た。
「夏休み前。富田の椅子を戸田と富永が使っとって、戻ってきても返さへんかったことがあってな」
荒川は、自分で椅子を戻した時のことを話した。 課題のことを尋ねても答えてもらえなかったこと。 本の説明を頼まれたのに、話し始めると別の話へ変えられ、優子の方が謝っていたこと。
「1回、たまたま返事が聞こえへんかったとかやないと思って、先生に言うた。でも、本人が困っとるって言うたんか、椅子は戻ったんやろ、って」 「……勝也と同じ?」
真弓が聞いた。
「うん。自分が聞いてほしかったとこは、聞いてもらえへんかった」
荒川は、そこで少し言葉を切った。
「そのあとも気にしてたんやけど、何もなくなったんか、自分の前でなくなっただけなんか、分からんくて。月曜、勝也の話を聞いて、やっぱりって思った」
俺はノートを指で押さえた。
「それから、2人で見てた。俺が席を離れる時には荒川に頼んで、荒川が離れる時は俺が見るようにして」 「ああ……」
翔太が顔を上げた。
「だから、お前、ずっとここにいたのか」 「うん」 「勉強してんのかって、俺……」
翔太は、言いかけたまま止まった。 俺の机から隣の空いた席へ目を移し、そのまま俯いた。膝に置いた両手が、ゆっくり握られた。
「お前、富田のこと心配して、ここにいたんだろ。俺、何も知らないで、笑って……」
「知らなかったんだから、それはいいよ。言ってなかったし」 「でも、同じ教室にいたんだぞ。お前の大事な友達が、こんなことされてたのに」
翔太の声が詰まった。 さっき教科書の字を見た時の怒りよりも、自分に腹を立てているように聞こえた。
「俺だって、一緒に気にしてやれたはずなのに。お前がいつもと違うのも分かってて、あんなことしか言ってなくてさ……」
普段、俺が誰かと話していると、翔太も隣へ来て、その相手とすぐに話し始める。俺の友達だからと、ためらわずに輪へ入れてくれるやつだった。 今、隣の空席を見ている翔太にも、優子のことは他人事ではないのだと思った。それなのに気づけずにいたことを、知らなかったから仕方がない、と受け流せずにいる。
「……何にも気づかなかったのが、悔しい」
最後の声は、小さかった。 俺も、すぐには何も言えなかった。月曜日になるまで、俺だって気づいていなかった。同じ気持ちだったから、もう気にするなとは言えなかった。
「これから、一緒に考えてくれたら助かる」
そう言うと、翔太は少しして頷いた。
「……うん」
顔を上げても、まだ眉を寄せたままだった。 俺はノートへ目を戻し、昨日のことを続けた。
「優子が何かされたら、すぐ止められるようにって思ってた。でも、昨日は俺が委員会で、荒川も呼ばれて教室を出たから」
昨日のことも、順番に話した。 杉浦からの伝言が、先生の話と合わなかったこと。 優子がリュックサックを持って教室を出たところを見た人がいたこと。 戻った時には、靴も日傘もなく、優子は先に帰っていたこと。
真弓は、昨日の委員会を思い出すように頷いた。
「あの時、廊下へ出てたよね」 「うん。荒川が呼びに来てくれた時」 「そういうことだったんだ」
真弓は俺から荒川へ目を移した。
「聞き間違いって、それだけ?」 「今朝、聞けたんは、それだけやった」
荒川が答えた。
「誰と間違えたんか聞いても、多分とか、よく分からんとか、そればっかりで。結局、何の用事やったんかも分からへんかった」
俺は、頷いた。
「戸田と富永も、俺たちが後ろにいるの、嫌そうだった。関係あるのかもしれない。でも、字を書いたところを見たわけじゃないから」
翔太が、空いた机の方を見た。
「じゃあ、俺たちがいる時には、やってないってこともあるのか」 「そうかもしれない」 「いつも教室にいるつもりだったけどな……」
翔太の声が、小さくなった。
俺にも、翔太と同じ覚えがあった。 席が隣になる前から、ずっと同じ教室にいた。朝、優子が来て、授業を受けて、帰っていく。そのどこかを毎日見ていただけで、優子がどう過ごしているかも、知っているつもりになっていた。
綾香が膝の上で指を重ねた。
「私、富田さんと、本の話とかしてた」
俺は顔を向けた。
「図書の当番の時も、教室でも。笑ってくれた時もあったし、普通に話せたから……」
声が、途中で細くなった。
「話すのが苦手なのかなって、思ってた。私にはあまり話してくれないことも、そういうことなのかなって」 「俺も、そういうふうに、自分で理由つけてた」
すぐに言った。 綾香が俺を見る。
「さっき話したみたいに、久しぶりだからだろうって。でも、あんな風に『死ね』って書かれてたら、誰かと話すのだって怖くなるかもしれない」
優子が何を怖がっているのか、俺は知らない。 でも、あの教科書が見える前から、困った顔をしていた。 声をかけたあとで、周りを確かめることもあった。
何がいつからあったのか、まだ知らない。 分からないところを、自分に思いつく理由で埋めていた。
「私、同じ部にもいたのに」
綾香はそう言って、顔を下げた。
その言葉を聞いても、俺には、部活の中で何があったか分からなかった。 綾香が見たことも、見ていないことも、これから聞かないと分からない。
「綾香」
呼ぶと、少し顔を上げた。
「俺も、もっと早く気づけたらよかったと思ってる。でも今、優子が何をされてたか、ちゃんと知りたい」
綾香は頷いた。 すぐには返事が出なかったけれど、俺の方を見たまま聞いてくれた。
「話してくれないから分からない、で、もう止まりたくないんだ」
言ったあとで、先生の返事を思い出した。 本人が言えばいい。 言えないから、俺が聞いているのに。
「今、何をされてるのかも、いつからこんなふうになったのかも、ちゃんと知りたい。俺と荒川だけじゃ、知らないことばっかりだから。みんなの知ってる人に、何か見てないか聞いてもらえないかな」
