第9話 退部
* * 優子視点 * *
7月に入ってから、部活を休む日が増えていた。
朝は、今日は行こうと思っていた。
使う譜面を確かめ、ファイルをリュックサックへ入れる。休んだ日の練習について聞くことも、小さな紙に書いておく。
準備ができると、その時だけは、行けそうな気がした。
けれど、帰りの会が近づくにつれて、時計を見るのが怖くなった。
教室を離れている間、荷物はどうしよう。
練習場所は、今日も聞いていたところで合っているだろうか。
休んだ分を教えてもらったら、また、こんなことも分からないのかと思われるだろうか。
次々に気になって、ファイルを持って立ち上がるだけのことができなかった。
「……今日は、少し……調子が悪いので。休んでも……いいですか……」
顧問の先生へ、そう伝えた。
熱があるわけではなかった。授業には出たし、給食も食べられた。
それでも、練習へ行くことを考えると、息を深く吸えなくなった。
「そうか。今日は帰って休んでね」
「……はい……」
「無理して来なくていいから。明日も調子が悪かったら、教えて」
頭を下げた。
廊下へ出ると、少しだけ足が軽くなった。
帰っていい。
そう分かっただけで楽になったことが、後ろめたかった。
本当に具合が悪いなら、さっきと同じように苦しくなければいけない気がした。
明日は、ちゃんと行こう。
靴を履き替えながら、そう思った。
次の日も、朝には同じことを考えていた。
* * *
数日後の放課後、図書室の当番を終えて教室へ戻った。
勝也くんたちの席には、もう荷物がなかった。
自分の席へ近づいた時、水の落ちる音がした。
莉奈さんが、私のリュックサックの上でバケツを傾けていた。
机の横へ掛けていたはずのリュックサックは、床に置かれ、口が開いていた。
「……やめて……」
駆け寄ると、莉奈さんはバケツを起こした。
そばにいた美咲さんが、私を見た。
「そんなところに置いておくからじゃない?」
「机に……掛けて、あったのに……」
「ちょっと水が入っただけでしょ」
莉奈さんが言った。
私は答えずにしゃがみ、リュックサックを起こした。
中へ手を入れると、底にたまった水で指が濡れた。
数学の教科書は、下の端から何枚も水を吸っていた。
ちょっとではなかった。
一緒に入れていたノートも濡れていた。指で開こうとすると、柔らかくなった紙がくっついてきた。
これ以上触ったら破れそうで、手を止めた。
「……中に、本も……入ってるのに……」
「早く拭けば?」
美咲さんはそう言って、莉奈さんと出ていった。
笑い声が廊下へ遠ざかっても、私は顔を上げられなかった。
教科書を全部出し、持っていたタオルを濡れたところへ当てた。
拭いたところへ、別の本の端からまた水が落ちた。
タオルを折り直して押さえた。早くしなければと思うのに、何から乾かせばいいのか分からなかった。
今日は、忘れ物もしていない。出しっ放しにもしていなかった。
帰りの支度をして、ファスナーも閉めてから席を離れた。
それでも、勝手に開けられたら、私には止められなかった。
時計を見ると、部活へ行く時刻を過ぎていた。
濡れた教材を抱えて練習の部屋へ入ったら、どうしたのか聞かれる。
先生に話せば、莉奈さんたちにも確かめるだろうか。
さっきの、早く拭けば、という声を思い出した。何も気にしていないような顔で言われたことが、今も怖かった。
その日も、調子が悪いと伝えて帰った。
家では、自分で水をこぼしてしまったと話した。
お母さんに中身を出すのを手伝ってもらいながら、違うの、と言いたくなった。私がこぼしたのではない。勝手に濡らされたのだと。
けれど、リュックサックを干してくれる背中へ、ありがとう、としか言えなかった。
夜、乾きかけたノートをそっとめくった。
自分で書いた式も、丸をつけた答えも読めた。でも、ページを重ねると端が浮き、前のようには閉じられなかった。
消そうとしても消えなかった、国語のノートの字を思い出した。
今度も、前と同じには戻らない。
丁寧に使っていたつもりだったのに、こんなふうにされるのが悔しかった。
* * *
夏休みの予定表をもらったのは、そのあと、何日かぶりに練習へ行った日だった。
「午後まである日は、お昼も持ってきてね。時間や場所が変わった時は、また伝えるから」
先輩が、日付を指しながら説明していた。
私は紙へ目を落とした。
授業がなくなっても、部活のある日には学校へ来る。
頭では分かっていたはずなのに、並んだ予定を見ると、急に遠くまで終わりがないように感じた。
「富田さん、聞こえてる?」
「……はい……」
「この日は、いつもと時間が違うからね。間違えないように」
「……ここ、ですね……」
「うん。そこに印つけておくといいよ」
鉛筆を持ち、言われた日付を囲んだ。
そのすぐ下に、何も書かれていない日があった。
私は、そこへ先に目を向けた。
この日は、来なくていい。