俺は、4人を見た。
「優子に、何があったのか。誰がやったのか。……手伝ってほしい」
言い終えてから、喉が渇いていることに気づいた。 普段なら、今度どこへ行こうかと気軽に聞ける相手だった。漫画を貸してもらったり、分からない問題を教えてもらったりすることも、何度もあった。
けれど、これは、みんなの時間を使わせる。 面倒な話を聞いてもらうことになるかもしれない。 相手によっては、嫌な顔をされるかもしれなかった。
「やるよ」
春樹が言った。 短い返事だった。
「俺は、どうしたらいい?」
俺は、開いていたノートを見た。
「……そこも、考えてほしい。頼むって言ったのに、ちゃんと決まってなくて、ごめん」 「決まってからじゃないと、話しちゃ駄目なわけじゃないでしょ」
春樹は、自分のリュックサックへ手を伸ばした。
「一緒に考えればいいから」 「そうだよ」
真弓が続けた。
「女子の方なら、私が聞ける人もいると思う。勝也と荒川君が聞くより、話しやすい相手もいるだろうし」 「……ありがとう」 「私も、聞く」
綾香が顔を上げた。
「何を聞けばいいか、一緒に決めたい。私が見てなかっただけで、ほかの子は知ってること、あるかもしれないから」
俺は頷いた。 翔太は、まだ机の上の文字を見ていた。
「俺もやる。知ってるやつ、ほかのクラスにもいるし」
そこで顔を上げた。
「こんなの、書かれた方が休んでんの、おかしいだろ」
その言い方で、俺はようやく、うん、と答えられた。
優子が何も言えなくても、困っていたことまで、なかったことにはならない。 目の前の4人は、それを説明し直さなくても分かってくれた。
俺は、もう1度みんなの顔を見た。
「先生や学校が動いてくれないなら、俺たちでやるしかないんだ。何があったのか確かめて、優子が安心して学校に来られるようにしたい」
荒川が、俺の肩を軽く叩いた。
「絶対、助けるぞ」
大きな声ではなかった。 でも、みんなに聞こえた。
「うん」
俺は頷いた。 さっきより、少しだけ背中が起こせた。
* * *
春樹はリュックサックから、使いかけのノートを取り出した。 まだ何も書いていない途中のページを開くと、今日の日付を書き、鉛筆を持ったまま俺の方を見た。
「何から聞く?」 「教科書のことかな。書かれてたところを見た人がいないか」
俺が答えると、真弓が少し考えた。
「でも、教科書だけじゃないかもしれないよね。椅子とかもあったんでしょ」 「うん」 「じゃあ、富田さんのことで、何か気になったことないかって、先に聞いてみる」
真弓はそう言って、綾香の方を見た。 綾香も頷いた。
「自分で見たことか、誰かから聞いた話かは、分けた方がいいよね」
春樹が言った。
「同じ話が何人かから来たら、別々のことがあったと思っちゃいそうだし」
俺はノートの端へ目を落とした。 荒川から聞いた、と書いたところがあった。
「俺も、それは分かるようにした。椅子のことは、荒川が見たことで、俺が見たわけじゃないから」 「うん。そういうふうに」
春樹が書いている間、翔太は窓の外を見ていた。 それから、俺の方へ向き直った。
「見たっていうやつがいたら、その場で呼んでくればいい?」 「いきなり、ここに?」 「うん。6人で聞いた方が、後で説明するより……」
言いかけて、翔太が俺たちを見回した。
「あ。多いか」 「ちょっと、びっくりすると思う」
綾香が言った。
「私だったら、何か怒られるのかと思う」 「……俺も思うわ」
翔太は、自分で言って頷いた。
「じゃあ最初は聞いたやつが、そのまま話を聞けばいいか」 「勝也にも直接話してくれる人がおったら、紹介してもらお」
荒川が言った。
「1人で来てもらうか、友達も一緒がええか、その人に聞いたらええし」
全員で同じように聞く必要はなかった。 それぞれ、話しかけられる相手がいる。 俺が急に行くより、真弓と一緒なら答えてくれる人もいるだろう。
「相手の名前、最初から出す?」
真弓に聞かれ、俺は少し考えた。
「戸田たちのこと?」 「うん」 「……出さないで聞いてもらっていい? 俺たちが気にしてるのは、あの人たちだけど、知らないこともあるかもしれないし」 「分かった。富田さんのことで、って聞く」
春樹が、書いた行の横へ短く付け足した。 いつも見せてもらう数学のノートと違って、字の並びは少し崩れていた。 俺たちの話を聞きながら書き足しているうちに、行の途中から、だんだん斜めになっていた。
「ごめん、もう1回。昨日の呼び出しって、誰が直接聞いたんだっけ」
春樹が鉛筆を止めた。
荒川が、先生から呼ばれたと伝えてきた男子のことを説明した。 そいつは杉浦に頼まれた。 先生から直接聞いたわけではない。
「分かった。ここ、矢印にしとく」
春樹が、名前の間へ線を書いた。 書いたものを見ると、俺も順番を確かめやすかった。
その下へ何を書こうかと考えていると、綾香が言った。
「富田さんには、今は聞かないんだよね」 「うん。俺が教科書のこと聞いた時、すごく困ってたから。みんなで聞きに行ったら、もっと話せなくなるかもしれない」 「分かった」 「あと、休んでる理由は、まだ分からないってことも」
俺が言うと、春樹が頷いた。
「そこは、書いとく」
翔太が、少しだけ眉を寄せた。
「先生、こういう話、もう1回ちゃんと聞かねえのかな」
誰も、すぐには答えなかった。
俺は月曜日の廊下を思い出した。 荒川も、同じところへ行っていた。 それでも、優子の教科書は、そのままだった。
「今、同じこと言っても、また同じ返事になる気がする」 「ほかの先生は?」 「……分からない。でも、誰が何をしたのかも分からないまま持っていったら、また、分からないならって言われるかもしれない」
自分でも、そこまで全部の先生を同じに考えていいのかは、分からなかった。 ただ、職員室へ行けば何とかしてもらえるとは、もう思えなかった。
「まず、俺たちが聞ける人に聞きたい」
言うと、春樹は、うん、と答えた。
「今日、分かったことは、あとで教え合おう。誰に聞いたかも、一緒に」
春樹が言うと、翔太が時計を見た。
「部活終わってから、集まる?」 「俺んちなら平気だと思う。母さん帰り遅いし。でも一応連絡しておく」
俺が答えると、真弓と綾香も頷いた。
「1回帰って、家に言ってから行くね」 「私も。夕飯の時間、聞いてみる」
荒川は帰りの時刻を少し考えてから、顔を上げた。
「自分も行ける。19時には帰れるんやったら」 「じゃあ、それまでにしよう。来られる人から、うちに寄って」
帰る時刻も決めてから、それぞれ部活の終わる時間を確かめた。 まずは今日、別々に聞いた話を、もう1度みんなで見たかった。
「部活がない日は、学校終わってから、そのまま集まればいいよね」
春樹が言った。
「今日は全員で聞けなかったことも、次に誰が聞くか決められるし」 「うん。そうしたい」
俺が答えると、春樹は集まる場所と時間も書き足した。 真弓が立ち上がる。
「私、まだ学校にいるかもしれない子、見てくる。その子、富田さんと同じ小学校だったと思うから」
昔の優子を知っている人。 俺が転校したあとも、同じところにいた人がいる。
「俺も行っていい?」 「うん。いたら、先に私から聞くね」 「ありがとう」
綾香も椅子を戻した。
「私は部活の子に、話せる時に聞いてみる。分かったら連絡するね」 「俺はバスケのやつに聞いてみる」
翔太が言い、荒川も頷いた。
「自分も、話せる相手から聞いてみるわ。知らんかったら知らんかったでええし」
春樹は、最後に書いたところへ線を引いた。
「俺も、真弓とは別に、知ってる人に聞く。放課後のことなら、部活に行く途中で見てた人がいるかもしれない」
誰に、どの順番で話を聞けばいいのか。まだ全部が決まったわけではなかった。 それでも、4人へ説明する前とは違った。俺が知らない相手へも、みんながそれぞれ声をかけようとしてくれていた。
俺は使った椅子を戻した。 優子の椅子だけは、1度も動かしていなかった。
最後に机の位置を確かめてから、ノートを閉じた。
* * *
真弓の後ろを歩き、隣のクラスの前まで来た。
教室には、まだ数人残っていた。 真弓が入口から声をかけると、窓際にいた女子が顔を上げた。 俺も、見たことはあった。 真弓と廊下で話している時に、何度か挨拶したことがある。
「ちょっと、話していい?」
真弓が言った。 その子は、こちらを見てから頷いた。
「何?」 「富田さんのことなんだけど」
女子の目が、俺へ向いた。
何か言わなければと思って、口を開いた。
「同じクラスの鵜飼。急に、ごめん」 「うん。知ってる」 「あ、そっか」
それだけで、少し言葉が詰まった。 いつもの4人へ話すのとは違った。 相手がどこまで知っているか分からないと、何を言えばいいかも分からなくなる。
真弓が、俺の横から続けてくれた。
「今、勝也がちょっと気にしてて。富田さんの持ち物に、嫌なこと書かれてたんだって」
女子の顔が、少し変わった。
「何か見てないかなと思って。小学校、一緒だったよね」 「一緒だけど……中学では、そんなに話してないよ」 「うん。最近のことで、何か気になったこととか」
その子は、教室の中を振り返った。 窓際にいた友達が、机へ教材を広げていた。
「ここじゃない方がいい?」
真弓が聞くと、少し迷ってから頷いた。
教室のドアから少し離れて、3人で立ち止まった。 それでも、廊下の向こうから人が来るのは見える。女子は通りかかる生徒の方を気にするように、壁際へ寄って声を小さくした。
「落書きしてるところは、見てない」 「うん」
俺は頷いた。
「でも、夏休み前に、1回、ちょっと嫌だなと思ったことはあった」
真弓が黙って待った。 俺も、続きを急かさないようにした。
「3組に、友達呼びに行った時。何か、授業で言われた持ち物の話してたの。私も、その日の次の授業でいる物、聞きたかったから」
女子は1度、言葉を探した。
「その時、富田さんにも教えといた方がよくない、って言った子がいて。そしたら、教えなくていいって」
俺は、指先を少し曲げた。
「誰が?」 「富永さん」
真弓が、俺の方を見た。 俺は女子の顔から目を逸らさなかった。
「富永が、富田には教えなくていいって言ったの?」 「うん。いつも感じ悪いんだから、って。ほかにも何か言ってたけど、そこは、はっきり言えない。私が覚えてるのは、それ」
その場にいた人も、笑っていたという。 誰が何人いたかは、全部は覚えていなかった。 その子は、分かるところと分からないところを、途中で言い直しながら話した。
俺は、持っていたノートを開いた。
「ごめん。今の、書いてもいい?」
女子は、すぐには頷かなかった。
「私が言ったって、富永さんに言わないで」
ペンを持つ手を止めた。 声が、さっきより小さかった。
「教室で勝手に名前出したりしない」
俺は答えた。
「誰かに直接話してもらいたい時は、先に聞く。今は俺が忘れないようにしたいだけだから」
女子は真弓を見た。 真弓も頷いた。
「私たちで確かめるために聞いてる。聞いたこと、そのまま富永さんのところへ言いに行ったりしないよ」 「……うん」
小さく返事が来たので、俺はペンを動かした。
最初に今日の日付を書いた。 そのあと、話にあった日付を書こうとして、分からなくなった。