入部したばかりの頃には、こんな見方をするとは思っていなかった。
練習する時間が増えれば、それだけ吹けるようになると思っていた。
家でピアノを弾くのとは違う、みんなで音を合わせる楽しさがあった。
今も、その時間が全部嫌いなわけではなかった。
だから、自分が何をしたいのか、うまく言えなくなっていた。
予定表をファイルへ挟み、足元を確かめた。
今日はリュックサックも持ってきていた。
また濡らされるのが怖くて、帰りの支度を全部終えてから来たのだった。
「そこ、少し通りにくいかな」
先輩の声に、慌てて持ち上げた。
「……すみません……」
「椅子の下なら大丈夫。足に引っかからないようにね」
「……はい……」
叱られたわけではなかった。
言われたところへ置くと、先輩は普通に通っていった。
それなのに、間違ったことをしたように胸が縮んだ。
リュックサックは、椅子の下にある。
ファスナーも閉まっている。
自分に言い聞かせてから、楽器を構えた。
「休んでいた間に、ここまで進んだから。今日は、前のところからつなげてみよう」
「……はい。どこから、ですか……」
「ここ。印つけてあるところからでいいよ」
先輩が、譜面を指してくれた。
私は頷き、息を吸った。
最初の音が出た。
指を動かす順番は覚えていた。前に何度も止まったところを越え、次の音までつながる。
隣の音を聞いて、最後をそろえた。
「うん。今のはよかったね」
嬉しくなって、顔を上げた。
できたと思ったことを、先輩にも言ってもらえた。
「……ありがとうございます……」
「次も同じくらいの速さでやってみよう。慌てなくていいから」
頷いたところで、後ろを人が通った。
椅子の下へ目が行った。
リュックサックは、そのままだった。
もう1度、譜面へ目を戻す。
どこで息を吸えば楽だったか、さっきは分かった気がしていた。
でも、今は荷物の向きの方をはっきり覚えていた。
次は途中で遅れてしまった。
「そこだけ、ゆっくりやろうか」
「……はい……」
「今のところ、前にもやったよね」
玲奈さんが言った。
私は譜面を押さえた。
「……うん……」
「休んでたところも、もう聞いたんでしょ?」
「……先輩に、教えて……もらった……」
「だったら、ちゃんと覚えてきてよ。毎回説明してたら、先に進まないから」
先輩は、少し離れた子の譜面を見ていた。
私はこちらを向いてもらうこともできず、小さく頷いた。
「……ごめんね……」
「私に謝られても。みんなでやってるんだから」
聞かなければ、分からない。
でも、聞けば、時間がかかると言われる。
休まなければよかったのだろうか。
休んだ日のことを思い出すと、あの日もここへ来なければいけなかったとは、どうしても思えなかった。
先輩が戻ってきた。
私は何も言わず、教わったところへ鉛筆で印をつけた。
* * *
練習が終わり、楽器を片づけた。
初めの頃は、片づけ方も、何から始めればいいのか分からなかった。
今は、自分でできることが増えていた。
教えてもらった順番を確かめながら手を動かすと、うまく吹けた時の嬉しさも、少し思い出せた。
あの短いところを、最後まで吹けた。
前より音も出しやすくなった。
勝也くんに話したら、よかったねと言ってくれるだろうか。
そう思ってから、話す場所を考えた。
教室では、美咲さんたちがいる。
前のように廊下で会えるかどうかは、分からない。
嬉しかったことさえ、いつ、誰の前で話せるかを先に考えるようになっていた。
「夏休み、朝からの日多くない?」
「授業がある時より、遅いでしょ」
「でも、休みなんだから寝たいじゃん」
玲奈さんたちの声がした。
私はファイルを閉じた。
休みの日も、ここへ来る。
今度の予定表では、教室の授業がない分、部活の時間だけがはっきり並んでいた。
明日は、何と言えば休めるだろう。
考えかけて、手が止まった。
今日の練習が終わったばかりなのに、もう次を休む理由を探している。
朝、行けそうだと思っても、放課後には怖くなる。
家へ帰れば少し楽になって、また明日ならと思う。
それを繰り返すことにも、疲れていた。
ケースから手を離し、先輩へ挨拶した。
廊下へ出ると、窓の光がまぶしかった。
リュックサックの紐を肩へかけ、昇降口へ向かった。
今日だけ休めたらいいのではなかった。
明日の朝、また行かなければと思うことを、もうやめたかった。
* * *
その夜、夕食が終わっても、私は席を立てなかった。
リュックサックから出してきた予定表を、膝の上に置いていた。
お母さんが食器を重ね、お父さんがお茶を飲んでいる。
今、話さなければ、また紙を部屋へ持って戻ることになる。
「お母さん、お父さん。少し話してもいい?」
お母さんが手を止めた。
「うん。どうしたの?」
「部活のことで、相談したいの」
予定表を食卓へ置いた。
お母さんは隣へ座り、お父さんも紙を見られるように向きを変えた。
「夏休みの予定が出たんだね。お昼がいる日もあるの?」