「夏休み前の、いつくらいか覚えてる?」 「日にちは分からない。ごめん」 「いや、いいよ。夏休み前、って書く」
聞いた日と、起きた日は違う。 自分で見た教科書のことなら、月曜日と書けばよかった。 でも、こうして前のことを聞いた話は、それだけでは分からなくなる。
俺は行を分けて書き直した。
「その時、富田もいた?」 「いなかったと思う。少なくとも、その話してたところには」 「そっか」 「あとで、教えてもらえたかは分からない。私、聞きたかった物が分かったから、教室戻っちゃったし」
俺は、それも書いた。
教えなくていいと言ったことは、この子が聞いている。 でも、そのあと本当に優子だけが知らないままだったかは、この話だけでは分からない。 勝手にそこまで足したら、聞いた話ではなくなってしまう。
書き終わってから、ノートを女子へ向けた。
「これで、合ってる?」
その子は、俺の字をしばらく見ていた。 途中の1行を指す。
「これ、私が教えようって言ったんじゃなくて、別の子」 「あ、ごめん」
指されたところを消して、別の子が言ったのだと書き直した。 たった今、聞いたばかりの話だった。それなのに、もう自分の中で、話した人とその場にいた人が混ざっていた。
「これなら、合ってる」 「ありがとう」
俺は、ノートを閉じずに持っていた。 女子が、制服の袖の端を指でつまんだ。
「その時、そこまでのことだと思わなかったの。意地悪だなとは思ったけど、普段、どんな感じかも分からなかったから」 「うん」 「富田さん、何も言ってこないし」
その言葉で、俺は1度、息を止めた。 何も言ってこない。 先生にも、似たようなことを言われた。
ただ、この子は、先生のように話を終わらせようとしているわけではなかった。 困った顔をしながらも、俺が尋ねたことを1つずつ思い出し、覚えている範囲で伝えてくれていた。
「俺が聞いても、話せなかった」
俺は言った。
「だから、こういうの教えてもらえると助かる」
女子は、少し顔を上げた。
「ほかにも思い出したら、真弓に言ってもいい?」 「うん。私に言って」
真弓がすぐに答えた。
俺ももう1度礼を言い、女子が教室へ戻るのを見送った。 ドアの向こうから、友達が何か尋ねる声がした。俺たちはそちらを覗き込まず、来た方へ廊下を戻った。
* * *
「聞けたね」
階段の前で、真弓が言った。
「……うん」
俺は、ノートをもう1度開いた。 夏休み前、と書いたところの下に、富永の名前がある。 自分でその場を見たわけではない。 でも、話してくれた人の名前と、聞いた言葉が、今は残っていた。
「真弓がいてくれて、よかった」 「そう?」 「俺、最初、何て聞いたらいいか分かんなかった」 「知ってるって言われてたね」 「うん……」
真弓は、少しだけ笑った。 俺も口元が緩んだが、すぐ、書かれた言葉へ目が戻った。
教えなくていい。
優子の知らないところで、そんなふうに、知らせなくていいと話していた人がいた。 それがどのくらいあったのか、まだ分からない。
「勝也、1人で全部聞かなくていいからね」
顔を上げると、真弓がこちらを見ていた。
「今の子も、私になら言えることあるかもしれないし。綾香に言いやすい人もいると思う」 「うん」 「分かったらちゃんと伝えるから」 「頼む」
今度は、すぐに言えた。 真弓は頷いて、部室の方を指した。
「じゃあ、行ってくる。春樹にも、今のこと話しとくね」 「うん。遅くなって、ごめん」 「帰りの会のあと、話すって先に言ってあるから、大丈夫」
真弓はそう言って歩き出した。 俺は少し見送ってから、教室へ戻った。
まだ、分からないことばかりだった。 それでも、聞いてみなければ知らなかった言葉が、1つ増えていた。
教室へ戻ると、さっき使った椅子は全部、元の向きに戻っていた。 自分の席に置いていたリュックサックへ、ノートを入れる。
明日の時間割を確かめようとして、黒板の端を見た。 持ち物のところに、授業で使うプリントと書いてある。
俺は、それも連絡帳へ書き足した。 さっき聞いた言葉が残っていて、書かずに帰る気になれなかった。 優子が明日来たら、持っているか聞こうと思った。 なければ、俺のを間に置けばいい。
そう考えてから、明日来るかどうかも分からなかったことを思い出した。
教室のドアを閉める前に、もう1度だけ振り返った。 窓際の1番後ろに、机が2つ並んでいる。 昨日は、俺の方が先に、あそこを離れた。
* * *
家へ帰ると、母さんへ連絡した。 友達が来ることと、19時には終わることを伝えると、使った物は片づけておいてね、と返事が来た。
着替えを済ませてから、床に置いていた物を棚へ戻した。 今日は6人で座るのだから、少しでも場所を空けておきたかった。低いテーブルも動かして、みんなが周りへ座れるようにした。
まだ誰も来る時間ではなかった。 リュックサックを開き、教科書を机へ出す。 今日使わなかった物も出して、明日の時間割を見た。 その間から、優子に借りた文庫本が見えた。
文庫本を手に取り、表紙を見た。 借りた時には、読み終わったら、どこが面白かったか優子と話そうと思っていた。ありがとう、と返すだけで終わらずに、そのあとも少し話せたらいい。そんなことを楽しみにしていた。
付箋を挟んだところを開く。 続きは気になっていたはずなのに、今日は、同じ行を2度読んだ。
本を閉じて袋へ入れ、返す時に忘れないよう、教科書とは別に置いた。 あとからノートを載せて、どこにあるか分からなくしないようにする。優子から借りた物だから、ほかの荷物に埋もれさせたくなかった。
電話で、今日はどうしていたのか聞けたらいいのに。 そう思って携帯を手に取り、そこで止まった。優子の番号を、俺はまだ知らなかった。思いついても、そのままかけることができなかった。
同じクラスになって、半年近くになる。 家も分かっているし、昔は何度も遊びに行っていた。 それでも今は、今日、大丈夫だったかとひと言聞くことさえ、すぐにはできなかった。
携帯を机へ戻した。 ノートを開き、真弓と一緒に聞いたところを読み直す。
富永が言った言葉。 その場に優子がいたかどうか。 教室へ戻ったあと、その子には分からないこと。
聞いた時には、思い出しながら話してくれた顔も覚えていた。 でも、1週間もしたら、どんな順番で聞いたか、曖昧になるかもしれない。 消して書き直したところを見て、下へ短く付け足した。
真弓と、一緒に聞いた。
今日の話は、春樹も、あとで真弓から聞くだろう。 それでも、同じ場面を見た人が増えたことにはならない。 同じ1人の話を、俺たちがそれぞれ聞いただけだ。
ノートへ書くくらい、すぐできると思っていた。 実際にやると、何を書かなければいけないか考えてばかりだった。
台所へ水を取りに行き、戻る途中で携帯が鳴った。 画面には綾香の名前が出ていた。
「もしもし」 『勝也君、今、話せる?』 「うん」 『私も、少し聞けたんだけど。ちゃんと聞く前に、帰る時間になっちゃって』
俺は机へ座り、ペンを持った。
『明日なら話してもいいって言ってくれた子がいるの。私だけの方が話しやすいみたいだから、先に聞いてみてもいい?』 「もちろん。ありがとう」 『すぐに分からなくて、ごめんね』 「謝らなくていいよ。俺だって、1人に聞いただけだから」
真弓が一緒にいてくれたことも話した。 綾香は電話の向こうで、うん、と聞いていた。
『何か、聞き忘れそうで』 「俺もさっき、間違えて書いた。読んでもらって直したから、綾香も、分からなくなったら聞き直せばいいと思う」 『……うん。そうする』 「話してくれそうなだけでも、助かるから」
綾香の声が、少しだけはっきりした。
『分かった。聞けたら、ちゃんと伝えるね』 「このあと、来られそう?」 『うん。お母さんにも話したから、18時過ぎには行けると思う』 「分かった。待ってる」
電話を終え、ノートへ1行足した。 詳しい話は、まだ聞けていない。 綾香が明日、確かめてくれる。
書き終えてから、コップを6つ出した。 ペンも、机にあった物を何本かテーブルへ置いた。
そうしているうちに、玄関の音が鳴った。
* * *
玄関のドアを開けると、翔太が立っていた。 部活で使う荷物も、そのまま持っている。俺の顔を見ると、部屋の方を少し覗くようにして尋ねた。
「俺、1番?」 「うん。まだ誰も来てない」 「ちょっと、聞けたことある」
俺は玄関を開けた。 翔太が靴を脱ぎ、いつものように入ってくる。 けれど、今日は部屋へ着いても、漫画の棚へは行かなかった。
鞄を足元へ置き、床へ座った。
「バスケのやつに聞いたんだけどさ。ノートを拾ったやつがいる」
俺は机の上からペンを取った。
「優子の?」 「それ、まだ分かんねえ。名前のところも汚れてたって」 「拾った本人に聞いたの?」 「うん。1年の、同じ部のやつ。ほかのクラスなんだけど」
翔太が名前を言った。 俺も、顔は分かった。 体育館の前で翔太と話しているところを、見たことがある。
「何か見てねえかって聞いたら、最初、分かんないって言ってて。でも、持ち物が使えなくなってる話したら、ノートのこと思い出したらしい」 「どこで拾ったって?」 「校舎の裏。端の方とか破れてたって」
俺はペンを止めた。
破れて、汚れたノート。 月曜日に見た教科書とは、別の物だった。
「まだ、持ってる?」 「家にあるって。今日、持ってくんの忘れたって言ってた」 「そっか……」
翔太は、俺のノートへ目を向けた。
「名前、富田って読めたわけじゃねえんだ。だから、違うかもしれないって。それでも見たいかって聞かれたから、見たいって言っといた」 「うん。見たい」
俺はすぐに答えた。 違っていたとしても、確かめなければ分からない。
「明日、持ってきてくれる?」 「頼んだ。朝、俺がそいつのクラス行くから、勝也も来る?」 「行く」
翔太が頷いた。 その返事を聞いてから、俺は名前の横へ、明日の朝、と書いた。
「拾ったの、いつか聞いた?」 「……聞いてねえ」
翔太が額へ手を当てた。
「悪い。どんなノートかと、今どこにあるかばっか聞いてた」 「いや。明日、聞けるなら大丈夫」
俺も、さっきは聞いた話を、すぐ間違えて書いた。 最初から全部分かって聞けるわけではなかった。
「ほかに、見てたことは?」 「誰かが捨てたところとかは見てないって。拾っただけで、何であそこにあったかまでは、知らねえって」 「分かった」
俺は、そこまで書いた。 自分で見ていないことを増やしても仕方ない。 でも、明日、自分で確かめられる物が、1つできた。
ペンを置くと、翔太が膝へ肘を載せた。
「ほかにも聞いたけど、知らねえってやつもいた」 「うん」 「何となく、女子とうまくいってないんじゃないかって言うやつはいた。でも、何か見たのかって聞いたら、そういう感じがしただけだって」
翔太は口を閉じた。 俺も、すぐには何も言えなかった。
「話しかけられても、あんまり返さないからって」
少しして、翔太が続けた。
「……でも、それ、勝也の話聞いてたら、違うかもしれねえじゃん」
俺は顔を上げた。
「怖くて返事できねえなら、返事しないのと違うだろ」 「うん」 「そこ、そいつには言った。何も見てないなら、富田が悪いみたいに言うなよって」
翔太は声を荒らげなかった。 部活で悔しいことがあった時とも、少し違う顔をしていた。腹が立っているのに、誰へ何を言えばいいのか、まだ決められないように見えた。
「俺も、知らなかったけどさ」
そう言って、床へ目を落とした。