「うん。でも……そのことじゃなくて」
喉が詰まった。
2人とも待ってくれている。けれど、辞めたい理由をどこまで話せるかと思うと、次の言葉がなかなか出てこなかった。
「……私、吹奏楽部を辞めたい」
お父さんがお茶を置いた。
お母さんは私を見たまま、少し黙っていた。
「そうなの。いつから考えてた?」
「少し前から、考えてた」
「最近、休む日があったものね。今日も、つらかった?」
私は紙の端を押さえた。
うんと答えたら、何がつらいのか聞かれるだろう。
「……中学校に入って、やることが多くなったから」
「勉強と部活を両方やるのが、大変かな」
お父さんが聞いた。
私は頷きかけ、それから言葉を探した。
「家に帰ると疲れちゃって、ピアノもあんまり弾けなくて」
「前より帰りも遅くなったものね」
「勉強とピアノを、もう少し頑張りたいの」
用意していた理由を言えた。
どちらも、やりたくないことではなかった。
宿題はちゃんとしたかったし、ピアノを弾く時間もほしかった。
でも、それだけなら、クラリネットを続けたかった。
言わなかった方の気持ちが、胸の奥に残った。
「急いで決めなくてもいいよ」
お父さんが言った。
「少し休んで、夏休みの間に考えることもできる。先生に相談してみようか」
私は首を振った。
思ったより早く動かしたので、お母さんが私の顔を見た。
「休むだけじゃなくて……辞めたい」
少し休んだら、戻る日が来る。
また、休んでいたところを教えてもらわなければいけない。
来なかった理由を聞かれ、今度は続けて来られるか、自分でも分からないまま頷くことになる。
その続きを考えるのが、苦しかった。
「……ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
お母さんの声は、優しかった。
「自分で入りたいって言ったのに、辞めちゃうから」
「そうだったね。でも、入ってから分かることもあるでしょう。続けるのが大変なら、その話をしていいんだよ」
私は頷いた。
大変という言葉で、全部が収まればよかった。
「先生には、もう話したの?」
「ううん、まだ話してない」
「じゃあ、まずは優子がどうしたいかを伝えよう。おうちの人とも話したか聞かれたら、話したって答えて大丈夫だから」
お母さんが、お父さんを見た。
お父さんも頷いた。
「必要な連絡があったら、こちらでもするよ。先生から何か言われたら教えて」
「うん。分かった」
「辞めることにする?」
お母さんに聞かれ、私はもう1度頷いた。
「うん。辞めたい」
「分かった」
すぐに、そう返してくれた。
胸に入っていなかった息が、少し深く入った。
いいと言ってもらえた。
勉強を何時間するとか、ピアノで何ができるようになるとか、約束しなくてもよかった。
「ただ、部活を辞めた時間を、全部勉強とピアノで埋めなくてもいいからね」
お母さんが付け足した。
「疲れてるなら、まず休もう。早く帰れる日には、何もしない時間があってもいいんだから」
「でも……」
「部活の代わりに頑張らなきゃって、思わなくていいよ」
その言葉を聞くと、泣きそうになった。
2人とも、私が困るようなことを言わなかった。
だからこそ、理由を全部話していないのが申し訳なかった。
「……ありがとう」
それだけ、伝えた。
予定表を持って部屋へ戻ると、机へ置く前に、もう1度広げた。
練習のある日も、行かなくてよくなる。
そのことにほっとしながら、机のファイルを開いた。
今日できたところに、自分でつけた印があった。
もう少し吹いたら、次もできたかもしれない。
そう思っても、明日またあの部屋へ行きたいとは思えなかった。
* * *
翌日の放課後、顧問の先生へ話しに行った。
職員室の前まで来てから、頭の中で言葉を繰り返した。
部活を辞めたいです。
家でも相談しました。
勉強とピアノを頑張りたいです。
途中で止まらないように、言う順番まで決めていた。
「富田さん、どうしたの?」
先生がこちらを向いた。
私はファイルを抱え直した。
「……部活を、辞めたくて……。家でも、相談しました……」
最初の言葉を言えた。
先生は、途中で口を挟まずに聞いてくれた。
「勉強と……家で、ピアノを弾く時間を……増やしたいので……」
「そうか。おうちの人も、了解しているんだね」
「……はい……」
「最近、休む日もあったけれど、続けていくのが大変になったかな」
頷いた。
大変になったことは、本当だった。
理由を少し違う方へ向けただけで、先生には説明できているようだった。
「入ってみないと分からないこともあるからね。夏休みも練習は続くし、両立が難しそうなら、仕方ないかな」
「……すみません……」
「謝らなくていいよ。家では、これからもピアノを続けるんでしょう?」
「……はい……」
「それなら、音楽そのものをやめるわけじゃないね」
私はファイルの角を押さえた。
怒られなかったことに、ほっとした。
けれど、話がうまく進むほど、言っていないことから離れていく気がした。
違う譜面を渡されたこと。
練習する場所を知らずに残されたこと。
ノートに悪口を書かれたこと。
リュックサックごと濡らされて、教室へ荷物を置いてこられなくなったこと。
それらを言わなくても、部活を辞める説明はできてしまった。
「このあと必要なことを説明するね。分からないところは、もう1度聞いていいから」
先生の話を、連絡帳へ書いた。
家で確かめることもあったので、忘れないように丸をつけた。
「それから、教えてくれた先輩にも、挨拶しておこうか」
「……はい。自分で、話します……」
「うん。片づける物もあると思うから、そこで聞いてみて」
お礼を言って、廊下へ出た。
先生へ話すまでに考えた時間より、話した時間の方がずっと短かった。
これで終わったわけではない。
次は先輩へ、同じ理由を伝えなければいけなかった。
* * *
「辞めるの?」
先輩は、私の話を聞くと、持っていた譜面を机へ置いた。
「……はい。先生には、さっき……お話ししました……」
「そっか。急だったから、びっくりしちゃった」
「……すみません……」
「ううん。謝らなくていいよ。最初より、ずっと吹けるようになってきてたから、少し残念だなと思って」
私は顔を上げた。
自分でも、そう思っていた。
少しずつできることが増えて、それを喜べる時も、まだあった。
「……私も、前よりは……できるように、なったかなって……」
「なってたよ。昨日も、前に止まってたところ、ちゃんとつながったでしょ」
「……はい……」
覚えていてくれた。
それが嬉しくて、同時に悲しかった。
上手になったと言ってもらえても、ここに残りたいとは言えなかった。
「家でピアノをやるんだね」
「……もう少し、練習しようかなって……思ってます……」
「そっか。もともと弾いてたんだもんね」
頷いた。
先輩は、それ以上引き止めなかった。
「あとで片づける時、分からない物があったら聞いてね。自分で決めてしまわなくていいから」
「……はい。いろいろ、教えてくださって……ありがとうございました……」
「うん。こちらこそ」
私は頭を下げた。
教えてもらったことまで、嫌だったことにはしたくなかった。
そのお礼は、最後まで言えた。
* * *
綾香さんへ伝えたのは、次の日だった。
昼休みに、廊下で会った。
綾香さんは本を持っていて、私を見ると足を止めた。
「富田さん、今日は図書室?」
「……あの。その前に……少し、話しても……いい……?」
「うん。どうしたの?」
通る人の邪魔にならないように、壁際へ寄った。
何から言えばいいか考える間、綾香さんは本を胸の前へ持ち直していた。
「……私、吹奏楽部……辞めることに、したの……」
綾香さんの目が、少し大きくなった。
「……そうなの?」
「……うん。家でも、話して……先生にも……」
「体調、まだよくない?」
「そうじゃ……なくて。勉強とか、家のピアノを……やろうかなって……」
綾香さんは、少し黙った。
私も、次の言葉を待った。
あと少し続けてみたらと言われた時、どう答えるかまでは考えていなかった。
「そっか。もう決めたんだね」
「……うん……」
「びっくりした。楽器が違うから、同じところで練習する日は少なかったけど。一緒に入ったし、寂しいな」
喉の奥が、詰まった。
私がいなくなることを、寂しいと思ってくれる人もいた。
「……ごめんね……」
「謝らなくていいよ。寂しいから辞めないでって、言いたいわけじゃないから」
綾香さんは、少し慌てたように付け足した。
「富田さんが考えて決めたことだもんね。話してくれて、ありがとう」
「……うん……」
「教室では会えるし、図書委員も一緒だしね」
私は頷いた。
部活を辞めても、綾香さんと話してはいけなくなるわけではなかった。
そんなことまで気になっていたのだと、言ってもらってから気づいた。
「そういえば、この前読んでた本、読み終わった?」
「……うん。家で……最後まで……」
「面白かった?」
「……面白かったよ。最後まで読むと……前の方も、もう1度……見たくなるの……」
「それ、よさそう。まだ借りてる?」
「……返したから。誰も借りてなければ……あると、思う……」
「じゃあ、探してみようかな。あとで題名、教えてね」
「……うん……」
次に話すことができた。
部活に来られるかどうかではなく、読んだ本の話だった。
嬉しくなって、少し笑った。
廊下の向こうから女子の声がすると、すぐに口元へ力が入った。
綾香さんは、何が気になったのか尋ねなかった。
「じゃあ、またあとでね」
「……うん。ありがとう……」
見送ってから、教室の入口を見た。
私も寂しいと、言えばよかった。
でも、本当は何がつらくて辞めるのか聞かれそうで、その言葉まで止めていた。
* * *
必要な確認を済ませ、最後の片づけへ行く日が来た。
終業式まで、もう何日もなかった。