「知ったあとまで、同じようには言えねえよ」
俺はしばらく、翔太の顔を見ていた。 人を笑わせるのが上手いことは、よく知っている。余計なことを言って春樹に怒られるところも、何度も見てきた。 今は、その翔太が隣へ座って、一緒に腹を立ててくれていた。何を言えば伝わるのか迷うくらい、ありがたかった。
「ありがとう」 「何回もいいって」 「でも、助かったから」
翔太は困ったように眉を上げた。 それから、俺のノートを指した。
「じゃあ、明日、忘れんなよ。俺より先に1人で行くなよ」 「行かないよ。まだ、どこで待ち合わせるか聞いてないし」 「あ。そうだった」
少しだけ、いつもの顔になった。 俺も息を吐くように笑った。
明日の朝は、いつもより少し早く公園で合流することにした。 そこから2人で学校へ向かい、話してくれた男子のところへ行く。朝のうちに会えるよう、出発する時間も合わせておいた。 翔太が時間を口に出して確かめていると、また玄関の音が鳴った。
今度は、春樹と真弓だった。 少しして綾香が来て、最後に荒川も、遅うなってごめん、と顔を出した。 18時を少し過ぎた頃には、教室で話した6人が、俺の部屋に揃っていた。
家にはそれぞれ、ここへ来ることと帰る時刻を伝えてきたという。 翔太も、1度家へ寄って母親へ言ってから来ていた。
6人でテーブルを囲むと、誰かが少し動くたびに、隣の膝へ当たりそうになった。 俺は机の椅子を端へ寄せ、空いたところへ座り直した。 真弓がコップを配り、春樹が持ってきたノートを開く。
「荒川、麦茶でいい?」 「うん。あ、でも、名前でええよ」
容器を持ったまま、俺は顔を上げた。 荒川は俺だけでなく、テーブルを囲むみんなを見た。
「みんな名前で呼び合っとるやろ。自分も、宣仁でええから」
少し照れたように笑った荒川へ頷こうとすると、翔太が口を開いた。
「宣仁……憲仁親王と同じか」
そう呟いて、急に姿勢を正した。 膝に両手を揃える。
「恐れ多い……」 「……誰?」
俺が聞くと、翔太は真面目な顔のまま答えた。
「高円宮さま。皇族の方で、憲仁って書いて、のりひと。名前の読みが同じなんだよ」 「へえ。……じゃあ、のりちゃん」
俺が荒川へ向き直ると、翔太が目を丸くした。
「いきなり、ちゃん付け?」 「荒川の呼び方の話でしょ。呼びやすい方がいいかなって」
俺は荒川の顔を見た。
「嫌?」 「いや。ええよ、のりちゃんで」
荒川は笑って、頷いてくれた。
「そっちの方が、自分も返事しやすいわ。恐れ多いとか言われるより」 「お前が勝手にかしこまっただけでしょ」
春樹が翔太へ言うと、真弓が口元を押さえた。 綾香も、小さく笑っていた。
「じゃ、俺も、のりちゃんって呼ぶわ」
翔太は膝から手を離し、いつもの座り方へ戻った。
「うん。よろしく」
その返事を聞きながら、俺はのりちゃんのコップへ麦茶を注いだ。 ありがとう、と笑って受け取ってくれたのが嬉しかった。明日、教室で会ったら、今みたいに「のりちゃん」と呼ぼうと思った。
春樹が、広げたノートをみんなの方へ向けた。
「これ、聞いたのは真弓と勝也の2人で、合ってる?」 「うん。話してくれたのは、その子1人」
俺のメモを隣に置くと、春樹は自分の書いた行を指で追った。 美術部で真弓から聞いた分と、食い違っていないか確かめていた。
「日にちは分からないんだよね」 「夏休み前、っていうところまで。あとで富田さんに連絡が行ったかも、その子は知らないって」
真弓が答えた。 春樹は短く頷き、その行のあとへ少し空白を残した。
綾香が、その横へ自分の小さなメモを置いた。 電話で聞いた、明日話してくれるという子のことだった。 いつ、どこで聞けそうかを話していると、のりちゃんが俺のペンを1本借りた。
「教科書に何か書いてるとこを見たやつがおらんか、聞いてみた。今日、話せたやつは知らんかったけど」 「そっか」 「でも、ほかに見た人おらんか、聞いてくれるって」
その人の名前も、俺は書いた。 まだ答えがなかったところに、明日もう1度尋ねられる相手ができた。
春樹も、自分で聞いた相手のことを話した。 その生徒も、優子の持ち物に何かしているところは見たことがないという。
「何も分からなかったって報告も、した方がいいかと思って」 「うん。同じ人に、俺がまた聞いたら、何回も聞くことになるし」
俺が言うと、春樹はその名前も端へ書いた。 聞いた相手の名前は増えていくけれど、全部に答えがつくわけではなかった。 それでも、別々に動いたあと、どこまで聞いたのかは分かるようになった。
「あと、これ。翔太が聞いてきてくれた」
俺は次のページを開いた。 校舎の裏、と書いたところを見せると、翔太が身を乗り出した。
「ノート拾ったやつがいる。明日、持ってきてくれるって」
さっき俺へしてくれた説明を、今度はみんなへ話した。 まだ優子の物だと分かったわけではないことも。 拾った時にはもう破れていて、捨てた人を見たわけではないことも。
綾香が、その字を見つめた。
「拾って、持っててくれたんだ」 「うん。だから、明日見せてもらう」
翔太が答えた。 俺は頷き、ページの下へ、現物を確認、と付け足した。
誰かが拾って、持っていてくれた。 そこまで考えたところで、俺のペンが止まった。細く飛び出した骨と、それを包んだ紙が浮かぶ。自分にも、拾って届けた物があった。
「……あ」
声が出た。 みんなが俺を見る。
「もう1つ、あった。俺が拾った物」
* * *
「拾ったって、何を?」
春樹に聞かれ、俺は顔を上げた。
「日傘。夏休みに入る前、終業式の日に、優子の日傘を拾ったんだ」 「学校で?」 「いや。俺の帰り道にある、公園」