いつもの練習より早い時間に、部屋へ入った。
先輩に教えてもらいながら、残していく物と持ち帰る紙を分けた。
ファイルの奥から、最初の頃に使った譜面が出てきた。
同じところを何度も練習した跡があった。
鉛筆でつけた印のそばに、書き直した小さな字がある。
あの頃は、できないことを教えてもらうのが怖くなかった。
分かるようになれば、次はできるかもしれないと考えていた。
「これ、自分の練習用だから、持って帰って大丈夫だよ」
「……ありがとうございます……」
先輩が、紙を重ねて渡してくれた。
私は折れないように、ファイルへ入れた。
「富田さん、本当に辞めるんだ」
玲奈さんが来ていた。
入口の方に立って、私の持っている物を見ている。
「……うん……」
「ピアノをやるんでしょ?」
「……家で、少し……」
「そっちの方が、合ってるのかもね。1人でできるし」
指が止まった。
家でピアノを弾く時は、いつも1人だった。
でも、1人がいいから吹奏楽部を辞めるのではなかった。
「……みんなで、吹くのも……好きだったよ……」
小さく言った。
そこまで違うことにされるのは、嫌だった。
「じゃあ、続ければいいじゃん」
玲奈さんは、すぐに答えた。
私の返事を待つ間もなく、奥にいた子へ声をかけた。
その背中を見た。
何があったのか、玲奈さんは知っている。
違う譜面を渡したことも、私へ練習の場所を伝えなかったことも、私に説明されなくても分かるはずだった。
それなのに、続ければいいと言えた。
私はファイルを閉じた。
玲奈さんへ何かを言い返してから帰ることは、できなかった。
「富田さん、こっちはもう大丈夫だよ」
先輩に呼ばれ、振り向いた。
「お世話に、なりました……。ありがとうございました……」
「うん。家のピアノ、楽しんでね」
「……はい……」
頭を下げ、ドアの方へ歩いた。
誰かの譜面台が、少し低くなっていた。
これから使う子が高さを直し、椅子を寄せている。
もうすぐ練習が始まる。
私は、参加しなくていい。
廊下へ出ると、ファイルを抱える腕の力が抜けた。
明日の朝、行くかどうかを考えなくていい。
休む理由を作らずに、そのまま帰れる。
階段を下りながら、長く息を吐いた。
ほっとしているのが、自分でも分かった。
踊り場へ来たところで、上から楽器の音が聞こえた。
足が止まった。
さっきまでなら、私も戻って吹くことができた。
これから先の練習には、私の分の椅子は必要なくなる。
行かなくてよくなったのは嬉しいのに、いなくても進んでいくことは寂しかった。
その両方を感じたまま、残りの階段を下りた。
* * 勝也視点 * *
問題集を取りに教室へ戻ると、優子がいた。
自分の席に座り、ファイルをリュックサックへ入れていた。
後ろの席では、男子が2人、机へ鞄を載せて話している。
俺は自分の机から問題集を出し、優子の方へ行った。
「富田、今日はもう帰るの?」
優子が顔を上げた。
「うん」
「部活、休み?」
すぐには返事がなかった。
ファスナーへかけていた指が止まり、優子は俺を見た。
「……辞めたんだ」
俺も、問題集を持ち直しかけた手を止めた。
「辞めたの?」
「うん。先生には前に話してて、今日、最後の片づけをしてきたの」
「……そうだったんだ」
知らなかった。
このところも、教室では話していた。
でも、部活を辞めようと考えているとは、1度も聞いていなかった。
空いていた隣の椅子を、少し引いて座った。
優子はまだ帰るために立ち上がらず、俺の方を向いていた。
「何か、あった?」
聞いてから、少し広すぎる聞き方だったと思った。
優子はリュックサックの口を閉じた。
「私には……あんまり合わなかったみたい」
「合わなかったんだ」
「うん。勉強もあるし、家でピアノをもう少しやろうかなって」
俺は頷いた。
中学校へ入ってから、毎日やることは増えた。
宿題を終えて、風呂へ入って、少し遊ぼうと思った頃には、もう遅い時間になっている日もある。
家で楽器の練習もしているなら、俺より忙しいのだろうと思った。
「そっか。家でやりたいこともあるもんね」
「うん」
優子が頷いた。
それで分かったつもりになろうとしても、少し気になった。
前に、練習している音を聞いたことがあった。
うまく合っていたと伝えると、優子は、合わせるところが難しかったのだと話してくれた。
できるようになったことを教えてくれる顔が、嬉しそうだった。
そのあとも、少しずつできるようになっていると聞いた。
俺は勝手に、この先もその話を聞けると思っていた。
「ちょっと、びっくりした」
正直に言うと、優子の指がリュックサックの紐へ触れた。
「ごめんね……話してなくて」
「謝らなくていいよ。前に、みんなで吹けると嬉しいって話してたから」
言いながら、慌てて付け足した。
「だから辞めない方がいいとか、そういうことじゃないんだけど」
「うん。分かってるよ」
そこは、すぐに答えてくれた。
「楽しかった時も、あったよ。音がそろった時とか、できなかったところができた時とか」
「うん」
「でも、続けるのは、少し難しくて」
優子は机へ目を落とした。
俺は、続きを待った。
後ろで誰かが笑い、優子の顔が少しだけそちらを向いた。
教室では話しにくいことも、あるのだろう。
俺が思いつく理由を並べて、どれかに頷かせるような聞き方にはしたくなかった。
「家の人とは、話せた?」
「うん。辞めてもいいって」
「そっか」
もう、先生にも家の人にも話したあとだった。
俺は、今日初めて聞いた。
知らなかった俺が、もう少し続ければと言うことではなかった。
「ピアノは、これからも弾くんだね」
「うん」
「じゃあ、音楽が嫌いになっちゃったわけじゃないんだ」
優子が顔を上げた。
「音楽は、好きだよ」
それまでより、少しはっきりした声だった。
俺は、そこでようやく少し笑えた。
「そっか。それなら、よかった」
優子が何も言わずに俺を見たので、言い足した。
「前に、楽器の話してくれたでしょ。ああいうの、俺、聞くの好きだったから」
「……そうなの?」
「うん。俺が知らないこと、富田はいっぱい知ってるし。できるようになった話って、聞いてる方も嬉しいよ」
優子の口元が、少し緩んだ。
「また……話してもいい?」
「もちろん。ピアノのことでも、本のことでも」
「うん。ありがとう」
笑ってくれたので、俺も少し安心した。
今日の話を聞いていなければ、いつもと同じ短い会話だったと思う。
でも、リュックサックの中にしまわれたファイルは、明日はもう使わない物になっていた。
「ただ、ピアノも、急にいっぱい頑張らなくていいと思うよ」
「……お母さんにも、言われた」
「同じこと?」
「うん。部活の代わりに、全部頑張ろうとしなくていいって」
「じゃあ、俺が言うまでもなかったね」
優子が小さく笑った。
お母さんと同じことを言ったのが少し照れくさくて、俺は問題集へ目を落とした。
「俺も、帰ったら宿題やらなきゃ」
「それ、まだ途中?」
「うん。部活で、分からないところ聞いてくる」
「茶道部なのに?」
「そこは、前からそういう約束だから」
優子は小さく笑い、そうなんだ、と答えた。
俺も笑い、椅子から立ち上がった。
「引き止めちゃったね。気をつけて帰ってね」
「うん。勝也くんも、頑張ってね」
「ありがとう。また明日」
「また明日」
椅子を戻すと、優子も立ち上がった。
廊下へ出て、それぞれ違う方へ向かった。
* * *
部室へ戻ると、先輩に呼ばれた。
「鵜飼くん、ちょうどよかった。その箱、こっちへ運んでもらっていい?」
「はい。机の上ですか?」
「うん。あとはこっちで出すから、そこまでで大丈夫」
両手で持ち上げ、言われた場所へ置いた。
部長が箱のふたを開け、先輩たちと中を確かめ始めた。
俺も、最初の頃よりは道具の名前が分かるようになった。
持ってきてと言われた時、どれか聞き返さずに済むことが増えた。
教えてもらってできるようになると、やっぱり嬉しかった。
優子も、そういうことがあったのだと思う。
それでも、辞めることにした。
「問題集、見つかった?」
先輩に聞かれ、顔を上げた。
「はい。机の中にありました」
「あとで見ようね。今日はどこ?」
「ここです。途中まではできたんですけど」
「うん。片づけが終わったら、持っておいで」
俺は頷いて、問題集を閉じた。
自分の部活が楽しいからといって、優子も同じだとは限らない。
そう考えれば分かるはずなのに、音楽の話をした時の顔は、ずっと残っていた。
合わなかった、だけでは、俺にはまだよく分からなかった。
でも、今日聞いたことより先を、俺が知っているわけでもなかった。
また話してもいいかと聞かれた時、もちろんと答えられた。
今度話してくれた時も、ちゃんと聞こうと思った。
* * 優子視点 * *
家へ着くと、お母さんが顔を出した。
「おかえり。今日は、全部終わった?」
「うん。片づけも、挨拶もできたよ」
「そう。お疲れさま。先に着替えておいで」
私は頷き、部屋へ向かった。
まだ外は明るかった。
練習を終えてから帰る日より、窓から入る光が机の奥まで届いていた。
リュックサックを下ろした。
今日持ち帰ったファイルを出し、表紙を上にして置く。
終わった。
思った途端、椅子へ座りたくなった。
着替える前に少しだけ腰を下ろし、肩から力を抜いた。
誰かが呼びに来ることも、練習場所を聞きに行くことも、もうなかった。
しばらくしてから着替え、手を洗った。
お母さんが出してくれたお茶を飲むと、ようやく喉が渇いていたことに気づいた。
「先輩には、お礼も言えた?」
「うん。いろいろ教えてくださって、ありがとうございましたって言ったの」
「ちゃんと伝えられたんだね」
「それで、最初より吹けるようになってたって、言ってもらった」
お母さんが、こちらを見た。
「嬉しかったね。練習してたところ、見てくれてたんだね」
「うん」
コップを持つ指に、少し力が入った。