俺はノートの空いているところへ、学校と道を簡単に描いた。 帰り道の途中に、公園の四角を足す。
「あの日、俺、忘れ物を取りに学校に戻ったんだよ。そしたら優子が、傘がないって探してて。一緒に見たけど、見つからなくて」
昇降口の傘立てが浮かんだ。 空いたところを、何度も覗いた。
「俺の折り畳み傘を貸して、その時は別れた。それから帰る途中、ここの植え込みの下で、日傘を見つけた」
俺が公園のところを指すと、真弓が覗き込んだ。
「学校にはなくて、そこにあったの?」 「うん。しかも、壊れてた。骨が曲がってて、一部外れてて。布にも傷があった」
翔太が、口元を引き結んだ。
「それ、富田のだったんだよな」 「拾った時は、似てると思っただけだったけど。家へ届けて、この前、本人にも確認した。自分のだったって」 「この前って?」 「2学期の最初。貸した傘を返してくれた時、そっちのお礼も言われた」
あの時に、発見場所も説明した。 優子は少し眉を寄せて、そちらには行っていないと言った。
俺は描いた学校から、もう1本、別の方向へ線を引いた。
「優子が帰るのは、こっちなんだ。公園とは逆。本人も、あの日は公園の方へ行ってないって言ってた」 「じゃあ、自分でそこへ持っていったんやないんやな」
のりちゃんが言った。
「うん。少なくとも、俺と別れてから、そこへ寄ったわけじゃない」
春樹が、2本の線を見比べた。
「学校でなくなって、違う帰り道に、壊れた状態であった」 「そう」 「誰かが持っていったってことになるのかな」
綾香が小さく言った。
「俺もそう思う。でも、持ってるところも、壊したところも見てない。拾った時には、もうあの状態だった」
そこで口を閉じた。 その先に、教科書へ字を書いた人の顔を置きそうになっていた。
同じ人がやったのか。 それとも、別の人なのか。 今、分かっていることだけでは、どちらとも言えなかった。
「それ、今どこにある?」
春樹が聞いた。
「届けた時、優子のお母さんに渡した。今もあるかは、聞いてない」 「そっか。じゃあ、勝也が見た状態は書いとこう」
曲がっていた骨と、布についた傷の様子をノートへ書いた。 名前も探したけれど、俺が見た範囲では見つからなかった。そのことを書き足すうちに、無理に開けると危なそうで、尖ったところを紙で包んだことも思い出した。
「あれも、本人が先生に言わないからって終わってんのかな」
翔太が言った。 俺は首を振った。
「いや。日傘のことは、お母さんが学校に言ってくれたって、優子から聞いた。誰が持っていったかは分かんないって言ってたけど」
春樹のペンが止まった。
「お母さんからも、学校には話が行ってたんだ」 「うん。ただ、誰に話したかとか、何を言われたかまでは、俺は聞いてない」
あの時、俺は発見場所をお母さんへ伝えてほしいと言った。 自分に聞きたいことがあれば説明するとも言った。 けれど、そのあと、俺に尋ねに来た先生はいなかった。
どこまで伝わったのかは分からない。 俺が拾ったことを知っていて、それでも聞かなかったのかも、まだ分からなかった。
「俺が、もう少し気にしてればよかった」
書いた道を見ながら、言った。
「拾った時も、何で逆の方にあったんだろうって、1回は考えたんだ。なのに、そのままで」
夕方には、翔太たちと遊ぶ約束があった。 日傘を渡し終えて、時間を気にして走った。 会ったあとは、いつものように笑っていた。
優子の物は、壊れていたのに。
「勝也」
春樹が俺を呼んだ。
「今、思い出して話してくれたから、俺たちも分かったんでしょ。そこから、確かめよう」 「……うん」
真弓が、俺の描いた公園を指した。
「この近くを通って帰る子、知ってるか聞いてみる。夏休み前のことでも、誰か見てるかもしれないし」 「俺も聞く」
翔太が続けた。
「雨降ってない日に傘持ってたら、覚えてるやついるかも」 「うん。日傘をさして学校に来る子って、富田さん以外、私は見たことないから」
綾香が言った。 俺も、学校で日傘を使っている生徒は、優子しか知らなかった。晴れた日の通学路で、制服姿の誰かが傘を持って歩いていれば、目に留まったかもしれない。
「どんな傘だったかも聞いてみよう。富田さんの物かどうか、確かめられるように」
綾香が続けると、翔太は、ああ、そうだな、と頷いた。
今日分からなかったことも、明日には確かめられるかもしれない。 ずっと前の話だからと、最初から外さなくてもよかった。
俺は地図の横へ、終業式の日、と書き足した。 昨日、優子が持って帰った方の日傘とは違う。 夏休み前に壊れていた方の話だと、みんなでもう1度確かめた。
* * *
コップへ手を伸ばした時、麦茶はほとんど残っていなかった。 いつの間にか飲んでいたらしい。
冷蔵庫から容器を取って戻ると、春樹がノートの向きを変えていた。 のりちゃんが線の先を指し、真弓が、そっちは違う子、と教える。 綾香は自分のメモと見比べていた。
「……何か、推理小説みたいだね」
綾香がぽつりと言った。 広げたノートと、俺が描いた地図を見ている。
「名前がつながって、分からなかったことを、みんなで確かめていくの」
翔太が、テーブルを見渡した。
「それなら、字書く係、絶対俺じゃないな」 「ちゃんと読めるように書けばいいだけでしょ」
真弓がすぐに返した。
「今は読める。明日の俺が読めるかは、分かんない」 「そこは責任持ってよ」
春樹に言われ、翔太は自分の書いた名前へ目を落とした。 俺もつられて見て、少し笑った。 のりちゃんの肩も、小さく揺れた。
久しぶりに、全員の顔から少し力が抜けた気がした。 笑ったあと、綾香がノートの端を揃えた。
「……ちゃんと、助けてあげたいね」
今度は、俺の方を見ていた。
「こうやって分かったことで、富田さんが、もう嫌なことされなくなるように」 「絶対、助けよう」
真弓が言った。
「うん」
俺は頷いた。 声にすると、胸の奥に力が入った。
「何があったか、分かっただけで終わりたくない」 「終わらせねえよ」
翔太が答えた。
「そのために聞いてんだから」 「聞けるところ、まだあるしな」
のりちゃんはペンを置いた。
「勝也1人で考えんでええ。明日も、一緒にやろ」
春樹も頷き、開いたノートを俺の方へ寄せた。
「じゃあ、明日やること、もう1回だけ合わせよう」
誰も、大きな声を出したわけではなかった。 それでも、放課後に俺が頼みたいことがあると話した時より、6人の考えていることが近くなった気がした。明日することを確かめる声が、続けて返ってきた。
俺と翔太は、朝、拾われたノートを確かめる。 綾香は、話を聞く約束をした子のところへ行く。 真弓と春樹、のりちゃんも、それぞれ、今日つながった相手から聞いてみる。 日傘のことを見た人がいないかも、併せて尋ねる。
誰かが話すたびに、別の誰かが、そこは何時、とか、どこで会うの、と聞いた。 俺だけでは思いつかなかったことも、ノートへ少しずつ増えた。
窓の外を見ると、もう暗くなっていた。 さっきまで薄く残っていた空の色がなくなり、ガラスには、部屋の明かりと俺たちが映っていた。
時計は、19時になりかけていた。
「今日は、ここまでにしよう」
俺が言うと、春樹は最後の行へ短く線を引いた。
「うん。続きは、明日」 「明日も、部活終わったら集まれる?」
翔太が聞いた。
「時間、家で確かめる。来られなかったら、電話でも伝えられるし」
綾香が答え、真弓も頷いた。 集まれる日は集まる。部活がなければ、放課後から始める。 その日につかまらなかった相手には、翌日、別の人からも聞いてみる。
1日で全部分からなくても、そこで終わらなくてよかった。
真弓が空いたコップを重ねようとしたので、俺も立った。 流しへ運び、部屋へ戻る。 床に広げていた紙は、持ち主のノートへ戻っていた。
「置いてく紙、ないよな」
翔太がテーブルの下を覗き込む。
「お前のペン、そこ」
春樹に言われ、翔太は、自分の膝の横にあったペンを拾った。
靴を履く間も、明日の待ち合わせの話が続いた。 俺は玄関で見送り、最後に、ありがとう、と言った。 また明日、と、何人分もの返事があった。
* * *
部屋へ戻ると、テーブルの周りが広くなっていた。 母さんに言われたとおりコップを洗ってから、自分のノートだけを机へ置いた。
みんなの鞄が置いてあった場所も、さっきまで膝が当たりそうだったところも、今は空いていた。 それでも、朝、何度も隣の席へ目を向けていた時とは違う。みんなが帰ったあとにも、一緒に考えたことは手元に残っていた。
俺のノートには、ほかの5人から聞いたことが増えていた。 明日、何を確かめるかも書いてある。
机の上に置いた文庫本へ目を向けた。 借りた時の優子は、少し嬉しそうだった。 感想を聞かせてほしいと言った声も、覚えている。
その話を、まだしたかった。
何があったか聞くだけではなくて、本の話も、授業の話もしたい。 隣へ来たら、おはようと言いたい。 話し始めたあとで、誰が見ているか確かめなくてもいいようにしたかった。
明日の朝、優子が来たら、いつもどおり声をかけようと思った。 来なかったとしても、もう、隣の椅子を見ているだけにはしたくなかった。
俺はノートを閉じ、明日の教科書と一緒にリュックサックへ入れた。 翔太と約束した時間に間に合うよう、目覚ましを少し早めた。
今回の登場人物
・鵜飼 勝也 優子の欠席と教科書への被害を心配する。親友4人へ、毎日遊ぶ親友だった頃の優子と再会後の変化を話し、協力を頼む。真弓と一緒に最初の聞き取りを行い、夕方には6人で情報を整理。壊れた日傘を拾った件も共有する。
・富田 優子 木曜日から学校を休み、窓際の席は空いたままになる。勝也たちが調べ始めたことは、まだ知らない。
・荒川 宣仁 勝也と協力して優子を見守り、玲奈への確認や担任へ相談した経緯を勝也の親友4人へ話す。夕方の集まりで名前で呼んでほしいと伝え、「のりちゃん」の愛称で仲間との距離を縮める。
・鳥居 翔太 教科書の被害を知り、同じ教室にいながら優子の苦しみや勝也の見守りに気づけなかったことを悔やむ。部活の知り合いへ聞き、破れて汚れたノートを拾った生徒につながり、翌朝、勝也と一緒に確かめに行く約束をする。
・鶴見 春樹 勝也の頼みを受け、自分に何ができるか尋ねる。話をノートへ書き留め、聞き取り方や情報の確かめ方を一緒に考える。部活後の集まりでも、記録を見比べ、翌日に確かめることを整理する。
・加藤 真弓 優子の被害を知り、女子の知り合いを頼って情報を集める。勝也と一緒に別のクラスの女子を訪ね、話を聞くきっかけを作る。
・井上 綾香 本や図書当番を通じて話していた優子の被害を知り、気づけなかったことを悔やむ。できることを確かめて動き始め、翌日に話してくれる生徒を見つける。夕方、並んだ記録を推理小説のようだと言って少し場を和ませ、優子を助けたい気持ちを皆と確かめる。
・杉浦 玲奈 荒川に呼び出しの件を尋ねられると、聞き間違いだったかもしれないと答える。それ以上の説明はせず、別の会話へ移る。
・真弓の知り合いの女子 優子とは同じ小学校だった、別のクラスの生徒。夏休み前、莉奈が優子へ授業の持ち物を知らせなくていいと話していた場面を覚えている。自分の見聞きした範囲を勝也と真弓へ伝える。
・担任の先生、小島 裕香、教室や部活の生徒たち 担任は優子の欠席を伝える。小島やクラスメイトはいつもどおり登校し、授業と部活動が進む中、勝也たちの聞き取りが少しずつ始まる。