「……辞めるのに、褒めてもらっちゃった」
「辞めたら、できるようになったこともなくなるの?」
私は首を振った。
「ううん、なくならない」
「そうでしょう。今日はもう吹かなくても、練習したことは、ちゃんと優子の中に残ってるよ」
お母さんは、もう1度続けてみればとは言わなかった。
そのことがありがたかった。
お茶をもう1口飲むと、教室で話したことも思い出した。
勝也くんは、話を聞くのが好きだと言ってくれた。
楽器が違っても、本の話でも、また話していいと言った。
その言葉を、今は嬉しかったこととして思い出せた。
教室で周りを見てしまったことよりも、先に。
「今日は、少しゆっくりしておいで。夕飯までに、何か終わらせようとしなくていいからね」
「うん。ありがとう、お母さん」
コップを片づけ、部屋へ戻った。
ファイルは机に置いたままだった。
開くと、先輩に持って帰っていいと言われた紙が出てきた。
使う譜面。
練習する場所。
どこから始めるか。
忘れないように書いたメモも、残っていた。
これを確かめれば大丈夫だと思っていた。
そのあとには、荷物をそばへ持っていけばいいと思った。
書いたことを全部守れた日もあった。
それでも、部活へ行くのが怖かった。
メモを指で挟み、抜きかけて、戻した。
できるようになったことを書いた紙も、間違えないように書いた紙も、今はそのまま残しておきたかった。
* * *
夕方、ピアノの前へ座った。
勉強とピアノを頑張りたいと言って、部活を辞めた。
だから、今日から弾かなければいけないと思った。
ふたを開けてから、その考え方をお母さんに止めてもらったばかりだったことを思い出した。
休んでもいい。
何もしない時間があってもいい。
そう言ってもらえたのに、何かしていないと、辞めるために嘘をついたことが分かってしまいそうだった。
楽譜を開いた。
今までに何度も弾いている曲にした。
新しいところを覚えるのではなく、知っている音を出したかった。
鍵盤へ指を置き、ゆっくり弾き始めた。
よく知っている旋律が聞こえた。
次にどの音が来るかも、どこを少し静かに弾きたいかも、分かっていた。
途中で指を間違えた。
止まって、少し前から弾き直す。
今度はできたので、そのまま続きを弾いた。
誰も怒らなかった。
同じところをやり直しても、時間がかかると言う人はいなかった。
私はだんだん、帰ってきたら何かをしなければと思っていたことを忘れていた。
静かになるところで、音を小さくした。
次の音を待つ間が好きだった。
その時、部活でみんなと音を合わせたことを思い出した。
隣で息を吸う気配を聞いて、自分も楽器を構えたこと。
自分の音だけではない音が重なり、最後がそろったこと。
うまくいくと、隣の人の顔を見たくなったこと。
指が止まった。
弾きかけの音が、部屋に少し残った。
ピアノも、好きだった。
でも、ピアノがあるから、クラリネットを吹いた時間がいらなくなるわけではなかった。
両手を膝へ置いた。
もう練習へ行かなくていいと思うと、今でも安心した。
明日、やっぱり続けますと言いに行くことは、考えられなかった。
それなのに、寂しくて涙が出た。
初めから、辞めたかったのではなかった。
できないことを教えてもらいながら、もう少し続けたかった。
夏休みの終わりには、今より吹けるようになっていたかった。
その先が、なくなった。
自分で辞めたいと言ったことも、分かっている。
でも、ほかのやめ方を選べたかと考えると、何も思いつかなかった。
休む理由を考え続けることも、毎日怖いまま行くことも、もう苦しかった。
涙を拭き、しばらく鍵盤を見ていた。
ここなら弾けると思ったのに、今日、最後まで弾くことはできなかった。
それも、今すぐできなくていいのだろうか。
お母さんに言われたことを、もう1度思い出した。
勝也くんも、急にいっぱい頑張らなくていいと言ってくれた。
楽譜を閉じた。
今日の練習は、ここまでにした。
弾けたところまでをなかったことにして、足りなかった分だけ数えるのは、やめておきたかった。
* * *
退部して初めての朝、いつもの順番で持ち物を入れた。
教科書とノート。筆箱。宿題を挟んだファイル。
最後に、部活の譜面へ手を伸ばした。
持ち上げてから、止まった。
今日は、持っていかなくてよかった。
机の端へ戻し、少し考えて、本棚へ立てた。
奥へ押し込まず、すぐ取れるところに置いた。
全部捨てたくて辞めたのではないから、見えないところへ隠さなくてもいいと思った。
リュックサックの口を閉めた。
日傘を持って玄関へ行くと、お母さんが声をかけた。
「今日は、授業が終わったら帰ってくる?」
「うん。今日はそのまま帰ってくるね」
「分かった。気をつけてね」
「いってきます」
帰る時間を答えるのに、理由を考えなくてよかった。
調子が悪いからでも、用事があるからでもない。
部活がないから、帰る。
それだけのことが、楽だった。
* * *
教室へ入ると、美咲さんたちが話していた。
自分の席へ行き、机の中を確かめた。
リュックサックは、中から物を出すたびに閉めた。
部活のファイルがなくなっても、その動きは変わらなかった。
玲奈さんも、同じ教室にいた。
今日から会わなくなるのではない。
その顔を見た時、肩に少し力が入った。
「富田、おはよう」
勝也くんの声で、顔を上げた。
「おはよう、勝也くん」
返事をすると、勝也くんは笑った。
昨日の話を、みんなの前で聞かれることはなかった。
いつもの挨拶だった。
それが嬉しくて、私は筆箱を開ける前に、その背中を少し見送った。
今日は、授業が終われば帰れる。
そう考えて、最初の教科書を出した。
* * *
5時間目は、別の教室で授業を受けた。
戻ってきて机の中へ手を入れると、指先が冷たくなった。
次の授業で使うノートが、濡れていた。
表紙をそっと持ち上げると、下に重ねた問題集にも水が染みていた。
まただった。
今日はリュックサックの口を閉じていた。
机に入れた教材までは、授業のたびに全部持ち歩けなかった。
今度は、誰が濡らしたのか見ていない。でも、しまった時には乾いていた。
美咲さんたちの笑い声がした。
私はタオルを出し、濡れた端を押さえた。
次の授業が始まっても、ノートは開けなかった。
ファイルに残っていたプリントの裏へ、黒板の字を写した。あとでノートへ書き直さなければいけないと思いながら、紙が足りるように字を小さくした。
部活を辞めても、教室は変わらなかった。
もう練習へ行かなくていいと思っていたのに、ここでは、誰も触らないでと願うことも、濡れた物を隠すことも変わらなかった。
* * *
帰りの会が終わると、廊下には、これから部活へ行く人がたくさんいた。
濡れた教材をタオルで包み、リュックサックへ入れた。
背負ってから、昇降口へ向かった。
音楽室の方へ曲がるところで、少しだけ歩く速さが落ちた。
持っていないファイルを、脇へ抱え直しそうになった。
「富田さん、また明日」
綾香さんが、向こうから手を上げた。
私も小さく上げた。
「……うん。また明日……」
同じ挨拶をして、違う方へ歩いた。
綾香さんと話せることは、なくなっていなかった。
それは、辞めても残ったものだった。
靴を履き替え、日傘を開いた。
校舎の方から、楽器の音が聞こえた。
私は振り返らず、校門へ向かった。
寂しかった。
それでも、帰っていいことに、ほっとしていた。
家へ着いたら、まずノートと問題集を広げよう。
乾くまでは、書き直すこともできない。
その間だけでも、好きな本を読んでいたかった。誰も私の机に触らない場所で、少し休みたかった。
学校が怖くなくなったわけではなかった。
明日も同じ教室へ戻るし、何を言われるのかは分からない。
でも、放課後の予定を見て、休む理由を探さなくてよくなった。
歩きながら、日傘の柄を握り直した。
合わなかったと、勝也くんには話した。
勉強とピアノを頑張りたいと、お父さんとお母さんには話した。
その説明で、部活を辞めることはできた。
本当は、怖がらずに音を出せる場所で、もう少し、みんなと吹いていたかった。
今回の登場人物
・鵜飼勝也
優子の退部を知って驚くが、無理に理由を聞き出さず受け止める。これからも音楽や本の話を聞きたいと伝える。
・富田優子
嫌がらせへの恐怖から、勉強とピアノを理由に吹奏楽部を辞める。通わなくてよくなった安堵と、本当は続けたかった寂しさを抱える。
・井上綾香
一緒に入部した優子の退部を寂しく思いながらも、その決断を受け止める。部活を離れても、本の話や挨拶を交わす。
・戸田美咲
リュックサックを濡らされた優子に、置き場所が悪かったかのような言葉を向ける。困っている優子を残し、莉奈と立ち去る。
・富永莉奈
優子のリュックサックへバケツの水をかけ、中の教科書やノートまで濡らす。被害を「ちょっと水が入っただけ」と軽く扱う。
・杉浦玲奈
練習でつまずいた優子に、説明で皆の時間を取らせないよう責める。退部する優子には、1人で弾けるピアノの方が合っていると告げる。
・優子の母(富田美和)
優子の退部を受け入れ、空いた時間を勉強やピアノで埋めなくてもよいと伝える。辞めても、練習して身につけたことは残ると励ます。
・優子の父(富田泰臣)
少し休んでから考える選択肢を示しつつ、辞めたいという優子の意思を尊重する。必要なら学校への連絡もすると伝える。
・吹奏楽部の顧問
体調を理由に休む優子を気遣い、退部の申し出も受け止める。本当の事情は聞かされないまま、必要な手続きや片づけを案内する。
・吹奏楽部の先輩
優子の上達を認め、退部を惜しみながらも引き止めない。最後の片づけを手伝い、家で続けるピアノを応援する。
・茶道部の部長と先輩たち
勝也に道具の入った箱を運んでもらい、部の準備を進める。問題集の分からないところも、片づけのあとに見てあげると約束する。




